映画・ドラマ製作の脚本マッチングサービス「Green-light(グリーンライト)」が2020年4月8日にリリースされました。「Green-light」は、映像化されていない脚本を、プロデューサーや監督などの製作者たちが閲覧・評価することができ、脚本家へコンタクトを取ることができるマッチングサービスです。今回は、サービスを立ち上げた株式会社Atemoの和田さんに、サービスを立ち上げの経緯や、「Green-light」を通じてどのようなことを実現していきたいかなどのお話をお聞きしました。
――まずは現在の和田さんのお仕事を教えて頂けますか?
映画の企画プロデュースと、配給・宣伝の仕事をしています。以前在籍していたDLEという会社では、キャラクタービジネスが主軸でアニメを制作する仕事をしていたのですが、もともと実写志向だったので、実写映画の製作委員会を作り、そこから映画のキャリアが始まったという感じです。
――その後、どのように映画のキャリアを積んでいったのでしょうか。
2017年に会社を辞めてから8か月くらいアメリカに行っていたんです。以前の会社にいたときは製作幹事と配給宣伝を担当することが多くて、日本に戻ってきてから最初にお声がけいただいた作品が『ヌヌ子の聖☆戦』(18)でした。配給宣伝に加えて、ビデオや配信、海外セールスなどの事業パートナーを連れてきて契約を締結する等、製作幹事的な業務をしていました。
――「The BLack List(ブラックリスト)」はアメリカで知ったのでしょうか?
ロサンゼルスに滞在していたので、映画を志している人や、日本で映画に携わる仕事をしていた人が多かったんです。リドリー・スコット監督とよく一緒に作っているプロデューサーと知り合いになったという日本人の友達がいて、そのプロデューサーから「プロデューサーを目指すならもっと脚本読みなよ」と言われたと聞きました。そのプロデューサーは「The BLack List」に登録している会員だったので、そこでサービスを知りました。
――私も「Green-light」のリリース第一報で知ったのですが、「The BLack List」から生まれた作品は『英国王のスピーチ』(10)や『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』(18)など、大作も多いですよね。
「The BLack List」はもともと、ハリウッド業界の実績あるプロデューサーたちの間で始まり、数十人規模でスタートしたサービスだったそうです。そして今では、プロデューサーだけではなく、監督はもちろん、俳優やスタジオ、制作会社の社長とかも活用しているみたいで。
――なぜ「The BLack List」の日本版を立ち上げようと思ったのでしょうか?
アメリカから帰ってきてちょうど1年くらい経ったタイミングで、去年の8月にフリーランスから法人化しまして。何か事業的なことをやろうと考えた時に浮かんだのが「The BLack List」の日本版でした。
――「Green-light」は、脚本家にとってもチャンスに繋がる場だなと感じました。
僕はプロデュース業もしているのですが、そこまで脚本家の方を知らないんですよね。去年、とある作品ではじめてご一緒する脚本家の方と仕事をしたのですが、その方の書く脚本がすごく良くて…。でも現状は、プロデューサーなどの製作者が脚本家の方と知り合うルートがあまり無いよなと感じていました。
――だからこそ、こういうマッチングサービスが必要なのかもしれないですね。
今年1月にこのサービスの情報解禁をして製作者会員の事前登録を受け付けたところ、配給会社や制作プロダクション、ビデオメーカーなど、幅広く様々な会社のプロデューサーが集まってくださいました。配給会社で言うと東宝・東映・松竹といった邦画メジャーから、ワーナー・ギャガ・東京テアトルなど外資やインディペンデントの会社まで参画してもらっています。映画祭や脚本のコンテストだと、幅広い層や多くの人数を集めることがなかなか難しいと思うので、そういう意味では良い場になるのではないかと思っています。
そして、これからもっと集めていきたいと思っているのは俳優側です。俳優の方々がどんどん脚本を探しにいって、「この作品に出たい」という流れが出てくると面白くなってくるのではないかと。
――「Green-light」は具体的にどういう仕組みになっているのでしょうか?
会員の種別が2つに分かれていて、脚本を掲載する側の人(脚本家会員)は自分の脚本があればどなたでも参加可能で、月額会費制(税込1,980円から)でアップすることができます。そして、脚本家会員は匿名性なので、他にどんな脚本家が登録していて、どんな脚本がアップされているのかは脚本家同士では見えなくなっています。
また、脚本を閲覧する側の人(製作者会員)は、登録の前に審査があります。こちらの登録は無料で、脚本を全部見ることができます。製作者側も脚本家側と同じく、他にどんなプロデューサーや監督が登録しているのかはわからないという仕組みになっています。
――そこから気に入った脚本家の方と、実際に連絡をとって進めていくということですね。
そうですね。「Green-light」はあくまで、脚本のアーカイブ・マッチングの場になります。脚本を読んで、プロデューサーがその脚本の映像化についての連絡をするというのも1つですし、脚本家を探している別企画で執筆を依頼したいという連絡もあると思っています。少しイレギュラーですけど、プロデューサーと脚本家で脚本開発している企画がある場合、プロデューサーが脚本家に開発費プラスαのお金を渡して脚本家に「Green-light」へその脚本を掲載して頂き、その企画への他の出資者を募る場にするということも考えられますよね。
「The BLack List」にも、ある程度実現しかかっている企画も上がっていると聞きました。例えば、制作と配給が決まっている企画に、配信や海外セールスの方が加わるみたいなことへの後押しにも繋がるのではないかと思っています。
――なるほど。「Green-light」を通じて、映像業界にまた新たな流れが生まれそうですね。
僕は業界全体のことを言えるポジションでは無いのですが、もっと映画が文化的にベースの客層を増やしていけるようにしたいですね。配給を担当していても、東京にしかお客さんが入っていないという作品がインディペンデントでは特に多いので、「Green-light」から何らかの形を変えていきたいなとは思っています。
和田 有啓
1983年神奈川⽣まれ。スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、その後、松⽵芸能、電通、DLEを経て2017年に独⽴。フリーランスとして映画の企画/プロデュース/配給/宣伝を⾏った後、2019年に自身の会社となる株式会社Atemoを設⽴。
2017-18年にアメリカ・ロサンゼルスに滞在していた際にはcinefilにてエッセイ連載も。
「脱サラ映画プロデューサーのハリウッド探訪記」
下記より
脱サラ映画プロデューサーのハリウッド探訪記
Green-light(グリーンライト)
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cinefil連載【「つくる」ひとたち】
「1つの作品には、こんなにもたくさんの人が関わっているのか」と、映画のエンドロールを見る度に感動しています。映画づくりに関わる人たちに、作品のこと、仕事への想い、記憶に残るエピソードなど、さまざまなお話を聞いていきます。時々、「つくる」ひとたち対談も。
edit&text:矢部紗耶香(Yabe Sayaka)
1986年生まれ、山梨県出身。
雑貨屋、WEB広告、音楽会社、映画会社を経て、現在は編集・取材・企画・宣伝など。TAMA映画祭やDo it Theaterをはじめ、様々な映画祭、イベント、上映会などの宣伝・パブリシティなども行っている。また、映画を生かし続ける仕組みづくりの「Sustainable Cinema」というコミュニティや、「観る音楽、聴く映画」という音楽好きと映画好きが同じ空間で楽しめるイベントも主催している。