現在、フランス映画界を代表する女性監督アニエス・ヴァルダ監督の特集が、神保町・岩波ホールで「アニエス・ヴァルダ傑作セレクション」と題され8/7(金)まで上映されています。
それに際しまして、“Help! The映画配給会社プロジェクト”と“ミニシアターパーク”の初のコラボ企画であるオンライントークイベント“わたしとヴァルダと映画館**vol.1&vol2”を7月23日(木・祝)と8月2日(日)に行いました。
登壇したのは、7/23のvol,1には小泉今日子さん、渡辺真起子さん、安藤玉恵さん、そしてvol,2の8/2は井浦新さん、斎藤工さんです。下記、トークショーの概要となります。
緊急事態宣言解除後に、約3か月弱にわたる休館から再開された神保町のミニシアター岩波ホールでは、現在、ホールとの縁が深いフラ ンス人映画監督アニエス・ヴァルダの特集「アニエス・ヴァルダ傑作セレクション」が上映されている。
配給元のザジフィルムズは、コロナ禍を乗り越えるため小規模独立系映画配給会社が集まって4月に立ち上げた“Help! The 映画配給会社プロジェクト”に発起人の一社として参加。この度、俳優井浦新の呼びかけに、斎藤工、渡辺真起子が応える形で始めたキャンペーン“ミニシアターパーク”と“Help! The映画配給会社プロジェクト”が初めてコラボし、7/23(木・祝)と8/2(日)の2日間にわたってオンライントークイベント“わたしとヴァルダと映画館vol.1&vol2”が行われた。
ミニシアターパークは、コロナ禍の感染症対策による席数制限のため販売することのできない席を、オンライントークイベントを開催し、バーチャルな観客に有料で販売することによって満席にする、という試みを行っている。よって本イベントでも席数の約3分の2をオンライン参加券として販売し、8/2のvol.2では「満席」となった。
今回の岩波ホールでの特集で14年ぶりに劇場上映される『落穂拾い』をはじめとしたヴァルダ監督作品の話から、アニエス・ヴァルダその人の生き方について、また劇場から参加した岩波ホール支配人の岩波律子とのクロストークではコロナ禍での映画館のあり方なども語られることとなった。
7/23に行った“わたしとヴァルダと映画館vol,1”には、小泉今日子、渡辺真起子、そして前日に急遽登壇が決定した安藤玉恵の3人がオンラインで登壇。小泉は「ヴァルダの視点が少女の好奇心のまま人々・社会を見つめているところは、こんな風に私も世の中をみつめられればいいな、参考にしたいなと思いました」と語り、安藤はヴァルダ監督作の中でも特に好きだという『幸福(しあわせ)』について「20歳くらいの時に初めて見たときは、“映画の本質を見つけちゃった!”という衝撃がすごかった。見る年代によって抱く感想が全く変わってくることも面白くてずっと好きです」と熱い想いを語った。そして渡辺は現在上映中の『落穂拾い』について「最後のシーンにとにかく震えた。生きることを大事に見つめ、その視線が何の先入観もなく公平に思え、人々を淡々と見つめ続けながらもラストのシーンに結びついていくヴァルダの視線に感動しました」と語った。
また8/2に行われた“わたしとヴァルダと映画館vol,2”には、ミニシアターパークを俳優陣に呼びかけた井浦新と、それに賛同して活動を共にしている斎藤工がオンラインで登壇。
上映されていた『落穂拾い』について井浦は、「“落穂拾い”という一つのテーマの中でよくこれだけの事象や人たちが繋がっていったなと、ヴァルダの人間力、また監督力に感動した。アニエス・ヴァルダの眼差しはものすごく優しいけれども、同じくらい厳しさもあると思う。生きている人間の言葉が届いてくるので、言葉選びが印象に残る。すばらしい力のある作品をみて、新しい世界と繋げてくれ、登場人物たちとも一人一人と繋げてくれた、沢山の人たちと出会ったなと観終わった後に感じる 作品だった。」と熱く語り、斎藤も「『落穂拾い』は着眼点がすばらしい。社会的なメッセージを持ちながらも、新しいカメラを手にした映画好きの少女が自由に映像を撮っている“軽やかさ”、終始ウキウキしているヴァルダの心が映っていたように思える作品だった。また 僕は、岩井俊二監督とも通じると思っていて、岩井監督もこのコロナ禍の中、軽やかにリモートで撮影していて、彼の持つ少年のような好奇心はヴァルダと重なると感じた。」と語った。
