世界中のカルト映画ファンが愛してやまない、旧ソ連映画の秘宝『不思議惑星キン・ザ・ザ』。そのデジタル・リマスター版が遂に公開!

学生ゲテバンと建築技師マシコフは突如、キン・ザ・ザ星雲の惑星ブリュクにワープ。そこではマッチ1本が恐ろしく価値があり、挨拶はいつでもどこでも「クー」!! 国境を越え、時代を超えた脱力系カルト映画の金字塔『不思議惑星キン・ザ・ザ』。

『不思議惑星キン・ザ・ザ』は,巨額の宣伝費をかけて、世界各地何千館で公開されたわけでもないのに、人から人へと噂が伝わり、時を経るにつれ、さらにいっそう深く世界中の人々の心をとらえるようになっていった映画である。
完成時の試写では,批評家からさんざんな不評だったこの映画は、公開されるや若者の圧倒的な支持により、ソ連全土で1520万人という驚異的な動員を成し遂げ、1987年リオデジャネイロ国際映画祭でグラフィック・コンセプション特別賞を授与されている。
日本でも1989年に東京の池袋、文芸坐で開催された〈ソビエトSF映画祭〉の1本として上映されただけで、いっぺんに観客を魅了し、10年以上を経て、その勢いは減速するどころか、ホームページまでできて大賑わいというのだから、人気のほどは知れよう。日本以外でも、ハンガリー・モンゴル・フランスからコンゴに至る20か国以上に輸出されている。

画像1: © Mosfilm Cinema Concern, 1986

© Mosfilm Cinema Concern, 1986


ゲオルギー・ダネリヤ監督
『不思議惑星キン・ザ・ザ』の監督ゲオルギー・ダネリヤ(1930年~)はジョージアのトビリシ出身で建築を専攻した後に、映画の道に入り、デビュー作の“SERYOZHA”(イーゴリ・タランキンとの共同監督/1960年)が、世界最古の歴史を誇るチェコのカルロヴィ・ヴァリ国際映画祭でグランプリを受賞。その後も、着実に新作を発表し、1975年の“AFONYA”ではロシア全土で6220万人動員という快挙を成し遂げた、名実ともにロシアを代表する監督である。ゲデバン役の少年は今では映画監督に釣鐘型宇宙船に乗って現れる〈クー〉なふたり、太めのウエフを演じたエヴゲーニー・レオノフと、のっぽのビー役のユーリー・ヤコヴレフは70年代に〈人民芸術家〉として表彰されたロシア演劇界の重鎮であるが、残念ながらレオノフは1994年、ヤコブレフは2013年に亡くなっている。技師マシコフ役のスタニスラフ・リュブシンは生まれで現在83歳。2015年にも舞台で元気な姿を見せた。ゲデバン役のレヴァン・ガブリアゼは、1969年に役のゲデバン同様ジョージア生まれで当時17歳。現在は監督として活躍。日本でも第一回監督作『エターナル 奇蹟の出会い』(11年)が公開され、新作『アンフレンデッド』の日本公開は、この7月の予定である。
全編を通して流れる、気が抜けて人を食ったような、たら~んとした不思議な音楽は、ダネリヤ監督と同郷のジョージア出身のギア・カンチェリ(1935年~)が手掛けた。カンチェリは、世界的に人気の作曲家であるが、映画音楽は本作のみである。

画像2: © Mosfilm Cinema Concern, 1986

© Mosfilm Cinema Concern, 1986

物 語

モスクワ 冬 

 モスクワ、冬。技師マシコフは帰宅するなり妻に「マカロニを買ってきてくれ」と頼まれ外出する。街角で地方出身らしいバイオリンを抱えた青年に「あそこに自分のことを異星人だという男がいる」と声をかけられて、関わるのは面倒だから警察に、と提案するが「裸足で寒そうだから」という青年に付き合って、その怪しい男と言葉を交わす。自称異星人は「この星のクロスナンバーか座標を教えてくれ」と尋ねるが、まっとうなソ連市民であるマシコフはそんな虚言を信じないで、男の手の中にあった〈空間移動装置〉を押してしまう。瞬間、マシコフと青年は砂漠のど真ん中にワープしてしまった!

