『ドローン・オブ・ウォー』手を汚さない殺戮。けれどこころはやはり、壊れる。

 なんか月刊になっている連載ですみません。
 昨日『ドローン・オブ・ウォー』を最終試写でやっと見てきました。これは実話に基づく物語で、ドローンによる爆撃・殲滅作戦が一番盛んだった2010年が舞台になってます。
 アメリカの空軍ってのは第二次世界大戦までは海軍や陸軍のおまけで、一つの軍組織として認められていなかったんだそうです。で、どうにか独立した軍組織として認められたくて、空爆を一生懸命やって実績を上げようとしたんだそうな。で、実績が上がっているかどうかの検証が必要だったので、広島・長崎に戦略爆撃調査団がやってきて調査していったというわけです。
 
 陸軍・海兵隊というのはいつも白兵戦にぶち込まれることになる軍隊なわけで、どれだけ銃の引き金を躊躇なく引けるかが大切なんですね。アメリカはキリスト教国で、それこそ物心ついた時から「十戒」のひとつ、つまり「なんじ殺すなかれ」を叩き込まれ刷り込まれています。そういう人たちは戦地に行っても、第二次大戦のときは80%~85%くらいの兵隊が銃の引き金を引けなかったので、兵隊教育を考え直し、例えば射撃訓練の的を人型にするとかして、ベトナムの時は90%くらいが引き金を引けるようになっていたんだそうです。
 
 ところが、ここで新たな問題が持ち上がります。PTSDです。これは今もって解決されていませんが、とにかくどうにか兵士たちに「自分は人を殺した」という罪悪感を持たせない、もっと根本的にはできるだけ戦死者を出さない=白兵戦・市民戦には持ち込まないために、始まったのが、ピンポイント爆撃からさらにすすめてドローン作戦だったわけです。

画像: 『ドローン・オブ・ウォー』手を汚さない殺戮。けれどこころはやはり、壊れる。

 この映画の監督はアンドリュー・ニコルスです。『ロード・オブ・ウォー』で武器商人を描き、戦争というものを起こし維持する、そして待ち望むシステムを暴露してくれた監督です。『ガタカ』でデビューしたときに組んだイーサン・ホークと再度組んで、手を汚さない殺戮マシーンであるドローン爆撃機を操縦するもと戦闘機パイロットだった空軍少佐の精神崩壊を描きます。

 ニコルスはデビュー作から映像美というか構成にたいしてこだわりのある監督ですが、今回の映像構成は意図的なのが見え見え、とはいえ、おそらく映画、インディ系やアート系の"考えながら見なければいけない"映画を見慣れていない人にとっては、なんかこの画はさっき見たかなー、くらいにしか思わないだろう"濃さ"で、監督の意図を映像に反映しています。

 舞台はネバダ州にある空軍基地と、主人公が暮らしているリノ(ラスベガスのカジノ・ホテルぞーんからほど近い分譲住宅地)です。彼がドローン爆撃で出撃しているのはアフガンあたりの中央アジアから中東にかけての地域です。このどちらもが、砂漠地帯。ドローンのカメラから送られてくる砂漠の中の一部に密集して建っている日干し煉瓦作りの家々と、空撮(ドローンカメラかも)で撮られた砂漠の中の一部に整列して建っている主に基地に勤めている人たちの住宅。空から見れば似たようなものです。


 そしてそこで暮らしている人々も、洗濯物を干している女の人とか、自転車に乗って遊んでいる子どもとか、監督は両方に同じような行動をしている人を配置して、どちらも同じ人間で、同じように暮らしていると観客に意識させているわけです。

けれど、片方は爆撃され、粉々になって死んでいく。その爆撃をした人は、勤務を終えると家に帰って子どもを抱き上げ、ご飯を食べて、妻と寝る。
 その繰り返しが、主人公の精神を壊していきます。アルコールにおぼれ、妻とは溝ができ、自分が殺している人たちについて悩む日々。
もとは爆撃機パイロットだったので、自分も撃ち落されるかもしれないというエクスキューズで爆弾を落とすことを正当化できたけれど、12000KM離れたところからの遠隔操作で、絶対撃ち落とされも狙撃もされないところで爆弾を落とす「ボタンを押す」のが、たまらなくなっていくわけです。

 これは演出かもしれませんが、この空軍基地にドローン爆撃機操縦要因として派遣されてきた新兵に向って、この基地の高官である大佐が演説するシーンがあります。


「君たちの多くはゲームセンターでリクルートされた。シューティングゲームの得意な者たちだ」
続けて、「君たちが爆弾を発射する先にいるのは君たちと同じ人間である」というのですが、それは実際には言わないと思いますね。いったら考えちゃう人も出てくるので新兵訓練的にはまずいですもの。
でも実際に、現在は志願兵制なので、兵士のリクルーターはショッピング・モールとか、暇で金のない若者が集まるところにいって探すわけ(マイケル・ムーアの映画でありましたよね)ですから、ゲームセンターから連れてくるってのは、あながちウソではないのではと思います。
 
 今、戦争法案を通そうと日本政府は躍起になっていますが、その先にあるのがこういう「手を汚さない殺戮」ではないと、誰が言いきれるでしょう。
『ロード・オブ・ウォー』で描かれたように国をあげて武器商人になることを許すことで大儲けしたいのでしょうが、その先にあるのが『ドローン・オブ・ウォー』なのです。他人ごとではありません。
 自分のこととして考えてみる、一つのきっかけにしてほしい映画です。

映画『ドローン・オブ・ウォー』予告編

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