金、銀、銅、鉄。人類は古くからさまざまな金属を発見し、それぞれの性質を生かしながら文明を築いてきた。そのなかでも「銀」に焦点を当て、古代オリエントから大航海時代、そして日本の石見銀山へと続く壮大な歴史をたどる展覧会[秋の特別展「古代オリエントから石見銀山へ―銀が動かす世界―]が、東京・池袋の古代オリエント博物館で開催されている。2027年に石見銀山が発見から500年、世界遺産登録から20周年を迎えるのを記念する事業の幕開けとして企画された展覧会である。会期は2026年9月19日から12月6日まで。東京で石見銀山を本格的に紹介する初めての展覧会でもある。
展示風景:《銀鉱石》 石見銀山産出 江戸時代
photo©︎moichisaito
展覧会は5章構成で、第1章「人間と金属の出会い」から始まる。
人類が早くから利用してきた金、銀、銅、鉄。それぞれには異なる特徴がある。金は錆びにくく、数千年を経ても輝きを残すことから、王や神々と結びつく特別な素材となった。銅や鉄はやがて道具や武器として文明を支えていく。
展示風景:《金製円盤形首飾り》 イラン 前1200-前800年頃
photo©︎moichisaito
そして銀には、美しい白い輝きに加えて、もう一つ重要な性質があった。
「重さを量ることができる」ということである。
古代メソポタミアでは、まだ現在のようなコインが存在する以前から、銀の重さによって物の価値を示すことが行われていた。内覧会での解説では、賠償金なども「銀をどれだけの重さ支払うか」という形で表されたことが紹介された。銀は装飾品であると同時に、次第に「価値を測るもの」になっていったのである。
銀は「美しい金属」であるだけではない。それは、人と人、地域と地域を結びつける共通の価値となり、やがて交易や経済を動かしていくことになる。
第2章「銀の造形」では、古代オリエント世界で作られた銀製品が並ぶ。
装身具、神像、容器など、その造形は実に多彩だ。なかでも目を引くのが、動物をかたどった「リュトン」と呼ばれる器である。上部から液体を注ぐと、動物の口などに設けられた穴から流れ出す仕組みを持ち、酒宴や儀礼などに用いられたと考えられている。
展示風景:《仔鹿形リュトン》 国会周辺地域 前 4世紀
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展示風景:《有翼獣紋様皿》 チベット 8~9世紀
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こうした銀器を近くで見ると、その複雑な形だけでなく、制作技術にも驚かされる。一枚の銀板を叩いて立体的な形を生み出す打ち出し、鋳造、細かな線を刻む毛彫り、別につくった部品を取り付ける技術など、現在にもつながる高度な金属加工がすでに使われていた。
内覧会でも、展示された作品について「細かく見ていただけると、ものすごく繊細」と説明され、古代の職人たちが駆使した技術そのものが見どころとして紹介されていた。
また、ペルシア世界で作られた銀器の造形や図像は、その地域だけにとどまらなかった。シルクロードを通して東へ伝わり、中国やチベットなどの文化に取り込まれながら、新たな造形へと変化していく。一つの器を眺めているだけでも、その背後に人や技術、文化が移動してきた長い時間が浮かび上がってくる。
銀のもう一つの大きな役割を紹介するのが、第3章「貨幣としての銀」である。
現在のトルコ西部に栄えたリュディアでは、紀元前7世紀頃、金と銀の合金である「エレクトラム」を用いた初期のコインがつくられたとされる。やがて金貨や銀貨が各地で発行されるようになり、銀は「重さによって価値を測るもの」から、持ち運ぶことのできる貨幣へと姿を変えていった。
展示風景:《アレクサンドロス3世型銀貨》 マケドニア王国 前 4世紀以降
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アテナイをはじめとする古代国家の繁栄にも銀山は大きな役割を果たした。鉱山から得られた銀を貨幣にし、それを交易や兵士への支払いに用いる。銀山を持つことは、国を動かす経済力を持つことにもつながったのである。
興味深いのは、国や時代によってコインの形や意匠が違っても、銀そのものの重さや純度が価値の共通基準となったことである。つまり銀は、言葉も文化も異なる人々の間で通用する「共通言語」のような役割を果たしていた。この仕組みが、やがてユーラシア大陸を横断する交易へと広がっていく。
第4章「銀の時代 ~大航海時代~」では、展示の舞台が一気に世界規模へと広がる。15世紀から17世紀にかけての大航海時代。香辛料などアジアの物資を求めて、ヨーロッパの人々は海へ乗り出していった。船による航路が開かれるにつれ、それまで遠く離れていたヨーロッパ、アジア、日本が一つの交易圏の中で結びついていく。
展示される古地図を見ると、ヨーロッパの人々が日本をどのように認識していったのか、その変化もわかる。
展示風景:《ティセラ日本図》 1595年
