宗教団体、ネグレクト、少年犯罪、性産業など大人に翻弄される地方都市の若者たちを、実話をベースに描いた内田英治監督のブラックコメディ『獣道』が話題を集めている。
内田英治監督のヒット作となる前作『下衆の愛』を上回る公開スタートとなり、すでに1週間の公開延長も決定した。
また、海外での評判も高く世界の映画祭では、カナダのファンタジア映画祭、ニューヨークアジアン映画祭など北米で評判となり、9月からはヨーロッパでの映画祭上映がスタートするという。
この度、シネフィルに映画活動家 松崎まこと氏から『獣道』に寄せる原稿が到着しました!
シネコンでは観られない、濃厚インディーズ作品『獣道』を、
シネマート新宿で、目撃せよ!
内田英治監督の最新作『獣道』が、今月15日よりシネマート新宿でレイトショー公開中だ。
昨年の『下衆の愛』に続き、内田監督がイギリス人プロデューサーのアダム・トレルと組んだ作品だが、クリーンヒットとなった前作の動員を超える勢いを見せている。シネマート新宿・宮森覚太氏は言う。
「300席超のスクリーン1が、連夜、面白い映画を貪欲に求めている敏感なお客様で、溢れています。これこそ日本インディーズ映画の醍醐味だと思う。オリジナル脚本の作品がここまで指示されることは、とても嬉しいしとにかく最高です。まだまだ多くの方に観て欲しい作品です!」
上映期間もさっそく1週間の延長が決定したという。
『獣道』は地方都市を舞台に、周囲に翻弄されながらも生きる場所を探す若い男女の姿を描いたブラックコメディである。信仰ジャンキーの母親に宗教施設に入れられたことを皮切りに、ヤンキー一家やサラリーマン家庭などを転々とし、やがては風俗の世界に身を落とすヒロイン役は、伊藤沙莉。そんな彼女に恋する不良少年を、須賀健太が演じている。
伊藤、須賀共に、子役出身の殻を破る鮮烈な演技を見せるが、同時に注目したいのが、主役の2人を盛り立てる若手助演陣。アントニー、吉村界人、韓英恵、冨手麻妙、松本花奈、川上奈々美、毎熊克也等々、それぞれが活動するベースを、“お笑い”“AV”“インディーズ映画”などに持つ個性的な面々が、内田監督の期待に応え、リミッターを外した演技を見せる。今どきの大手映画会社が製作・配給する商業映画では取り上げない、濃密な内容をこれまた濃密な面々で奏でる。
そんな作品が観客を順調に集めているのは、「シネマート新宿」という劇場の特性抜きでは、語れまい。大型シネコンが3館存在する新宿地区では、それ以外の“単館系”映画館は、「ここでしか観られない」「ここだからこそ観られる」番組編成を余儀なくされる。「シネマート新宿」は、300席超と60席の大小2つのスクリーンを擁する映画館として、弾力的且つ意欲的な番組編成に取り組んでいる。最大の売りは“韓国映画”だが、昨年頃から意欲的にラインアップしているのが、日本の“インディーズ”作品である。
昨秋公開された村田唯監督・主演の『密かな吐息』は、それまでは映画祭などでの上映に止まっていたのを、積極的にピックアップした作品。またこの春には、30分の短編『堕ちる』(村山和也監督)を、“入場料1,000円”で、連日ライムスター宇多丸など豪華ゲストを招いてのトークイベント付きで公開し、大きな話題となった。今回の『獣道』のヒットも、作品の内容やクオリティが、こうした「シネマート新宿」の路線に見事ハマっての成果と言えよう。
何はともかく、8月11日までの公開となる『獣道』を目の当たりにすべく、「シネマート新宿」へと足を運ぶことを、強くおススメする!
(文・放送作家/映画活動家 松崎まこと)
ストーリー
とある地方都市で生まれた少女・愛衣(伊藤沙莉)は、次々に宗教団体を渡り歩く信仰ジャンキーの母親によって宗教施設に入れられ、そこで7年ものあいだ生活をしていた。教団が警察の摘発を受けたことを機に保護され、中学に通い始めるが、そこに自分の居場所はなかった。愛衣は社会からドロップアウトし、底辺な生活を送るヤンキー一家や、中流家庭などを転々としながら、生きてゆく場所を探し続ける。
一方、唯一の理解者であり、愛衣に恋をする少年・亮太(須賀健太)も社会に馴染む事のできない不良少年だった。亮太は犯罪を繰り返す集団・半グレたちの世界で居場所を見つけ、愛衣は風俗の世界にまで身を落としてしまう。ふたりの純粋は、地方都市というジャングルに飲み込まれてゆくのだった。
出演:伊藤沙莉、須賀健太、アントニー、吉村界人 韓英恵、でんでん、広田レオナ 、冨手麻妙、近藤芳正、松本花奈、大島葉子 、マシューチョジック 矢部太郎、川上奈々美、毎熊克也、篠原篤、森本 ぶ、根矢涼香、川籠石駿平、アベラヒデノブ
監督・脚本:内田英治(『下衆の愛』)
撮影:伊藤真樹(『リアル鬼ごっこ』)
製作:NAC、サードウィンドウフィルムズ(英)
プロデューサー:アダム・トレル
配給:サードウィンドウフィルムズ
2017年/日本、イギリス/カラー/95分