というわけで、スターウォーズの続きなんですが、今週は「スターウォーズ学」をちょびっと。ま、「学」と言ったって、スターウォーズがいかにのちの映画を変えたかというお話です。

 私は専門学校などでも映画を教えているんですが、映画史、娯楽映画史的に言うと、スターウォーズ以降、映画はほとんど変わっていません。もちろん技術的にはかなり変わりましたし、興行形態なども変わってこの10年の変化は目覚ましいものがあります。けれど、その路線を敷いたのはスターウォーズですし、技術の革新を引っ張ったのも、スターウォーズなんですね。そのあたりを今週はお話ししたいと思います。

 1965年くらいから、検閲が緩くなってきたこともあり、1967~8年にかけてアメリカの若者向け映画が変わっていきます。「アメリカン・ニューシネマ」と呼ばれたそのブームは、ベトナム戦争の終結とともに終わっていくのですが、そこに現れたのが、フランシス・フォード・コッポラ、ジョージ・ルーカス、スティーブン・スピルバーグでした。コッポラはパラマウントの若き社長ロバート・エバンスと組み『ゴッドファーザー』をヒットさせ、メインストリームに躍り出ます。ルーカスはコッポラの後輩で、コッポラを支えつつ、彼の支援でデビュー作をとりあげますがヒットせず、二本目の『アメリカングラフティ』がどうにかヒットして映画界に残ることができました。

続編を期待されましたがそれを拒否して企画したのが『スターウォーズ』だったのです。
そして、スピルバーグ。彼はユニバーサルに潜り込み、テレビシリーズを二本ほど手がけ、評価されてテレビ映画『激突!』を撮ります。これが評判が良くて国外で貴劇場公開され、本編を撮ることになり『シュガーランド・エキスプレス』を撮影、好評だったので二本目に、当時ブームになっていたパニック映画の動物ものの一本として『JAWS』を撮ることになります。そしてこの『JAWS』が世界的に大ヒットし、時代は大きく変わっていくことになります。

『JAWS』のヒットが時代を動かし、ルーカスにもチャンスが巡ってきます。どこの会社も相手にしなかったルーカスのSF映画の企画を20世紀フォックスが引き受けたのです。そして、『スターウォーズ』が新しいハリウッド映画「ニュー・ハリウッド映画」の方向を決める革命を起こしたわけです。

『スターウォーズ』はどんな革命を起こしたのか、列挙してみましょう。

・サマーシーズンの発生

アメリカのサマーシーズンは子どもの学校が終わる6月からであったものが、5月最終週の月曜の戦没者記念日の前の水曜からと変わる。「JAWES」は日米同時公開で1975年6月最終週の公開だった。これ以降サマーシーズンは子ども・若者向けの大作の公開、クリスマスシーズンは大人・アカデミー向けのドラマの公開と住分けられるようになった。

・主な観客ターゲット

メインターゲットはファミリー。大人だけなら、アクションは男性、ドラマやラブストーリーは女性をターゲットとして考えられていた。スターウォーズ以降、今までメインの観客層とは考えられていなかった子ども・ティーンズ・20代前半若者が、映画を支えるようになった。

・SFの復活とA級化

77年当時SFというジャンルは子どもだましのB・C級作品と考えられていた。『SW』の大ヒットにより、SF大作がブームとなる。

・拡大公開 

これは『JAWS』のユニバーサルが始めた公開方法。特定地域の特定劇場数館で公開して、様子を見てから公開館を増やしていくという従来の方法ではなく、最初から各地多数の映画館で一斉に公開し、話題になった途端見に行けるようにした。これによって初日から3日の興行成績とランキングによる観客の誘致を計るようになる。

・宣伝方法

『JAWS』から始めたのが積極的なTVCMの利用。『SW』の場合はスタジオがヒットするとは考えておらず、宣伝に費用がかけられなかったため、1年前から各地のSFファン祭りやコミックファン祭りをまわり、噂を広めていき、コアなファン層の飢餓感をあおるという宣伝方法を編み出した。このコアなSFファン層は同じ作品を何回も見て、隅々まで記憶することを好んだ。

日本の宣伝もこれにならい、1年かけて情報を浸透させていった。そのためには、映画評論家といったディレッタントよりも、観客の視線に近い映画ライターを重用することになる。
このようにして観客の飢餓感と仲間意識を煽り、”見に行かないと仲間外れ”感を作り出して観客を誘導する映画を「イベント映画」というが、それを誕生させたのも『スターウォーズ』だった。

