2020年の東京オリンピックの、ロゴのデザイナー佐野氏の一連の作品で、パクリ疑惑が話題になっています。
特にサントリーのキャンペーンにおける、トート・バックのデザインについては、自ら取り下げたことをみても、彼はその事を自覚しているのでしょう(実際にデザイン・ワークをしたのは、彼の事務所スタッフかもしれませんが)。
デザイナー本人からは、「オマージュ」という便利な言葉もつかわれていますが…。
今回のトートバックのデザインの場合は、「引用」とか 「剽窃」ですね 。
和歌の「本歌取り」などは、オマージュと言えます。
そうですね…見たものや体験が、熟成されて記憶の底に溶け込んだものが、あるきっかけで出てくるのは、教養とも、創造的な行為だといえますからね。
元ネタへの敬意がある場合は「オマージュ」と言われますね。
「パクリ」に似た言葉に、「模倣」という言葉があります。
まあパクリには創造性がないので、模倣とは似て非なるものとは言えます。
美術や建築のデザイン史などをひもとくと、そのほとんどが「模倣の歴史」と言えます。
たとえば聖書のある場面を、ダ・ヴィンチが描くと、ラファエロやルーベンスがその影響を受けて、再生産していくという…。
しかしそれは単なる模倣でなく、創造的な行為が含まれています。
かの黒澤明も「創造とは記憶から生まれる」と言っていて、「映画も知らず知らずのうちに、かつてみた作品の影響を受けているものだ」という趣旨のことを語っていて、模倣には寛容といえます。
黒澤明の『影武者』のラストで、武田騎馬軍団の馬が射撃されて、のたうち回っている場面がありますが、外国の批評家から、
「ピカソのゲルニカみたいですね」と指摘され、黒澤本人も「なるほど…」
と思ったというエピソードがあります。
自分でも意識せず出てくるものとはそういうことなのでしょうね。
分かりやすく言えば、レオーネの『用心棒』はパクリ。
ジョージ・ルーカスの『スター・ウォーズ』は、黒澤作品の模倣と分類できるかもしれません。
ただルーカスが『影武者』に援助を申し出たのは、『スターウォーズ』がヒットし過ぎたため、後ろめたさがあったのかも…と勘ぐりたくもなりますが(笑)。
しかも自腹でなく、20世紀フォックスに金を出させたとういうのは、さすが実業家のルーカスだと感心します。余談が過ぎましたね…。
仁科 秀昭
:天井桟敷、東宝撮影所などの美術スタッフを経て、
現在はミュージアムプランナーとして、活躍中。