スタートしたcinefilオンライン上映!
cinefilオンライン上映は、東京、大阪を中心とした映画公開で見過ごしてしまった作品。
また、気になっていたものの近くで上映されなかった作品。
今までなかなかインディペンデントの作品を観る機会が少ない方。
そんな皆様へ、期間限定ですが、24時間いつでも、全国どこからでも、未配信の作品を中心に、ラインナップしてオンライン上での公開を考えています。
今回ご紹介するのは第一弾ラインナップの『KILLER TUNE RADIO (Radio Edit 2018)』。
柴野太朗監督は、デビュー作「モラトリアム・カットアップ」で第9回田辺・弁慶映画祭グランプリに輝き注目を集め最新作『内回りの二人』ではMOOSIC LAB 2018においてなんと4冠に輝いている
今作は「モラトリアム・カットアップ」の主題歌や劇伴音楽のほか、録音・音響スタッフも手がけたミュージシャン・井上湧(Churchill)と再びタッグ!初の長編作に挑んでいる!
物語は小さなのラジオ局で「キラーチューン」を探す中で拡がる青春群像劇で、全て組み合わせると1曲の楽曲になるという柴野監督の果敢な実験音楽映画。
今回は監督自ら新たなる編集を加えた 「Radio Edit 2018」の初配信となります。
今回、webマガジンcinefilではオンライン上映中の4監督に作品に対する質問を投げかけました。
第四回『KILLER TUNE RADIO (Radio Edit 2018)』柴野太朗監督
●MOOSIC LAB 2018『内回りの二人』四冠おめでとうございます!今のお気持ちは?
賞をいただけて、純粋に嬉しいです。作品自体を評価していただけるのはもちろん光栄ですが、関わってくださった役者さん・ミュージシャンの方それぞれにも賞をお渡しすることができたことをとても嬉しく思っています。信頼できるスタッフ達を含め、みんなでいただいた賞という気持ちが強いです。本当にありがとうございます。
●本作はMOOSIC LAB 2017長編部門の作品ですが、この作品を作り上げた1年前と今で、環境、心境の変化はありますか?
映画の芯の部分やトーンは『内回りの二人』も『KILLER TUNE RADIO』も同じだとは思うのですが、改めて見返すとこんなにも表現の仕方というか味付けが違っていたのかと我ながら思いました。
どちらも自分の表現方法の一つではあるので、2017年と2018年でモードが違っただけで、そこまで大きな心境の変化は無いような気がします。強いて言うならば、『内回りの二人』はちゃんと広く人に届くように作ろうとは意識したので、比べると『KILLER TUNE RADIO』はコアなマニア向けという感じだと思います。
今年になって「実はキラーチューン好きでした」と声をかけていただけることも多くあり、届いている方には届いていたんだなと実感できたのも嬉しかったです。
●登場人物にミュージシャンが出てくる訳でもなく、「キラーチューン」を探すという一風変わった音楽映画ですが、ストーリーはどのように思いつき、作り上げていきましたか?
別の時間軸、撮り方等も含め別の描き方をしたストーリーを2本作り、一切お互いには出会わないけども、ラジオの電波のみで繋がっているという構造にしたい、というコンセプトは最初から決めていたような気がします。
演奏シーンは入れず、音楽そのものを捉えた音楽映画にしたい、ということも最初から決めており、音楽とはどんな存在かを改めて考えながらストーリーを練り上げていったという感じです。
話を追って登場人物に感情移入していくというよりは、しょうもないギャグの間に隠れているコンセプトを見つけ出して頭の中で組み合わせていく、というような見方をしていただけると、比較的楽しんでもらえるのかもしれません。
●監督もよくラジオを聞くのでしょうか?
実はラジオ番組の熱心なリスナーというわけではなく、ラジカセやラテカセといった受信する機材が好きなただのマニアです。番組の内容ではなく、電波に乗って声や音楽が手元に届くというラジオの仕組みが好き、という感じだと思います。
学生時代はずっと放送委員会だったのですが、どちらかというとラジオ番組を発信する技術側に昔から興味がありました。ラジオ愛はあるのですが、割と偏っていると思います。
●兼田いぶきさんと小川ゲンさんをキャスティングした理由を教えて下さい。
この話は元々、主演の兼田いぶきさんが持ってきたものでした。彼女がMOOSIC LABに出るにあたって監督を探しているという話が回り回って自分のところに来て、ご一緒することになりました。
兼田さんに「共演したい人いる?」と聞いた時に名前が上がったのが、『内回りの二人』でもご一緒した川籠石駿平さんであり、彼に同じ質問をした時に名前が上がったのが、小川ゲンさんでした。
あとは基本的に、会ってお話した時の印象と人柄でキャスティングを進め、役者さんに沿って脚本も調整していった感じです。
結局のところ、大事なのは人の繋がりだと思います。
●本作の制作において、特に監督がこだわった部分はどこでしょうか?
