日本劇場未公開の短編作品『わたしたちの男』を劇場初公開!!
監督作をほぼ網羅する13作品を特集上映!!
『ヴァンダの部屋』から20年、世界を驚かせ続けるポルトガルの鬼才、ペドロ・コスタ。
2019年のロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞と女優賞を受賞した最新作『ヴィタリナ』の公開を記念して、監督作をほぼ網羅する13作品を特集上映する。
長編デビュー作『血』から日本劇場未公開の短編作品『わたしたちの男』、また『コロッサル・ユース』を制作中のペドロ・コスタ監督を記録したドキュメンタリー 『映画作家ペドロ・コスタ/オール・ブラッサムズ・アゲイン』など、その類まれな軌跡を見つめる。
ドキュメンタリーとフィクションのあいだに線を引くことのできたじっさいの映画作家など、誰ひとりとしていなかったと思うのです。自分はドキュメンタリー映画を作っているのだろうか、それとも劇映画を作っているのだろうか。どこで両者は隔てられているのかなど、私は今まで一度たりとも考えたことはありません。そのような問いは存在しない。私たちが撮っているものは生なのです。
―――ペドロ・コスタ(「歩く、見る、待つ ペドロ・コスタ映画講義録 」(ソリレス書店刊)より)
●ペドロ・コスタの映画はよく見ている。彼は特別な才能を持つ監督だ。
――マノエル・ド・オリヴェイラ(映画監督)
●ペドロ・コスタのように、フリッツ・ラングや溝口のような画面を撮れる人は他にいない。
――ジャン=マリー・ストローブ(映画監督)
●ペドロ・コスタは本当に偉大だと思う。彼の映画は美しく強力だ。
――ジャック・リベット(映画監督)
ペドロ・コスタ Pedro Costa
1959年ポルトガルのリスボン生まれ。リスボン大学で歴史と文学を専攻。青年時代には、ロックに傾倒し、パンクロックのバンドに参加する。リスボンの国立映画学校に学び、詩人・映画監督のアントニオ・レイスに師事。ジョアン・ボテリョ、ジョルジュ・シルヴァ・メロらの作品に助監督として参加。1987年に短編『Cartas a Julia(ジュリアへの手紙)』を監督。1989年長編劇映画第1作『血』を発表。第1作にしてヴェネチア国際映画祭でワールド・プレミア上映された。
以後、カーボ・ヴェルデで撮影した長編第2作『溶岩の家』(1994、カンヌ国際映画祭ある視点部門出品)、『骨』(1997)でポルトガルを代表する監督のひとりとして世界的に注目される。
その後、少人数のスタッフにより、『骨』の舞台になったリスボンのスラム街フォンタイーニャス地区で、ヴァンダ・ドゥアルテとその家族を2年間にわたって撮影し、『ヴァンダの部屋』(2000)を発表、ロカルノ国際映画祭や山形国際ドキュメンタリー映画祭で受賞した後、日本で初めて劇場公開され、特集上映も行われた。『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』(2001)の後、『コロッサル・ユース』(2006)は、『ヴァンダの部屋』に続いてフォンタイーニャス地区にいた人々を撮り、カンヌ映画祭コンペティション部門ほか世界各地の映画祭で上映され、高い評価を受けた。山形国際ドキュメンタリー映画祭2007に審査員として参加。
2009年にはフランス人女優ジャンヌ・バリバールの音楽活動を記録した『何も変えてはならない』を発表。また、マノエル・ド・オリヴェイラ、アキ・カウリスマキ、ビクトル・エリセらとともにオムニバス作品『ポルトガル、ここに誕生す〜ギマランイス歴史地区』(2012)の一篇『スウィート・エクソシスト』を監督している。
前作『ホース・マネー』は、2014年ロカルノ国際映画祭で最優秀監督賞、2015年には山形国際ドキュメンタリー映画祭で大賞を受賞した。2015年のニューヨークのリンカーンセンターのほか、世界各地でレトロスペクティブが開催されている。最新作である本作『ヴィタリナ』は、2019年ロカルノ国際映画祭で金豹賞&女優賞をダブル受賞、その後世界中の国際映画祭で上映、劇場公開が続いている。2019年東京フィルメックスで特別招待作品として日本初上映され、賞賛と驚きをもって迎えられた。
