野島孝一の試写室ぶうらぶら シネフィル版
5月 第1回
5月は、カンヌ国際映画祭が始まり、映画業界はカンヌに移った感あり。
カンヌには久しく行っていないが、青い海に浮かぶ白いヨット、まぶしい太陽が思い出されてならない。
昼間からビールやワインを飲んでも眠くはならなかった。
やたらと歩き回っていたものだ。
エミール・クストリッツアやジョニー・デップにあったりしたものだ。
このたびシネフィル篇として、『野島孝一の試写室ぶうらぶら』を掲載していただくことになりました。
よろしくお願いします。
さて、第一回の目次はーー。
「チャッピー」「あん」「リアル鬼ごっこ」「アナーキー」「フェデリコという不思議な存在」「ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」「皇帝のために」
「チャッピー」ニール・プロムカンプ監督
「チャッピー」は「第9地区」でエイリアンと人間の共存を描いて話題になった南アフリカのニール・プロムカンプ監督作品。
相変わらず、南アのヨハネスブルグの近代化された大都会と、貧しいスラム街の対比が、うまく作品の背景に生かされている。
兵器企業でロボット兵器の開発を担当するディオン(デーヴ・パテル)は、自らが開発したA1(人工頭脳)のチップを、廃棄処分になったロボットに埋め込む。
これに目を付けたのはニンジャら3人のギャング。
このA1ロボット「チャッピー」を誘拐し、悪事の手先に使おうとする。
しかしチャッピーはバッテリーが5日間しか持たず、5日後には死ぬ運命だ。赤ん坊のように何も知らないロボットに、悪事を仕込もうとするギャング。人間の悪事に加担しないように、教育するディオン。
これを見ていると、環境と教育の関連性について考えさせられる。
シガニー・ウィーバーやヒュー・ジャックマンが出演。
なかでもヒュー・ジャックマンが悪役を演じているのは見もの。
チャッピーを演じたのはシャールト・コプリーだが、モーション・ピクチャーの器具を付けて演技したのを、CGでロボットの映像化しているため、本人の顔は一切出ていない。
単純なロボット・アクションの傍ら、文明批評的な一面がちらちら出てくるのは興味深い。もちろん何も考えずに楽しむこともできるのだが。
ソニーピクチャーズ配給。5月23日から全国順次公開中。
「あん」河瀨直美監督
「あん」は、河瀨直美監督がドリアン助川の原作を映画化したもので、河瀨監督がオリジナル脚本以外に取り組んだのは初めて。
サクラの花が咲き乱れる春の日。小さなどら焼き屋を営む千太郎(永瀬正敏)のところに、アルバイト募集の張り紙を見た老女(樹木希林)が声をかけてきた。店で使ってほしいという依頼だった。
一度は断った千太郎だったが、老女が持ってきた餡を食べて考えを変え、餡を作ってもらう。
その後、どら焼きの味が評判になり、行列ができるようになった。
樹木希林の実孫(内田伽羅)が中学生役で出演し、フレッシュな印象。
最初は小豆へのこだわりなど、グルメ映画調だが、ハンセン氏病とのかかわりが出てきて調子は一変する。
河瀨監督の持ち味である自然描写が相変わらず強いインパクトをもたらす。たとえば風に揺れる木々など。
この映画はフランスなど外国の支援を得ており、スタッフも多国籍。自然の描写、自然音の収録など、なかなかすばらしい。
エレファントハウス配給。5月30日から全国順次公開中。
「リアル鬼ごっこ」園子温監督
「リアル鬼ごっこ」は、これまで何度も映画化されてきた。
今回は、園子温監督のオリジナル脚本だというので、注目した。
画面は北海道のような草原を走る観光バス。
女子高生たちの修学旅行のようだ。
突然、風が吹き、バスは真っ二つになる。つまり屋根の部分はきれいさっぱりなくなり、高校生たちは胴体が寸断されてしまう。
ただ1人の女子高生ミツコ(トリンドル玲奈)が生き残り、逃げていくと、そこは女子高の校舎。
アキ(桜井ユキ)たち級友が、何事もないようにミツコを迎え入れたが…。
ミツコが危機を逃れようと、走って逃げるたびに、ミツコはケイコ(篠田麻里子)やイズミ(真野恵里菜)に変化。
さっぱりわけがわかりません。
解決説明のシーンは一応あります。でも、これまたよくわからん。
困ったことです。
