Dentsu Entertainment USAへ
7回目となる今回は、電通の米国100%子会社であるDentsu Entertainment USA, Inc.(電通エンタテインメントUSA、以下DEUSA)の社長の木野下有市(きのした ゆういち)さんにお話を聞いてきました。電通はご存知の通り、広告業界日本トップの大企業。DEUSAはロサンゼルスを拠点とし、エンターテインメント領域でのコンテンツビジネスを展開しています。
木野下さんの略歴
木野下さんは大学卒業後、電通に入社し大手飲料・製薬メーカーの広告キャンペーン等を担当。その後2008年より、ギャガ会長・依田巽氏の寄付で設立されたAFI (米国映画協会)の奨学金を受け、同協会の教育機関であるAFI Conservatoryにて映画プロデュースを専攻しMFA(芸術学修士)を取得されます。卒業後は電通に戻りコンテンツの企画や投資、プロデュースに携われた後、2014年よりDEUSAの社長に就任しています。
この連載では木野下さん含めて4人の日本人の方にこれまでインタビューさせて頂いてきましたが、見事に皆さんMFAホルダー。ただのんびりとロサンゼルスに滞在している私からするとその努力量が眩しいです。例えばこちらのサイトをご参照頂くと、如何にフィルムスクールへの留学がハードな選択かというのがお分かり頂けるかと思います。
木野下さんはAFI留学時代、東洋経済ONLINEで《ハリウッド・フィルムスクール研修記》というタイトルで連載をされていましたのでご紹介させて頂きます。フィルムスクール留学を検討している方にとって、とても参考になる内容だと思います。
ベアブリックとロックマン
DEUSAでは、日本のIP(知的財産)をアメリカでコンテンツ化して世界に展開するという事業を行っており、現在は「BE@RBRICK(ベアブリック)」と「ロックマン(海外名称は「MEGA MAN」)」のコンテンツ開発が進行中です。
ベアブリックとは、「デジタルなイメージのテディベアを作る」というコンセプトを基にメディコム・トイが開発したクマ型のフィギュア。9つに分かれる本体のパーツ以外には何も付け加えず「プリントだけでデザインする」というルールで作られており、これまで数多くのアーティストやブランド、企業、キャラクターなどとコラボし数千種類のアイテムが作られています。デザインフォーマットが価値の中心であり、珍しい付加価値の生み出し方をしているブランドではないかと思います。
アメリカではそこまで広く認知されている訳ではないそうですが、Pharrell Williamsが設立したレコードレーベル・アパレルブランド「i am OTHER」とのコラボによるベアブリックが2016年に発売されるなど、トレンドセッターによる紹介でハイエンドカルチャーなトイとして認知されているそうです。
そんなベアブリックは、ドリームワークス・アニメーション・テレビジョン(以下ドリームワークス)と企画開発が進められています。ドリームワークスには、ベアブリックと同じくストーリーの原作を持たない玩具のトロール人形を基にしたアニメ「トロールズ」をヒットさせた前例があり、ベアブリックに関してもこれからどんな世界観が形作られるのか楽しみです。残念ながらこちらはまだ発表できる情報が乏しいとの事。
ヒットクリエイター集団Man of Actionがロックマンの新作アニメ制作に参加
ロックマンは2017年に30周年を迎えたカプコンの人気ゲーム。これまでに約3100万本の販売実績があり、過去に日本で制作されたテレビアニメシリーズと併せて世界的な認知を得ています。DEUSAがロックマンの新作アニメ制作に向けて最初に行ったのは、Man of Actionをクリエイティブパートナーとして迎える事でした。
Man of Actionは、アメリカにおいて“ショーランナー”と言われる役割を担う4人組のクリエイター集団。この肩書きはまさに北米独自の慣習ですね。日本ではそうしたポジションはありません。
1シーズンの話数が多く、かつ複数シーズンに渡っての放送を見据えるテレビドラマやテレビアニメにおいて、その全体の世界観やストーリーの構築にはクリエイティブの確固とした基盤と緻密な計算が求められます。そこの土台を担い、クリエイティブの総責任者としての立ち位置にあたるのがショーランナーです。
クレジットにはショーランナーという記載はなく、エグゼクティブプロデューサーと記載される事が多いそうです。但し、エグゼクティブプロデューサーと記載されている人が皆ショーランナーという訳ではないのでご注意を。
アメリカにおけるショーランナーの動向について、一つ面白い記事を見つけたのでリンクにてご紹介させて頂きます。アメリカのトップランカーはこんなに儲かるのですね…。
