8月9日、『タンナ』の観客賞受賞が発表され、SkipCity国際Dシネマ映画祭2016が完全に閉幕した。
 パヌアツ共和国で初めて制作された作品である『タンナ』は、今も伝統的な暮らしを守り続ける部族における悲恋の物語である。同作は『朝日の昇るまで』と最後までグランプリを争い、監督賞に落ち着いたという作品だ。監督はドキュメンタリー出身で、この部族とともに7か月暮らし、彼らの伝承などを物語に織り込んだという。なるほど、フィクションの中に火山の元にくらす人々の暮らし、雄大な風景などが、リアルに綿密にそして美しくとらえられている。
 スキップシティ映画祭は、比較的観客に配慮した作品を選出する映画祭である。筆者は応募作の一時半差を担当するひとりであるが、上映作品がその後劇場公開されることもしばしばなのは、その最初の選定から一般観客が見て楽しめることを念頭に置いているからだと言えよう。しかし、その上映作品の中から観客の人気投票で選ばれた作品が審査員の出した結果と毎年近いのが面白い。スキップシティ映画祭の観客が映画鑑賞の巧者である、ということかもしれない。
 今年の長編コンペティションは、88か国715本の応募作から選ばれた12本。それぞれにウェルメイドで、誰がみても楽しめる作品だった。それだけにグランプリ・監督・脚本の各賞に選ばれた作品は、わかりやすさ・さまざまな意味での娯楽性を持ち、さらにメッセージ性を兼ね備えている。
 グランプリの『朝日の昇るまで』は、太りすぎで家から出ることも困難な男が、カメラを通して外の世界と人間に触れていくという物語。審査員長は、ラストに希望の萌芽を感じさせるにとどめた抑制のきいた演出を讃えた。迷ったうえで監督賞に『タンナ』を決めたのは、この作品の最大の功労者はやはり監督であろうという理由からだという。生まれて初めて見たものを親だと認識する鳥の習性を使い、少女二人の成長を描いた脚本賞の『アヒルからの贈り物』。監督は来日できなかったが、撮影監督が来日、賞を受け取った。日本映画の中から選ばれるSKIPシティアワードは女性監督・藤村明世の『見栄を張る』に決定。
葬式に個人と遺族のために泣くという仕事を姉から引き継ぎ、初めてちゃんと生きるとに向き合う若い女性を丁寧な筆致で描き出した。本映画祭では、長編コンペティション部門では海外作品と日本作品の差について言及されることがあるが、今年は日本映画も秀作揃いで頼もしく思えた。
 今年からディレクターが替わり、上映作品の選出方法に一部変更が加えられたスキップシティ映画祭。その変化はまだ未知数ではあるが、来年、第14回目の開催に向けて期待の持てる結果を出したと思う。

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