シネフィル新連載「映画にまつわる○○」#12 映画館 谷健二
昨年からラジオで映画の解説をさせてもらっていることもあり、映画館で映画を観る機会が増えている。
職業柄これまでにたくさんの映画を観ているつもりだが、普段はなかなかタイミングが合わず、映画館ではなくDVDや最近だと配信などですませてしまうことのほうが多い。
改めて映画館で観るようになり、やはり映画は映画館でと感じている。作る側はそこを目的にしているので当たり前といえば当たり前だが(笑)
最初に映画館で映画をみたのはいつだろう?
漠然と覚えているのは、父親に連れられて兄と一緒に家からほど近い京都・西京極の映画館。
当時流行っていた『E.T.』や『グーニーズ』などスピルバーグ作品によく連れて行ってもらった。
なぜか布生地でできたあまりかわいくもないE.T.の人形や『ヤング・シャーロック/ピラミッドの謎』の解説本をおねだりしたり、
今考えるとなかなか通な小学生だったように思う(笑)。小学生・高学年になると興味が野球やサッカー、ゲームへと移り変わったこともあり、
この時が唯一の映画少年だった期間かもしれない。
当時の映画館というととにかく人が多かった。娯楽の種類が少なかったのか、映画への注目度が高かったのか、とにかく人が多かった。
初日ともなると席がほとんど埋まっており、スクリーンを見上げる一番前の席だったり、立ち見だったりとを経験した。今となっては貴重な経験である。
自身の作品がはじめて映画館でかかったのは約7年前の山形国際ムービーフェスティバル。
短編2作目となる『スレッド』が映画祭にノミネートされ、いわゆるシネコンではじめて上映してもらった。
上映中、ふと隣の人をみると、これから何が起きるのだろうという期待に満ちた表情でスクリーンを見つめていたことを今でもはっきりと覚えている。
最後に自分の名前が表示されたとき、不思議な充実感とともに、これからも撮り続けようと何か使命感みたいなものを背負った気がした。
それが今でも続けている活力のひとつである。
日常の映画館でのよくある光景といえば、シネコンでは、ファミリーやカップルがさまざまな色をしたポップコーンを買い求め、
ミニシアターでは、脇に掲示されている監督や役者のインタビュー記事を見て、上映までの時間を過ごすのがなんとも至福な時である。
また老舗の映画館では、映画関係者らしき年配の人たちがロビーで楽しそうに立ち話をしているのをよくみかける。あんな風に年をとれたらな、なんて今から考える。
改めて映画館。
暗闇の中、知らない人と隣り合わせで、ひとつの物語を感じる特別な時間。
同じ場所で笑い、同じところで泣き、2時間で人生観が変わる人もいれば、何かを決意するきっかけになる人もいる。
昔、親友が明るいうちに映画館に入って、出てきたときに暗いのが好きだと言っていた。何かが変わる瞬間だったのかもしれない。
現在、新作映画の準備中。また隣の人の横顔をそっと覗き込めるように頑張ります。