森山未來がアーティスティック・ディレクターを務めるアートエキシビションをはじめ、国内外の注目の気鋭アーティストが一堂に会するアートフェア、アート×音楽の船上ライブ、全国から厳選されたショップが並ぶマーケット、多彩なゲストによるトークセッションなど、多様なプログラムを展開し、感性を刺激する国内最大級のアートフェスティバル「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」が寺田倉庫を中心とした東京・天王洲運河エリア一帯で10月10日〜12日(月)まで開催中。
アートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」
今回のフェスティバルの中心的な企画となるのが、寺田倉庫G1-5Fで開催されるアートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」だ。
アーティスティック・ディレクターを森山未來、キュレーターを吉田山と渡邊賢太郎が務め、7組のアーティストによる作品が展示されている。
「REFLUX」とは、逆流や環流を意味する言葉。進歩や発展、効率化を追い求める現代社会において、忘れられがちな身体の感覚や記憶、目には見えない気配に立ち返り、そこから新たな可能性を探ろうとする展覧会である。
展示風景:磯村暖《Informe-action Center #749》(2026)
photo©︎moichisaito
会場に足を踏み入れると、まず磯村暖のシャボン玉を用いたインスタレーションが迎える。空間を漂い、やがて消えていくシャボン玉は、風や空気の流れといった普段は見えないものの存在を感じさせる。同時に、子どもの頃にシャボン玉を追いかけた記憶や、言葉によって物事を理解する以前の感覚を呼び起こす。
興味深いのは、入口付近では作品の説明をあえて前面に出さず、まず鑑賞者自身の感覚で作品と向き合うよう構成されていることだ。意味を知ることより先に、身体が反応する。その体験が、展覧会全体への導入となっている。
展示風景:山内祥太《In Between...Us?》(2026)
photo©︎moichisaito
山内祥太の《In Between… Us?》は、植物の根や神経のように広がる白い構造体を用いた作品だ。中心や上下関係を持たずに広がる植物の地下茎「リゾーム」の概念を背景に、音や光、身体の動きが互いに反応し合う関係をつくり出している。周囲の音や声に応じて光が変化し、作品はその場の状況によって異なる姿を見せる。
展示風景:津田道子《あなたは、翌日私に会いにそこに戻ってくるでしょう。》(2016/2026)
photo©︎moichisaito
津田道子のインスタレーションでは、フレーム、鏡、スクリーン、カメラが巧みに組み合わされている。フレームを覗き込んだり、空間を歩き回ったりするうちに、思いがけない場所に自分自身の姿が現れる。普段は自分が他者や作品を見ているつもりでも、実は自分もまた見られる存在であることに気づかされる。見ることと見られること、その関係が揺らぐ不思議な空間である。
展示風景:手塚治虫の展示
photo©︎moichisaito
漫画家・手塚治虫の作品を現代アートの文脈で紹介する試みも興味深い。注目するのは、漫画の中に繰り返し登場する群衆を描いた「モブシーン」だ。通常は小さな紙面で読む漫画を大きく引き伸ばし、空間的に展開することで、鑑賞者自身が群衆の一人として画面に入り込むような体験が生まれる。漫画の線や人物表現を、物語を伝える手段としてだけでなく、作者の身体的な表現として見つめ直す展示となっている。
展示風景:evala《Sprout "Coloratura"》(2026)
photo©︎moichisaito
視覚から聴覚へと感覚を切り替えるのが、サウンドアーティストevalaによる《Sprout "Coloratura"》だ。160台のオリジナルスピーカーを用いた立体的な音響空間には、ソプラノ歌手・田中彩子の声が響き渡る。歌声だけでなく、息遣いやノイズのような音も人間の声から生み出されている。音は空間を移動し、鑑賞者が立つ位置や身体の向きを変えることで聞こえ方も変化する。音楽を聴くというよりも、音の中に身を置き、身体全体で感じる体験だ。
展示風景:Ideal Copy《Channel: Money》(2026)
photo©︎moichisaito
展示風景:Ideal Copy《Channel: Money》(2026)(部分)
photo©︎moichisaito
