『ブエノスアイレス』『花様年華』など、映画史に燦然と輝く傑作を多数撮ってきた世界的撮影監督クリストファー・ドイルとジェニー・シュンの共同監督による『宵闇真珠』(読み:よいやみしんじゅ)が12月15日(土)に公開となります。
この度、公開に伴い来日したジェニー・シュン監督にシネフィルで独占インタビューをいたしました。
ジェニー・シュン監督『宵闇真珠』インタビュー
もともと映画監督を目指していらっしゃったのですか?
最初、子どもの頃作家になりたかったのです、でも作家は孤独な職業なので最初に6,7年前に書いた短編小説をクリストファー・ドイルに見せたところ映画化すればいいじゃないと言われ、誰が監督するのと聞いたところ、「あなたがやれば?」と言われたことがきっかけです。
2年前にカンヌ国際映画祭でクリストファー・ドイルが功労賞を受賞した時に、私がスピーチをしたのですが、『花様年華』を18歳で見た時に、香港をこんなにも美しく映像化していることに感銘を受けたことが、映画へ導かせたきっかけです。
すごく詩的な映像で、特に港町の舞台となる風景も素晴らしかったのですが—
海の近くで育って、いつも家の窓から漁村が見えていました。子どもの時学校の帰りに、カヤックに乗って町の漁村を訪ね洗濯しているおばあさんや漁師さんなどにも挨拶するような環境だったのですが、アメリカの大学から帰ってみるとそこにいた多くの人が移住しており、そのような風景はなくなっていました。
香港は250年前には漁村が多く、当時は独特な方言や歌などもあったのですが、現在失われていくその香港のユニークなアイディンティティを描こうと思いました。
映画での風景は、どのように見つけられたのですか?例えば、二人の出会った海の岩場での白波なども印象に残っていますがー
この世界観は、私が作ったものですが、撮影に使われたのは香港の最古の原風景のある漁村です。
余談ですが、自分の本名は女の子らしい名前ですが、自分でその名前を気に入っていなくて、海で撮影した時に初日は、穏やかだったのですが、二日目の撮影の時、台風が来てその白波が渦巻き、その力強さを見てエンドクレジットでは強い女性の名前に改名しました。
オダギリジョーの配役は?
オダギリさんの役柄が、映画ではアウトサイダーの設定を探していて、香港の役者では無理だと思っていて、ずっといろいろな文献や作品を見ました。また、私とドイルのように、変わった人たちを理解できる人でないと難しいと思っていました。
オダギリさんは、そんな中で、黒沢清監督のの「アカルイミライ」とか鈴木清順監督の『オペレッタ狸御殿』を見て幅広い作品に出演しており、ロックンロールな感性をのち、アーティスティックな人と感じました。同時に彼はミュージッシャンでもあって、国際的な作品にも挑戦しているので、今回の作品に出演をお願いしました。
普通、映画のキャスティングでは、自分のイメージする役柄で性別や年齢が合うかというところから選ぶのですが、私たちにとってはコラボレーションできる人を探しており、そういう意味ではオダギリさんとは映画の長い制作時間の中で一緒に時間を共有でき、コラボレートして学ぶこともありました。
家族は選べないですが、その後の人生では誰と過ごすかは選べるわけです。映画は特に長い時間を一緒に過ごすことで家族を作るように過ごすわけです。
そういう関係もあって、ドイル監督はオダギリさんの初監督作品にも加わっておりますし、私自身もこれから先もご一緒したいと考えています。
エピソードとしては、香港でプレミア上映した時オダギリさんがこの作品を気に入ってくれ、「今後も一緒に仕事をしましょう」と言ってくれてドイルさんがいなくても、認めてもらえたことが、私のような若い監督にとっては、光栄でした。
共同監督なのですが、役割分担はどのようになさったのでしょうか?
役割分担は結構はっきりしていて、ドイルさんが撮影と現場を仕切って 私は俳優に対しての演技の演出や、美術や音楽に指示を出したりするという役割になっていました。
自分にとってベースとなっている音楽では、スタジオジブリの『となりのトトロ』の久石譲さんのノスタルジックなイメージがあります。
この作品は、私としてはトロピカルな熱帯バージョンの“スタジオジブリ”です。
美術や小道具は映画の中でも印象的で、こだわっていると思いますが、どのように選ばれて行ったのでしょうか?
小道具というのはいろいろな意味を持ち、物語の中で台詞では伝えられないところを意味する役割もあります、例えば映画の中では、薬を捨てるシーンは父親に対する反抗という意味であったり、主人公のアンジェラ・ユンが演じる女の子が、お母さんが不在の中、母親の服などに愛着を持つのもそういう意味を持ちます。帽子などは私の持ち物ですが--(笑い)
日本の文化から影響を受けたものがあったら教えてください
日本でいつか映画を作りたいと思っています。
映画では小津安二郎や、スタジオジブリはもちろんですが、大学院で、東アジアを勉強して谷崎潤一郎の日本文学や日本の絵画、東洋の美意識を学びました。
昨日は、根津美術館で光琳の屏風を見に行きましたよ〜。
奈良美智のパンクなアートも好きですし—もちろんお寿司も--。
今後、日本では、可能なら村上春樹の原作から撮りたいと思っています。
このような様々な日本からの影響は、おそらく、日本がアジアで最初に西欧化した文明であるというところから、アジアの近代化の礎となったというところが大きいと思います。
今後の映画の企画がありましたら教えてください
次の企画はチェコの1960年代の名作「ひなぎく」のリメイクを企画しています。
もう脚本は出来上がっていて、私自身が監督をして、ドイルさんが撮影をします。
今後の香港に対するメッセージは?
この映画でも都市計画などで取り壊されて行く現実もありますが自分の生まれ育ったところがなくなって消えて行くのは辛いことです。守りたいという想いはありますが
昨日、豊洲に移転してしまった築地に行きましたが、市場は無くなってしまいましたが、その周辺のコミュニティは残されていて、エネルギーは残るものだということを実感しました。
同じように、住んでいる場所は変わっていったとしてもその場所にあった、エネルギーは残り、香港がなくなっていったとしてもその場所のエッセンスは残るものだと信じています。
『宵闇真珠』予告編
<STORY>
陽に当たることのできない少女、どこからともなくやってきた異邦の男。
それは、本当の居場所、本当の自分に気づかせてくれた唯一無二の出会い。
香港最後の漁村、珠(じゅ)明(めい)村。幼少時から日光にあたるとやせ細って死んでしまう病気だと言い聞かせられ、太陽から肌を隠して生活する16歳の少女は、透き通るような白い肌の持ち主。村人たちからは「幽霊」と呼ばれ、気味悪がられている。日没後、肌を露出し、お気に入りの音楽をお気に入りの場所で楽しむことが、少女にとって唯一孤独を癒やす手段だった。ある日、どこからともなくやってきた異邦の男と出会った少女は、今まで知ることのなかった自身のルーツに触れていくことになるのだが・・・・
出演:オダギリジョー アンジェラ・ユン
監督:ジェニー・シュン
監督&撮影:クリストファー・ドイル(『エンドレス・ポエトリー』)
原題:白色女孩 英題:THE WHITE GIRL/2017年/香港・マレーシア・日本/広東語・北京語・英語・日本語/日本語字幕:神部明世/97分/カラー/ビスタ/5.1ch/映倫G/
配給:キノフィルムズ/木下グループ
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