2年に一度の山形国際ドキュメンタリー映画祭の年がやってきました。
アジア初の国際ドキュメンタリー映画祭として、1989年から隔年で開催されてきた本映画祭も今年で30周年、記念すべき16回目を迎えます。

 山形国際ドキュメンタリー映画祭2019インターナショナル・コンペティション部門作品募集として2018年9月1日より2019年4月15日の期間で受け付けた作品から、10名の選考委員により厳正な選考を行い、15作品を上映作品として決定しました。

●応募総数 
インターナショナル・コンペティション部門
123の国と地域から1,428本 前回比125%

アジア千波万波部門[現在選考中]
68の国と地域から943本

2つの公募部門を合わせると、130の国と地域から2,371本(132%:過去最多)

●応募傾向 インターナショナル・コンペティション

製作国・地域   
1位 ドイツ   156本(前回146本)
2位 アメリカ  139本(前回99本)
3位 フランス  129本(前回119本)
4位 日本    98本(前回88本)
4位 スペイン  98本(前回81本)

今回製作国としての初参加国・地域は、ガボン、グリーンランド、バヌアツです。

選考用作品映像の提出を、前回までのDVDのみの受付から、簡単で送付費用のかからない「オンラインアップロードでの受付」も可としたためか、インターナショナル・コンペティション、アジア千波万波部門それぞれで前回より約300本ほど応募が増加し、応募総数が全体で3割増となりました。主要な応募各国でそれぞれ増加していますが、とりわけ、これまで国外へのDVD送付について、国の規制や郵便事情の悪さなどで他国に比べ障害があった中国、インドからの応募が、前回に比べ倍増したことが大きな特徴として挙げられます。
(※中国からは両部門合わせて181本、インドからは同174本の応募)。
また同時に中国は現在、国をあげて映画産業を支援し、国内の国際映画祭も増えていることから、これまで以上に国際市場への意識が高まり、積極的に海外の映画祭への応募を試みる映画人が増えているのではないかと考えられます。

女性監督作品(共同監督作品含む)の応募数の割合は例年同様、全体の応募総数の4割弱(今回38%)となり、大きな変化は見られませんでした。
一方で、今年度のコンペティションでは過去最多の9本が入選し、現在は力のある女性監督が欧州アジア問わず多数活躍し、すばらしい作品を生み出し評価されている現状を垣間みることができます。

画像: 世界が注目!「山形国際ドキュメンタリー映画祭2019」123の国と地域から応募された1,428本から選ばれたコンペティション15作品を発表!

山形国際ドキュメンタリー映画祭2019
インターナショナル・コンペティション部門

『別離』 Absence
 監督:エクタ・ミッタル Ekta Mittal

インド/2018/80分

画像: 『別離』 Absence 監督:エクタ・ミッタル Ekta Mittal

インド郊外の農村では移住労働者として都市部に出かけ、そのまま消息を絶ってしまう男たちが少なからずいるという。残された妻や母は行方不明者の面影を求めて尽きない思いを廻らせる。パンジャーブ語の近代詩に着想を得た本作は、原題Birha(別離による悲しみの意)が示すように、愛する誰かが今ここにいないということについての映画であり、あらゆる不在のイメージが重層的に描かれる。最下層に生きる人々が貧困から逃れることができない限り、女たちの悲嘆もまた深い霧のように決して晴れることはない。幻想的な空間の中でインドの過酷な現実が浮かび上がる。

『カチャダ』
 Cachada-The Opportunity
 監督:マレン・ヴィニャイヨ Marlén Viñayo

エルサルバドル/2019/81分

画像: 『カチャダ』 Cachada-The Opportunity 監督:マレン・ヴィニャイヨ Marlén Viñayo

エル・サルバドルの露店で生活の糧を得るシングルマザー5人が演劇のワークショップに参加。リハーサルを繰り返すうちに、次第に自分たちの生活、状況に向き合うことになる。それは社会全体が許容している、女性に対する不当な暴力のサイクルだった。哀しみを肥った肉体に秘めて、陽気にふるまう彼女たちは、植え付けられたトラウマを乗り越えることができるのか。彼女たちに1年半密着して、その魅力を映像に焼きつけたマレン・ヴィニャイヨにとっては初の長編監督作品となる。

『十字架』 The Crosses
 監督:テレサ・アレドンド カルロス・ヴァスケス・メンデス
Teresa Arredondo, Carlos Vásquez Méndez

チリ/2018/80分

画像: 『十字架』 The Crosses 監督:テレサ・アレドンド カルロス・ヴァスケス・メンデス Teresa Arredondo, Carlos Vásquez Méndez

