映画『銃』武正晴監督&村上虹郎さんインタビュー
『銃』って、どのジャンルにも当てはまらない作品なんです。
まさに原作者の「中村文則」そのものだから。
映画『百円の恋』(’14)で映画界を振るわせ、その後も数々の作品を撮り続けている武正晴監督と、『2つ目の窓』(’14)で映画デビュー後、数々の作品に出演し日本映画の新たな地平を開き続けている村上虹郎さん。ベストセラー作家、中村文則さんの処女小説「銃」の実写映画化に挑んだお二人に、映画『銃』を通して感じたこと、映画作りの面白味や撮影秘話を聞いた。
――本作はデジタルでモノクロ撮影されていますが、出来ることならフィルムで撮りたかったという想いもありますか?
武:僕はもともとフィルム育ちなので、やっぱりフィルムでやりたいですよ。
村上:僕、フィルムの本編撮影に出会ったことがないんです。ロールチェンジを待ってみたかったです。
――とはいえ本作には、デジタルならではの効果や、モノクロである必然性があります。監督が原作を読んでモノクロの世界をイメージされたのはなぜですか?
武:直感的にモノクロでやりたいと思いましたね。むしろ「銃を撃ったあとに世界が変わった」というのをどうやって表現したらいいのか、というのは後追いで。
――本作における村上淳さん、虹郎さんの親子共演は見どころの一つですよね。役者といえども、実の父親に銃口を突き付ける経験は滅多に無いと思うのですが。
村上:最低で、最高ですよね(笑)。
武:この親子だったらシャレが通じるかもしれない、という発想からですよ。誰にでもオファーできるわけではないですからね。
村上:いや、どちらかというと、あの「父親」だからですけどね(笑)。
――村上さんはこの配役を聞いた時、どう思われたんですか?
村上:実はあの役、キャスティングが難航していたらしく、「ついに決まりましたよ!」「誰ですか?」「村上淳さんです!」と言われて、「お~!」となったんです(笑)。僕にとっては、自分の想像を唯一越えてくる俳優がムラジュンさんだったわけです。
武:僕は(村上)淳さんとは助監督時代から付き合いがあったし、純粋にこの役柄に合っているとも思ったんです。しかもこれは普通のキャスティングとは違って、演出的にも妙なことが起きるんじゃないかなという期待感と、俳優としての安心感もあったので。それでいざ蓋を開けてみたら、こちらが思っていた以上のことが起きた。
村上:ふふふ(笑)。
武:ラストの電車のシーンというのは、この映画にとっても非常に肝になる部分だし、クライマックスなわけですよ。
村上:唯一あの日だけ、武監督も現場で大きい声を出していましたもんね。
武:時間も限られているし、撮影的にもすごく難しい状況だったんです。普通なら「電車の中で人を撃ってもいいの?」となるところを、鉄道会社さんもニコニコしながら「どうぞ~!」って協力していただいたので、そういう方たちに対してもちゃんと報いたいという思いもあって。キャストもスタッフも本当に頑張ってくれました。
――監督はこのシーンを撮影されていかがでした?
武:村上淳さんのことは彼がデビューした時から知っていますが、「本当にいい俳優になったな」と感じました。現場の若いスタッフや俳優に対して、言葉じゃなくて身をもって示せるというか。「あ、今日はいい現場だな」と思わせてくれるから。「その人が居るだけで現場のクオリティが上がる」というのはこういうことだと教えてくれた。俳優たちが協力し合って、良い対決の場面を作り上げていく場面が見れたんです。僕らが横で準備をしている最中も、血まみれにもかかわらず、気持ちを高ぶらせている役者がそばに居る。「俺たちはそれを撮らなきゃいけないんだ」という気にさせてくれたんです。
――トオルが銃を磨くときにかかる音楽は、撮影の前に完成していて、実際にその曲を流しながら撮影されたそうですね。なぜ今回そのような演出をされたのでしょうか。
武:音楽に関してはなるべく劇伴を使わない方向で行こうと決めていたんです。「彼が一人で部屋に居る時は音楽くらい聴くだろう」「それが映画のテーマ音楽になったら面白い」と海田(庄吾)さんと話していて。物語の後半になるにつれ、彼の心情とともに音楽も狂っていくんです。そもそも、虹郎はあの部屋に本当に住んでいましたからね。
村上:お風呂が壊れていたから、3駅隣の銭湯まで通っていたんです。
武:毎朝「撮影に来ました」って皆で部屋に訪ねていって。
村上:「いらっしゃいませ」って出迎えて。スタッフさんがちょっと臭う足で僕のベッドに乗るんです。それが本当に嫌で。「後でちゃんとシーツ変えてくれますか?」って(笑)。
――トオルは銃を持ったことで「全能感」を得たような気がします。「演じる」手段を手に入れている役者も、どこかそれに近い感覚があったりするものなのでしょうか。
村上:残念ながら僕らにそんな特殊能力は備わっていないです(笑)。もっと地道なことをやっています。もちろん「演じる」ことには価値があると思いますが、現場で沢山の人たちがアゲてくれないと、お芝居だけでは何も伝わらないんです。そういう意味では「銃」とは真逆なような気がしますね。
――なるほど。映画の現場は、みんなで作り上げていくということですね。
武:皆それぞれ役割があって、自分たちだけでは出来ないものを互いに補いながらやっているんです。それらが全部噛み合ったときに、映画が面白くなるんですよ。
――今回、奥山プロデューサーに監督として指名されて感じたこととは?
