「雪女」の3月4日より、ヒューマントラストシネマ有楽町及び横浜シネマジャック&ベティ皮切りに全国上映が順次開始されました。
ヒューマントラストシネマ有楽町で行われた初回の舞台挨拶では、杉野希妃監督、青木崇高、山口まゆが登壇しました。
司会は東京国際映画祭の、プログラミング・ディレクターである矢田部吉彦さんが務めてくださいました。
Q&A
ー映画初日おめでとうございます。まずはお一人ずつ、ご挨拶をお願いします。
本日は公開初日にお越し頂き、本当にありがとうございます。実は、今日は佐野史郎さんのお誕生日なんです。彦根で小泉八雲の朗読ライブがありこちらにはご参加できなかったのですが、同じ日に小泉八雲関連のイベントが違う場所で行われている、その不思議な繋がりが、導かれているようで感慨深いです。ちょうど1年前、私たち3人はとある登場人物のお葬式のシーンを撮影していました。その時は喪服だったので、今日はこのように華やかな装いで迎えられて嬉しく思います。(杉野)
本日は誠にありがとうございます。撮影時は例年よりも早く春が来ていたにも関わらず、監督が来ると雪になるので、キャスト・スタッフの中で監督は間違いなく雪女だと話していました。美しい景色が味方についてくれて、それがフィルムにも焼き付いていると思いますし、それをこのような形で皆様にお見せできること、本当に嬉しいです。(青木)
今日という日をずっと楽しみにしていました。ちょうど1年前の撮影も、とても楽しかった思い出のひとつです。よろしくお願いします。(山口)
ー山口さんは1年前というと中3から高1の間の春ですか?
はい、そうです。ちょうど受験に合格したところで、清々しい気持ちで撮影に臨むことができました。 (山口)
もし受かっていなかったら…(青木)
ーおどろおどろしい雪女の親子にならなくてよかったです(笑)。
ー監督、そして主演の杉野さんはなぜ「雪女」を選ばれたのでしょうか。
4年前に小泉八雲の本を読み直した際、とりわけこの「雪女」に、現代人が忘れてしまっている目に見えないものに対する憧憬や畏怖が詰まっていると感じました。また、人間である巳之吉と異種である雪女、その交わりの末に生まれた子供とはどのような存在なのかにとても興味が湧いたのもひとつです。人間、そして世界は、色々な要素が混ざり合って形成されているもの、という視点から、ウメを通して世界のあり方をも考えることができるのではないかと…。我々が生きるために必要なものは何か、そして世界の、あるいは人間の本質とは何かを問いかけるような作品にしたかったんです。(杉野)
ー主演も監督も自分で、というのは最初からお考えになっていたのですか?
『雪女』をやりたいと思った時にはもう、監督も雪女役もやろうと決めていました。映画界で自分が戦ってきたことなども含めて「この世に化けて出たい」なと(笑)。(杉野)
ーでは巳之吉を青木さんにお願いしたきっかけ、そしてそれを受けた青木さんの思いをお聞かせ頂けますか?
雪女が人間化していく過程を描く上で、相手役はやはりそれと対照になるような、人間味があり感情表現が豊かな方に演じて頂きたいと考えていました。もちろん役者さんとしても人間としても尊敬する方ですし、何より青木さんならこの作品に身を捧げてくださるのではないかと思い、おこがましくもオファーさせて頂きました。(杉野)
釜山でうなぎを食べながら聞く話ではなかったです(笑)。台本から、原作を非常に大切にしながらも、そこに監督自身の解釈を加えて映画化しようとしていることが伝わってきました。作中でお客さんと同じ目線に立つキャラクターとして、巳之吉はとても重要な役ですよね。なので、自然の恩恵や人との繋がりに感謝しながら生きる、ごくふつうの人として演じることを意識しました。(青木)
ー山口さんはどのような経緯で杉野さんと出会われたのでしょうか。
台本をいただいてまずはじめに疑問に思ったことがありまして、監督の方と主演の方が偶然同じ名前だなぁと…(笑)。一人二役だと知って本当に驚きましたし、どうやって撮影していくのかが気になりました。役作りの面でいうと混血のうめを演じるのはとても大変だったのですが、監督自ら方言指導してくださった際に演出についていろいろ話し合い、結果すごく役に入り込めて、また研究できた作品になりました。劇中にちょっとした踊りのシーンがあって、杉野さんと一緒に東京で練習しました。私が習っているクラシックバレエとは足の使い方からして大きく異なる日本舞踊、とても楽しかったです。(山口)
ー現在小泉八雲の伝道師のような活動をされている佐野史郎さんですが、どのようなご縁があったのですか?
