第70回ベルリン映画祭において、あまりにも衝撃的なバイオレンスとエロティックな描写が物議を醸し賛否の嵐が吹き荒れながらも、映画史上初の試みともいえる異次元レベルの構想と高い芸術性が評価され、第70回ベルリン映画祭で銀熊賞(芸術貢献賞)を受賞した『DAU.ナターシャ』は、シアター・イメージフォーラム、アップリンク吉祥寺ほか全国で大ヒット公開中です!
いまや忘れられつつある「ソヴィエト連邦」の記憶を呼び起こすために、ロシアの奇才イリヤ・フルジャノフスキーによる「ソ連全体主義」の社会を完全に再現する前代未聞のプロジェクトは、実にオーディション人数約40万人、衣装4万着、欧州史上最大の1万2千平米のセット、主要キャスト400人、エキストラ1万人、撮影期間40ヶ月、35mmフィルム撮影のフッテージ700時間、撮影ピリオドごとに異なる時間軸……莫大な費用と15年もの歳月をかけたもので、本作は、その膨大なフッテージから創出された映画化第一弾となる。
本作では、秘密研究都市にあるカフェで働くウェイトレス、ナターシャの目を通し、観客は独裁の圧制のもとで逞しく生きる人々と、美しくも猥雑なソ連の秘密研究都市を体感していくことになる。そして、巨大な迷宮の入り口であると同時に、当時の政権や権力がいかに人々を抑圧し、統制したのか――その実態と構造を詳らかにし、その圧倒的な力に翻弄される人間の姿を生々しく捉えていく試みでもある。この壮大な実験の果てに待ち受けるのは――?
イリヤ・フルジャノフスキー監督が構想から15年もの歳月を費やし、16本の映画化に向けて今なお取り組み続ける壮大な「DAU」プロジェクトの記念すべき劇場用映画第1作目となる本作。
2月27日に世界で初劇場公開となる日本でついに公開され、フルジャノフスキー監督がオンラインで日本の観客とQ&Aを行った。
監督は、「今日お越しくださった皆さんにお礼を申し上げます。この「DAU」プロジェクトに15年間取り組んできました。今回ご覧いただく『DAU.ナターシャ』は、16本ある作品の中の1本です。そして日本で初めてお見せできることを誇りに思っています。日本という素晴らしい歴史を持ち、素晴らしい映画や映画監督を生んできた国です。でも、素晴らしい観客なしに素晴らしい映画というものは生まれません。皆さんに感謝しています」と感極まった表情であいさつ。
監督は以前“ロシアの人々は健忘症になっている”とインタビューで語ったが、それは世界中で起きていることでもある…これこそが「DAU」プロジェクトの真のテーマなのか?という質問に、「それは1つのテーマではありますが、唯一のテーマではありません。辛い過去を持った人というのは、自分の過去を覚えていたくない、忘れてしまいたいという気持ちを持っていることは確かです。知り合いが、自分の母親についてこんな話をしてくれました。彼女はKGBで働いていて、様々な人に尋問する役割を担っていました。ある時、彼女はそれほど深刻でもない病気で手術をすることになり、全身麻酔で行われたんですが、麻酔から明けた後、彼女はそれまでの20年間の記憶を完全に失っていました。自分に子どもがいることや色んなことを、です。知り合い曰く、母親が記憶を失ってしまったのは、麻酔のせいではなく、彼女自身、自分が生きてきた辛い過去を消し去りたかったからではないかというんです」と語る。
観客から、シーンごとの言葉の応酬に圧倒的なリアリティや緊張感を感じたが、どのような演出を行ったのかという質問が上がる。監督は、「登場人物たちの言葉はシナリオに基づいていた訳ではありません。彼らが自分達で話していたものです。それぞれの生活や状況によって彼ら自身が話していたことをフィルムに収めたのです。彼らの言葉が刺激をもたらしたのは、自然に生まれたものだからと考えています」と語った。
本作の主人公であるナターシャはソヴィエト国家保安委員会の捜査官アジッポに連行され、壮絶な尋問の末に協力者となるよう求められる。この場面のようなことがソ連のKGBで実際に行われていたことなのかという質問に対しては、「そういうことは実際ありました。もっと酷い方法で拷問するということもあったのです。そしてそれは今も続いています。色々な本などを読む中でそのことを知りましたが、今でもロシアの刑務所ではああいう拷問や女性に対して酷いことをするということはあります。ソ連時代も、拷問や人間の尊厳をめちゃくちゃにするということは、一種のノルマでもあったのです。そうすることによって人間の心を破壊したのです。そのことを伝えるために、私はこの映画で暴力を示したのです」と明かした。
最後に監督は、「パンデミックという本当に厳しい状況の中にも関わらず、映画館に足を運んでくださったことに感謝しています。日本とロシアは戦争の歴史を持ち、今でも厳しい関係にあると思います。でも私は、この映画を皆さんにご覧いただけることはとても有益なものであると信じています。皆さんとお話ができて本当によかったと思っています。映画をご覧になってくださった、この映画を配給してくださったことに心から感謝しています」と締めくくった。
本作は、初日から満席回がでるほどのヒットスタートを飾り、2月27日~2月28日のミニシアターランキングでは、土曜公開にも関わらず5位を獲得した。
ベルリン映画祭で銀熊賞『DAU.ナターシャ』予告
<STORY>
ソ連の某地にある秘密研究所。その施設では多くの科学者たちが軍事的な研究を続けていた。施設に併設されたカフェで働くウェイトレスのナターシャはある日、研究所に滞在していたフランス人科学者と肉体関係を結ぶ。言葉も通じないが、惹かれ合う2人。しかし、そこには当局からの監視の目が光っていた……。
監督・脚本:イリヤ・フルジャノフスキー、エカテリーナ・エルテリ/
撮影:ユルゲン・ユルゲス『ファニーゲーム』
出演:ナターリヤ・ベレジナヤ /オリガ・シカバルニャ/ウラジーミル・アジッポ
2020年/ドイツ、ウクライナ、イギリス、ロシア合作/ロシア語/ 139分/ビスタ/カラー/ 5.1ch /原題:DAU. Natasha / R-18+
日本語字幕:岩辺いずみ /
字幕監修:松下隆志 /
配給:トランスフォーマー
Twitter&Instagram:@DAU_movie
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