こだわりポイントを挙げるとキリがなく、しかも終始マニアックな話になってしまうのですが、まずは後半の方で兼田いぶきさんがダンスをする場面の音楽に触れておくことにします。
この場面で使用している音楽は、この映画で使われている全ての劇伴音楽の音素材を再構築させて作ったトラックに新たなボーカルを乗せたものです。つまり、この曲のために新たに録音している音素材はありません。この曲はあくまで劇伴扱いではないので、どう処理しようか考えた時に、主題歌の『Killer-Tune』(全部の劇伴音楽が重なってできている)と対になるような方向性で作れれば良いと思い、このような手法で曲を作りました。
また、誰も気付かなそうな部分を挙げると、堀春菜さんと笠松七海さんの女子高生パートに入る時に、毎回一瞬ノイズを入れているのですが、その長さが映画の後半に行くにつれ徐々に短くなっています。これは、兼田さんと堀さんの距離が縮まっていることを示唆している演出です。
その他、随所に置いてあるこだわりの小道具(私物)もそうですが、こんな風に解説しなければ誰も気付けないようなギミックを仕込んでおくのが大好きなので、ごく稀に気付いてくれる方がいるととても嬉しくなります。
●第9回田辺・弁慶映画祭でグランプリを受賞した前作「モラトリアム・カットアップ」にも出ている守利郁弥さんと竹林佑介さんが度々挟まれるシーンでコメディ部分の担当をされていますが、アドリブも多かったのでしょうか?
端的に言えば、彼らの出演はサービスカットというか、前作を観ていただいた方に「また出た!」と思ってもらいたいがためのキャスティングです。(ちなみに『内回りの二人』にも一瞬ずつ映っています。)
彼らとは付き合いも長く、それぞれのキャラクターも十分に分かっているので、まずは本人が言いそうなセリフを当て書きした上で、現場ではほぼおまかせという感じでした。もちろんアドリブも多々ありますが、思いの外脚本に忠実でもあったと思います。
改めて見返すと、ひたすら無意味なような大事なことを言っているような力押しのギャグが続くのが、なかなか頭がおかしくなりそうで痛快でした。また10年後とかに彼らと共に見返して、ニヤニヤ笑いたいと思います。
●全て組み合わせると1曲の楽曲になるという劇盤の構成が大変凝っていますが、そのアイディアはどのように生まれたのでしょうか?
あえて難しい言い方をすると、映画の中で鳴っている意味のある音楽(主題歌)とは何か、ということを考えた時に、映画の構造自体に音楽を関わらせることで必然性が生まれるだろうと思い、その発想を突き詰めた結果が「全部重ねる」という今回のアイディアでした。
そのアイディアを、以前から一緒にやっている音楽担当の井上湧(Churchill)と制作初期の段階から相談し、何曲作るのか、曲のテンポや尺は一定にするのか、などの細かい部分を決め、まったく違うジャンルの音楽を一曲のポップソングとして完成させる、という構造にすることを決めました。
このように複雑難解なコンセプトをサラッと仕込んでいるので、なかなか普通に映画を観ていてもピンとは来ないギミックだとは思いますが、あまり他になさそうなアプローチで映画と音楽を融合(=MOOSIC LAB)させることができたと思っています。大変すぎてこんなことは他に誰もやろうとしない、ということもよく分かりました。
ほぼお披露目をしていない、主題歌の5.1chサラウンドミックス版というものが存在するのですが、このバージョンで聞くと1つ1つの音楽の組み合わさり方がより分かりやすくなります。5.1chでこの映画を上映しましょうという方がもしいましたら、ご連絡お待ちしております。
●今回のオンライン上映にあたって、あらたに編集し直しをされていますが、どのように変わったのでしょうか?
基本の流れはほとんど変わっていませんが、どうしても編集のテンポがモタつく部分が気になっていたので、そこを微調整しました。**
元々早い編集とゆったりとした編集を混在させている映画なので、組み合わせ方の塩梅が難しいところではあったのですが、疾走感をなるべく持続させる方向にしたことで、全体的にタイトで見やすい印象になったのではないかと思います。
あとはマニア向け要素として、女子高生の屋上シーンなど、去年の上映時には使用していないテイクと一部差し替えてみるなど、本当に細かい箇所の変更をしました。
そして、映画のタイトルに付くはずのない「(Radio Edit)」という言葉を付けてみたかったので、それをするなら題材的に今回しかないと思い、手を加えました。
●影響を受けたものを教えてください。文学、映画、その他ジャンルは問いません。
長くなるので端的に言いますが、基本的には音楽からの影響が大きいです。90年代のテクノ文化には特に大きく影響を受けています。
例えば、Corneliusのアルバム『FANTASMA』の過剰な情報量とおもちゃ箱感、ユーモアセンス、アルバムの構成自体には特に影響を受けていると思います。曲を重ねるというアイディアも、アルバム内の曲『STAR FRUITS SURF RIDER』からの影響があると思います。
また、永田一直さん主宰のテクノレーベル「TRANSONIC RECORDS」の、砂原良徳さんと常盤響さんによるカットアップアルバムの編集センスも常に意識している作品の1つです。(前作『モラトリアム・カットアップ』のコンセプトにも影響しています)
関連して、宇川直宏さんのVJやデザインにも影響を受けています。この辺りは宇川さんのストリーミング番組「DOMMUNE」にてトークをさせていただいた時にもたくさん語りましたが、今回の映画にラテカセ(SONY FX-300)や、CHFのカセットテープ(InK『C-46』のジャケットなど)が登場するのも、宇川さん作品の影響が大きいと思います。
あまりに音楽寄りの話になってしまうので、映画方面でも挙げるとするならば、三木聡監督のマニアックかつストイックな表現や目の付け所と、沖田修一監督の繊細な人物の描き方と空気感、そしてお二人に共通しているユーモア、というところからの影響が強いと思います。
●監督にとってキラーチューンとは?