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とりわけ興味深いのが1595年に地図制作者、ティセラによって作られた地図である。そこでは日本列島の姿がかなり具体的に描かれ、島根県にあたる地域には出雲や石見の名とともに、銀鉱山を意味する表記も見られるという。遠いヨーロッパにまで、日本の銀山の存在が知られていたことを実感させる資料だ。世界の歴史のなかに、いよいよ石見銀山が姿を現す。
第5章「石見銀山」からがいよいよ石見銀山の話である。石見銀山が本格的に開発されるきっかけとなったのは1527年。博多の商人・神屋寿禎が銀鉱石を発見したことから、その歴史が始まったとされる。
ただし、銀鉱石を見つければ、そのまま銀として使えるわけではない。鉱石から銀を取り出す「精錬」が必要となる。
大きな転機となったのが1533年頃に伝えられた「灰吹き法」である。この技術によって銀を効率よく取り出せるようになり、石見銀山では本格的な銀生産が進んでいった。内覧会でも、この精錬技術の導入が石見銀山発展の重要な契機として紹介された。
展示風景:《御取納丁銀》 日本 16世紀後半
毛利元就が正親町天皇の速意識のために朝廷へ献上したものの控えとして伝わる唯一の現存品。
photo©︎moichisaito
展示は銀そのものだけでなく、そこで働き、暮らした人々にも目を向ける。陶磁器、下駄、硯、かんざし、キセルなどの出土品からは、巨大な鉱山の中にも日常生活が存在していたことがわかる。
展示風景:《石見銀山稼方絵巻》 日本 19世紀
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さらに会場には、石見銀山の坑道「マブ」を再現したコーナーも設けられている。内部はあえて暗くされ、当時鉱夫たちが使った「螺灯(らとう)」と呼ばれる小さな明かりが再現されている。サザエの殻に油を入れて灯したわずかな光を頼りに、人々が岩盤を掘り進んでいたという。明るい展示室で資料を見るだけでは想像しにくい鉱山の環境を、身体的に感じることのできる展示である。
展示風景:《マブ再現コーナー》
photo©︎moichisaito
石見銀山での生産は1923年に終了し、およそ400年にわたる鉱山の歴史に幕を下ろした。その後、2007年に「石見銀山遺跡とその文化的景観」として世界遺産に登録される。
内覧会での解説では、その価値を大きく三つの視点から説明していた。
一つは、石見銀山の銀が大航海時代の東西交流に関わり、世界とのつながりを生み出したこと。もう一つは、銀を生産した坑道や製錬の痕跡などがよく残されていること。そして三つ目は、銀山だけでなく、銀を運んだ道や港、銀山を守った山城などが一体となって残り、現在まで文化的景観を形成していることである。
銀山だけを保存したのではない。銀を掘る人、運ぶ人、売る人が暮らした町と、その周囲の山や道、港までを含めた一つの「銀の世界」が残されているのである。展示室を歩いていると、数千年前の西アジアと16世紀の日本が、次第に一つの物語としてつながっていく。
展示風景:2007年、石見銀山遺跡とその文化的景観はユネスコ世界遺産に登録された。写真はその世界遺産登録証。
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美しい器をつくる素材だった銀は、やがて物の価値を測る基準となり、貨幣となった。貨幣は人と商品を動かし、国を豊かにし、交易路を広げていった。そして海を越えた交易が世界を結びつける時代、日本列島の西端に近い石見銀山もまた、その大きな動きの中に組み込まれていった。
タイトルにある「銀が動かす世界」とは、銀そのものが移動したということだけではない。銀を求めて人が動き、技術が伝わり、文化が出会い、世界の関係そのものが変化していったという意味なのだろう。
古代の小さな銀製品から世界遺産・石見銀山まで。一つの金属を通して眺めることで、世界史と日本史が思いがけないほど近く感じられる展覧会である。
概要
会場:古代オリエント博物館
東京都豊島区東池袋3-1-4 サンシャインシティ文化会館ビル7階
会期:開催中~2026年12月6日(日)
開館時間:10:00~17:00(入館は16:30まで)
※10月18日(日)、11月20日(金)は20:00まで開館
会期中無休
観覧料:一般1,500円、大・高校生1,000円、中・小学生400円
アクセス:東京メトロ有楽町線東池袋駅6・7番出口より徒歩約6分、JR池袋駅東口より徒歩約13分
問合せ先:古代オリエント博物館:03-3989-3491
公式サイト:https://aom-tokyo.com/index.html
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「古代オリエントから石見銀山へ―銀が動かす世界―」シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2026年11月8日 日曜日 24:00
記載内容
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