花鳥風月、雪月花、日本の四季折々の風情が感じられる景色を情緒豊かに描き出した風景画は、いつの時代も人びとの心を魅了します。
江戸時代後期に活躍した浮世絵師・歌川広重(1797~1858)は、四季の移ろいを感じさせる風景画や、色鮮やかな花鳥画で一世を風靡しました。
広重は、日本各地の名所を題材に、さまざまな天候や時刻によって移り変わる風情ある自然の景観や、そこに生きる人びとの日常の暮らしを巧みに捉え、卓越した画面構成力で生き生きとした作品を描き出しました。
五街道の整備がなされ、旅への関心が高まる中、広重の「東海道五拾三次」をはじめとする作品は、当時の人びとに人気を博し、また、現代でもお茶づけのパッケージの中に「東海道五拾三次」のカードが封入されたことで親しまれてきました。
広重は、同時代に活躍し、富士山のさまざまな姿を描いた「冨嶽三十六景」で有名な葛飾北斎とともに浮世絵の2代巨頭として名を馳せました。
このたび東京国立博物館にて特別展「歌川広重 江戸のベストアングル」が、2026 年9月29日(火)~12月20日(日)の期間、開催されます。
本展は、内山晋(うちやますすむ)氏(1893~1980)により蒐集された浮世絵1,025点が、当館に受贈されたことを記念する展覧会です。
内山氏は、歌川広重を中心とする質の高い浮世絵コレクションを築き、出版物や展覧会を通してその魅力を広く紹介するなど、浮世絵の研究と普及に多大な貢献をしました。
本展では、広重の代表作である「東海道五拾三次」(1期)、「木曽海道六拾九次」(2期)、「名所江戸百景」(3 期)の三大シリーズを中心に、風景画、花鳥画の名作が、3期に分けて紹介されます。シリーズ全点が一度に公開される大変貴重な機会です。
広重が捉えた「江戸のベストアングル」、日本の美しい風景をぜひご堪能ください。
1 期「東海道五拾三次」と江戸名所
9 月29日(火)~10月25日(日)
江戸・日本橋から京へ向かう旅の情景を描いた広重の出世作「東海道五拾三次」(保永堂版)と、広重が生涯にわたって取り組んだ江戸名所の数々が紹介されています。
『東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景』
歌川広重筆 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃 東京国立博物館蔵
1期:9月29日(火)~10月25日(日)
旅の始まりは江戸・日本橋から。早朝の朝焼けを背景に大名行列が橋を渡ろうとしているところが描かれています。手前には、魚や野菜の行商人がこれから出かけようとしている様子がうかがえます。
『東海道五拾三次之内 庄野 白雨』
歌川広重筆 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃 横大判錦絵 東京国立博物館蔵
1期:9/29(火)~10/25(日)
突然の激しい夕立の中、山間の坂道をすれ違う旅人たちの一瞬の光景がドラマチックに描かれています。
『東都名所 両国夕すゞみ』
歌川広重筆 江戸時代・弘化4~嘉永3年(1847~50) 大判錦絵3枚続 東京国立博物館蔵 1期:9/29(火)~10/25(日)
広重は画業初期には美人画を多く手掛けていました。本作では3枚続きで一人ずつ女性を配置して、納涼客でにぎわう夏の夜の隅田川岸を歩く三美人を描いています。
『東海道五拾三次之内 箱根 湖水図』
歌川広重筆 江戸時代・天保4~6年(1833~35)頃 横大判錦絵 東京国立博物館蔵
1期:9/29(火)~10/25(日)
大胆な造形や色彩構成は広重の風景画の中では珍しく、北斎の「冨嶽三十六景」などに影響を受けたと思われます。箱根は険しい山で難所とされていて、その険しさが大迫力で描かれています。その険しい山道を大名行列が進んでいる様子がわずかに見えます。静かな水面の芦ノ湖の向こうには富士山が見えます。
2 期「木曽海道六拾九次」と諸国名所・花鳥画
10 月27日(火)~11月23日(月・祝)
「木曽海道六拾九次」は、広重と渓斎英泉(けいさいえいせん)(1791~1848)が合作で手掛けた70枚揃のシリーズ。諸国名所、花鳥画の代表作と合わせて紹介されています。