・マーチャンダイジング

製作費を捻出するため、ルーカスは最低ランクの監督代でかまわないから、マーチャンダイジングで入る金と音楽使用料で入る金を要求。マーチャンダイジングなどおもちゃの売り上げなどは微々たるものとしか考えていなかったスタジオはこれを受け入れた。しかし、このマーチャンダイジング商品が大ヒットし、以降、マーチャンダイジング商品が作れるような企画でなければスタジオは引き受けなくなる。

・交響曲的な映画音楽の復権

ニューシネマやノスタルジック映画のヒットにより、舞台になった時代に流行していた曲や若者向けのロックなど既成曲を使うことがよしとされていたが、『SW』のヒットにより、交響曲の復権が行われた。ジョン・ウィリアムスによる交響曲が大作SF映画の定番となる。

まだまだSW 革命は続きます。

・コンピュータを使用した撮影

モーションコントロールカメラの開発とコンピュータの使用による特殊撮影が始まる。最初の『SW』ではダイクストラが開発した方法を自らのものにしたため、2作目からは開発した特撮技術の特許はすべてILMに集約するようになる。

・音響システム

音響効果もユニークなもので、アカデミー賞を受賞。後にはTHXサウンドを開発するなど、映画の音響だけでなくそれに合わせた劇場の音響設備も開発する。

・使用感のあるセット

『SW』以前はセットや小道具、衣装などは作りたてのピカピカしたものだったが、使用感のある汚しをかけたものが当たり前になった。

・クリ―チャーの特殊メイク

デザインのユニークさは、これ以降の特殊メイクデザインに多大な影響を与えた。

・女性の活躍

ヒロインが助けを待つ存在ではなく、自ら戦う強く賢い意志的な女性ことが、これ以降の、特にアクション系映画のヒロイン像を変えていく。

・ヒーロー像の変化

観客と同じ世代のヒーローが活躍し、成人はそのサポートに回るというストーリーやヒーローが好まれるようになった。

・日本映画の引用

古今東西の映画からの引用が見られる。それを誇る傾向が現れる。

・キャスティング

スターを使わない。特撮をメインにした映画の主役は特撮であり、人間のキャストに関しては出来るだけ新人や外国人、脇役系の人を使いギャラを節約する。そのかわり、ポイントを与え、ヒットしたら還元されるようにする。

・製作費の使い方

お金のかけ方を、まずは特撮に振り分ける。ソフトの開発などにも使い、そのかわり、特許をとって後で利益が返ってくるようにする。人は後回し。

・興行収入の使い方

1作目の時に製作費がオーバーしたり、足りなくなったりして苦労したため、2作目からは自社で製作費を出すようにした。つまり、ヒットすればそれはルーカスフィルムのものになり、それを次の作品の製作費に回すシステムを作り上げた。製作の自由度が格段に増すことになる。 

・ロケ地・撮影スタジオ

  ギャラを抑制するためもあり、アメリカ国内で撮影することをできるだけ避ける。

・スタジオの変化

『SW』の大ヒットによって、スタジオは年に1~2本の大ヒットを予定できる若者向けSFX映画のみを製作、あとは製作参加や配給のみでリスクを回避する方向へと舵を切った。ある程度の予算をかけた大人向きやファミリー向きのドラマをスタジオが作ることはほとんどなくなってしまった。

これによって、映画史的には敵役にされることもあるSWですが、とりあえず観客のハリウッド映画離れを止め、質や中身はさておき、再び映画界に活気を取り戻したのはSWであることはまちがいありません。
そして最初のSWから40年、いまもSWは新作を送りだし、ファンを熱狂させているのです。それだけでもすごいことだと、私は思います。

映画紹介

今回は「ストーン・ウォール」と「バイオ・ハザード」「Tomorrow パーマネントライフを探して」の三本をご紹介しましょう。

『ストーンウォール』

 1960年代の終わり、LGBTであることは異常であり犯罪であるとされていた時代。ニューヨーク・グリニッジビレッジのクリストファーストリートではLGBTの若者たちが、差別と暴力にさらされながら肩を寄せ合って生きていた…。1970年のある晩、彼らはお気に入りのバー”ストーンウォール・イン”への警察の介入に怒りを爆発させ、LGBTの権利を主張する戦いを始めた、という事実を元にした作品です。

 ゲイであることがばれ、親に追い出されてインディアナからニューヨークにやってきたダニー。体を売って暮らす青年たちを率いるエキゾチックな美青年レイと知り合い、彼らと共に暮らすようになり、様々なLGBTの人々を知ります。けれど仲間はいても、差別や暴力は故郷以上に激しいものでした。SEX、恋、誘惑、嫉妬、裏切…。愛の様々な面を知りながら、ありのままの自分自身を愛することを知り、愛してくれる人を見つけようとするダニー。彼をいちずに求めるレイ。二人の想いはどこへ行くのか…。