空間移動装置でワープ

 「もしかして、あの男の星に来てしまったんじゃないか」と不安がる青年ゲデバンに対して「ここはカラクムだ。ソ連国内の砂漠だ」と言い張るマシコフ技師は、年長者の威厳を失わないよう青年を促し、街をめざして歩き始める。
灼熱の太陽が二人を襲う。酢はあるが、水はない。靴を履き替えたり、折り紙の要領で日焼け帽を作ったり、できる限りのことをして、疲れ果てるまで歩いても人家にたどり着けず、砂の上に座り込む二人。時計はモスクワ時間の朝4時を指している。そんな時、奇妙な音を立てて釣鐘型の宇宙船がやって来る。着陸した飛行物体から出てきたのはこぎたない男二人。檻を出てミョーな音をつけながら踊り始める。どうやら「クー」と言っているらしい。

「クー」とマッチ

英語もフランス語もドイツ語も通じず、どんな身振りをしても返ってくるのは「クー」ばかり。街まで送ってもらうつもりで毛皮の帽子もコートも差し出した二人だが、取られるだけ取られて、宇宙船には乗せてもらえずに放り出される。呆気に取られたマシコフだが、気を取り直してタバコに火をつける。と、マッチを擦った瞬間、釣鐘型の宇宙船がUターンして舞い戻ってくるではないか!マッチを欲しがる男たちに「街まで乗せてくれるなら、“クー”だ」と交渉するマシコフ。なんとか船に乗り込む二人。ここに至ってはマシコフおじさんも認めざるを得ない、ここが地球でないことを・・・。

キン・ザ・ザ青雲のプリュク星

二人が飛ばされてきてしまったのはキン・ザ・ザ青雲のプリュク星。なんでもマッチがえらい貴重品らしい。幸いなことに、煙草を吸うマシコフのポケットにはマッチが二箱ある。なんとかこれで地球に帰ることができないだろうか。
たったのマッチ一本で、宇宙船のエンジンが買えるという話。いや、一本もいらない、その半分でいい・・・。簡単に思えた交渉も、マッチの貴重さをうっかり軽くみてしまったマシコフのヘマで失敗し、釣鐘型の宇宙船は燃料切れで立往生。おまけに今度は卵型の宇宙船がやってきた。乗っていた権力者エツィロップは、“クー”をしなかったマシコフを殴ったうえに、釣鐘型宇宙船の二人から有り金を巻き上げていく。これでは燃料を買う事もできない。四人で釣鐘型の宇宙船を押して歩くにしても、街は遠い・・・。

砂漠をさまよう

マシコフ、ゲデバン、ウエフ(太め)、ビー(ノッポ)の四人は延々と続く砂漠をさまよう。すると、砂漠に点在する集落の住人は、地球人二人のバイオリンと歌に感激して、投げ銭をくれる。これで燃料を買い、残りのマッチでエンジンを買えば、きっと地球に帰れるはず。ところが、ウエフとビーには別の思惑があった。彼らの故郷の星はプリュク星に大気と日照権を奪われた惑星で、この星を買い取り、名誉と光を取り戻すためには、どんな嘘も裏切りも辞さない構えだ。

果たして地球に帰れるか・・

果たしてマシコフとゲデバンは“反クロス系”に位置する地球に帰ることができるだろうか。帰り着いたとしても、愛する家族は・・・。あのモスクワの街角に立っていた異星の男は、この星の一秒は地球上の半年だと言っていた。このまま二人は宇宙の浦島太郎として終わるのか・・・。

