世界に誇る日本の巨匠で、今もなお国内外で高い評価と支持を得ている小津安二郎。
生誕 115 年にあたる今年、 4Kデジタル修復版特集上映「小津4K 巨匠が見つめた7つの家族」が、6 月 24 日(土)より角川シネマ新宿にて始まりました。
これを記念しまして、2月のベルリン国際映画祭にて4Kデジタル修復版でワールドプレミア上映された『東京暮色』ご出演の有馬稲子さんのトークショーが行われました。
今もなお、哀愁のある美貌が漂った有馬さんが、小津監督との撮影秘話や、豪華共演者との思い出など、ここで しか聞くことのできない大変貴重な、ユーモアに溢れた話をじっくりお話いただきました。
【日時】2018年6月24日 10:00『東京暮色』上映終了後
【場所】角川シネマ新宿
【登壇者】有馬稲子(女優)、樋口尚文(映画評論家・映画監督)
『東京暮色』の有馬さんってとってもいいですね
上映後の余韻冷めやらぬ中、満席の客席から溢れんばかりの拍手で女優の有馬稲子さんが登壇。
『東京暮色』4K デジタル修復版を昨日再度見たという有馬さんは、まず「この有馬さんはいいですね」とご自分のことを話し、会場をどっとわかせた。
「演技をしていない。あの当時だからこその<清純さ><純潔さ>と いう感じが自然と出ていた。」と振り返る。でもあれだけ純粋だからこそ男に振り回されたり思わず妊娠してしまったんだろう」とご自分の役を客観的に解説し、当時のセリフをトレースしたりとサービス満点だった。
また、「4K」についても「光の陰影に深みが出て、濃淡がはっきりとし、とっても綺麗でした。小津さんにも見せたら喜ぶね。」と絶賛した。
素晴らしい共演者たちに囲まれた
「小津さんのキャスティングのうまさにつくづく感心しますね。」という有馬さんは、共演者たちとの思い出を細かく話した。
「脇を固める人たちも含めて役者がみんないい。まず笠智衆さんのことは大好きで、あんなお父さんがいたらなとずっと思うくらい。高橋貞二ちゃんはのらくら、でたらめさのある芝居が本当にうまかった。 いい加減な男をやらせるとピカ1であんな人が実際にいたんです。」と笑いを誘い、原節子さんについては「当初はもっとたくさんのシーンに出ればいいのにと思っていたが、改めて見ると隅々で活躍していたんです。深夜の警察でのシーン、コートを着てショールをしてマスクをした原さんがとっても綺麗、こんなに綺麗な人見たことないと思うくらい素敵で 4K だとなおさら綺麗でした。」と感動した。
「杉村春子さんのおばちゃん役もとってもいい。おっちょこちょいなあの感じが本当にうまいんですね。山田五十鈴さんは、特にラストシーン、人を探している目がキョロキョロせずにじーっと見ている。その目がとても印象的。あのシーンはノーメイクで臨み、 傷んだ肌も出した、その役者根性が本当にすごい。」そう共演者たちの演技に改めて感激しつつ、「うまい人に囲まれていたから演技ができたんですね、当時何も知らないことが活かされた。この映画が大好き。昔からある日本らしい家庭が笠智衆さんを中心にカチッとできている。小津さんの作る家族という名の建造物が大好きだから 小津さんの作る映画が大好きなんです。」と笑みをこぼした。
小津安二郎監督との撮影&プライベート秘話
「実は当時は小津先生が偉い人だってことは知らなかったんです。小津組の撮影が終わってから名匠だということを知ったから次の『彼岸花』に出演した時は緊張で上がってしまったんです。」と小津監督との思い出を語った。
「撮影現場で、17 時頃になると小津さんは時計をちらちら見出すんです。早くお酒を飲みたいんですね。そうすると「すき焼き食べる?」なんて誘ってもらってよくご馳走になったんです。」と何度も一緒にご飯を食べ たことを思い出した。
演出についての思い出を聞かれると「テーブルの上に並べられた小道具を全部直すんです、 ローアングルからレンズをのぞき込んで「3cm 大船へ、4cm 鎌倉へ」と言って位置を完璧に直し切ってから撮影に入った。小津さんの映画はとても絵画的に作っていたんですね。」と話し、また小津作品のセリフは短いことを指摘し 、「 すごい難しい。「 行くの 」というセリフだけでも何度も言い直させられたんです。でも小津さんがお手本として言うのがものすごく上手くてとても真似できなかったです。」と会場からも「へー」という声が上がった。
有馬さんは鎌倉の小津監督の家に遊びに行ったことがあるようで「いつもチャコールグレーのスーツを着ている小津監督に「この服しか持っていないのかな」と思っていたら、家に遊びに行った時、押入れが空いていたから覗くとチャコールグレーのスーツがバーッと10 着くらい並んでいたんです。」と会場を沸かした。
本当にいい人でした。
「いつもキネマ旬報で 1 位とか 2 位を獲っていた小津監督作品だったんですが、この『東京暮色』は当時 19 位。小津監督は残念がっていたが、でも今年ベルリン映画祭で上映されてヴィム・ベンダース監督と坂本龍一さんがトークショーを開催するなど、今また再評価されているんです。」と樋口さんから昨今の再評価について語られた。
有馬さんは「映画は白黑が好き、モノクロ映画特有の陰影や濃淡がいいんです、そう考えると小津さんというのはやっぱり大監督ですね。」と賞賛を送った。
「小津作品には 2 作品しか出ていないので、もうちょっと松竹に在籍していたら他にも小津作品に出られたかもしれない。」とちょっと後悔しつつも「本当にいい人、 いい監督でした!」と締めくくった。
日本そして世界の映画史に燦然と輝く 7 つの名作たちー
『晩春』
『麥秋』
『お茶漬の味』
『東京物語』
『早春』
『東京暮色』
『浮草』