スニーカーを巡って少年から男へと成長していく瞬間を描いた
ニューエイジ・フッドムービー映画『キックス』公開記念
三宅唱監督×宮崎大祐監督による対談インタビュー
2018年12月1日より公開中の、今作が長編映画デビュー作となる新鋭ジャスティン・ティッピング監督による映画『キックス』。今回は、ヒップホップ映画を撮られている三宅唱監督(『THE COCKPIT』)と宮崎大祐監督(『大和(カリフォルニア)』)に、映画『キックス』について、ヒップホップと映画や映像の関わりについてお話をお聞きしました。
宮崎「ヒップホップが映画に与えている影響は、軽さと重さの同居」
三宅「可能性を広げてくれる所がヒップホップの好きなところ」
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ーーまず『キックス』をご覧になって、どのようなことを感じましたか?
宮崎:僕の中で、映画って1番モダンでクールじゃなきゃいけないっていうポリシーがあるんです。世界に存在しているものの中で1番クールであるべきだって。
ーーそれはなぜでしょうか?
宮崎:自分が映画をやっているということもそうですし、映画に影響を受けて人生が歪んでしまった人間なので。その歪められた理由を考えると、憧れる圧倒的な何かがあって、ある種神様みたいなところがあったので。
ーー何かキッカケになった作品はあるのでしょうか?
宮崎:具体的にこれというのは特に無いです。たぶん、三宅監督と出会った頃ですかね。
三宅:僕ら映画美学校の同期なんですよ。
宮崎:それくらいの頃、「もう映画以外やること無いな」って思ったんですよね。スイッチが入ったというか。
ーー中学や高校時代にどっぷりハマっていたとかではなく?
宮崎:ハマってはいたんですけど、やっぱり覚悟が居るじゃないですか。
三宅:一人じゃ作れないしね。
宮崎:よっぽど運が良くないと続けられないものだと思います。だからこそ映画を擁護したり神聖視したくなっちゃうのですが、その中でも『キックス』はとてもクールだし、現代的だし、2017~2018年の空気をギュッと凝縮してる感じがあるなと。抽象的な言葉ですけど、「モダンだ!」と。
ーー三宅監督はいかがでしたか?
三宅:宮崎さんが言っていた「映画は最もクールであるべき」という言葉には全く同感です。というのを前置きとして、感想は矛盾するかもしれないのですが、この映画が始まった時に「映画なんてもうどうでも良いんだ」って感じるところがたくさんあって・・・。
ーー例えばどのような部分でしょうか?
三宅:映画はたかだか120年くらいの歴史ですけど、一応「これが映画である」というものがあると思います。どちらかというと僕はそれを大切にしたいと思っている人間なんですけど、『キックス』はそんなことは知ったこっちゃないと(笑)。従来なら映画ならではの方法でなんとか表現しようというところを、あるアーティストのリリックを、パッと引用しちゃうぜというところとか、別にどこでどう観られたっていいぜという位のユルさがあるというか。
ーー映画館に拘らず、家でネットとかで観てくれてもいいみたいな。
三宅:全国にある映画館が潰れなきゃ良いなって心から思っているし、一方で映画館が無いなら無いでしょうがない、そこから始めようみたいな感覚も、両方ありますね。だから、個人としては引き裂かれるところがあります。「ヒップホップとはこれである」とか「それ以外のことはヒップホップとは認めない」というのもヒップホップのかっこいいところだと思うし、同時に、自分が思ってもいなかったものをカッコよく見せてくれて、世界を変えてくれて、「これもアリじゃね?」って可能性を広げてくれる所も、ヒップホップの好きなところなんです。なのでそれを映画に置き換えて、「映画とはこれである」と「これも映画としてアリじゃね?」ということは両方考えたりします。
宮崎:僕もこの映画はミュージックビデオ的な手法や、家のテレビで観た方が映える手法が面白いなと、「カウチで観れる気軽さ」というのをすごく感じました。そして、そういう部分を積極的に取り入れられる軽さが素晴らしいなと思う一方で、映画館という教会に通う殉教者でもあるので(笑)、そういうところには引き裂かれました。
ーートークイベントの際に宮崎監督が「今後の映画音楽はヒップホップが重要になる」とおっしゃっていましたが、それはヒップホップが常に最先端のものであるという所からでしょうか?
宮崎:ヒップホップでは「アルバム至上主義」といって、一枚の自分の人生が詰まったアルバムを出したやつこそ本物のラッパーという時代が続いていたのですが、2000年前半くらいから「ミックステープ」なるものが流行り出したんです。無料で聞いて、ファンが増えて、ライブの収入が増えて、それからアルバムを出すとファンが買う、みたいな。それが今のネットフリックスとかの時代とすごく共鳴していると思うんです。軽さと重さの同居というのが、ヒップホップが映画に与えてる影響ではないかと。アルバムは一人で作れるかもしれないですけど、映画は一人では作れないので。もっとミックステープ的に吐き出して、表現できることがあるなら、どんどんやっていきたいというスタンスになってきているので、その速度がこういう風に映画に反映されるんだったら、これからの映画はそうなっていくのかなと思います。ミックステープの文化とネットフリックスの文化はすごく比例していて、そういう映画がどんどん増えていくのかなと。でも映画だと、ノーギャラでミックステープをたくさん作って、さあ劇場公開しましたって時に、回収出来るのかというところもあるので。
ーーどんどん生み出していくことによる「消費されてしまう怖さ」はありませんか?
