『ぼくの好きな先生』で知られるドキュメンタリーの名匠ニコラ・フィリベール監督の最新作『人生、ただいま修行中』が11月1日(金)より新宿武蔵野館他にて全国順次公開となります。
フランスで200万人を動員した世界的ヒット作『ぼくの好きな先生』や『パリ・ルーヴル美術館の秘密』などで知られ、フレデリック・ワイズマンらと並ぶ現代ドキュメンタリー最高峰の一人、ニコラ・フィリベール監督。
小さくも多様な日常の中にあるかけがえのない瞬間を優しさに溢れた眼差しで捉えてきた彼の、11年ぶりとなる待望の日本公開作です。舞台はパリ郊外の看護学校。まだ頼りになるとは言い切れない。けれど誰かのために働くことを選んだ看護師の卵たち。つまずき、時に笑い、苦悩しながら成長していく彼らの姿は、いつしか今を生きる私たちの物語へとつながっていく。誰もが、初めてを経験し、失敗しながら生きていく。人生は学びと喜びの連続であることを教えてくれる感動の奮闘ドキュメンタリー。ニコラ監督は2016年、塞栓症を患い救急救命室に運ばれ、一命をとりとめた経験から、医療関係者に敬意を表すべく、医療関係者、特に看護師と共に映画を撮ることを決意しました。
このたび、本作の公開を記念して、ニコラ・フィリベール監督の11年ぶりとなる来日が決定!
さらに、2020年東京オリンピック公式映画監督への就任も話題の河瀨直美監督を対談ゲストにお招きし、トークイベント付き特別試写会を開催する運びとなりました。
河瀨監督が1997年に行われた第50回カンヌ国際映画祭にて、『萌の朱雀』でカメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少の27歳で受賞したとき、審査員の一人を務めていたのがなんとニコラ・フィリベール監督だったという縁があり実現したこのイベント。
カメラ・ドール後、河瀨監督は同映画祭で、2007年に『殯(もがり)の森』でグランプリを受賞、2013年に同映画祭コンペ部門の審査委員を日本人監督として初めて務め、2015年には、「ある視点」部門のオープニングを『あん』が飾り、2017年には『光』がコンペティション部門にノミネートされるなど、輝かしい功績を重ねてきました。
その礎ともいえるカンヌ映画祭最初の受賞を後押ししたニコラ監督と、今回、2007年のカンヌ以来12年ぶりの再会を果たしました。
【河瀨直美監督&ニコラ・フィリベール監督トークイベント】
■日時:10月10日(木) イベント19:00〜19:30*上映前
■場所:日本シネアーツ試写室
(新宿区市谷本村町2-5 AD市ヶ谷ビルB1)
■登壇(予定):ニコラ・フィリベール監督、河瀨直美監督
場内の大きな拍手に迎えられ登壇したフィリベール監督と河瀨直美監督。フィリベール監督は、映画にちなんで白衣を着てのサプライズで登場!まずはじめに、フィリベール監督は一言、「今日はみなさんに、そして直美とここにいることが嬉しい。奈良からわざわざ来て頂き、久しぶりに感動の再会です。」と語る。
続けて河瀨監督は「12年ぶりの再会。このイベントの話を頂いて必ず行こうと思った。フィリベール監督は、『萌の朱雀』でカンヌでカメラ・ドールをとったときの審査員。わたしの受賞を推してくれた人だった。」と再会に喜びを語り、和やかな雰囲気でトークがスタート。
フィリベール監督「映画づくりは、未知の世界に会いに行くこと」
まず河瀨監督は、お互いの作品の共通点について「対象をコントロールしないこと。それは私たちの人生と同じで、コントロールするべきでないから。そうした驚きや発見のなかで、自分も成長していく。その似通っている部分がわたしたちの作家性なのかなと感じた。」と語る。
ニコラ監督も「直美の作品と僕の作品は違うようにみえて共通点が多い。それは、撮影の時に、出演者に対して、こうしてほしい、ああしてほしいと言わない。アドリブが多いし、お互いに何かを撮りながらつくりだしていく、即興的な撮影方法。アプローチが、意外性やサプライズ、人生の偶然、出会いの偶然が侵入してくる余地がある。カメラの目の前にいる人がどんなことをしたいかを考え、僕と一緒に遊んでいただく気持ちで撮っている。」と撮影手法の観点から、お互いの共通点についてコメント。