原作では全国の佐藤さんが鬼に狩られるが、こっちの鬼は何でしょうか。「?」
松竹、アスミック・エース配給。7月11日。
「アナーキー」マイケル・アルメイダ監督
「アナーキー」はマイケル・アルメイダ監督によるアメリカ映画だが、シェイクスピアの戯曲「シンベリン」を現代に移し替えた。
シェイクスピアの原作は、古代ブリテンの王シンベリンが、ローマとの関係が悪化する中、娘のイノージェンが身分の劣るポステュマスと結婚したことに激怒。ポステュマスを追放してしまう。
「アナーキー」はシンベリンを麻薬組織のボスに変更。演じるのはエド・ハリス。後妻(ミラ・ジョヴォヴィッチ)は、イノージェン(ダコタ・ジョンソン)に自分の息子と結婚させようと画策。ついにはイノージェン毒殺を図る。
追放されたポステュマス(ペン・バッジリー)は、友人のヤーキモー(イーサン・ホーク)と、イノージェンの貞操をヤーキモーが奪えるかどうかの賭けをする。
どうみたって内容が現代からかけ離れている。それにバイク集団の麻薬組織のボスが、国王に喩えられるわけがないだろう。
ローマ帝国が警察に変えられるなんて、まじ笑える。
要するに換骨奪胎そのものがナンセンスなのだ。
まあミラ・ジョヴォヴィッチの歌が聴かれたのは、よかったけど。珍品というほかはない。
武蔵野エンタテインメント配給。6月13日新宿シネマカリテ他にて、全国順次公開。
「Viva!Italy」イタリア映画特集
エットレ・スコーラ監督「フェデリコという不思議な存在」
「Viva!Italy」というイタリア映画特集については、ルカ・ルチーニ監督の「ただひとりの父親」とナンニ・モレッティ監督の「夫婦の危機」を、後日このコラムで紹介するが、他の1本が、エットレ・スコーラ監督の「フェデリコという不思議な存在」。
フェデリコとは当然フェデリコ・フェリーニ監督のことだ。フェリーニ監督とスコーラ監督が親しかった、という事実を知らなかった。
というよりは、若者の時代からの仲間だったのだ。
若きフェリーニは、ローマにある風刺雑誌「マルカウレリオ」で漫画を描くようになった。スコーラ監督も8年後に、この雑誌社で漫画を描くようになった。
不眠症のフェリーニ監督は、夜通しローマの街を車で走り回った。
スコーラ監督はそのお供をしていたという。
そんな監督同士の交流が、懐かしいフェリーニ作品のコラージュを通じて伝えられる。
「甘い生活」「アマルコンド」「道」「ローマ」…。
なんて映画にとって、幸せな時代だったことか。
音楽を聴くだけでも、往時がよみがえる。
パンドラ配給。6月27日ヒューマントラスト有楽町。
「ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」
「ひつじのショーン~バック・トゥ・ザ・ホーム~」は、イギリスのアニメーション。
クレイ・アニメーションという手法は、古くから使われてきたが、実写を使ったり、CGを使ったりして、ずいぶん進歩している。
イギリスの片田舎の牧場で、ひつじのショーンは、仲間たちと愉快に暮らしている。
ある日、牧場主が乗ったキャンピングカーが暴走して、都会まで突っ走った。
牧場主は頭にけがをして記憶喪失。
ひつじたちと犬は牧場主を捜す旅に出る。
素朴な絵とユーモアが魅力。
せりふはひとつもないので、子供にもわかりやすい。
東北新社配給。7月4日公開。
「皇帝のために」パク・サンジュン監督
「皇帝のために」は韓国映画。
野球賭博に手を出した、選手のイ・ファン(イ・ミンギ)は、逮捕され、居場所がなくなる。
救ってくれたのは金融業・皇帝キャピタルの代表・サンハ(パク・ソンウン)だった。
ファンは貸金の取り立てをしながら、腕っぷしと度胸で組織の上層部に成り上がっていく。
よくあるタイプのフィルム・ノワールだが、「TSUNAMI~ツナミ」で消防士を演じたイ・ミンギが、すごみのある目つきで上昇志向の若者を好演。イ・テイムとの激しいベッドシーンも演じる。
パク・ソンウンの穏やかな表情もいい。
だが、ラスト近くにイ・ファンの少年時代の描写を入れたのは失敗だと思った。不自然だ。
パク・サンジュン監督作品。
彩プロ配給。6月20日シネマート新宿他。
コラム~野島孝一の試写室ぶうらぶら~シネフィル篇