映画俳優、高倉健の全仕事―――
任俠映画で一時代を築き、数多くの名作や話題作に出演し、晩年は最も出演が待ち望まれる俳優として、生涯で205本の映画に出演した高倉健。多くのファン、スタッフや俳優仲間からも慕われたこの名優が世を去ったのは、2014年11月10日のことでした。
本展は、三回忌を迎えるのを期に、高倉健の映画俳優としての仕事を回顧し、あらためてその業績を顕彰しようとするものです。横尾忠則、森山大道による、高倉健をモチーフとした作品で幕を開ける本展の最大の見どころは、出演作205本すべてから抜粋した、高倉健出演場面の映像の紹介です。
残されたフィルムには経年劣化により現在見ることが困難な作品もありましたが、フィルムをデジタル修復するなどして、その一部をご覧いただくことが可能になりました。1本1本の抜粋時間はわずかですが、時代ごとの高倉健の魅力を存分に味わい、映画俳優としての全仕事を概観する絶好の機会となります。
あわせて、高倉健が所蔵していた台本や小道具、スチール写真、ポスターやプレスシートといった宣伝物など、貴重な資料類を一堂に展示し、時代とともに歩んだ稀代の映画俳優の足跡をたどります。
映画は、スタッフや俳優など多くの人々の協同作業によって成立する総合芸術であり、俳優は、個々の出演作を超えて、自律した一人の表現者にほかなりません。美術館で俳優の回顧展を開催する理由もそこにあります。高倉健は、単にその演技だけでなく、存在感という点においても、表現者として独自の境地を切り開いた俳優でした。展示された膨大な映像や資料の中を彷徨ううちに、その中から高倉健という俳優の存在が立ち現れて来るのを感じていただけることでしょう。
展示構成
◇東映時代初期(1956~1963年)
東映ニューフェイス第2期生として、「電光空手打ち」でデビューしてから、「暴力街」や「人生劇場 飛車角」などの作品で頭角を現すまでの模索期。高度経済成長期を背景に、サラリーマンものや大学青春ものなど多くの作品に主演しました。また片岡千恵蔵や美空ひばりの主演映画に助演するなど、さまざまな役柄に挑戦し、俳優としての個性を徐々に確立していきます。
◇東映時代中期(1964~1969年)
マキノ雅弘監督による「日本俠客伝」に出演して、一躍人気スターとなった高倉健は、「網走番外地」「昭和残俠伝」などのシリーズ作品によって、東映任俠映画の顔とも言うべき存在となります。東京オリンピックから70年安保闘争に至る時代に、我慢に我慢を重ねた末に敵地に殴り込みをかける高倉健の姿は多くの共感を呼びました。
◇東映時代後期(1970~1975年)
大阪で万国博覧会が開かれ、海外旅行が一般化されていった時期、学生運動の衰退とともに、古いしきたりの世界を描いた任俠映画は徐々にあきられていき、東映の主流は実録やくざ映画へとシフトしていきます。そんななか高倉健は、ハリウッド映画「燃える戦場」「ザ・ヤクザ」への出演など、新しい試みを行います。高い評価を得た「新幹線大爆破」もこの時期の作品です。
◇独立時代前期(1976~1980年)
東映を退社した高倉健は、「八甲田山」「幸福の黄色いハンカチ」「野性の証明」など、大作に次々と主演し、いずれの映画も大きな話題となります。邦画が洋画に押されてシェアを落していく中、豊富な予算と大規模な広報戦略を伴った大作主義が台頭しますが、高倉健はその中心で活躍した俳優の一人でした。
◇独立時代中期(1981~1994年)
バブルの時代を迎え、映画界にも大きな変化が起こり、大手メディアを巻き込んだ製作委員会方式が興ってきました。この時期、高倉健は平均すると年1本弱というペースで、コンスタントに映画に出演します。当時の日本映画の興行成績新記録を樹立した「南極物語」や、ハリウッドの大作「ブラック・レイン」への出演は大きな話題になりました。
◇独立時代後期(1995~2014年)
80年代後半から、高倉健は出演作品をじっくりと選ぶ傾向を強めていました。晩年の約20年間に出演した映画はわずかに4本でしたが、久しぶりに東映東京撮影所のスタッフと仕事をした「鉄道員(ぽっぽや)」、単身中国に渡って撮影した「単騎、千里を走る。」など、映画に出演するたびに、その動向は多くのメディアから注目されました。2013年には文化勲章を受章。出演を最も待望される俳優となった高倉健は、次回作「風に吹かれて」の準備が進む中、2014年11月10日に亡くなりました。
みどころ
◇アーティストが表現した高倉健
展覧会へのプロローグとして、横尾忠則と森山大道という2人のアーティストによる、高倉健をモチーフにした作品を展示します。表現者としての俳優をテーマとする展覧会にふさわしい幕開けとなります。
◇高倉健出演映画205本すべてから抜粋した映像を上映
プログラム・ピクチャーの時代に俳優となった高倉健は、出演映画数の多さでも群を抜いています。本展では、出演映画205本すべての映像資料を入手し、そこから抜粋した高倉健出演場面の映像を、20台を超えるモニターやプロジェクターで上映します。
◇高倉健が所蔵していた資料類の公開
高倉健は出演した映画に関する膨大な資料を所蔵していました。自宅が火事になったためか、一部の時期に欠落があるものの、デビュー作「電光空手打ち」の使用台本やスチール写真をはじめとする資料類は、日本映画史を物語る非常に貴重なものです。本展では、これらの中から厳選した資料などを、映像とともに展示します。
◇危機に瀕する古いフィルムの保存・修復活動を紹介
本展の準備を進める過程で、多くの古い日本映画のフィルムが経年劣化のため、危機に瀕しているという状況を知ることになりました。高倉健の出演映画の中にも、今日上映できる状態にない作品が含まれています。こうしたフィルムを救うために行われている、地道な保存・修復活動の一端を、展示の中でご紹介します。
日時指定の完全予約制
■料金(税込):
一般¥1,300 高校・大学生¥1,100 障がい者手帳等持参の方は100円引き、その介添者1名は無料
※中学生以下無料