Man of Actionは4人ともコミックライターの出自で、近年は「ベイマックス」のコンセプトメイクや、テレビアニメ版「スパイダーマン」「アベンジャーズ」のショーランナーを務めています。
彼らの指揮のもと、ロックマンの新作アニメに向けての世界観やストーリー構成、キャラクターのデザインや設定等が作られ、それがいわゆる企画パッケージになっています。今回のアニメにおけるロックマンのビジュアルがこちら。
DEUSAとMan of Actionの企画開発中に、カナダのキッズエンターテインメントの大手メディア企業であるDHX Mediaがプロジェクトに参画し、プロダクションやディストリビューション機能も持つ同社と共同でアニメーション制作と番組販売を行う事になりました。DHX Mediaは、昨年約390億円をかけて「スヌーピー」の権利を取得した事で日本でも知られる会社です。
その後、アメリカのキッズ向け放送局大手であるカートゥーン・ネットワークでの放送が決まった事から実制作がスタート。現在着々と制作は進んでいるとの事。放送以外にも、アメリカの大手玩具メーカーのJAKKS Pacific社による玩具化が既に決定しています。
日本で制作されたアニメが海外に輸出される例は数多くあれど、このように日本のIPが北米でアニメ制作される例は特殊かと思います。よくよく遡ると色々と例はあるのだと思いますが、ぱっと思いつくのは「トランスフォーマー」の一部のテレビアニメと「ATOM(2009年公開の鉄腕アトム原作のアニメ映画)」位でしょうか。
DEUSAはプロジェクトの大元としてのポジションで、クリエイティブやアニメーション制作等の各専門実務はそれぞれのパートナーに担わせ、全体の統括を行っているとの事。Man of ActionとDHX Mediaを巻き込んだビジネス嗅覚と実現力が素晴らしいなと感じました。
今後のDEUSA
まずは現在進めているプロジェクトを成功・継続・発展させ、今後は日本のIPの実写化も手掛けたいと木野下さんは語ります。電通グループにとっても、広告業が事業の核である中、このように新しい価値を創出し世界マーケットでコンテンツビジネスを行う本事業は注目されているジャンルなのだそうです。
映像製作の企画を実現するのには多大な労力がかかります。
原作がある場合は原作者が映像化を了承してくれるか、誰のどういう資金を使って制作するのか、どうやって監督や脚本を決めるのか、完成した映像コンテンツはどこで放送/公開するのか、どのようにそのコンテンツを使って稼ぐのか。
先人達の、うまくいった例、うまくいかなかった例は市場に溢れています。ですが共通して言えるのは、どこにも絶対公式が存在しないという事です。さらには、うまくいくかどうか以前に、多くの企画が実現しない(世に生み出されない) まま立ち消えてしまいます。
今回伺った中で特にロックマンの企画開発経緯や現在のステータスから、DEUSAには企画を実現する力が高い次元で備わっていると感じました。同社の今後の企画にも注目していきたいと思います。
近況と次回予告
前回記事の近況にて少し触れておりました某映画ですが、その後情報解禁を行いました。
「いつか輝いていた彼女は」というMOOSIC LAB2018参加作品として制作されている映画です。アメリカから遠隔で脚本にああだこうだ言ったり宣伝の資料作りを手伝ったりしているだけのポジションですが、小規模な作品という事もありプロデューサーとしてクレジットさせて頂いています。
主演はミスiD2018の小倉青さん。印象的な眼差しを持ってらっしゃる方です。11月に公開になりますのでお楽しみに。
本作はクラウドファンディングを実施する予定でして、もし気になった方はご支援頂けると有難く存じます。映画概要およびクラウドファンディングの詳細は下記にございます。
次回のネタは現在リサーチ中です(再び)。。
和田有啓
1983年神奈川県横浜市生まれ。
スポーツ取材の会社からキャリアをスタートさせ、芸能プロダクション、広告会社、コンテンツ製作会社を経て現在フリーでアメリカ・カリフォルニア州ロサンゼルスに滞在中。
プロデューサーとして参加した⾃主制作映画「くらげくん」の第32回ぴあフィルムフェスティバル準グランプリ受賞をきっかけに、2010年にUNIJAPAN HUMAN RESOURSES DEVELOPMENT PROJECT、2011年に JAPAN国際コンテンツフェスティバル/コ・フェスタPAOにプロデューサーとして参加して各プロジェクトの短編映画を制作。
近年は映画「たまこちゃんとコックボー」「天才バカヴォン〜蘇るフランダースの⽝〜」「⼥⼦⾼」「サブイボマスク」「古都」「はらはらなのか。」「笑う招き猫」などの作品で製作委員会の組成やプロデュース、配給、宣伝などを行い、インディペンデント映画業界でのキャリアを築く。