上映作品
『血』
英題:Blood 原題:O Sangue
ポルトガル/1989年/ポルトガル語/モノクロ/Blu-ray/95分
出演:ペドロ・エストネス、ヌーノ・フェレイラ、イネス・デ・メデイロス、ルイス・ミゲル・シントラ
1989年 ヴェネチア国際映画祭出品
1990年 ロッテルダム国際映画祭 国際批評家連盟表彰
青年ヴィンセントは病に苦しむ父親を安楽死させ、墓地に埋める。父親の消息に疑問を持った伯父は青年の許にやってきて弟を連れ去ってしまった。一方、父親の負債の返済を求めて二人組が現れる。弟を取り返すべく動く青年を二人組が追っていく・・・。ペドロ・コスタ長編第1作となる本作はフィルムノワール的風貌を見せつつ、瑞々しく輝く画面が観る者を魅了する。マノエル・ド・オリヴェイラ作品常連のルイス・ミゲル・シントラが重要な役で華を添えている。
『溶岩の家』
英題:Down to Earth 原題:Casa de Lava
ポルトガル・フランス・ドイツ/1994年/ポルトガル語・クレオール語/カラー/DCP /110分
出演:イネス・デ・メデイロス、イサック・デ・バンコレ、エディット・スコブ
1994年 カンヌ国際映画祭〈ある視点〉部門出品
1994年 テサロニキ国際映画祭 最優秀芸術貢献賞
1994年 ベルフォール国際映画祭 最優秀外国映画賞
看護師のマリアーナは、リスボンの工事現場で意識不明となった男レオンに付き添って彼の故郷カーボ・ヴェルデに向かうが、病人とともに荒野に取り残される。島民に病院まで運んでもらうが島民の誰一人として病人のことは語ろうとしなかった・・・。
“カーボ・ヴェルデから届いた手紙”というペドロ・コスタの重要なモチーフが初めて登場し、後のフォンタイーニャス地区を舞台にした作品に繋がる重要作。伝説的女優、エディット・スコブが特別出演している。
『骨』
原題:Ossos
ポルトガル・フランス・ドイツ/1997年/ポルトガル語/カラー/35mm /94分
出演:ヴァンダ・ドゥアルテ、ヌーノ・ヴァス、マリア・リブキナ、イザベル・ルート、イネス・デ・メデイロス
1997年 ヴェネチア国際映画祭 金のオゼッラ賞(撮影賞)
1997年 ベルフォール国際映画祭 審査員特別賞
赤ん坊を産んだティナはリスボン郊外にあるスラム街に戻ってくるが、夫は赤ん坊を連れて家を出て行ってしまう。彼は物乞いをし、看護婦のエドゥアルダと知り合い、彼女の家に居候するようになる。ティナの隣人クロチルドは家政婦をしているが、ある日エドゥアルダの家でティナの夫に出会う。スラム街フォンタイーニャスに住む人々を起用し、圧倒的なリアリズムで底辺の生活の厳しさを描き、高く評価された。『ヴァンダの部屋』のヴァンダも家政婦役で出演。
『ヴァンダの部屋』
英題:In Vanda’s Room原題:No Quarto da Vanda
ポルトガル・ドイツ・スイス/2000年/ポルトガル語・クレオール語/カラー/35mm /178分
出演:ヴァンダ・ドゥアルテ、ジータ・ドゥアルテ、レナ・ドゥアルテ、アントニオ・セメド・モレノ、パウロ・ヌネス
2000年 ロカルノ国際映画祭 ドン・キホーテ賞・特別賞・青年批評賞・最優秀賞
2001年 山形国際ドキュメンタリー映画祭 最優秀賞・国際批評家連盟賞
2002年 カンヌ国際映画祭 フランス文化賞・最優秀外国映画作家
数十人の規模の映画制作に疑問を持ったコスタは小型のDVキャメラを手にフォンタイーニャスに戻り、撮影を敢行。『骨』に出演したヴァンダ・ドゥアルテとその家族を中心に、再開発が進み、パワーショベルによる破壊が進む街に暮らす人々を見つめる。小津、溝口、フォードを想起させるスタンダードサイズの画面と、街に響く破壊音の対比が強烈な印象を残し、新たなドキュメンタリー表現として多くの映画作家に影響を与えた。
『映画作家ストローブ=ユイレ あなたの微笑みはどこに隠れたの?』
原題:Danièle Huillet, Jean-Marie Straub cinéastes : Où gît votre sourire enfoui?
