「リメイク」をする理由

山下
高田さんはリメイクしたい映画とかありますか?

高田
昔、「ソニー・ピクチャーズに企画を出したいんだけど、何かリメイクしたい映画とかない?」と訊かれて、『タクシードライバー』(76)と答えたことはあります(笑)。全共闘世代で、沢田研二のような人が運転手をしているという設定で。

山下
原作ものを撮るときもそうですけど、自分が好きで完成されていると思っている作品をわざわざもう一回つくり直すって、意味が分からないですよね(笑)。ただ昔、冗談で向井康介と市川崑監督の『股旅』(73)をリメイクするなら、という話はしたことがあります。小倉一郎を山本浩司、尾藤イサオが山本剛史、ショーケンを木村拓哉でやるという滅茶苦茶なパワーバランスで(笑)。当時もATG映画でどうしてショーケンが3番手なんだという違和感はあったと思うんですけど、そういう見え方のする映画をやってみたいなという気持ちはありましたね。

Matatabi (1973) ORIGINAL TRAILER [HD 1080p]

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根岸
リメイクの中にはセルフリメイクというのもありますよね。次郎長三国志のマキノ雅弘監督のように、当時の映画界で次から次に作品を撮っていた監督には、会社側から「またあれやってや」というオファーが平然と来るだろうし、過去に撮ったものの焼き直しも少なくなかったはず。あの演目をもう一度というパターンもある。一方で過去にある程度の成功を収めた作品を、モノクロからカラー、スタンダードからシネスコへ、役者も豪華にというような派手なリメイクもあり、レオ・マッケリーの『邂逅』(39)が『めぐり逢い』(57)[註1]となったようなケースには、マッケリーが5年ぶりの監督作品として打って出る、という裏事情もあったようです。山下監督は自作のセルフリメイクなどを考えてみたりしたことってあります?

山下
考えたことないですね……。『股旅』もそうですけど、今こういう座組みだったら面白いとか、自分の中でキャストがイメージできると乗っかりやすいとは思うんですけど。この話を現在に置き換えてやるとか、もう一度つくり直すということには乗らない感じはしますね。

根岸
少し前に『リンダ リンダ リンダ』をアニメでリメイクするのはどうでしょう? という話をいただいたことがありますが、今まさにアニメもリメイクも(別個ながら)つくっているので……断ってしまいました。海外で実写リメイクとかなら面白そうなんですけど。あるいは短編をリメイクするというか、長編枠に拡げてセルフリメイクするとかなら結構いけるかもしれない。山下組でいえば『土俵際のアリア』(09)[註2]とか、銀座で撮ったLDHの「言えない二人」[註3]とかね。塩田組だったら14分の短編『約束』(11)[註4]を松浦裕也主演で、とか。まあ、リメイクではない、むしろ続編というかサーガになっちゃうけど、西村賢太原作の『苦役列車』[註5]を同じ主人公でやるというのだったらありうるかもしれませんね。

山下
西村賢太さんの作品をまたやるというのはありますね。『苦役列車』は主人公の北町貫多が19歳のときの話でしたけど、中年になって女性との同棲を描いた「秋恵もの」シリーズを、それこそ荒川良々さん主演でやりたい。西村さんの小説は荒川さんもお好きなので、愛嬌がありながら人でなしで、さらに凶暴になった貫多を荒川さんが演じるという(笑)。

註1:この映画はウォーレン・ベイティ主演で1994年にもリメイクされたが成功には到らず。レオス・カラックスは宇宙飛行士二人のメロドラマとしてリメイクをしてみたいと、とあるインタビューの場で言明している。

めぐり逢い (字幕版)

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註2:ドラマ配信プロジェクト「LISMOオリジナルドラマ」として制作された山下敦弘監督、向井康介脚本の短編映画。出演は栗山千明、森山未來。今見れば子役時代の北村匠海や井之脇 海が出ている奇妙に豪華なギャグ主体の携帯ドラマ。

註3:詩と音楽、映像を一つに融合した「CINEMA FIGHTERS project」の第4弾として制作された山下敦弘監督、向井康介脚本の短編映画。出演は白濱亜嵐、門脇麦、坂井真紀。

註4:ジョニー・ウォーカーの映像体験プロジェクト「Keep Walking Theatre」として制作された塩田明彦監督・脚本の短編映画。主演は松浦祐也。

註5:『1秒先の彼女』のチェン・ユーシュン監督は、山下敦弘監督作品の中では『苦役列車』が特に良かったと台北映画祭のプレミア上映後の酒席の場で洩らしていた。またラジオ番組「THE TRAD」の収録の場でパーソナリティの稲垣吾郎氏は、ゲストの山下監督に『苦役列車』好きなんですよ、えっ?あれって山下監督の映画だったんですね、失礼しました、と言っていた。