六本木・森美術館で「ロン・ミュエク」展が2026年9.23(水)まで開催中である。
2026年8月11日(火・祝)に来館者数30万人を突破し注目の展示となっている。
日本では、2008年に金沢21世紀美術館で回顧展が開催されて以来、2度目の大規模個展であり、代表作から近年の作品までを通して、その創作の軌跡をたどることができる貴重な機会である。また本展は、作家とカルティエ現代美術財団との長きにわたる関係性によって企画されたもので、2023年パリの同財団での開催を起点とし、ミラノとソウルを経て、森美術館で開催されている。
《枝を持つ女》2009 年 ミクストメディア 170 × 183 × 120 cm 所蔵:カルティエ現代美術財団
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
ロン・ミュエクの作品を初めて目にした人は、その驚くべき写実性に圧倒されるだろう。皮膚の質感や血管、毛穴、産毛、髪の一本一本まで再現された人物像は、まるで本物の人間がそこに存在しているかのようだ。しかし、この展覧会の魅力は、決してその「リアルさ」だけではない。会場を歩き進めるうちに、私たちは次第に「人間を見る」という行為そのものについて考え始める。精巧な彫刻を鑑賞しているはずが、いつしか自分自身の身体や感情、記憶に向き合う時間へと変わっていくのである。
ロン・ミュエク 《イン・ベッド》 2005 年 ミクストメディア 162 × 650 × 395 cm 所蔵:カルティエ現代美術財団
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
ロン・ミュエクは、映画やテレビの特殊造形の世界で経験を積んだ後、美術作家として活動を始めた。特殊造形で培われた卓越した技術は、現代彫刻という表現の中で独自の発展を遂げている。会場では、その精巧な造形に思わず近づいて見入ってしまう。肌の質感や目の潤い、指先の爪まで、現実と見分けがつかないほどの精度で制作されている。しかし、不思議なことに、作品を見続けていると「本物そっくり」という感想だけでは済まされないことに気づく。
人物たちは笑顔を見せるわけでもなく、劇的なポーズを取るわけでもない。日常の一瞬を切り取ったような静かな姿で、ただそこに存在している。その静けさが、鑑賞者にさまざまな想像を促す。この人は何を考えているのだろう。どのような時間を過ごしてきたのだろう。作品は答えを示さず、見る人それぞれに物語を委ねている。
ロン・ミュエク 《エンジェル》1997 年 110 × 87 × 81 cm 個人蔵
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
本展でもう一つ印象的なのが、人物のスケールである。作品は実物大とは限らない。巨大な人物もあれば、極端に小さな人物もある。その大きさの違いは、単なる造形上の演出ではなく、鑑賞者の身体感覚そのものを変化させる。巨大な人物の前では自然に見上げ、小さな人物には身をかがめて近づく。私たちは無意識のうちに身体を動かしながら作品と向き合っている。この体験は、建築空間を歩く感覚にもどこか通じるものがある。
広い吹き抜けでは空間の開放感を感じ、低い天井では落ち着きを覚えるように、ミュエクの作品は人物のスケールによって空間そのものの印象を変えてしまう。作品を見ているだけでなく、作品の中に自分の身体が組み込まれていく感覚が生まれるのである。
ロン・ミュエク 《舟の中の男》 2002 年 ミクストメディア 159 × 138 × 425.5 cm 個人蔵
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
森美術館の展示構成も、本展の魅力を大きく高めている。
作品はゆったりとした距離を保ちながら配置され、一つひとつと静かに向き合えるよう工夫されている。近づいて細部を見つめたり、少し離れて全体を眺めたりしながら、鑑賞者は自然なリズムで会場を巡る。照明も過度な演出を避け、人物の存在感を際立たせている。展示空間そのものが、作品との対話を促す舞台になっているのである。
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
ロン・ミュエク《マス》 2016-2017 年 合成ポリマー塗料、ファイバーグラス サイズ可変 所蔵:ビクトリア国立美術館(メルボルン)、2018 年フェルトン遺贈
展示風景:「ロン・ミュエク」森美術館(東京)2026 年
photo©︎moichisaito
展覧会を見終えたあとに残るのは、「技術がすごかった」という感想だけではない。作品を前にして、自分はどのような感情を抱いたのか。なぜある人物には親しみを感じ、別の人物には不安を覚えたのか。そうした自分自身の内面について考え始める。
ロン・ミュエクは、作品の意味を説明しすぎない。鑑賞者一人ひとりが、それぞれの経験や記憶を持ち込みながら作品と向き合う余地を残している。そのため、同じ作品を見ても受け取り方は人によって大きく異なる。家族を思い浮かべる人もいれば、幼い頃の記憶を重ねる人もいるだろう。それぞれの人生が、作品との対話の中で静かに立ち上がってくる。
展示風景:ロン・ミュエクのスタジオ、ベントナー、2019-2023 フランスの写真家・映画監督のゴーティエ・ドゥブロンドが25年にわたり記録してきた制作風景
photo©︎moichisaito
AIによる画像生成やCG技術が飛躍的に進歩した現在、「本物らしさ」だけでは人を驚かせることは難しくなっている。それでもロン・ミュエクの作品には、多くの人が足を止める。それは、作品が単にリアルだからではない。そこに、人間という存在への深いまなざしがあるからだ。老い、誕生、孤独、不安、安らぎ──作品は日常の中にある普遍的な感情を静かに映し出している。
森美術館という開放的な展示空間の中で作品と向き合う時間は、「人間とは何か」「身体とは何か」を改めて考える機会にもなるだろう。圧倒的な技術と静かな詩情が共存するロン・ミュエクの世界は、美術に詳しい人はもちろん、現代アートに初めて触れる人にとっても深い印象を残すはずである。写実彫刻という枠を超え、人間そのものを見つめ直す体験として、多くの人に訪れてほしい展覧会である。
概要
会期:2026年開催中〜2026年9月23日
主催 :森美術館
カルティエ現代美術財団
会場:森美術館
住所:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53階
開館時間:10:00〜22:00(火〜17:00。ただし、9月22日は〜22:00) ※入館は閉館の30分まで
休館日:会期中無休
当日料金:[平日]一般 2300円 / 高校・大学生 1400円 / 中学生以下 無料 / 65歳以上 2000円[土日祝]一般 2500円 / 高校・大学生 1500円 / 中学生以下 無料 / 65歳以上 2200円
シネフィルチケットプレゼント
下記の必要事項、をご記入の上、「ロン・ミュエク」展シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2026年8月30日 日曜日 24:00
記載内容
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