ポルトガル・フランス/2001年/フランス語/カラー/35mm/104分
出演:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
二人組の特異な映画作家であり夫婦でもあるジャン=マリー・ストローブとダニエル・ユイレ
が、1999年秋のワークショップで行なった「シチリア!」第3版の編集作業の様子を収録したドキュメンタリー。映画作家の創作のプロセス・瞬間だけでなく、ときに滑稽でさえあるストローブ=ユイレ夫婦の物語や映画への愛が、膨大な議論や感情のやりとりを通じて描かれる。
【短編集】
『六つのバガテル』
原題:6 Bagatelas
ポルトガル、フランス/2002年/フランス語/カラー/DVCAM/18分
共同監督:ティエリー・ルナス
出演:ジャン=マリー・ストローブ、ダニエル・ユイレ
ストローブ=ユイレを撮影した『あなたの微笑みはどこに隠れたの?』の未使用カットから6つの場面によって構成された嬉遊曲(ルビ:ディヴェルティメント)。
『タラファル』
原題:Tarrafal
ポルトガル/2007年/カラー/DVCAM/16分
出演:ヴェントゥーラ、イザベル・カルドーゾ、ヴァンダ・ドゥアルテ
ポルトガルによって建設された政治犯用の強制収容所が存在した土地タラファル(カーボ・ヴェルデ)をめぐって語られる土地と家族の運命。
『うさぎ狩り』
原題:The Rabbit Hunters
韓国/2007年/カラー/DVCAM/23分
出演/アルフレッド・メンデス、ヴェントゥーラ、ジョゼ=アルベルト・シルヴァ
『コロッサル・ユース』のヴェントゥーラが語り部を演じ、故郷という土地を巡る人間関係の過去と現在が交錯する。
『わたしたちの男』
原題:O Nosso Homem
ポルトガル/2010年/カラー/Blu-ray/26分
出演/ジョゼ=アルベルト・シルヴァ、ルシンダ・タヴァレス、アルフレッド・メンデス ヴェントゥーラ
未踏の故郷であるカーボ・ヴェルデについて思いを馳せる青年アルベルト。異なる望郷の想いを抱える初老のヴェントゥーラ。人生と死における希望と絶望の狭間を探索する。
『コロッサル・ユース』
英題:Colossal Youth
原題:Juventude em marcha
ポルトガル・フランス・スイス/2006年/ポルトガル語・クレオール語/カラー/35mm/155分
2006年 カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品
出演:ヴェントゥーラ、ヴァンダ・ドゥアルテ、ベアトリズ・ドゥアルテ、イザベル・カルドーゾ
『ヴァンダの部屋』のスラム街は取り壊されて、ヴァンダは新しい集合住宅に移り住んで夫と子どもと暮す。カーボ・ヴェルデから移り住み34年間、フォンタイーニャス地区にすんできたヴェントゥーラ。
妻に去られた後、まだ残るスラム街と新築住宅を行き来し"子どもたち"を訪ねる。過去と現在を縦横無尽に交錯させながら、彷徨える魂を描き出す。ヴェントゥーラが繰り返し口ずさむ手紙が感動を呼ぶ。
『何も変えてはならない』
原題: Ne change rien
ポルトガル・フランス/2009年/フランス語/モノクロ/35mm/103分
出演:ジャンヌ・バリバール、ロドルフ・ビュルジェ
『そして僕は恋をする』(アルノー・デプレシャン)や『恋ごころ』(ジャック・リヴェット)などに主演し、フランス映画作家たちのミューズとして知られるジャンヌ・バリバール。彼女の歌手としての活動を、リハーサルやレコーディング、コンサートやレッスン、曲は《ジョニー・ギター》からオッフェンバックの《ペリコール》まで、舞台をフランスの村の屋根裏部屋から東京のカフェへと移しながら、独自の視点で映画にした。
『ホース・マネー』