2013年の夏、『禁忌』という作品で佐野さんとご一緒に変態チックな親子を演じたんです。その際に撮影現場で「私『雪女』が撮りたくて」と話したら、「えっ、僕は『雪女』の短編アニメーションを撮ったんだよ」と。チェコのイジー・バルタ監督の作品に、佐野さんがプロデューサー兼声優で参加されていたんです。「それは是非がんばって!」とおっしゃるので、「分かりました、では佐野さんに当て書きしますので待っていてください!」と言って。そういうご縁でご出演いただきました。(杉野)
ー共演者が監督っていうのはどんな感じなんでしょうか。現場の様子を教えて頂けますか。
向かい合ってお芝居をして気持ちが寄り添っている中、突然正面から「カット」と声がかかるので、そこで「あぁ、監督だった」と引き戻される感じです。ニット帽やダウンを着込んだスタッフ達の中心で、雪女の衣裳のままモニターを見ながら頷いている様子は誰か撮ってくれ!と思うくらい面白い光景でした(笑)。でも、段々慣れましたね。(青木)
女優としての先輩でもある杉野さんはとても話しやすかったです!役について、監督の視点からも女優の視点からも相談することができて、勉強になりました。(山口)
ー将来、監督兼主演女優というのもやってみたいなと思ったりは?
そうですね、考えておきます(笑)。(山口)
ー杉野さんは、監督として、そして雪女としての自分の間にどのような切り替えをされていたのでしょうか?
切り替えるという意識がそもそもありませんでした。それこそ自分が雪女として『雪女』を作っていくというような感覚でこの作品に臨んでいたんです。体力的には大変でしたが、一つの方向に向かっていくという意味では、完全に世界に入り込み、とても集中できました。そのような体験はなかなか出来ないことだと思いますし、とても大切な作品になりました。(杉野)
ー早いものでもうお時間が来てしまいました。最後に皆様一言ずつお願いします。
この作品は、2年前に私が事故に遭ったことで撮影が延期になってしまい、入院中にまた脚本を練り直し、その時の感覚なども織り込みながら作った本当に思い入れの深い作品です。是非たくさんの方に観ていただけると嬉しいですし、気に入ってくださった方は宣伝にご協力頂けましたら有り難いです。もし気に入らなかったらお口チャックということで…(杉野)
変なこと言ったら氷漬けにするんでしょう?(笑) 撮影では大変なこともありましたが、監督の執念とでもいうような情熱が形作り、時に人ならざるものの力をも引き込んで出来上がった作品です。杉野さんとは、以前から一緒に仕事をしたいと思っていました。監督としても女優としても、そしてプロデューサーとしても海外へ進出していく、「斬り込んで」いく杉野さんに役として力添えできればと思います。そして何より、お客さんがこの映画を楽しく観てくださったのならばそれが一番です。ありがとうございました。(青木)
この作品は、わたしが女優という道に進もうと思ってから出演した作品として二作目に当たります。まだ分からないこともたくさんあったのですが、杉野さん、青木さん始め素敵なキャストの皆様に助けていただき、このような素敵な作品に出演できたことを本当に感謝しています。東京国際映画祭に初めて関わるなど、他にもこの作品では色々な体験をさせて頂きました。是非皆様にも観て、そして楽しんでいただけたらと思います。(山口)
—国際派映画人、杉野希妃による21世紀の雪女がここに誕生—
100年以上前に小泉八雲が著した「怪談」は、日本各地の伝説を怪奇文学に昇華させた作品。
その中の一編「雪女」を、独自の解釈で杉野希妃が映画化したのが本作である。
『マンガ肉と僕』、『欲動』に続く、監督第三作としてかねてから映画化を切望していた杉野が、自ら雪女とユキの二役に挑んだ。
主人公の巳之吉役に、活躍目覚ましい青木崇高、娘のウメに注目の若手山口まゆ。佐野史郎、宮崎美子、山本剛史、松岡広大など演技派、若手が脇を固め、大ベテランの水野久美がひきしめる。
監督:杉野希妃
出演:杉野希妃 青木崇高 山口まゆ 佐野史郎 水野久美 宮崎美子 山本剛史 松岡広大 梅野渚
2016年/日本/日本語(英語字幕付)/96分/カラー&モノクロ/シネマスコープ/Strereo/
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