匿名のアーティストコレクティブIdeal Copyによる《Channel: Money》では、100万円分の100円硬貨が作品として展示される。貨幣そのものを大量に並べることで、普段は数字として捉えがちなお金の物質性や、価値のあり方を問い直す。展示された硬貨は会期終了後、再び流通に戻されるという。デジタル決済が日常化した現在、実際の硬貨の量や重さを想像させるこの作品は、お金と私たちとの関係を改めて考えさせる。
展示風景より、Ryu Ika《Precious promise》(2026)
photo©︎moichisaito
Ryu Ikaの作品は、移動と祈り、そして人間の居場所をテーマとしている。青い布をまとった造形物は、モンゴルの遊牧民が道標や信仰の対象として築く「オボー」に着想を得たもの。周囲には移動や旅を思わせる映像が配置され、内部には祈りや家族の記憶につながる品々が収められている。異なる土地や文化の間を移動する人々が、何を持ち運び、何を心の拠り所とするのか。作家自身の経験とも重なる問いが、空間全体に込められている。
本展では、展示作品に加えて、contact Gonzoなどのパフォーマーによる身体表現も組み込まれている。作品は固定された鑑賞対象ではなく、音や動き、人の存在によって変化し続けるものとして提示される。
視線や音、記憶、貨幣、移動といった一見異なる主題を扱いながら、共通しているのは、私たちが普段当たり前だと思っている感覚や価値観への問いかけである。作品を理解すること以上に、まず自分の身体で感じること。そこに、この展覧会の大きな特徴がある。
展示風景:記者発表会より、左から古谷留美(東京都生活文化局長)、evala、古後友梨(MEET YOUR ART共同代表)、津田道子、加藤信介(MEET YOUR ART代表/MEET YOUR ART FESTIVAL実行委員長)、山内祥太、森山未來(「MEET YOUR ART」 MC、MYAF2026アートエキシビション アーティスティック・ディレクター)、Ryu Ika、吉田山(MYAF2026アートエキシビション キュレーター)、渡邉賢太郎(MYAF2026アートエキシビション キュレーター)
photo©︎moichisaito
多彩な表現が交差する、2つのアートフェア
フェスティバルのもう一つの大きな柱となるのが、寺田倉庫の2会場で開催されるアートフェアだ。それぞれ異なるコンセプトを持ち、作品の鑑賞だけでなく、アーティストとの交流や作品の購入を通じて、現代アートとの多様な関わり方を提案している。
寺田倉庫D HALLで開催される「CO-CROSSOVER -Romantic beyond us (earth)-」は、国内外のアーティスト、キュレーター、クリエイターがジャンルを超えて集うアートフェアだ。
共同ディレクターにMarco Galleryの菰田寿允を迎え、70組以上のアーティストによる17の展示企画を展開。「Romantic beyond us (earth)」をテーマに、異なる背景や価値観を持つ人々が出会い、そこから新たなコミュニティが生まれる可能性を探っている。
内覧会では、知らない人やものと出会い、違いをそのまま受け止めることの喜びと難しさが語られた。ここでいう「ロマンチック」とは、単に美しい理想を意味するのではなく、異なる存在が関係を築いていく過程そのものを指している。
展示風景:寺田倉庫D HALL
photo©︎moichisaito
展示企画の一つ「混沌熟視(コンクリートジャングル編)」では、AIによる画像生成が身近になる時代だからこそ、実際に現地へ足を運び、自分の目で観察し、手を動かして描くことの意味を問い直す。
天王洲の護岸や水辺を歩き、そこで見つけた風景や生き物を作品へと発展させる。護岸の岩肌に向き合う行為を、達磨の面壁修行になぞらえた彫刻や、都市の水辺に生息する蛇やカニなど、人間以外の生き物に着目した絵画も紹介された。
倉庫や運河、人工的に整備された護岸といった都市の風景も、注意深く観察すると、そこには多様な生命や時間の積み重なりがある。普段は見過ごしてしまう身近な環境から、新たな表現を生み出そうとする試みが興味深い。
このほかにも、現代美術を起点に、身体、テクノロジー、自然環境など多様なテーマを扱う企画が集まる。作家が単に作品を出品するだけでなく、キュレーターや他のクリエイターと協働し、展示そのものをつくり上げる点も、このアートフェアの特徴となっている。
展示風景:寺田倉庫B&C HALL
photo©︎moichisaito
一方、寺田倉庫B&C HALLで開催される「MEET YOUR ARTISTS」は、「アーティストとの対話を通してアートと出会う」をコンセプトとした、アーティスト主体のアートフェアだ。
それぞれの作家が独自の展示スペースを設け、制作の背景や作品に込めた思いを紹介する。作品を鑑賞するだけでなく、作家との距離が近く、気に入った作品を購入することもできる。
展示風景:「青山スタジオ」のサンドバッグの作品