英題:Horse Money 原題:Cavalo Dinheiro
ポルトガル/2014年/ポルトガル語・クレオール語/カラー/DCP/104分
出演:ヴェントゥーラ、ヴィタリナ・ヴァレラ、ティト・フルタド
ロカルノ国際映画祭2014最優秀監督賞
山形国際ドキュメンタリー映画祭2015大賞(ロバート&フランシス・フラハティ賞)
『ヴァンダの部屋』『コロッサル・ユース』に続き、リスボンのスラム、フォンタイーニャス地区にいた人々と創り上げ、主人公も『コロッサル・ユース』のヴェントゥーラ。ヴェントゥーラ自身のカーボ・ヴェルデからの移民の体験をもとに、ポルトガルのカーネーション革命や植民地支配からの独立などの近代史を背景に、ポルトガルに暮らすアフリカからの移民の苦難の歴史と記憶を、ひとりの男の人生の終焉とともに虚実入り混じった斬新な手法で描く。
<参考上映>
『映画作家ペドロ・コスタ/オール・ブラッサムズ・アゲイン』
英題: All Blossoms Again: Pedro Costa, Director
原題:Tout refleurit: Pedro Costa, cinéaste
フランス/2007年/フランス語/カラー/Blu-ray/78分
監督:オーレリアン・ジェルボー
『コロッサル・ユース』を制作中のペドロ・コスタ監督を記録する。監督と出演者たちとのやりとり、編集室でのラッシュ作業に加え、『骨』『ヴァンダの部屋』『映画作家ストローブ=ユイレ/あなたの微笑みはどこに隠れたの?』などの映像を交えて、監督の映画観を紐解く。『ヴァンダの部屋』の舞台となったフォンタイーニャスのスラム街は取り壊され、空き地になった場所を訪れ、語る監督・・・。『まぼろし』(フランソワ・オゾン)ほか、照明等の技師としても多くの作品に関わっているフランスのオーレリアン・ジェルボーが監督。
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2020年8月18日(火)~21日(金)、24日(月)~27日(木)
会場:アテネ・フランセ文化センター
主催:アテネ・フランセ文化センター
シネマトリックス
協力:アンスティチュ・フランセ日本、ヴュッター公園、Bart.lab、コミュニティシネマセンター、(株)アイ・ヴィー・シー、映画美学校、ポルトガル大使館
※上映スケジュールの詳細は下記URLにて後日、発表致します
ペドロ・コスタ最新作
『ヴィタリナ』
目もくらむ陰影と、完璧な構図に配置された俳優たち、そして静寂の中から響いてくる声の陶酔。これは創世期の映画が夢見た、もうひとつの完璧な形式だ。映画はこのような方向に発展していくこともできたのだ。
ーーー黒沢清(映画監督)
傑作『ヴァンダの部屋』から20年、鬼才ペドロ・コスタの新たな出発点
彼女の名前はヴィタリナーー。自身の名前と同じ主人公を演じたヴィタリナ・ヴァレラ。虚実の狭間で自らの半生を言葉に託し、語りかけるその存在感は見る者を圧倒し、ロカルノ国際映画祭で女優賞を受賞した。
世界を驚愕させた『ヴァンダの部屋』(2000年)から一貫して、移民街フォンタイーニャスを舞台に作品を作り続けている、ペドロ・コスタ。ひとりの女性の苛酷な人生を、暗闇と一条の光の強烈なコントラスで描き、ロカルノ国際映画祭で最高賞の金豹賞を受賞。その新たな出発点として絶賛され、世界中の映画祭が招待、リスボンでは多くの女性たちの共感を呼び、公開わずか1ヶ月で
2万人を動員するヒットを記録した。
監督:ペドロ・コスタ
出演:ヴィタリナ・ヴァレラ、ヴェントゥーラ、マヌエル・
タヴァレス・アルメイダ、フランシスコ・ブリト、マリナ・
アルヴェス・ドミンゲス、ニルサ・フォルテス
ポルトガル/2019年/ポルトガル語・クレオール語/DCP/130分原題:Vitalina Varela
配給:シネマトリックス