チリ南部の小さな町で起きた製紙会社組合員大量殺人事件。軍事クーデターから数日後の1973年9月、19人の工場労働者が警察に連行され、6年後、遺体となって発見された。解決に至らない事件はそのまま闇に葬られるかに見えたが、40年後、事件への関与を否定していた警察官のひとりがその証言を覆した時、製紙会社側と独裁政権の思惑が明らかになる。いまだ「死」がそこかしこに漂う閑静な町の姿と、殺害現場に立てられた夥しい数の十字架が声にならない叫びを上げ、国家が手引きした虐殺の歴史を告発する。

死霊魂 Dead Souls
監督:王兵(ワン・ビン)Wang Bing

フランス・スイス/2018/495分

画像: 死霊魂 Dead Souls 監督:王兵(ワン・ビン)Wang Bing

1950年 代後半に起きた中国共産党の反右派闘争で粛清され、ゴビ砂漠の中にある再教育収容所へ送られた人々。劣悪な環境のなか、ぎりぎりの食料しか与えられずに過酷な労働を強いられ、その多くは餓死した。王兵(ワン・ビン)監督は『鳳鳴−中国の記憶』(YIDFF2007大賞)と初長編劇映画『無言歌』(2010)で描いたテーマを追い続け、8時間を超える証言集にまとめあげた。生き抜いた人々が語る壮絶な体験と、収容所跡に散乱する人骨の映像から、忘れ去られた死者の魂の叫び声が聞こえてくる。

『誰が撃ったか考えてみたか?(仮)』Did You Wonder Who Fired the Gun?
 監督:トラヴィス・ウィルカーソン Travis Wilkerson

アメリカ/2017/90分

画像: 『誰が撃ったか考えてみたか?(仮)』Did You Wonder Who Fired the Gun? 監督:トラヴィス・ウィルカーソン Travis Wilkerson

監督自身の曾祖父が1946年に起こしたアラバマ州ドーサンでの黒人
男性射殺事件。これまで親族の間でも隠され忘れ去られていたが、古い新聞記事を元に当時の状況を掘り起こし、自身の家族の闇にサスペンスタッチで迫る。人種差別主義者であり家族にも暴力を振るっていたこの曾祖父の、弱者に対する抑圧的人格を暴くことで、白人至上主義が当時も今も変わらず台頭する米国社会の病根を、白人である自分自身の問題として痛烈に提示する。『加速する変動』(YIDFF’99IC)、『殊勲十字章』(YIDFF2011IC特別賞)のトラヴィス・ウィルカーソン監督作品。

約束の地で In Our Paradise
監督:クローディア・マルシャル Claudia Marschal

フランス/2019/76分

画像: 約束の地で In Our Paradise 監督:クローディア・マルシャル Claudia Marschal

14年前に故郷ボスニアを離れフランス東部で家族とともに暮らすメディナ。その姉妹インディラは彼女を頼って移住を試みるも、ドイツで難民拒否の現実に直面し帰国を余儀なくされる。このふたりの女性とその子どもたちが思い描く未来には、いくつもの透明な壁が障害となって立ちはだかりその実現を阻もうとする。排外主義の高まりのなかでますます居場所を失っていく人びとの横顔と、救いの手を求めて発される言葉の声を、映画はきわめてドラマティックに捉えることに成功している。

『光に生きるーロビー・ミューラー』Living the Light - Robby Müller
 監督:クレア・パイマン Claire Pijman

オランダ/2018/86分

画像: 『光に生きるーロビー・ミューラー』Living the Light - Robby Müller 監督:クレア・パイマン Claire Pijman

ヴィム・ヴェンダースやジム・ジャームッシュの映画のカメラマンとして知られるロビー・ミューラー(1940-2018)の生涯とその仕事を辿る。『都会のアリス』や『ダウン・バイ・ロー』などの名高いショットの回顧とともに、本作はミューラーが家庭用ビデオやポラロイドカメラなどで撮影していたプライヴェートな映像を掘り起こす。家族との時間や滞在したホテルといった日常の中の光景を捉えたそのまなざしが、彼の人生と映画が地続きだったことを語ってくれる。誰もが簡単に映像を撮影できる時代にこそ観られるべき映画である。

『Memento Stella』
 監督:牧野貴

日本・香港/2018/60分

画像: 『Memento Stella』 監督:牧野貴

“Memento Stella”は「星を想え」「ここが星であることを忘れてはならない」という意味の造語。現実の様々な事象を捉えた映像は、この星が光の集合であったことを思い出したかのように、微細な粒子にまで還元され、視覚と聴覚に訴える強烈なテクスチャに姿を変える。しかしそこに我々が「見て」しまうのは有史以来連綿と続く人の営みそのもの。自分がこの小さな星で生まれ、今尚生きているという当たり前の事実に気づくことになる。光と音のダンスが、既成の概念を超越した唯一無二の映像体験へと誘う!YIDFF2017IC審査員。

