第76回ヴェネチア国際映画祭で銀獅子賞(最優秀監督 賞)を受賞したスウェーデンの巨匠ロイ・アンダーソン監督最新作『ホモ・サピエンスの涙』が11月20日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館にて公開します。
映像の魔術師が、この時代を生きる 全 人 類 (ホモ・サピエンス)に贈る――。
愛と希望を込めた映像詩。
この世に絶望し、信じるものを失った牧師。戦禍に見舞われた街を上空から眺めるカップル。これから愛に出会う青年。陽気な音楽にあわせて踊るティーンエイジャー...。本作で描かれるのは、時代も性別も年齢も異なる人々が織りなす悲喜劇。
映像の魔術師ロイ・アンダーソン監督が構図・色彩・美術と細部まで徹底的にこだわり、全33シーンすべてをワンシーンワンカットで撮影。そんな唯一無二の世界観は、『ミッドサマー』アリ・アスター、『バ ードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』イニャリトゥら名匠をも魅了している。
CGはほぼ未使用!手描きの背景と、練られた構図で生み出す絵画のような映画世界。
本作の注目ポイントは、なんといっても実在の名画の数々からインスパイアされた美術品のような映像美! 画家を夢見ていた時期もあったと語るロイ・アンダーソン監督お気に入りの、シャガール、レーピン、ホッパー、バルテュスなどなど ...世界的に有名な画家たちの絵が再現されたかのようなシーンが続々と登場!
さらに、それらの映像もCGはほぼ使わずに、巨大なスタジオに模型や手描きのマットペイント(背景画)で創り出すというこだわりぶり。
今回、映画にインスパイアを与えた絵画をご紹介! 絵画と映画の一致ぶりに思わず驚愕するはず!
<映画に影響を与えた絵画>
「街の上で」(1918年/油彩) マルク・シャガール
MARC CHAGALL
エコール・ド・パリの中心的な人物だったロシア出身のユダヤ系画家シャガール。恋人や結婚をテーマにした幻想的な作風で「愛の画家」とも呼ばれてきた。「街の上で」では、故郷ヴィテブスクの上空で抱き合いながら浮遊する自身と妻ベラの姿が描かれる。この絵画にインスパイアされたアンダーソン監督は、舞台を戦禍に見舞われたドイツ・ケルンに変え、恋人たちが上空を漂うシ ーンを撮影した。
「The end」(1947-48年/油彩)
ククルイニクスイ
KUKRYNIKSY
旧ソ連を代表する画家グループ。クプリヤノフ,クルイロフ,ソコロフの3人の名を組み合わせた“Kukryniksy”という名で、ファシズムを風刺する絵画や漫画作品を発表した。「The end」で描かれるのは、身を潜ませていた地下壕 の一室で“終わり”を感じるヒトラーと取り巻きの姿。劇中では、この絵画の構図やニュアンスまで完全に再現したかのようなシーンが登場する。
「1581年11月16日のイワン雷帝とその息子イワン」
(1882-85年/油彩)
イリヤ・レーピン ILYA YEFIMOVICH REPIN
近代ロシア絵画を代表する画家イリヤ・レーピン。社会的矛盾を鋭く捉えた写実画や、深い洞察力が光る歴史画、肖像画など数多く手掛けた。 この絵画は、気性の激しさから「雷帝」と呼ばれたロシア皇帝イワン4世が、 息子を杖で殴り殺してしまったという記録をもとに描かれた。この作品は発表後に論争を巻き起こし、これまで2度の破壊行為に遭っている。
この絵画の不条理さに影響を受け、劇中では血を流して倒れる娘を抱く父のシーンが撮影された。
「ジャーナリスト、シルヴィア・フォン・ハルデンの肖像」
(1926年/ミクストメディア(油彩・テンペラ))
オットー・ディックス Otto Dix
20世紀ドイツを代表する「新即物主義」の画家。第一次世界大戦と第二次世界大戦での経験に強い影響を受けて生まれた、人間の存在や社会の本質に迫った過酷なまでの描写は“魔術的リアリズム”とも称される。この絵画は、ドイツに実在した女性ジャーナリスト、シルヴィア・フォン・ハルデンを描いたもの。本作には特定のシーンとしては登場しないが、アンダーソン監督はこの絵画そのものが映画に影響を与えたと語っている。
そのほかロイ・アンダーソン監督は、エドワード・ホッパーや、バルテュスからの影響も語っている。まだまだ探せば、有名画との共通点も浮かび上がってくるかも!?ぜひ、こだわりの映像美、大きなスクリーンで体感してみてはいかがだろう。