鎌倉市川喜多映画記念館で年に一度開催している、若手の映画作家たちの応援企画、今回は「ドキュメンタリー映画」を切り口に、日本映画の現在と未来を見据えた4作品をご紹介します。
若者たちが見知らぬ土地を旅し、自身とは異なる世代の人物との出会いを通して、その土地のかつての記憶を辿っていく...。
ある者は東日本大震災の被災地、
ある者は祖父の遠い記憶の中の土地、
そしてある者は自分がかつて暮らした土地を旅し、
彼らの経験がキャメラを通して作品として立ち現われてくるー
現代の映像作家は旅人、さすらい人のようだ。
撮影所をはなれ、故郷や都心をはなれ、遠くまで出かけてゆく。
旅をする中で、その土地の風景に出会い、暮らす人たちの営みに触れることで、彼らは一体どんなことを思うのだろう。
どのようなことを糸口に、その旅のことを作品(カタチ)にしたいと思い至るのだろう。
景観も人間も年を重ね、同じように出来事も年を重ねる.10代で体験したことを、年輩者は生きてきた時代や環境ごとに角度を変えながら、何度も反芻し、振り返ってきたことだろう。
今回ご紹介する四つの作品は、いずれも20,30代の若者の手によって撮られ、それぞれに異なる時間軸で年輪をかたどってきた者たちの姿が映し出される。
関心も境遇も異なる相手と時を過ごし、見知らぬ土地のかつての記憶をともに辿りながら同行した旅人たち。その寄り添い方や向き合い方が四者四様で、観る者の心を強く惹きつける。
上映作品
『息の跡』
(小森はるか監督/ 2016 年/ 93 分)
震災のあと岩手県陸前高田市で暮らし始めた小森は、刻一刻と変わる町の風景をつぶさに見つめた。住民にカメラを向ける前にまず同じ時を過ごし、生きることにした。そこで出会ったのは一軒の種苗店。何でも一から作ってしまう「たね屋」の佐藤貞一さんは、自身の体験を独習した英語で綴り、自費出版していた。その一節を朗々と読む彼の声は、壮大なファンタジー映画の語り部のようだ。
ふたりの間から、段々とひとつの作品が立ち上がってゆく。
『記憶の中のシベリア~祖父の想い出、ソウルからの手紙~』
(久保田桂子監督/ 2013・2016 年/ 40・70 分)
祖父の世代が体験したシベリア抑留。 そばにいて接する中で、久保田が思いを巡らせた祖父の記憶の中の情景を、彼の農業日記とともに綴る。もう一篇は、かつて日本兵だった朴さんが親友に宛てた手紙についての物語。久保田は何度送っても届かなかったその手紙を、60年後、届ける旅に出る。今は亡き不在の人物を巡って、親友の妻・山根すみえさんと朴さんが大切な人に宛てた言葉をなぞり、思い返す。時空を超えた往復書簡/交換日記のような二篇。
『異境の中の故郷』
(大川景子監督/ 2014 年/ 53 分)
リービ英雄は日本語を母語とせず育ちながら、現在は日本語で創作活動を続けている。これは幼少期に彼がわずかに過ごしたことのある台湾を再訪し、もはや記憶の中にしか存在しないかつての「家」を探す旅。同行した作家の温又柔らとの会話やインタビュー、写真、リービの作品から抜粋された小節を織り交ぜながら、50~60年代初頭の台湾の鮮やかな想景を作り上げてゆく。 2017年、リービは本作の旅を小説にした『模範郷』で読売文学賞を受賞。
『いさなとり』
(藤川史人監督/ 2015 年/ 91 分)
リマ・インディペンデント映画祭 インターナショナルコンペティション部門 グランプリ受賞
唯一のフィクション作品ながら、広島県三次市に藤川が1年ほど住んで土地 のことを調べ歩き、そこに住まう人々と出会う中でつくられた物語。千年前から伝わる天狗の舞いや、被爆体験を語る老人、無縁仏の存在などを点在させながら、この地に住む少年の視点からみえる世界が丁寧に描かれる。大地に根ざした人々の暮らしや、東京から来たよそ者が少しずつ馴染む姿、その日々の移ろいの様子が豊かな時間の流 れをつむいでゆく。
上映並びにイベント
●3 月 24 日(金)
10:30- 記憶の中のシベリア 13:00- 異境の中の故郷
14:00- アフタートーク(大川景子監督 × 青木真緒)
(ブックショップ カスパール)
●3 月 25 日(土)
10:30- いさなとり
13:00- 異境の中の故郷
14:20- 息の跡
16:00- アフタートーク(小森はるか監督)
●3 月 26 日(日)
10:00- 息の跡
12:00- 記憶の中のシベリア~祖父の想い出、ソウルからの手紙~
14:20- いさなとり
16:00- アフタートーク(藤川史人監督 × 久保田桂子監督)
※詳細は当館 HP をご覧ください。
※チケット販売中⇒記念館窓口、島森書店、たらば書房、上州屋
※チケットが完売した場合、当日券はございません。ご了承ください。