画像3: © Mosfilm Cinema Concern, 1986

© Mosfilm Cinema Concern, 1986

チャトル=パッツ語小辞典

●カツェ(名) マッチのこと 
プリュク星ではなぜか異常に価値がある。半カツェでグラビツァーパが買える。チャトルに換算すると2200チャトル(※1)。プリュク星で暮らすのにエツィロップに払う水代やルツ(※2)代で月1チャトル強とか、かかると考えるとその価値が分かるはず。余談だが「プリュク」にはロシア語で「唾」のニュアンスがある。
※1)チャトル:人種名であると同時にプリュク星での通貨単位
※2)ルツ:燃料
●ツァーク(名)
鼻につける小鈴
チャトル人の惑星ではパッツ人は必ずつけなくてはいけない。
●エツィフ(名)
囚人ボックス
銀色の箱で、大人がひとりかふたり、横になって入ることができるくらいのサイズ。
●エツィロップ(名)
権力者
強欲で威張り散らしているいやなやつら。彼らに挨拶をしないと死刑か終身エツィフの刑(※1)になってしまう。
※1)終身エツィフの刑:ずっとエツィフに閉じ込められる事。釘付きと釘なしがある。
●ペペラッツ(名)
宇宙船
ウエフたちの乗っているのは釣鐘タイプ。丸いタイプはエツィロップが使っている。ルツで動く。
●グラビツァーパ(名)
加速器  宇宙船モーター部品
これさえあればどこへでも5秒で行ける。
●キュー(名・他)
公言可能な罵倒語
例:「奴もただのキューさ」とか(嫌な奴にむかって)「キュー!!」
●クー(名・他・形・副・感など)残りの言葉全部
挨拶はすべて「クー」。
ロシア語も通じるが、クーだけでも会話ができる。
目上の人には必ず「クー」でおじぎをしなくてはいけない。

パッツ人とチャトル人の見分け方

識別機で調べて緑色になればパッツ人、オレンジ色ならチャトル人。プリュク星ではパッツ人に対しての差別があり、ツァークをつけなくてはいけないとか、演奏するときは檻の中に入らなくてはいけないなど、制約が多い。
☆地球と連絡が取れる?!
プリュク星から地球に電話がかけられる。料金は1チャトル。
☆ステテコ様
色のついたステテコを履いている人は、位が高いと思われる。黄色のステテコ様と赤いステテコ様には2回クーしなくてはならない。もしクーをしなかった場合には、死刑か終身エツィフの刑。ちなみにカツェがあればステテコを手に入れることができる。

画像: 8/20公開 映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』デジタル・リマスター版 特別映像 youtu.be

8/20公開 映画『不思議惑星キン・ザ・ザ』デジタル・リマスター版 特別映像

youtu.be

〈不思議惑星キン・ザ・ザ〉—ロシア発
アレクサンドル・クーリッシュ(プレミア・ロシア版編集長)

 製作から15年以上を経て、『不思議惑星キン・ザ・ザ』はようやく文化現象にまでなったが、1986年、STAR CINEMA HOUSE で初めて試写をした時は大失敗だった。途中で席を立つ観客たち、撮影所に殺到する抗議の手紙。政府はなぜあんな「クズ」に金を費やしたのか、とか、「監督のやつは人気俳優をよくもあんな駄作に使えたものだ」とかいう内容の手紙だった。批評家受けもせず、長すぎる、重すぎるとけなされ、「ダネリヤ監督には飽きた」という声まであがった。(ところが公開してみると)観客動員数はそこそこで、1,570万人を記録した。今なら大ヒットと言えるくらいの数字だが、1975年、ダネリヤ監督の“AFONYA”を見たのが6,220万人だから、『不思議惑星キン・ザ・ザ』の動員数は、当時のソ連ではささやかなものだったということになる。