『インディペンデンス・デイ』などの監督ローランド・エメリッヒが自らゲイであることを公言し、アメリカのLGBT解放運動のきっかけになった事件を、英国美青年スター、「戦火の馬」で注目されたジェレミー・アーヴァインの主演で、恋とアクションを交えて映画化しました。

主な登場人物にはそれぞれモデルがいて、この事件の後、LGBT解放運動に大きな役割を果たしたそうです。映画のラストにその後の彼らの活躍が、本人たちの写真とともに紹介されるなど、この映画をつくる意義というものをストレートに出したシーンになっています。
けれど、映画の主人公になっているレイは映画オリジナルの人物で、白人の若い男性になっています。そこのところに違和感を感ずる活動家もいるそうです。が、こういう、広い観客層に訴えたいテーマを持っている作品は、正確に事件やテーマを再現するよりも、広い観客層がまず見ようかなと思う演出を加えることは必要ではないかと思うんですね。それは、ま、へたれ、とか、裏切り者、と言われちゃうかもしれないけれど、私は許されることだと思うんですよ。で、エメリッヒってそういう、演出が上手い。

例えば彼は地球温暖化阻止を唱える活動家でもあるんですが、温暖化の影響を描くために「デイ・アフター・トゥモロー」を作ったりしちゃうんですね。最初観たときはただ派手なディザスター映画だなぁなんて思っていましたが、東京で暴風雨がおきたり大きな雹が降ったりするようになり、あの映画が描く終末世界はホントに起き得るんだって、見直しましたもんね。
実は、マジ、なんです、エメリッヒ。
というわけで、この「ストーンウォール」も、実際に起こったことであることを知るためにまずいい作品だと思います。服装や音楽など、当時の流行を見るにもなかなか楽しい作品です。そう、入り口はいろいろでいいんです、知ってもらえれば。映画はエデュケイトメントのメディアなんですから。

画像: 『ストーンウォール』日本版劇場予告 youtu.be

『ストーンウォール』日本版劇場予告

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『バイオハザート ザ・ファイナル』

日本発のゲーム「バイオハザード」を実写映画化したSFアクション・ホラーの第6弾。
ついに最終章を迎えます。15年かかってます。

 始まりは2002年。製薬会社アンブレラ社の研究施設ハイブで秘密裏に兵器開発されていた生物兵器Tウィルス。研究所内に漏れ出したTウィルスに感染した者たちはアン・デッドとなって生き残った人々を襲う。特殊部隊によってハイブで発見されたアリスという女性と特殊部隊のメンバーは、襲いくるアンデッドの群れを倒してハイブから脱出することができるのだろうか。

というところから始まって、町が感染し、世界が感染し、ほとんどの人類がアンデッドとなっていくなかで、アリスとその仲間たち、生き残った人間たちは、アンデッドとこの世界をもたらしたアンブレラ社と戦っていくわけです。毎回新しいクリ―チャーが登場してアリスたちを苦しめ、毎回、今度こそ終わりと思わせておいて、あらたな闘いがはじまるという、終わりなきシリーズ、だったんですね。それが、やっと、最終章。ファイナルに、theがついてます。

今回は、前作で蜂起に失敗し部隊を全滅させたアリスが目覚めるところから始まります。
廃墟になったワシントンDCで目覚めるアリス。さっそく襲い掛かってくるのはアンブレラ社が作り出した兵器化された生物たちとアンデッドの群れ。敵をかわしながら逃げ込んだ廃墟でアリスはコンピュータを通してAIレッドクイーンと対峙します。けれど、最大の敵であるはずのレッドクイーンがアリスに重大な情報を告げるのです。「世界で生き残った人間は4472人。48時間以内にハイブに行き、Tウィルスに対する抗ウィルス剤を散布しなければ、アンブレラ社がもくろむ人類の抹殺は完成する」と。