ヴァルダ監督のほかの好きな作品を聞かれると、斎藤は「『ジャック・ドゥミの少年期』 は奇跡的な作品だと思う。ヴァルダは旦那さんの死期をキュレーションしたとも言えるのではないか。『アニエスによるヴァルダ』『顔たち、ところどころ』でも、ヴァルダ自身が自分の死を意識して、言わば終活を映画にしたと思うし、ヴァルダ監督は意欲的なまま天に召されたと思う。彼女の作品は“終わり”を感じる作品ではあるが、それを悲しいとかではなく、希望を軽やかに漂わせるのがヴァルダ。そういう意味で、大きなバトンを後世に残す作品だと思う。今回の特集上映によって、いみじくもコロナになる前の世の中で圧倒的な輝きを放ったヴァルダを、今こそ捉えるタイミングなんじゃないか。」と、アニエス・ヴァルダ監督作をいま見るべき意義を語った。
また斎藤は井浦主演で河瀨直美監督の最新作『朝が来る』を見て「素晴らしい作品だった。役柄が生きてきた時間の前後が描かれている作品だったので、河瀨監督もヴァルダの影響を受けたのではないかと思った」と語り、井浦も「ヴァルダの映画は自分の好きなものしか映してないことに気づいた。好きなものや、好きな景色、そして自分や自分の老いも入ってきて、自分のことも愛しているんだなと伝わってくる。 河瀨監督も同じように好きなものしか映さない、その瞬間に映る好きなものしか。そういうところは、二人はとても似ていると思う。」と 応えた。
さらに後半は映画館である岩波ホールについて話が及び、井浦は「20歳のころに映画館によく仲間と映画を見に行っていた。その中で強烈に覚えていることがある。それは岩波ホールで仲間と映画をみた帰り道、“知らない世界と出会った!”、とすごく感じて、その時から岩波ホールで上映される作品は、僕をちょっと大人にしてくれる、と思っている。」と映画館への想いを語った。最後にはオンラインから寄せられる質問に二人が答え、大盛況のうちにイベントは終わった。
■mini theater park(ミニシアターパーク):
http://minitheaterpark.net/
■Help! The
映画配給会社プロジェクト:
https://note.com/help_the_dsbtrs
【アニエス・ヴァルダ】
1928年5月30日、ベルギー生まれ。戦火を逃れ南仏セートに移住し、思春期を過ごす。その後パリで学び、職業写真家として活躍。54年、アラン・レ ネの勧めにより『ラ・ポワント・クールト』を26歳の若さで初監督。1961年に『5時から7時までのクレオ』を発表した翌年、ジャック・ドゥミと結婚、90年ドゥミの死去まで添い遂げた。『幸福』(64)でベルリン国際映画祭銀熊賞を、『冬の旅』(85)でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を受賞。仏人アーティストJRとの共同監督作『顔たち、ところどころ』(17)ではカンヌ国際映画祭ルイユ・ドール(最優秀ドキュメンタリー賞)を受賞した。15年にカンヌ国際映画祭名誉パルムドールを、17年にアカデミー賞名誉賞を受賞。2019年3月29日、パリの自宅にて死去。享年90歳。
アニエス・ヴァルダ 傑作セレクション」予告
【「アニエス・ヴァルダ 傑作セレクション」
●開催日程:~8/7(金)まで
●劇場:岩波ホール
●上映作品:
『落穂拾い』
監督・脚本・語り:アニエス・ヴァルダ
撮影:ディディエ・ルジェ、ステファーヌ・クロズ|編集:アニエス・ヴァルダ、ロラン・ピノ
2000年/フランス/82分/カラー/原題:Les Glaneurs et la Glaneuse
(c) ciné tamaris2000
『アニエスによるヴァルダ』
監督:アニエス・ヴァルダ
製作:ロザリー・ヴァルダ
2019年/フランス/119分/カラー/5.1ch/1:1.85/原題:Varda par Agnès|日本語字幕:井村千瑞
(c) 2019 Cine Tamaris–Arte France–HBB26–Scarlett Production–MK2 films
『ダゲール街の人々』
監督:アニエス・ヴァルダ
撮影:ウィリアム・ルプシャンスキー、ヌーリス・アヴィヴ
1975年/フランス/79分/カラー/モノラル/スタンダード/原題:Daguerréotypes|日本語字幕:横井和子
(c) 1994 AGNES VARDA ET ENFANTS
『ジャック・ドゥミの少年期』
監督・脚本:アニエス・ヴァルダ
出演:ジャック・ドゥミ、フィリップ・マロン、ローラン・モニエ
1991年/フランス/カラー&モノクロ/120分/ビスタ 原題:Jacquot de Nantes
(c) ciné tamaris 1990
配給:ザジフィルムズ 岩波ホール