スタートしたcinefilオンライン上映!

cinefilオンライン上映は、東京、大阪を中心とした映画公開で見過ごしてしまった作品。
また、気になっていたものの近くで上映されなかった作品。
今までなかなかインディペンデントの作品を観る機会が少ない方。
そんな皆様へ、期間限定ですが、24時間いつでも、全国どこからでも、未配信の作品を中心に、ラインナップしてオンライン上での公開を考えています。

今回ご紹介するのは第一弾ラインナップの中でも異色な作品として際立つ『Groovy』。

今作は、2017年のMOOSIC LABで発表された作品で吉川鮎太 監督と音楽家ベントラーカオルさんによるもの。
自殺大国の日本の中で、それを阻止すべく立ち上がった研究者を疑似ドキュメンタリーとして描いていく--。

主演は、なんと『サッドティー』『パンとバスと2度目のハツコイ』そして2019年は『愛がなんだ』『アイネクライネナハトムジーク』と話題の新作公開が続く映画監督の今泉力哉氏。
今作では、自殺を止めるために取り憑かれていくパラノイヤ的研究者“神崎”を独特の雰囲気で演じ、MOOSIC LAB 2017 コンペティションの長編部門で最優秀男優賞に輝いた。

共演は、喋ることができなく、笛と表情だけで感情を表現する“ミカちゃん”という難役を今泉力哉監督『終わってる』や大野大輔監督「ウルフなシッシー」など多くの作品に出演するしじみさん。
その他、吉川鮎太監督自身は“神崎”を撮り続ける映像作家として、また自殺志願者の役にはガールズ映画監督ユニット「破れタイツ」の吐山ゆんが出演している。

今回、webマガジンcinefilではオンライン上映中の4監督に作品に対する質問を投げかけました。

第三回『Groovy』吉川鮎太 監督

画像1: 第三回『Groovy』吉川鮎太 監督

●本作はMOOSIC LAB 2017長編部門の作品ですが、どのような経緯で企画が立ち上がっていったのでしょうか?

「暗い日曜日」という曲があります。
この曲を聴いたというハンガリー人が157人も自殺し、世界各国で放送禁止となりました。ただの音楽に、人を自殺に追い込む力があると世界が認めたのです。

高校時代、不謹慎な話なのですが
僕はこの話とこの曲がとても好きでした。
初めて聴いた時は恐ろしく、
身の回りに刃物や、紐などがないか確かめた覚えがあります。
聴き終えて生き残ったという達成感と話のスケールの大きさに惹かれたのでした。

「Groovy」では、真反対である、自殺を止める曲、"生"の音楽が
登場する話を作りたいと思って企画しました。
日本は自殺者のとても多い国だし
身近にも自殺志願者が実際にいたからです。

●本作のストーリーはどのように作りあげていったのでしょうか?

このテーマを扱うにあたり
物語を綺麗事で済ましたり、自殺をしたくなる人の心の動きを蔑ろにしたくない
という思いがありました。

冒頭で神崎(今泉力哉さん)が
自殺を目前にした人はほぼ思考停止状態で、無気力なため
「君が死んだら周りの人が悲しむのを想像できないのか?」などという
よく説得のために使われる言葉が根本的に間違っていると説明するシーンは
実際に取材を通して脚本に落とし込んでいきました。

自殺を止めるには、自殺のメカニズムを解明する必要があります。
それを説明するには、ドキュメンタリータッチの手法が最適だと思いました。
カメラに向かって神崎が解説することができるからです。
神崎は自殺寸前の無気力状態に陥った人に、
もう一度、考える力、我に返す効果を与える音楽を研究していきます。
神崎は研究を成功させるためならどんな手段も厭わない。
この熱意、葛藤を主軸に本を書いていきました。

●作中に出てくる研究は実際にあるものなのでしょうか?

残念ながらありません…。この研究は僕が想像で考えました。
自殺を止めるためには、二つの行程が必要で、
第1に、無気力状態を解く特殊な音を聴かす。
第2に、そこにショックを与える“グルーヴ”をぶつける。
劇中で神崎は、第2の関門に行き詰っています。
特別なグルーヴがなければ心にショックを与えることはできないのです。
このグルーヴを生むために切磋琢磨する話なので
タイトルを「Groovy」にしました。

自殺志願者(吐山ゆんさん)に神崎が取材に行くシーン。
スマホのSiriとは会話できるという彼女も、とある女性を取材し参考にしました。
その方は上手く会話できているように話すのですが、内容が噛み合わず、
異様な語り口調で、永久に結論へ到達できない話し方の人でした。
ただ、音楽の話になると別で、作曲をされているのですが
的確にこの音は何を表しているとか、作曲のこだわりなど
明確な話し方ができるようになり、そのときだけ会話が成立する感覚がありました。

