AI、人工知能が自動車の運転をする近未来の平成39年の愛知県が舞台のSF法廷ミステリー。
AIによる完全自動運転とは、AIが自動車の発進、走行、停車を操作するが、緊急時には人間の運転者が操作するというもの。平成39年といっても、実際には令和に年号が変っているわけだが、街の風景は現在とほとんど変っていない。
運転をしているAIを、アメリカが人間相当とみなしたことから日本も右習いして交通事故の際にはAIを被告として提訴することが可能になった。だが、実際には起訴しても機械に罪を問えない、と起訴猶予になるケースばかり。検事二年目の米子天々音(よねごあまね)はやっと刑事部に配属されると喜んでいたら、交通事故担当にされてしまう。有罪判決を勝ち取らないと、転属は認めないという上司の言葉にカチンと来て、起訴猶予になった事件を改めて取り上げることにした。
もっとも彼女を補佐する検察事務官の大鳥は「有罪判決なんて夢のまた夢ですよ」と弱音を吐くが、意に介せず捜査を始める。
自動運転をつかさどるボックス(カーナビ風の長方形で厚さ5cmくらい)を証拠として保管場所から持ってきて、コードをつないで音声を発せるようにして尋問を開始する。
米子の名前はよねこと間違えておいて、一度知覚したものは変えないんだとよねこで通すくせに、自分の名前MACO2(Motorcar Autonomous Control Operator ver.2=自動車自動管制操作者バージョン2)の呼び方マコツーは間違えるなという、ちょっと自己中なところがおかしい。
運転者の安全を第一にすべきなのに、自動車はセンターラインに向かい、向こうから走行してきたトラックと衝突して運転者を死亡させてしまった。過失致死罪で起訴するというと、不具合・故障ではなく、自らの意思でセンターラインによったのだと自白。自ら犯意があったことを明かし、びっくりして聞き返す米子にその通りだと断言。
とりあえず、「残業代が出るか」を心配している大鳥とともに、現場を訪ね、被害者深見蘭子の勤務先で人となりを尋ねて、彼女がきつい性格で同僚からも嫌われ、MACO2に対してもつらく当たっていたことをつきとめる。裁判が開かれ、AIの定義、可能性、感情の有無なども論議され、さらに赤いライトが見えたという証言の信憑性が争点となっていく。
被告なのになぜか検事側の証人として話すMACO2が、次第に憎めない存在となっていくだけに、ラストには哀歓が漂う。作りは少々稚拙だが、設定の奇抜さ、ほのかなユーモア、米子役の吉見茉莉奈が役柄にぴったりで、見ていて好感が持てた。
ストーリーに捻りがきいていて、人間と機械の不思議な友情がいい後味を残す。
監督・脚本・編集を手がけた下向拓生はソフトウェア・エンジニアをしながら映画を撮っていて、全編ワンカットで撮影された「N.O.A.」(2015)は各種映画祭で受賞した経歴の持ち主で、本作が初長編作品。
北島明弘
長崎県佐世保市生まれ。大学ではジャーナリズムを専攻し、1974年から十五年間、映画雑誌「キネマ旬報」や映画書籍の編集に携わる。以後、さまざまな雑誌や書籍に執筆。
著書に「世界SF映画全史」(愛育社)、「世界ミステリー映画大全」(愛育社)、「アメリカ映画100年帝国」(近代映画社)、訳書に「フレッド・ジンネマン自伝」(キネマ旬報社)などがある。
『センターライン』予告
[STORY]
自動運転が普及した安全な時代 [平成 39 年]に、車同士の正面衝突よる死亡事故が発生。交通部配属に、車同士の正面衝突よる死亡事故が発生。交通部配属新任検察官米子天々音は、自動運転を制御していた人工知能の MACO2を過失致死罪で起訴しようと画策する。しかし”彼”は、「誤作動でなくわざと殺しました」と供述。 AI の心は嘘か真か。
吉見茉莉奈
星能豊 倉橋健 望月めいり 上山輝
中嶋政彦 一色秀貴 近藤淳 青木謙樹 松本高士 もりとみ舞
一髙由佳 青木泰代 いば正人 藤原未砂希
スタッフ
監督・脚本・編集:下向拓生
撮影監督:JUNPEI SUZUKI
セカンドカメラ:山川智輝、村瀬裕志
録音:上山輝
モーションアクター:木村翔
音楽:ISAo.
主題歌:「シンギュラリティ・ブルース」小野優樹
ロケーション協力:いちのみやフィルムコミッション協議会/愛知県あま市企画政策課/名古屋大学