映画『キャロル(原題: Carol)』
『太陽がいっぱい』『殺意の迷宮』などで知られる米国の女性作家パトリシア・ハイスミスが52年に発表したベストセラー小説「ザ・プライス・オブ・ソルト」を基にした恋愛ドラマ。同性ながらも強く惹かれ合う女性たちに待ち受ける運命を追い掛ける。
メガホンを取るのは『エデンより彼方に』『アイム・ノット・ゼア』などのトッド・ヘインズ。
『ブルージャスミン』などのケイト・ブランシェット、『ドラゴン・タトゥーの女』などのルーニー・マーラが共演。
彼女らの熱演はもとより、舞台となる1950年代初頭のニューヨークを再現した美術にも注目。ルーニー・マーラが第68回(2015年)カンヌ国際映画祭で女優賞を受賞。
あん…うっとり、そしてゾクゾク…。切ないけれど情熱的。何もかも隅々まで綺麗過ぎて恍惚…。
冒頭のカット、画面の色調、音楽でググッと心を掴まれてそのまま最後までアッという間。当時の匂いを感じさせる緑がかった色調、ソフトフォーカス(汚れたガラス越しとか雨の車窓越しとか)やアップを多用したカット、それぞれの視線や目線? 眼差し? を意識したショットが当時の社会ですべてを内に秘めたまま同性愛に堕ちていく2人の繊細な感情や心の揺らぎを巧みに表現してるんだよね。
肩にそっと置く手、相手への優しい眼差し、何気なく心に入り込む言い回しとその発音、それらすべてが熱っぽくて印象に残る。それぞれを見つめる瞳は見つめ合うよりも燃え上がっていたり、電話やレコード、写真といったアナログ感に2人のじっくりとゆっくりと育まれていく関係が見え隠れしていたり。
2人の演技、というよりも女優としての美しさに圧倒される。衣裳もキレイ、メイクも素敵。ルーニー・マーラーの登場シーンなんてヘプバーンに見えたよ…。小物や美術も作品の美しさをアップ。音楽も良くってさ。細やかで丁寧な演出といい、撮影技術といい、本当に何から何まで素晴らしい。
殊更同性愛を強調し過ぎない純粋なラブストーリーっていうのも良いじゃないね。惹かれ合い、ためらい、恥じらい、愛し合い、想いを秘め、苦しみ…それって普遍的な恋愛だよね。
クラシカルな味わいでシルクのような肌触りの傑作。
恋ってするもんじゃないんだね、堕ちるもんなんだね。なんちゃって。
シネフィル編集部 あまぴぃ