だが、『不思議惑星キン・ザ・ザ』は一部のファンから熱狂的に支持された。つまりカルト映画だったわけだ。ファンは若い人がほとんどで、惑星プリュクのしきたりや言語が気に入ったようだった。映画館から出てくると、みんなでパトカーに向かってポーズを決め、“クー”と叫んだものだ。今はこの映画への熱い思いがインターネット上で語られており、『不思議惑星キン・ザ・ザ』ファンのホームページや会議室が山のようにある。プリュク語の語源解明に努めたり、最新の宇宙論に照らし合わせて映画の矛盾をついたりしている人たちがいるのだ。映画をもとに新たな物語を作ったり、アネクドート(一口話)を編纂したりする人まで出てきた。

 それまでのロシア映画で、『不思議惑星キン・ザ・ザ』ほど、宇宙の法則をテキトーに扱ったものはなかった。その理由はおそらく惑星プリュク星の生態系が破綻をきたしていたから―ロシアの監督は決まって遠い星を不毛の地として描く―ではなく、単に予算がなかったからだろう。惑星プリュクの社会はひどく荒廃しており、モラルは腐敗している。プリュク語はニ、三の短い言葉だけで成り立ち、衣装はぼろぼろ、宇宙船(ペペラッツ)にはマグカップを使っているという有り様だ。ダネリヤ監督は話に伏線を張ることもなく、レヴァス・ガブリアゼの書いた奇妙な脚本に従って地球の将来を悲観的に描き出す。

エヴゲーニー・レオノフとユーリー・ヤコヴレフというロシアの大スターは、宇宙人には見えない。二人は十本以上もコメディー映画に出演していて人気があり、個人的にも親しいと思われていた俳優だ。もちろん、この映画が強烈な印象を与えたのはブラック・ユーモアのためばかりではなく、美術的な側面のためでもある。映画のセットはコンセプチュアルアーティストがつくる巨大なインスタレーションのようだったし、俳優たちの服装は一見ぼろきれのようなアバンギャルドなものだった。海外の前衛芸術に触れる機会のなかったソ連の観客にとっては、それが新鮮だったのだ。

驚くべきことに、この映画のセットや衣装の芸術性を高めたのは資金調達の滞りや、製作日程の変更だった。撮影はほぼ2年にわたった。セットも衣装も揃ってないのに、砂漠で延々と過酷な撮影を続けたことになる。必要なセットが撮影開始に間に合わず、廃品回収所で屑鉄を集めてつくったさびた金属の塊で、ハイテク社会のなれの果てを表現した。衣装の一部はロシア最大の映画スタジオ、モスフィルムの倉庫で見つくろい、残りはやはり廃品回収所で探してきた。衣装がきれいだと、監督は納得がいくまで汚してぼろぼろにした。

そして今、15年の時を経て『不思議惑星キン・ザ・ザ』を見ると、隔世の感がある。技師マシコフと学生ゲデバンはキン・ザ・ザ星雲に行ってみて、自分たちが典型的なソ連人であることに気づく。そういう行動様式をしているのだ。(例えば、「資格のある」案内人もつけずに外国をうろついてはいけない、外国人を「挑発」してしまうから、と彼らは信じこんでいる。)だが、この10年で、かつてのそんな常識はロシアから姿を消した。現在のロシアの生活は、当時からすると惑星プリュクの生活と同じくらい奇妙に見えるだろう。
                          (原文 英語/2001年)

スタッフ
監督:ゲオルギー・ダネリヤ
脚本:レヴァス・ガブリアゼ+ゲオルギー・ダネリヤ
撮影:バーヴェル・レヴェシェフ
美術:アレクサンドル・サムレキン・テオドル・テジク
音楽:ギア・カンチェリ
製作:モスフィルム・スタジオ
© Mosfilm Cinema Concern, 1986 
キャスト
ウエフ(太め):エヴゲーニー・レオン
ビー(ノッポ):ユーリー・ヤコヴレフ 
マシコフ(おじさん/建築技師):スタニスラフ・リュブジン
ゲデバン(バイオリン弾き/学生)レヴァン・ガブリアゼ 
1986年/ソ連+ジョージア共和国/カラー/デジタル/135分
日本版字幕:太田直子

8月20日(土)新宿シネマカリテにてレイトショー!

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