ハイブまで670km。残り時間はどんどん少なくなっていく。アリスを阻むアンブレラ社のクリーチャーとアンデッドそして倒したはずの長年の敵もよみがえって来て…。アリスの果てしない闘いは続く…。
アリス役のミラ・ジョボビッチを始め、おなじみの面々が揃って出てくるわけですが、味方として頼めるのはクレアだけ。あとはみぃんな、適役。
見方は新しいキャラクターが登場します。このメンバーが国際色豊かでなかなか楽しい。日本からはローラが参戦、女戦士を演じています。韓国のイ・ジョンギは適役です。肉弾戦あり、銃撃戦あり、ハイブでの戦いは第一作を思い出させる装置もあって、総集編的な作りになっているわけですね。
なんちゅうか、美味しいとこどり? これでもかこれでもかと繰り出されるアクションに、手に汗握りすぎて疲れてしまうくらい、てんこ盛りアクションな作品です。前作までのあらすじは予習していった方がより楽しめます。

画像: 『バイオハザード:ザ・ファイナル』ミラ&ローラのコメント入りトレーラー 2017年3月22日(水) Blu-ray &DVD&3D&UHDリリース/同日Blu-ray&DVDレンタル開始 youtu.be

『バイオハザード:ザ・ファイナル』ミラ&ローラのコメント入りトレーラー 2017年3月22日(水) Blu-ray &DVD&3D&UHDリリース/同日Blu-ray&DVDレンタル開始

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『Tomorrow パーマネントライフを探して』

このドキュメンタリーは、2012年科学雑誌「ネイチャー」にアメリカのスタンフォード大とカリフォルニア大の21人の科学者が研究論文を発表し、「生活習慣を変えなければ、近い将来地球エコシステムが壊滅するだろう」と生態系壊滅についての科学的な根拠に基づく説明を行ったことから始まります。

この論文を友人で監督・俳優・活動家であるシリル・ディオンに勧められて読んだ女優メラニー・ロランは大変なショックを受けます。当時妊娠中で、これから生まれてくる子供の生きる時代を考えて、呆然としたそうです。
 で、ロランはシリルと一緒に、この状況をどうにかする解決策を探しに世界の「新しい暮らしを始めている人々」に会いに行くことにした、わけです。

『Tomorrow パーマネントライフを探して』は、様々な問題がつながり広がっていく疑問を、6つのストーリーに分けて追及していきます。すると、恐怖や怒りをこえて、希望が見えてくる。それは、告発型には珍しいドキュメンタリーです。

まずは論文を書いた本人に問題のありかを取材。次にパーマカルチャー(持続型農業と、文化・自然と人間が共生するためのシステム)を元に、化石燃料への依存と温暖化の防止のための地域(トランシジョン・タウン)作りをしている人を訪ねて、持続的な暮らし=パーマネントライフへの道筋のアドバイスをもらいます。そして最初に「あたらしい食のあり方/アグリカルチャー」を探すため、アメリカ・イギリス・インド・フランスなどを訪ね歩くのです。
例えばデトロイトの都市市民による自給自足農業「アーバンファーム」、イギリス・マンチェスターの「みんなの菜園」運動(花壇や建物の前や道路脇の空き地など、公共の空き地に食べられる植物や果樹を植える運動)、フランスのパーマカルチャー農場を訪れ、食糧問題や種子問題の専門家に話を聞きに行きます。自然科学的にだけでなく、経済学的に哲学的にも農業と食糧の問題を解析するわけですね。

同じように、エネルギーの問題は、電気だけでなく、経済と環境、ゴミ問題と関連し、地球温暖化や都市建築や交通についての実験にもつながっていきます。
アクティビスト・学者・企業家・役人まで、さまざまな人がこういうことができますよ、という証拠を提示します。それから、消費、すなわち経済の視点からの取り組みを紹介し、民主主義の必要性と実効の実験を探り、最後は一番根本的に必要なものとして教育について考えることになる、という全部で6つのストーリーからなっています。

それぞれのストーリーの最後に、そのストーリーのまとめと、ではそこから考えて次に何が必要かという考察をメラニーとシリルが加えて、じゃあこれはどうなるの、という風に新しいストーリーに移っていく、という導き方もわかりやすく、とっつきやすい。初心者のメラニーの気付きをシリルが引き出し、導いていくのに観客はついていくわけです。

社会派、しかも、告発型のドキュメンタリーというと、問題が深刻なことはわかるけれど、それと取り組んでいる人たちがまじめすぎてちょっと近寄りがたいって見えることが多いんですが、『Tomorrow』はそのあたりが柔らかくて楽しく、オシャレっぽいんですよね。それはロランという人を案内役に迎えたことで出来たことだと思います。そいういう人、日本でも出てこないかなぁ…。
そうすればもう少し、いろいろな活動も盛んになるんじゃないかと思うんですけれどねー。ま、とにかく見てください。

画像: 映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』予告編 youtu.be

映画『TOMORROW パーマネントライフを探して』予告編

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