あの気味の悪い会話、一瞬、神崎さえもまともに見えてしまうシーン、
吐山さんの圧のある”死へ”のお芝居が作品に重厚感と緊張感を持たせられたと
感じています。

●今泉力哉監督としじみさんをキャスティングした理由を教えて下さい。

今泉さんは大学の臨時講師でした。
演者へ実際に芝居をつける授業というのがあまりなかったので
今泉さんの演出の授業はとても刺激的でした。
今泉さんの演出の付け方(その時の振舞い)は、
僕の目線からだと、とても実験的で
この人とこの人の組み合わせはどうだろうか
このキーワードを言わせたら、この設定だったら、この感情だったら、と
今泉さんの一声で次々と人の見え方が変わっていきます。

ほぼ90°に曲がった背中と、親指と中指で眼鏡を直す仕草が
ビーカーで薬品を混ぜ合わせる科学者に見えて仕方なかったのです。
直井さんとキャスティングの話をしているとき、今泉さんしかいないんですよと
力説した覚えがあります。

しじみさんは、ご紹介でキャスティングさせていただいたのですが、
この難しい役をすんなりと受け入れてくれたことが本当にうれしかったです。
ミカちゃん(しじみさんは)喋ることができず、笛と表情だけで感情を表現しなければなりません。しかも、楽器にされる。こんなめちゃくちゃな役を、
落とし込んで演じることができるのはしじみさんくらいじゃないでしょうか。
笛も初心者なのに想像以上に上手くて、驚きました。
最悪、編集で後乗せしようと思ってたのですが
キレイな音色だったので、全部そのまま使わせていただいています。
楽器状態のしじみさんの表情と身体のうねり具合に
見惚れた人は僕だけじゃないはずです。現場でも凄まじかったです。

画像2: 第三回『Groovy』吉川鮎太 監督

●今泉監督の演技もかなりインパクトがありましたが、劇場上映時、吉川監督のシーンが話題に上る事も多かったと思います。あのシーンは元々ご自身で出演されるつもりで脚本を書いたのでしょうか?

ほぼほぼ自分のイメージで描きました。

上っ面だけいい人ぶって裏で悪口を言うことに関して、良くないことだと重々承知なのですが、実際慣れていた部分もありやらせていただきました。
格好の悪いことだと思います、本当に。でもやっちゃいます。
京都生まれだからですかね。関係ないですね。すみません。

あゆたくんは神崎を嘲笑し、晒し者にする役なのですが、
実際、神崎みたいな人が存在したら面白がってメディアは取り上げると思います。
近頃、流行りのyoutuberも、そういった変わり者や
非日常を映し出して、広告収入を得ようとしているし
実際に、再生回数が上がるのはそれだけ視聴層が求めている証拠だと感じています。

●京都造形大学出身の方が現在多く活躍していますが、京都造形大学はどのような環境なのでしょうか?

京都造形の映画学科はこれといって特別なことは特に無いと思います。
ただ映画を観て、作って、意見交換して、
合評で一番面白かった映画を決めて
それだけで、凄く楽しかったのを覚えています。
映画だけにどっぷり4年間浸れる環境というのは
本当に恵まれた環境なんだなと今になると切実に感じます。
ただ先生はめちゃ怖かったです。厳しかったし、たくさん怒られました。
それだけ気にしていただけていたんだと今思うとこれも感謝です。

今回出演してもらった水野役の(谷口恵太)も大学の同級生の一人で、
夢とお金の話をたくさんしてこの撮影に挑んでもらいました。
お互い大学の卒業間近で、将来の不安も共有し合ったと思います。
だからこそ、劇中の葛藤する彼の表情は人間味が合って一番生き生きとしていた気がします。彼の劇中歌も書き下ろしてもらいました。素敵な曲です。

●本作の制作において、特に監督がこだわった部分はどこでしょうか?

人間楽器音楽のシーンです。

これが撮りたい一心で企画しましたから!
「人間を楽器にしてしまえば、最高のGrooveが生まれる!」
という神崎の考え方は、自分で言うのもあれなのですが
ぶっ飛んでて最高だなと素直に思います。
神崎の心拍数をローターに繋いで振動に変換し直接ミカちゃんにビートを与えるとか
ミカちゃんが感じるまでに少しズレがあるとか
音楽を担当してもらったベントラーカオルさん(Koochewsen)に
意味不明なことを、ひたすらに説明して作ってもらったのですが、
これもまたすんなり受け入れていただき、嬉しかったです。
初めてデモを聴いたとき涙がこぼれました。
これは人を救える曲だと確信できたからです。

撮影も最高でした。スピーカーでカオルさんの音楽を流し、
今泉さんに奏でてもらう。それを同級生のカメラマン、米倉伸に
思うがままに撮ってもらいました。なぜかミラーボールも回ってます。
あんな映像、中々観れないでしょう!