『木曽海道六拾九次之内 洗馬』
歌川広重筆 江戸時代・天保7~8年(1836~37)頃 東京国立博物館蔵
2期:10月27日(火)~11月23日(月・祝)
本作は、渓斎英泉によって起筆され、途中から広重が担当しました。洗馬(けば)は現在の長野県塩尻市で、木曽義仲(きそよしなか)が馬を洗った場所に近いことに由来します。夕暮れ時の微妙な光の移ろいが捉えられ、この地に暮らす人たちの日常の営みと自然の風景が描かれています。月が昇る夕暮れの空に、風になびく草木がどこか寂しい雰囲気を感じさせます。
『木曽海道六拾九次之内 大井』
歌川広重筆 江戸時代・天保7~8年(1836~37)頃 横大判錦絵 東京国立博物館蔵
2期:10/27(火)~11/23(月・祝)
静寂の中、深々と降り積もる雪。馬の脚も埋もれるほどの深雪でも進む一行が描かれています。
3 期「名所江戸百景」の世界
11 月25日(水)~12月20日(日)
晩年の代表作「名所江戸百景」は、広重が生まれ育った江戸の名所を、独自の視点で縦横に描き尽くしたシリーズです。その斬新な画面は人気を集め、百景にとどまらず120点が刊行されました。(目録1点、二代広重作1点を含む)。本展では、シリーズ全点が一堂に公開されます。
『名所江戸百景 高輪うしまち』
歌川広重筆 江戸時代・安政4年(1857)4月 大判錦絵 東京国立博物館蔵 3期:11/25(水)~12/20(日)
車輪越しに江戸湾を臨む広重ならではの大胆なアングル。
『名所江戸百景 大はしあたけの夕立』
歌川広重筆 江戸時代・安政4年(1857)9月 大判錦絵 東京国立博物館蔵
3期:11/25(水)~12/20(日)
縦型の画面を横斬るように橋が配置され、激しい雨の中、身を縮めて急ぐ人びとの姿が小さく描かれています。大胆な俯瞰の構図で、空高くにある黒雲から降り続く激しい雨の様子が写実的に表現されています。
対岸近くの二槽の船は無いほうが良いとされたのか後の版では消されています。
『名所江戸百景 亀戸梅屋舗』と同様、ゴッホが模写して油彩画を制作したことでも知られています。
『名所江戸百景 亀戸梅屋舗』
歌川広重筆 江戸時代・安政4年(1857)11月 大判錦絵 東京国立博物館蔵
3期:11/25(水)~12/20(日)
手前に大きく白梅の樹を配置する斬新な構図で、その枝の間から、遠景にたくさんの満開の梅の樹々や梅見物の人々のにぎわいが描かれています。
ゴッホが模写したことでも有名です。空が紅色のぼかしで摺られ、春の温かい空気感が伝わってきます。
『名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣』
歌川広重筆 江戸時代・安政4年(1857)11月 東京国立博物館蔵
3期:11月25日(水)~12月20日(日)
室内から外を眺める猫の視線の先に江戸の風景が広がっています。ほのぼのとした日常の風景に心が癒されます。親しみやすくも新鮮味あふれる作風で当時の人びとの心を掴んだようです。
広重の捉えた「江戸のベストアングル」で当時の四季折々の自然の風景を感じ、名所を巡る旅をご体感ください。
展覧会概要
◼ 会 期 2026年9月29日(火)~12月20日(日)
本展は、以下のスケジュールで展示作品がすべて入れ替わります。
▶1期:9月29日(火)~10月25日(日)
▶2期:10月27日(火)~11月23日(月・祝)
▶3期:11月25日(水)~12月20日(日)
◼ 開館時間 午前9時30分~午後5時
※毎週金曜・土曜日、10月11日(日)、11月1日(日)、2日(月)、22日(日)は
午後8時まで開館。入館は閉館の30分前まで
◼ 休館日 月曜日(ただし10月12日、11月2日、23日は開館)、10月13日(火)、
11 月24日(火)、12月15日(火)
◼ 会 場 東京国立博物館 本館A室
◼ お問い合わせ 050-5541-8600(ハローダイヤル)
◼ 公式WEBサイト https://www.tnm.jp/
※入場料など詳細は公式WEBサイトよりご覧ください。