続けて河瀨監督は、「ドキュメンタリーは日常。カメラを介在してくことは、ある種の脅威だったり武器で、日常ではなくなる。でもフィリベール監督の作品は、カメラがほんとうにあるのかな、と思うくらい、日常どおりの会話している。そこまでの関係性を結ぶことが大切。観察映画と言いながら、カメラを置いているだけでは撮れない。」とドキュメンタリーについて語る。
それを受けてフィリベール監督は、「観察といっても学者のようにじっと見て考えるのではなく、私自身、撮影するときは、同時代の人に、自分から出会いにいく。本作の舞台は看護学校だけれど、観る人は自分のことに関係する話だなと感じると思う。なぜなら医療や看護の枠を超えた人間関係を描いているし、誰かをケアするという普遍的なこと描いている。ケアというのは、人間関係の話で他者や自分を発見することだからね。」と誰にも共通するテーマについて描いていると話した。
続けて、河瀨監督の「この映画は成長物語でもある。注射が打てるとか表面的なものではなく、人間としての成長。去年より今年、先より今など、カメラを通してそれを伝えるのは至難の技。その瞬間にカメラが介在しているんだなと感じました。」と緻密な分析に、すかさずフィリベール監督は「その通りです。(笑)すごく感動してしまいました。」と喜ぶ微笑ましい姿をみせた。
河瀨直美監督
「カテゴリーを超えオリジナリティのある作品を作ることが使命」
そして、映画づくりについて尋ねられると、河瀨監督は「人生を成長させるもの。観客のみなさんに届けたいという思いでつくっている。そこに、自分ごとという感情をつくらないと、社会がこういうものを欲している、流行っているという観点で作品を作ると、消費されてしまう。経済ではない豊かさが人間社会のなかにあり、それが芸術であり映画。だから、人生をかけて映画をつくりたい。」と語り、フィリベール監督は、「世界に出会いに行くということ。カメラを持つことで他者に歩み寄ること。映画をつくることで他者への恐怖感が減るわけではないが、克服しようと努力している。他者を説得しようと思っているのではなく、いつも怖いと思って映画をつくっている。まだ学んでいる途上。さまにこの作品のタイトルの『人生、ただいま修行中』。その修行に一歩踏み出してくれるのが、映画撮影。」と未知へ足を踏み出す一歩として、映画を撮り続けると思いを語る。
最後に、ニコラ監督から「会場の皆さん、そして直美も遠いところから足を運んでいただきありがとうございました。」と感謝の思いを語り、
河瀨監督は「来年、オリンピックの監督をします。フィリベール監督にいろいろ学ばせて頂きました。ドキュメンタリーや、フィクションというカテゴリーを超えて、作家として、オリジナリティのあるものをつくっていくことが使命」と今後の制作のうえでの意気込みを語り、イベントは大盛況のもとに幕を閉じました。
【ニコラ・フィリベール監督プロフィール】
1951年ナンシー生まれ。1978年「指導者の声」でデビュー。その後、自然や人物を題材にした作品を次々に発表。1990年『パリ・ルーヴル美術館の秘密』、1992年『音のない世界で』国際的な名声を獲得。2002年『ぼくの好きな先生』はフランス国内で異例の200万人動員の大ヒットを記録し世界的な地位を確立する。2008年には日本でも大々的にレトロスペクティヴが開催された。本作は2007年『かつて、ノルマンディーで』以来11年ぶりの日本公開作となる。
現在68歳。
監督・撮影・編集:ニコラ・フィリベール
2018年/フランス/フランス語/105分/アメリカンビスタ/5.1ch/カラー/英題:Each and Every Moment/日本語字幕:丸山垂穂/字幕監修:西川瑞希
配給:ロングライド
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ日本
©️Archipel 35, France 3 Cinéma, Longride -2018