宮崎:僕は今のところそうですね。それがいきなり枯れたときは怖いですけど。今のところは全然問題ないです。
ーー三宅監督も同じですか?
三宅:どうですかねー?(笑)。作らなくても良いかってなる時もたまにありますね。
ーーえ、そうなんですか!
三宅:ですね。さっきの「引き裂かれる」というところに戻るんですけど、ただ僕が勝手に引き裂かれているだけで、ミュージックビデオ風を取り入れようが、スローモーションを取り入れようが、なぜか映画ってめちゃくちゃ器が広いんだよな、ということもたまに感じます。
宮崎:僕は前の映画を編集した時に、ちょっとだけフェードやスローモーションを入れたんです。やっぱりミュージックビデオっぽくなるから避けたかったんですけど、実際入れたのを観たら奇声を発するくらい気持ちがよかったんです(笑)。
三宅:要するに、ナシをアリに変えるってことですね。
ーー映画や映像の表現方法もどんどん広がってきていますもんね。『キックス』はルックも素敵ですよね。たとえ同じ内容でも、海外のロケーションの方がカッコよく見えたりするものですか?
三宅:その感覚、俺は無くなりました。日本のラッパーたちがミュージックビデオを自分たちで、自分たちの街で撮ることも多いですよね。映画のロケハンでは見逃してしまいそうなその辺の街角でめちゃくちゃカッコイイものを撮っているのを見て、「こういう場所もアリなんだな」って思わせてもらっています。
宮崎:そういう意味でも、ヒップホップは映像の可能性もすごく広げてると思うんですよね。これからの時代、ヒップホップは圧倒的になるんじゃないですかね。引き裂かれの中で生きて行くのがたぶんリアルだし、現実的だと思うんですよね。
三宅唱監督
1984年北海道生まれ。主な監督作は『きみの鳥はうたえる』(2018)、『密使と番人』(17)、『THECOCKPIT』(15)、『Playback』(12)、『やくたたず』(10)。他に「無言日記」シリーズ(14~)やビデオインスタレーション「ワールドツアー」(18)などがある。最新作は『ワイルドツアー』(2019年公開予定)。
宮崎大祐監督
「2012年に『夜が終わる場所』でデビュー。以降、故郷神奈川県大和市を舞台にしたヒップホップ映画『大和(カリフォルニア)』、シンガポールを舞台にしたロード・ムービー『TOURISM』などを監督。最新作は大阪のコリアン・タウンで撮られたスリラー『VIDEOPHOBIA』、相模エリアでヒップホップ・カルチャーに身を投じる若者たちを追ったドキュメンタリー『OUT OF JOINT』。
インタビュアー・写真:渡邊玲子
編集:矢部紗耶香
映画『キックス』STORY
カリフォルニア、リッチモンド。15歳の少年ブランドンは背が低く女子にもモテず、いつもボロボロのスニーカーを履いていてバカにされていた。だが、彼のそんな人生も転機を迎える…はずだった。コツコツ貯めたお小遣いで最強のスニーカー“エア ジョーダン1”を手に入れた! 仲間からは羨望の眼差しで見られ、女子からも気にかけられ、これで自分の人生もイケイケになると思っていたブランドン。だが、そんな最高な時間の終わりは瞬時にやってきた。仲間と別れた帰り道、地元のチンピラに襲われスニーカーを盗られてしまう。ブチ切れたブランドンは、友だち二人を巻き込み、命よりも大切なスニーカーを奪い返しに行くことを決心するが…。ギャング、麻薬、銃、そして仲間とスニーカー。カリフォルニアの太陽の下、少年が少しだけ男になる瞬間を描いた、心揺さぶる新時代のフッドムービーが、いま新たに誕生した。
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監督・脚本:ジャスティン・ティッピング
脚本:ジョシュア・ベアーン・ゴールデン キャスト:ジャキング・ギロリー/クリストファー・ジョーダン・ウォーレス『ノトーリアス・B.I.G.』/クリストファー・メイヤー /コフィ・シリボー『ストレイト・アウタ・コンプトン』『セッション』/マハーシャラ・アリ『ムーンライト』『アリータ:バトル・エンジェル』
2016 年/アメリカ/英語/シネマスコープ/87 分/R15+/原題:KICKS
提供:PARCO/SPACE SHOWER NETWORK/B’s INTERNATIONAL
配給:SPACE SHOWER FILMS/ PARCO
宣伝:B’s INTERNATIONAL/REGENTS