早見和真の同名小説を新鋭・廣原暁監督が映画化した青春ロードムービー『ポンチョに夜明けの風はらませて』が、10/28(土)より公開となります。
公開に先駆けて、シネマカリテで開催中の「カリコレ2017」にて本作の特別上映&廣原暁監督×黒沢清監督によるトークイベントを実施致しました。
大学在学中に制作した『世界グッドモーニング!!』で、ぴあフィルムフェスティバル審査員特別賞、第29回バンクーバー国際映画祭ドラゴン&タイガー・ヤングシネマ・アワード グランプリを受賞し、世界が注目する若手監督、廣原暁。
東京藝術大学院の入試時に提出された同作を観て廣原監督の合格を決めた、最新作『散歩する侵略者』が早くも世界中で話題の日本を代表する黒沢清監督。
廣原監督『ポンチョに夜明けの風はらませて』の公開を記念して、恩師と教え子によるトークイベントが実現!「『世界グッドモーニング!!』を観た瞬間、“これはすごい人が現れた!”と、文句なく入学してもらいました」と、廣原監督の才能に太鼓判を押す黒沢監督。
教え子の最新作について、「ただの青春映画じゃない。キャストに誰1人高校生がいない。だからこそ痛ましい、悲壮な、ただならぬ緊張感がある。2度3度観て頂ければ!」と絶賛!
本イベントのレポートをお送りします。
カリコレ2017『ポンチョに夜明けの風はらませて』
黒沢清監督×廣原暁監督トークイベント
■日時:8月12日(土)14:05〜
■会場:新宿シネマカリテ(新宿区新宿3-37-12 新宿NOWAビルB1F)
■トークイベント登壇者:廣原暁監督、黒沢清監督
黒沢:今日は廣原監督が東京藝大院の時に、僕が先生として付き合っていた縁で来ました。今、2回目の『ポンチョに夜明けの風はらませて』を見ましたが、違う印象。見るたびに違う印象の映画なので、そこを聞いていきたいと思います。
1回目はバカなことを最後までやり通す典型的な青春映画だと思ったけれど、今日は「青春映画でもないな」と思いました。物語は「青春映画風」なんですが、最初からこの人たちに帰る場所はない。彼らは社会からドロップアウトして行く人たち。そういう一種の溌剌とした青春というより、ニヒリスティックな不吉な気配のする映画だな、と。そう思う最大の理由はキャスティング。誰1人高校生いないもん。みんな高校生を越えた人たちだから、不吉な予感がする。全員が学生を卒業していて、背負ってるものが社会そのもの。3人プラス1人のいい歳した大人が高校生の気分に戻って、社会を背にしてどこかに突っ走って行く。痛ましい、悲壮な、だからこそただならぬ緊張感がある。この年齢の俳優をキャスティングした理由は?
廣原:最初からリアルな高校生は想定していなかったんです。リアルだと自然な映画になってしまうというか、初めから自然さには興味がなく、最後のエキストラも含めて、リアルな高校生を出さない形で進めました。
黒沢:高校を舞台にした作品はたくさんある中で、真っ向から違えた狙いは?
廣原:すごいフィクションがやりたかったというのもありました。体が動かせる人、演出的に大きく芝居をしてもらったり…リアルな高校生ってこうだよな、というのとは違うベクトルでやりたかったんです。
黒沢:前半はバカバカしいことを、やりたい放題にただやっていく。中盤の海に辿り着いてから、やってることは変わらないのに、社会からドロップアウトする方向にガラリと変わる。前半と後半のタッチの違いはどの段階で考えたんですか?
廣原:特別なことを考えたわけではないのですが、撮影準備している段階で、海の夜のシーンが「明日世界が終わるかもしれない」みたいなシーンにしたくなったんです。言葉にすると恥ずかしいんですが(笑)。
黒沢:考え過ぎだと思うんですが、三角の東映マークから始まって、竹内力さん(プロデューサー)の名前も出てくる。趣味的なことを言うと、東映には70年代前半に山城新伍が平気で高校生で出てくるめちゃくちゃな青春モノ、青春モノという名を借りて大人がめちゃくちゃやってやろうという『不良番長』シリーズなどがあったんですが、意識しました?