photo©︎moichisaito
青山悟が率いる「青山スタジオ」では、刺繍を用いた作品などが展示されている。青山の新作は、30人のビジネスパーソンとの協働によって生まれたサンドバッグの作品だ。
参加者が職場などで感じるストレスや、対人関係の中で抱える感情をモンスターの姿に置き換え、刺繍によって表現している。通常は運動器具として使われるサンドバッグが、社会の中で抑え込まれた感情を受け止める媒体へと変化している。
展示風景:ソー・ソウエンのウクライナでの滞在制作の展示
photo©︎moichisaito
また、戦争や移動、個人のアイデンティティなど、現代社会の問題と向き合う作品も紹介された。ウクライナでの滞在制作を背景に、戦争によって生活の場所を追われた人物を描く作品は、遠く離れた地域で起きている出来事を、一人の人間の経験として捉えるきっかけを与えてくれる。
現代アートというと難解な印象を持つ人もいるかもしれないが、作品が生まれた背景や作家の言葉に触れることで、その距離はぐっと縮まる。個々の作品とじっくり向き合えることが、このアートフェアの魅力だ。
アートと日常をつなぐマーケット
天王洲運河沿いのボードウォークやボンドストリート、WHAT CAFEでは、「SUPER ART & CRAFT MARKET」が開催される。
ビームスクリエイティブと共同で企画されたマーケットには、全国から80以上のクリエイターやブランド、ショップが参加。アートや工芸、ファッション、雑貨、食など、さまざまな分野のプロダクトが並ぶ。
展示風景:ボードウォークの様子
photo©︎moichisaito
会場ではワークショップや体験型の企画も展開され、作品を鑑賞するだけでなく、自ら制作に参加したり、気に入ったものを暮らしに取り入れたりする楽しみ方が用意されている。
富士フイルムによるインスタントカメラ「チェキ」の無料レンタルも行われ、来場者が自分の視点で会場の風景や作品を撮影できる。アートを鑑賞する人自身も、フェスティバルの体験をつくり、共有する参加者となる。
さらに、屋外には公募型のパブリックアート作品が展示され、5周年を記念したアートフラッグも街を彩る。フェスティバルは展示会場の内部にとどまらず、天王洲の街全体へと広がっている。
ものづくりの思想に触れる、ニューバランスの特別展
リードパートナーであるニューバランスとの共同企画として、特別展「New Balance MADE IN U.S.A.」も開催されている。
展示風景:特別展「New Balance MADE IN U.S.A.」
photo©︎moichisaito
同展では、ブランドを代表する990シリーズを軸に、受け継がれてきた技術やクラフトマンシップ、時代とともに変化するデザインや機能を紹介。アートワークや音楽、香りなど、異なる分野のクリエイターとの協働によって、ものづくりの背景にある思想を多角的に捉えている。
ファッションやスポーツの領域にあるプロダクトを、単なる商品としてではなく、技術や文化の蓄積として見つめ直す企画だ。
現代美術の展示からアートフェア、クラフトマーケット、そして企業との協働企画まで。「MEET YOUR ART FESTIVAL 2026」は、アートを特別な場所に閉じ込めることなく、都市や日常のさまざまな場面へとつなげる機会となっている。
展示風景:船上スペース「T-LOTUS M」の夜景
photo©︎moichisaito
展示風景:小室哲哉と布施琳太郎によるコラボレーションパフォーマンスの様子
photo©︎moichisaito
また運河に浮かぶ船上スペース「T-LOTUS M」では、音楽を中心としたライブパフォーマンスを連日開催。初日の10月9日には小室哲哉と布施琳太郎によるコラボレーションパフォーマンスが披露され、大勢の観客で賑わった。
概要
■ 名称:MEET YOUR ART FESTIVAL 2026
■ 日程:開催中ー 2026年10月12日(月・祝)
■場所:東京・天王洲運河一帯
アートエキシビション「REFLUX たちのぼる兆し」|寺田倉庫 G1-5F *
アートフェア「MEET YOUR ARTISTS」|寺田倉庫 B&C HALL
アートフェア「CO-CROSSOVER -Romantic beyond us (earth)-」|寺田倉庫 D HALL
ライブパフォーマンス|T-LOTUS M *
トークセッション|WHAT CAFE *
マーケット「SUPER ART & CRAFT MARKET」|WHAT CAFE/ボードウォーク/ボンドストリート
■ チケット販売先: https:avex.jp/meetyourart/festival/tickets/■ URL:(HP) https:avex.jp/meetyourart/festival/