今年、節目の第70回目を迎えるカンヌ映画祭。

この連載では、毎年5月に催される世界最高峰の映画祭の昨年の模様をまとめてレポート!

この映画祭の魅力をお伝えします。

2016年 第69回カンヌ国際映画祭を振り返るー 【CANNES 2016】7

映画祭4日目の14日(土)。“コンペティション”部門では、韓国のパク・チャヌク監督の『ザ・ハンドメイデン』、ドイツのマーレン・アーデ監督の『トニ・エルトマン』が正式上映。“ある視点”部門では深田晃司監督の『淵に立つ』など2作品が上映され、“招待上映”部門には巨匠スティーヴン・スピルバーグ監督の『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』が登場!

パク・チャヌク監督の『ザ・ハンドメイデン(お嬢さん)』はイギリスの犯罪小説を日本統治下の韓国に置き換えて映画化!

日本の漫画を原作とする2003年の『オールド・ボーイ』でグランプリを射止め、2009年の『渇き』で審査員賞を受賞した韓国の鬼才監督がカンヌに帰って来た。
『ザ・ハンドメイデン』は、レズビアンの英国ミステリー作家として知られるサラ・ウォーターズの「荊の城」を基に、舞台を19世紀のロンドンから日本統治下の韓国に移して映画化した異色作だ(劇中では日本語と韓国語がチャンポンで使用されるため、日本語の部分の字幕は黄色で、韓国語の部分は白色で表示された)。

1930年代の韓国。日本人の富豪令嬢(キム・ミニ)の財産に目をつけた詐欺師(ハ・ジョンウ)が伯爵に成りすまし、手の込んだ詐欺を企てる。彼に雇われた孤児の少女(キム・タエリ)が下女となって令嬢の屋敷に潜り込むが……。遺産相続人の令嬢、詐欺師と下女、そして令嬢の後見人たちの思惑が複雑に絡み合い、騙しあいと復讐が繰り広げられていく本作は、どんでん返しの連続の中にサスペンスと過激なエロスが炸裂する刺激的な大作だ。映像が実に流麗で、豪華な美術にも目が奪われるのだが、幾つかのディテール(畳の寸法など)には違和感を覚えざるをえなかった。

朝の8時半からの上映に続き、11時半から行われた『ザ・ハンドメイデン』の公式記者会見にはパク・チャヌク監督、出演したキム・ミニ、チョ・ジヌン、ハ・ジョンウ、キム・タエリ、そしてプロデューサーが出席した。

画像: 『ザ・ハンドメイデン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

『ザ・ハンドメイデン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

画像: パク・チャヌク監督 Photo by Yoko KIKKA

パク・チャヌク監督 Photo by Yoko KIKKA

画像: キム・タエリ Photo by Yoko KIKKA

キム・タエリ Photo by Yoko KIKKA

画像: キム・ミニ Photo by Yoko KIKKA

キム・ミニ Photo by Yoko KIKKA

画像: ハ・ジョンウ Photo by Yoko KIKKA

ハ・ジョンウ Photo by Yoko KIKKA

日本文学やアメリカ文学も好きだが、特に19世紀の西欧文学に大きな影響を受けたというパク・チャヌク監督は、本作について「イギリスの小説が原案ですが、舞台は日本統治下にあった韓国です。当時の人々が抱えていた心情は各々異なり、支配されていながらも、日本人や日本文化に強い憧れを抱く人もいた。そんな人たちが、日本に魅せられた理由やその心理を描きたい、と強く感じていました。韓国がどう、日本がどう、ということではなく社会のヒエラルキーや、個人個人の想いを描きたかったんです。1930年代の韓国は、イギリス風、和式など様々な様式の建物が建造され、文化的にも非常に興味深い時代だったんです」と語り、複数の登場人物の視点で追う物語の構成については「三部構成に分けて変化を強調し、途中からラブストーリーの要素も加わえました」と説明。また、俳優陣は鬼才監督に起用された喜びと撮影の感想を口々に述べている。

ドイツの気鋭女性監督のカンヌ初参戦作『トニ・エルトマン』はコミカルさと繊細な感情描写を両立させた傑作!

プロデューサーや脚本家としても活躍するマーレン・アーデ監督は、2009年の『恋愛社会学のススメ』でベルリン国際映画祭の審査員グランプリと女優賞の2つの銀熊賞を受賞した実力派で、長編映画3作目にあたる『トニ・エルトマン』で、カンヌに初参戦! ドイツ唯一のコンペ選抜作品となった本作は、監督が自ら脚本を書き下ろして魅せたユーモラスかつ辛辣な家族ドラマだ。

ジョーク好きの音楽教師ヴィンフリード(ペーター・シモニシェック)は愛犬の死を機に、長いこと疎遠になっている娘イネス(サンドラ・フラー)にコンタクトしようと思い立つ。だが、国際的に活躍する有能な経営コンサルタントで、ルーマニアの首都ブカレストに赴任したばかりのイネスの前に現れたのは、何とも奇妙な変装をした父親だった。重要な商談を前にしてプレッシャーに押し潰されそうになっているイネスは、「トニ・エルトマン」と名乗り、事ある毎に介入してくる父親に腹を立てるが、やがて事態は増々混乱し……。昨夜のプレス試写では、とぼけた父親と仏頂面の娘の予測不可能な交流に何度も爆笑が巻き起こり、上映後には珍しくも拍手喝采の嵐が巻き起こった傑作だ。

画像: 『トニ・エルトマン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

『トニ・エルトマン』の記者会見 Photo by Yoko KIKKA

画像: マーレン・アーデ監督 Photo by Yoko KIKKA

マーレン・アーデ監督 Photo by Yoko KIKKA

画像: 左からマーレン・アーデ監督、サンドラ・フラー、ペーター・シモニシェック Photo by Yoko KIKKA

左からマーレン・アーデ監督、サンドラ・フラー、ペーター・シモニシェック Photo by Yoko KIKKA

15時からの正式上映に先立ち、12時半から行われた公式記者会見には、マーレン・アーデ監督、父娘役で主演し好演がともに光ったオーストリア人俳優のペーター・シモニシェックとドイツの女優サンドラ・フラー、そしてプロデューサー2名が登壇した。
残念ながら会見は、『BFG ビッグ・フレンドリー・ジャイアント』のワールドプレミア上映の時間とかち合ってしまったため、出席した報道陣の数は思いのほか多くはなかったが、実に充実した記者会見で、マーレン・アーデ監督は初カンヌについて、そして実際にロケを敢行したブカレストを撮影地に選んだ理由などを真摯にコメントした。
(記事構成:Y. KIKKA)

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
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