廣原:最初は『トラック野郎』とか意識していました。鈴木則文監督のぶっ飛んだ印象、いうか…
黒沢:くだらない下ネタとかね(笑)。こういう作品を廣原の最新作で、こういうキャスティングで、急に70年代の東映が出てくるのはやや驚きでした。海を挟んだ後半。もう取り返しがつかない感じが出てくると相米慎二監督を感じるのですが、意識した?
(※実際に本作の製作に入っているのは「東映ビデオ」です)
廣原:狙ってはいなかったのですが、撮影の時に薄々そうなる気はしていました。『台風クラブ』の話に向かっていったというか。
黒沢:相米監督はティーンネイジャーを使ってめちゃくちゃやってたんですが、前半の東映タッチから相米タッチになる。
廣原:色々な映画を参考にしました。例えば、群像劇でロバート・アルトマンが好きで、なるべく人がたくさん…
黒沢:そんなに多くないけどね(笑) 俳優については?
廣原:太賀くんのお芝居はすごく明確。セリフも聞き取りやすくて気持ちいい。僕の勝手なイメージで、太賀くんって時代からずれてるものを持ってるような気がして、そんな良さを出せたらいいなってキャスティングしました。確か太賀くんに『トラック野郎』を見てくれと言ったような気がします。
黒沢:ムチャクチャな指示ですね(笑)確信犯で『トラック野郎』なんですね。女性も強烈なお二人が出てくる。男たち以上にムチャクチャした挙句、ちゃっかりした役ですが、この2人は?
廣原:本当は、女性陣が一番不安でした。男性陣は色々説明できるし見せ場もあるけど、女性は「なんでここで喧嘩になるんですか」って聞かれても説明できるか不安だったんです。でも、二人とも前向きに捉えてくれました。
黒沢:「理由はわからないけど、めちゃくちゃやればいいですね?」と。
他に『トラック野郎』だったのかと思うのは、人間以上に車が強烈なキャラクター。車のフロントガラスを叩き割るのはたやすくなくて、そうなった車は絶対に一般の道を走れない。スタートしたばかりで叩き割るのは、撮影の事情から言っても相当大胆なこと。よくやりましたね
廣原:あまり法律を考えてなかったというのがあるんですが(笑)法律には確か、フロントガラスが割れた車で走っちゃいけないとはないと思いますけど…
黒沢:絶対だめでしょ!本来フロントガラスがあるべき車は、割れていると走れないですよ!
廣原:公道は走ってません
黒沢:制作部が止めたんでしょう(笑)実際に割るのは大変だったのでは?
廣原:簡単に割れないんですよね。ヒビは入るけど、気持ちよくパーンと行かない。そのおかげで何回も殴れましたが。最後はスタッフが鉄パイプで叩きまくってました。
MC:最後に映画の見どころをお願いします。
黒沢:最初に申し上げましたが、単なる青春映画のようでいて、色々に見える不思議な作品。一人一人感想が違うと思います。どんな映画なのか、言葉で伝えるのは難しいですが、2度3度観て、色々と話し合って頂けると。観れば観るほど味わいが出てくる深い作品です。
廣原:俳優が魅力的に写っていると思ってます。色々な方に紹介して頂けたら嬉しいです。
『ポンチョに夜明けの風はらませて』予告編
<STORY>
将来に希望を見出せないまま、ただ何となく日々を過ごしていた高校生の又八(太賀)、ジン(中村蒼)、ジャンボ(矢本悠馬)。卒業を間近に控え、又八だけが進路を決められずにいた。“ありふれた日常から抜け出したい”と、ジャンボの父親の愛車セルシオを拝借して海に向かう3人。途中で凶暴なグラビアアイドルの愛(佐津川愛美)、風俗嬢のマリア(阿部純子)も加わり、ハチャメチャな旅を続ける。一方、3人に置いてけぼりをくらった中田(染谷将太)は、又八と約束した卒業ライブに向けて1人、ギターの練習に明け暮れていた――。
出演:太賀 中村蒼 矢本悠馬 染谷将太 佐津川愛美 阿部純子 / 角田晃広(東京03) / 佐藤二朗 西田尚美
原作:早見和真 「ポンチョに夜明けの風はらませて」(祥伝社刊)
監督:廣原暁
脚本:大浦光太 廣原暁
主題歌:忘れらんねえよ「明日とかどうでもいい」(Bandwagon/UNIVERSAL MUSIC LLC)
製作:「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会
企画・制作:RIKIプロジェクト
配給・宣伝:ショウゲート
©2017「ポンチョに夜明けの風はらませて」製作委員会