9月19日公開される3年前の反原発デモに迫ったドキュメンタリー映画『首相官邸の前で』。
安保法案で揺れる情勢の中、福島第一原発事故への抗議行動として約20万人が首相官邸前を埋め尽くした様子を追ったフィルムが公開されることで、今後大きな世論を巻き起こしそうだ。
本作は、当時のデモに参加した社会学者の小熊英二がメガホンをとった。
あの光景を記録に残し、後世に伝えることが、学者としての使命と考えて製作に踏み切ったという。映画製作は初体験であったという小熊だが、ミュージシャンとしてCDの録音やミキシングをしてきた経験などを活かし、ネット上の動画を撮影者の許諾を得ながら使用するなどして完成までたどりついた。
原発事故後に起こった反原発運動が、その後徐々に参加者を増やし、最終的に20万人のデモにまで膨れ上がっていくプロセスをデモに参加した8人の男女へのインタビューをはさみながら淡々と描いていく内容に仕上がっている。
監督の言葉
私は、この出来事を記録したいと思った。自分は歴史家であり、社会学者だ。いま自分がやるべきことは何かといえば、これを記録し、後世に残すことだと思った。
映画を撮ったことはなかった。映画作りに関心を持ったこともなかった。しかし、過去の資料の断片を集めて、一つの世界を織りあげることは、これまでの著作でやってきた。扱うことになる対象が、文字であるか映像であるかは、このさい問題ではなかった。
いうまでもないが、一人で作った作品ではない。同時代に現場を撮影していた人びと、インタビューに応じてくれた人びとが、すべて無償で協力してくれた。
なにより、この映画の主役は、映っている人びとすべてだ。その人びとは、性別も世代も、地位も国籍も、出身地も志向もばらばらだ。そうした人びとが、一つの場につどう姿は、稀有のことであると同時に、力強く、美しいと思った。
そうした奇跡のような瞬間は、一つの国や社会に、めったに訪れるものではない。私は歴史家だから、そのことを知っている。私がやったこと、やろうとしたことは、そのような瞬間を記録したという、ただそれだけにすぎない。
いろいろな見方のできる映画だと思う。見た後で、隣の人と、率直な感想を話しあってほしい。映画に意味を与えるのは観客であり、その集合体としての社会である。そこから、あなたにとって、また社会にとって、新しいことが生まれるはずだ。