武:この小説を映画化することの難しさと、キャスティングの面白さ、そしてモノクロでやるというチャレンジ。奥山さんは我々にある程度自由にやらせてくれたけど、結局それは『銃』という作品を映画化しようという奥山さんの企みが生んだことでもある。普通はなかなかやらないからね。そこが奥山さんらしいところでもあるんだけれど。
村上:『銃』って、どのジャンルにも当てはまらない作品なんです。まさに原作者の「中村文則」そのものだから。
――確かに、「銃」は中村さんが作家としてデビューする前に書かれた小説ですし、部屋で銃を磨いているトオルの姿にご自身を投影しているところもありそうですね。
村上:中村さんも「何か自分の本質が映っているかもしれないと思う。だから僕はこの小説が好き」と表現されていて。
武:まだ何者でもなかった人が書いた小説というのは貴重ですよね。彼も映画を観て「青春だなぁ」と言っていましたよ。実際に西高島平の駅前から、喫茶店から、全部彼が当時生活していた場所で撮ったわけだから。
村上:しかも、武監督と中村さんは偶然実家も近いという縁もある。
武:隣の小学校出身だと聞いて驚きました。
村上:そういう意味では、僕の知らないトオルを監督が補ってくれた部分もあるんです。だから、現場にはトオルが2人いたんですよ。
――監督が主人公とシンクロしてしまった、と。
武:そう。だからすごく感動しちゃうわけ。
村上:撮影中監督が「俺は中学生の時に観た『タクシードライバー』(’76)の呪縛から未だに抜け出せないでいたけど、今日ついに抜け出せたかもしれない」と話していて。しかも、トオルの部屋のテレビの前に『タクシードライバー』のDVDが置いてあって。僕もクランクインする前に偶然観たばかりだったんです。
――『銃』は皆さんの原点を引き寄せた作品とも言えそうですね。親子共演しかり、原作者と監督の縁しかり、『タクシードライバー』しかり。
武:それこそが奥山さんが名プロデューサーたる所以ですよ。不思議な力があるんです。
武正晴監督
1967年生まれ、愛知県出身。短編映画『夏美のなついちばんきれいな夕日』(06)の後、『ボーイ・ミーツ・プサン』(07)で長編映画デビュー。『カフェ代官山~Sweet Boys~』(08)、『カフェ代官山II
~夢の続き~』(08)、『花婿は18歳』(09)、『カフェ・ソウル』(09)、『EDEN』(12)、『モンゴル野球青春記』(13)、『イン・ザ・ヒーロー』(14)、『百円の恋』(14)、『リングサイド・ストーリー』(17)、『嘘八百』(18)など。『百円の恋』では、日本アカデミー賞をはじめ数々の映画賞受賞により話題を集め、第88回アカデミー賞外国語映画賞の日本代表作品としてもエントリーされるなど大きな反響を呼んだ。新作『きばいやんせ!私』は来年公開予定。
村上虹郎
1997年生まれ、東京都出身。カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品『2つ目の窓』(14/河瀨直美監督)で主演を務め、俳優デビュー。主な出演作に、映画『ディストラクション・ベイビーズ』(16/真利子哲也監督)、TBSドラマ「仰げば尊し」、舞台「シブヤから遠く離れて」など。17年に公開された映画『武曲MUKOKU』(熊切和嘉監督)で第41回日本アカデミー賞優秀助演男優賞など受賞。最近の出演作に、TBSドラマ「この世界の片隅に」、声優として出演した映画『犬ヶ島』(18/ウェス・アンダーソン監督)、『ハナレイ・ベイ』(18/松永大司監督)がある。来年1月には映画『チワワちゃん』(二宮健監督)が公開、5月には舞台『ハムレット』が上演予定。
お二人の対談は、12月に発売するシネフィルブックvol.2で、より深い内容をご紹介いたします!
インタビュー・文&写真:渡邊玲子
編集:矢部紗耶香
◉村上虹郎さん
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『銃』予告
映画『銃』あらすじ
雨が降りしきる河原で、思いがけず拳銃を拾った大学生の西川トオル。普段は、友人たちと青春を謳歌しているが、その内には魅了された銃への高揚を秘めていた。トオルは、大切に家に保管していた銃を持ち歩いてみることにした。さらに緊張とスリルが増し、彼を満足させた。同じ大学のヨシカワユウコにも興味があるが、やがて銃は彼のなかで圧倒的な存在感を占めていく。そして、突然の刑事の訪問。「次は、人間を撃ちたいと思っているんでしょう?」次第に精神を追いつめられていくトオルは、あることを決意するが――。
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