画像3: 第三回『Groovy』吉川鮎太 監督

●影響を受けたものを教えてください。文学、映画、その他ジャンルは問いません。

○影響を受けた映画監督はデヴィッド・クローネンバーグです。
毎回、毎回、特殊なテーマと緻密な設定が凄まじいです。
観終えてから後々考えてみるとめちゃくちゃな理論だと思うんですが
観てる時は、リアリティと説得力に圧倒されて
本当なんじゃないかと錯覚してしまいます。
気持ちが悪く、目を瞑りたくなるものと、美しいものの境界線を
どんどん曖昧にしていって、最後に何かへの到達点へ導く。
その圧倒的なパワーで、いつも変な感情になってしまい、なぜか笑ってしまいます。
たぶん屈服感だと思います。参りました!っていう。
演奏シーンの構図は「シーバース」の冒頭を真似しました。

画像4: 第三回『Groovy』吉川鮎太 監督

●次回作の計画などはございますか?もしくは、撮りたいテーマとかあったら教えてください。

“性欲”を”美”に昇華させる映画を撮りたいです。
痴漢や、盗撮、レイプ、援交、不倫だとか
性欲に関するマイナスなニュースが多い世の中なので、
もっとスタイリッシュで美しく、愛に溢れた作品を撮りたいです。
美しいものを作ってやがる!って皆から思われてる人が一番かっこいい人だと思います。

あと、冒頭でも書かせていただいた通り、世間に反映されるものにも憧れがあります。
映画が画面の中だけでなく、観た人に実際に影響を及ぼすような。
「Groovy」では、劇中曲が本当に自殺の抑止力があると認められて
街中で流れたらいいなと思って作りました。

●今回の期間限定オンライン上映についてコメントをお願いします。

今回、オンライン上映のお話しいただき、このような記事でも取り上げていただけて
とてもうれしく思っています。ムージックラボ後の展開を図れず、
出演してくださった方や、スタッフに申し訳ないと思っていたからです。
なので、一人でも多くの人に観ていただけたらそれだけで幸いです。
「Groovy」をご覧になっていただいた皆様、本当にありがとうございました。
厚く深く感謝。―敬意をこめて―

画像: メイキング写真 左よりしじみさん、吉川鮎太監督、そして怪演する今泉力哉監督。

メイキング写真
左よりしじみさん、吉川鮎太監督、そして怪演する今泉力哉監督。

今泉力哉コメント
「おもしろいので見てください。しじみさんとの共演はとてもとても刺激的でした。またしじみさんを撮ってみたいと思いました。」今泉力哉

しじみさん コメント

今泉監督とは『終わってる』という映画でお世話になって以来だったんですが、まさか共演する日がくるとは夢にも思わず、今回のお話がきた時は本当に驚きました。しかしやはりというか俳優としての今泉さんは圧倒的に画力がありとても魅力的で、特に終盤で今泉さんが全身全霊で私にぶつかってくるシーンがあるんですが、そのシーンを撮り終えた後、“凄いものが撮れた”という空気が現場に漂っていた事を今でもはっきり覚えています。

あと全編京都での撮影だったんですが、吉川監督はじめ京都造形大学の皆さんには本当によく気を遣って頂いて、すごく良い環境の中で撮影に臨めました。そういう雰囲気も映像から感じてもらえるのかなと思います。

そして何と言っても音楽がとてもかっこいいので、是非爆音で観てもらえたら嬉しいです。

吉川鮎太 監督とベントラーカオル氏

吉川鮎太 監督
京都造形芸術大学映画学科卒。
学生時代に監督した「DRILL AND MESSY」がPFFアワード2016でエンタテイメント・ホリプロ賞を受賞。大学卒業後東京で一人暮らしを始め、現在会社員。

ベントラーカオル
楽器演奏家/作曲家。ロックバンド【クウチュウ戦】キーボーディスト。
また、ソロ・アーティストとしても活動する他、【あらかじめ決められた恋人たちへ】など多数のプロジェクトに参加。映画の世界では今作「Groovy」が初の音楽担当作品となる。

映画「Groovy」特報

画像: 「Groovy」特報 www.youtube.com

「Groovy」特報

www.youtube.com

[STORY]
自殺大国日本、この国は1日に約100人もの人が自殺している。 音楽研究家の神崎(今泉力哉)はこの問題を重く捉えていた。 自殺を目前とした人に、もう一度だけ自分に向き合う力、意思を与えたい。 その方法が音楽を聴かせることではないかと考えた。 自殺を止める音楽を作るために神崎は研究を重ねていく。 音楽を完成させるためならどんな手段も厭わない。 なぜそこまで自殺にこだわるのか、それにはある理由があった……。

監督・脚本・撮影:吉川鮎太
劇中曲:ベントラーカオル「MICHA」

撮影:米倉伸/清田洋介
照明:杉村航
録音:村原孝麿
美術:武藤夏美助
監督:金山豊大
制作:中谷天斗
企画:直井卓俊

CAST:
今泉力哉/しじみ/吐山ゆん(破れタイツ)/谷口恵太/石倉直実/新谷惇泰

映画祭:
MOOSIC LAB 2017 コンペティション【長編部門】公式出品作品
制作年:2017年

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