かなり感覚的なものですが、来た!という感覚、高揚感を味わえる曲がキラーチューンではないかと思います。それは初めて聞いた曲でも、久しぶりに聞いた曲でも感じることのできるものだと思います。
今年の『内回りの二人』という映画では、町あかりさんとThe Whoopsからそれぞれ1曲ずつ楽曲を提供してもらっていますが、どちらもデモを聞いた段階でそのような感覚になりました。まさにキラーチューンだと思います。
また、映画内のセリフでも書きましたが、時代の流れに耐えられる強度を持つ音楽が本物であり、キラーチューンとなりうる要素の1つでもあると思います。
●次回作の計画などはございますか?もしくは、撮りたいテーマとかあったら教えてください。
毎回基本的に全てを出し切って作るので、今のところ計画は特に無いですが、場面の断片やコンセプトはなんとなく頭に浮かんでいるものがあります。
一つは、コメディ寄りのミニマルな会話劇で、温泉にいるおじさんのどうでもいい会話とかを撮ってみたいです。10分ワンシチュエーションとかで良いかなとは思います。それぞれ違う温泉地で何本かのオムニバス形式で撮りたいイメージです。
もう一つは、逆にすごくテンポが速くてセリフの少ない、ひたすら街を走り続けるような映画も撮ってみたいです。全編ずっと4つ打ちのテクノを流したいです。
去年も実は、NACK5のラジオ番組にゲスト出演した際に同じような質問があり、「次回作は電車ネタですかね」となんとなく発言したところ、MCの土屋礼央さんに「山手線とか?」と返していただいたことが、今年の『内回りの二人』に繋がっていたりもするので、こういう思いつきを膨らませていくことも大事なのかなと思っています。
●今回の期間限定オンライン上映についてコメントをお願いします。
自他共に認めるほど人を選ぶ映画ではありますが、ここまで振り切った映画を作っておいて良かったと思っています。
せっかくの配信なので、必要に応じて「一時停止」や「巻き戻し」も使いつつ、是非色んなギミックや小ネタを探しながら自由に楽しんでいただければと思います。この映画のことを面白がってくれる方と1人でも多く、今後も出会っていければ嬉しいです。
出演の兼田いぶきさんと小川ゲンさんコメント
兼田いぶき コメント
一年以上前にスタッフ、キャストが一丸となって作り上映した作品がまたこうした形でみなさんに見て頂ける機会に恵まれたこと、大変嬉しく思います。
柴野監督ならではのスピード感ある編集を楽しんでいただければと思います。シャイな人たちが集まって映画の中にいろんな思いを込めて作ったので、隅々まで見ていただけると嬉しいです。
小川ゲン コメント
もちろん劇場でないと味わえないこともあると思うのですが、なんだかこの映画には「配信」という形も似合う気がします。
色々な場所、タイミングで、誰かが『KILLER TUNE RADIO』に出会うこと、そしてこの映画がそんな誰かの「キラーチューン」に…なんてことを考えてわくわくしています。
柴野太朗監督と井上湧(Churchill)
・柴野太朗
2015年、監督作「モラトリアム・カットアップ」が第9回田辺・弁慶映画祭にてグランプリを受賞。翌2016年6月にテアトル新宿にて開催された、映画×演劇×音楽の複合イベント「モラトリアム・カットアップ・ショーケース」 を企画・プロデュース。
映画という枠にとらわれず、新しい文化を生み出すべく創作活動を続けている。
●井上湧(Churchill)
1992年、東京都出身。ソロユニット「Churchill」として活動する傍ら、劇伴制作や映画音響にも携わる。時代を牽引する技術を咀嚼し、誰しもが聴ける楽曲に落とし込みながら、絵画経験に根ざした鮮彩さで独自の彩色を施す。
『KILLER TUNE RADIO』予告
STORY
小さなラジオ局を舞台に、番組でかける「キラーチューン」を探すゆかり(兼田いぶき)と小山(小川ゲン)。怒涛の高速編集と組み上がる楽曲。ツメを折った思い出を巻き戻す、まさに実験的音楽映画。
INFORMATION
監督・脚本・編集:柴野太朗
音楽・録音:井上湧
撮影 ・照明:北川弦己
企画:直井卓俊
CAST:
: 兼田いぶき/小川ゲン/モラル/宮井浩行/安藤理樹/村井彩子/笠松七海/守利郁弥/大石晟雄/竹林佑介/川籠石駿平/堀春菜
映画祭:
: MOOSIC LAB 2017 コンペティション【長編部門】公式出品作品
制作年:: 2017年
配信時間:: 85分
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