私の人生を変えた1本の香港映画
私には自分の人生を変えた一本の映画がある。
それは、1995年、17歳の夏に観た『恋する惑星』という香港の巨匠、王家衛(ウォン・カーウァイ)監督が描いた作品で、当時はまだ日本で無名であった金城武やフェイ・ウォン、トニー・レオンらの名前を一躍有名にした映画でもある。
当時高校3年生であった私は所属することになったばかりのプロダクションの社長の薦めでこの作品を観に行くことになる。そしてそこで受けた衝撃は自分の想像を遥かに超えるインパクトであった。
なにせ進路で悩んでいた当時の自分の道を、中国語の語学留学というその時まで全く思い描いてすらいなかった別の道へと導いてしまったのだから---。
劇中、中でも印象強かったのは金城武が寂しさを埋める為に夜中の公衆電話から色々な女性に電話をかけまくるシーンなのだが、北京語や広東語だけでなく、しまいには日本語まで飛び出してきたのだからあれには驚いた!しかも流暢な日本語でだ。
その時はまだ彼が日本と台湾のハーフだということを知らなかったので、世の中には言葉をここまで巧みに操りながら映画に出演するような俳優もいるのだなとたじろいだほどだ。
同時にあの衝撃は「オレも多言語を駆使しながら世界に出て活躍出来る俳優を目指したい。」と若かりし頃の自分に新たな人生の目標と夢を与えてくれた。
そうして翌年から私は台湾へ北京語留学に出かけ、以降台湾や香港、中国を行き来しながら現在も活動を繰り返すことに繋がっている。
『恋する惑星』と出会わなかったらもしかしたら全く違う人生を歩んでいたかもしれないし、今のような生き方は選んでいなかったかもしれない。
あの映画は文字通り、私の人生を大きく変えてしまったのだ。
『恋する惑星』のストーリーを少しだけ紹介すると、失恋したばかりの金城武とトニー・レオン二人が扮する警官が、それぞれ違うタイプの女性と出会い、そこで交錯するそれぞれの些細な心模様の変化を描いた作品だ。
心理描写が実に絶妙で、ストーリーの展開に合わせて飛び出てくる役者のセリフがいちいちオシャレなのもグッと作品に引き込まれる要因の1つだろう。
セリフ自体はサラっと伝えられているのに非常に印象的で心に響く言葉も多く、ウォン・カーウァイ監督のセンスを感じずにいられない。
また独特のカメラワークで作品を紡ぐ手法も多用されていて、その効果が当時の中国返還前の少し怪しささえ漂う雰囲気を残していた香港の街並みと非常にリンクしている。
危険な香りさえスクリーンを通しながら感じてしまう作品にも関わらず、そこに登場する人物たちはいたって平凡であり、平凡な日常に心を揺らしながら平凡に生きているのだ。
その様子はミスマッチであるようで、その実見事にマッチしていて、まるでアートのように美しい。
私の人生を変えた『恋する惑星』。
過去に見たことがあるという方だけでなく、新しく作品を見るという方にとってもきっと何かを感じてもらえる作品なのではないかと思う。
お薦めの華流映画として是非紹介させてほしい。