『ミッドナイト・トラベラー』Midnight Traveler
 監督:ハサン・ファジリ Hassan Fazili

アメリカ・カタール・カナダ・イギリス/2019/87分

画像: 『ミッドナイト・トラベラー』Midnight Traveler 監督:ハサン・ファジリ Hassan Fazili

タリバン指導者について作品を作ったことで死刑宣告を受けた、アフガニスタンの映画作家夫婦が、子どもとともに欧州へ逃れるまでの3年間の旅の記録。家族がスマートフォンを駆使して撮影した旅の日常は、逃避行の不安と家族の親密さをリアルに描き出している。この作品を見る者は、未だ戦争の影響が残る不安定な社会から排斥され、寄る辺ない存在になっても続く一家の日常を、生々しく目撃することになる。

『インディアナ州モンロヴィア』 Monrovia, Indiana
 監督:フレデリック・ワイズマン Frederick Wiseman

アメリカ/2018/143分

画像: 『インディアナ州モンロヴィア』 Monrovia, Indiana 監督:フレデリック・ワイズマン Frederick Wiseman

2016年のアメリカ大統領選の結果を受けて、フレデリック・ワイズマンはインディアナ州の農業の町モンロヴィアを題材に選んだ。牧歌的な農場の風景からはじまって、フリーメーソンのロッジからライオンズクラブ、高校、教会、銃砲店などを細やかに観察しながら、ワイズマンは昔ながらの価値観、生活様式を護り続ける“善きアメリカ人”の姿を浮かび上がらせる。町で起きた出来事、会合、催事を軽やかにスケッチすることで、町という社会の全体像が見えてくる。アメリカを左右するほどの影響力を持つ人々の実像がここにはある。
前回映画祭2017では『エクス・リブリスーニューヨーク公共図書館』を上映。

『理性』 Reason
 監督:アナンド・パトワルダン Anand Patwardhan

インド/2018/240分

画像: 『理性』 Reason 監督:アナンド・パトワルダン Anand Patwardhan

現代インドで深刻化するヒンドゥー・ナショナリズムの拡大と宗教的な対立。その状況に理性をもって抗する人間たちの姿を記録し、テレビ映像やインターネットにアップされた動画なども活用して構成された、全8章4時間の大作である。根強く残るカーストがもたらしてきた悲劇、不可触民や女性への差別を解消しようとする闘争は、テロや暗殺という手段で挫かれても失われず、詩や音楽の力に導かれて甦る。本作は、排他的なポピュリズムが招く危機的状況に警鐘を鳴らすストレートなメッセージを届ける。『神の名のもとに』(YIDFF'93IC市民賞)、『父、息子、聖なる戦い』(YIDFF'95IC特別賞)のアナンド・パトワルダン監督作品。

『自画像:47KMの窓』Self‑Portrait: Window in 47 KM
 監督:章梦奇(ジャン・モンチー)Zhang Mengqi

中国/2019/110分

画像: 『自画像:47KMの窓』Self‑Portrait: Window in 47 KM 監督:章梦奇(ジャン・モンチー)Zhang Mengqi

監督が長期間にわたって撮影を続ける中国山間部の小さな村。谷を見下ろす小屋の壁には、年月を経て掠れた「〇〇主義が中国を救う」の文字。監督はひとりの少女にその○○部分についての考えを問い、少女は「戦争もしてないのに、国を救う必要なんてあるの?」と問い返す。ある老人は85年に及ぶ自らの半生を語り、一方少女は村の老人たちの似顔絵を描き続ける。この映画が記録するのは、老人たちとともにやがて消えていく記憶、風景の痕跡として残る歴史や経済的衰退だけではない。この小さな村は、厳しい冬の終わりに文字通り鮮やかな色彩に染まる。『自画像:47KMに生まれて』(YIDFF2017NAC)の章梦奇監督作品

『トランスニストリア』 Transnistra
 監督:アンナ・イボーン Anna Eborn

スウェーデン、デンマーク、ベルギー/2019/93分

画像: 『トランスニストリア』 Transnistra 監督:アンナ・イボーン Anna Eborn

ウクライナとモルドバの境界にあって、1990年に独立を宣言した小国トランスニストリア。ひと夏の時を川辺や森、ビルの廃墟で過ごす17歳のタニアと彼女をめぐる5人の男の子たち。恋と友情の危ういバランスの上のつかの間の光の輝きを、16ミリ
カメラが記録する。夏から秋、そして冬へと移ろいゆく季節のなか、未来への不安と故郷の自然の心地よさの間で、若者たちの感情生活は揺れ動く。生きるためには、出稼ぎか、兵士になるか、さもなければ犯罪者になるしかない。過酷な現実を前に、無限とも見える青春の時間が空に吸い込まれていく。

『ユア・ターン(仮)』Your Turn
 監督:エリザ・カパイ Eliza Capai

ブラジル/2019/93分

画像: 『ユア・ターン(仮)』Your Turn 監督:エリザ・カパイ Eliza Capai

公共交通機関の値上げ反対デモや、公立高校再編案に反対する学校占拠など、活発な政治運動を繰り広げるブラジルの学生たち。その記録映像に、当事者である3人の若者たちがナレーションを重ねていく。若者たちは、その歌うような軽快な語りとともに、学校を、そして街頭を次々と占拠し、政治家たちに自らの主張を認めさせていく。しかし彼らのこうした試みにも関わらず警察の対応はより暴力的なものになっていき、ブラジルは極右政権の誕生へと向かっていく。

『ユキコ』 Yukiko
監督:ノ・ヨンソンYoung Sun Noh

フランス/2018/70分

画像: 『ユキコ』 Yukiko 監督:ノ・ヨンソンYoung Sun Noh

フランス在住の監督、生まれ育った朝鮮で暮らす母、戦時中に朝鮮人の恋人を追って日本からソウルにやってきた祖母。朝鮮戦争の渦中に生き別れ、母の記憶に残っていない祖母のことを仮に「ユキコ」と呼び、互いに薄い関わりしか持たない三人の女性像を親密に紡ぐ。母が独りで住む江華島、ユキコが人生最期の地に選んだ沖縄で、母のシルエット、日常風景、老人ホーム、摩文仁の丘が、繊細なカメラワークで重ね合わされる。二つの島で架空の物語が交わり、幾重にも声がこだまし、戦時の悲劇を呼び起こす。「記憶にない者を悼むことができるのか」という普遍的な問いが響く。

山形市制施行130周年記念事業
山形国際ドキュメンタリー映画祭2019

会期:10月10日[木]〜17日[木] 8日間

会場:山形市中央公民館(アズ七日町)、山形市民会館、フォーラム山形
ソラリス、山形美術館、山形まなび館 ほか

●インターナショナル・コンペティション

 全世界応募された1,000本を超える作品の中から珠玉の15作品を選び上映。
映画祭期間中に著名な国際審査員によって審査され、大賞のロバート&フランシス・フラハティ賞他各賞が決まります。セレクションに定評のあるこのメインプログラムは、いまや中国を代表する映画作家である王兵、カンヌなど世界三大映画祭でも常連となったアピチャッポン・ウィーラセタクンを始めとして先鋭的な作家・作品をいち早く紹介する部門として評価が高く、ヤマガタの顔となっています。

 大賞 ロバート&フランシス・フラハティ賞(賞金200万円)

 最優秀賞 山形市長賞(賞金100万円)

 優秀賞(賞金30万円)

 審査員特別賞(賞金30万円)

●アジア千波万波(7月末に作品発表)

 アジアの新進ドキュメンタリー作家の作品を紹介、応援するプログラム。
応募作品から20作品程度を上映。国際審査員による審査によって、最も可能性のある作家にアジア作家との交流に情熱を傾けた小川紳介監督の精神を受け継いで設立した小川紳介賞を授与します。世界でのアジア作家の台頭著しい昨今、フレッシュで野心的な作品を長年紹介し続けてきたこの部門にはファンも多いようです。河瀬直美、ヤン・ヨンヒといった作家たちがこの部門から羽ばたきました。荒削りでもひと際光るものを感じさせるアジアの新進作家を発掘、応援するプログラム。

 小川紳介賞(賞金50万円)

 優秀賞(賞金30万円)

その他プログラム

●AM/NESIA:オセアニアの忘れられた「群島」
●リアリティとリアリズム:イラン60s-80s
●Double Shadows/二重の影2
●「現実の創造的劇化」戦時期日本ドキュメンタリー再考
●日本プログラム
●ともにあるCinema with Us
●やまがたと映画
●春の気配、火薬の匂い:インド北東部アーカイブより
●審査員作品・特別招待作品

※各特集プログラムについては、7月末に作品タイトルおよび詳細確定予定。
下記サイトより

今年は30周年16回目の開催という節目の年。これまでのファンだけでなく、新しい観客に向け、「映画」と「旅」を合せて楽しんでもらいたいと、最新情報を「どきゅ山ライブ!」というサイトでも発信しています。

This article is a sponsored article by
''.