『機動戦士ガンダム』のキャラクターデザイナー兼アニメーションディレクターであり、『アリオン』『ヴイナス戦記』等の漫画家兼アニメ監督、『ナムジ-大國主-』『虹色のトロツキー』『王道の狗』等の歴史漫画家としても活躍する安彦良和(1947年12月9日-)の創作活動を展望する回顧展「描く人、安彦良和」が渋谷区立松濤美術館において2026年2月1日(日)まで開催されています。

展覧会は6章構成となっています。
どの章にも安彦の手による原画がこれでもかと並んでおり、その迫力は他の作家を凌駕すると言えそうな勢いです。また、ほとんどの原画に修正の跡が見られません。一発で線を決めている安彦の天才ぶりが窺えます。

展示風景:渋谷区立松濤美術館での展示のための描きおろし作品。 © 創通・サンライズ ©東北新社 ©高千穂&スタジオぬえ・サンライズ ©安彦良和/講談社 Ⓒ 安彦良和/KADOKAWA  ©安彦良和・THMS Ⓒ 安彦良和
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第1章 北海道に生まれて

北海道・遠軽町で開拓民三世として誕生した安彦良和は、幼い頃より絵を描くことに強い関心を示していました。1966年、弘前大学へ進学すると学生運動に身を投じて弘前大全共闘に加わり、ついには大学本部占拠事件で警察に逮捕され、1970年に大学を退学処分となります。この章では、大学時代までに描かれた作品や資料を通じて、安彦の若き日の歩みをたどります。

展示風景:少年時代に遠軽の実家で使用していた机
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展示風景:左は中学生時代の『重点整理帳』、右はスペイン内戦を題材にした漫画『遙かなるタホ河の流れ』
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第2章 動きを描く

弘前大学を退学となった安彦良和は上京し、生活の糧を得るため虫プロダクションの養成所に入所して研修期間を経てアニメーターとしての道を歩み始めます。独学で漫画やイラストを描いてきた安彦ですが、その卓越した描写力は瞬く間にアニメーション業界の注目を集める存在となっていきました。虫プロは73年に倒産しますが、アニメーターとしての基礎を身に付けた安彦は倒産前に独立しています。日本アニメの画期となる「宇宙戦艦ヤマト」(74~75年)で絵コンテを担当して実力を認められ、「勇者ライディーン」(75~76年)でカリスマ・アニメーターとして知られるようになりました。

展示風景:第2章:中央は『勇者ライディーン』のホビー、右奥にガンダム作品 © 創通・サンライズ
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第3章 カリスマ・アニメーターの誕生

花形アニメーターとして存在感を高めていた安彦良和が、キャラクターデザインとアニメーションディレクターを担った『機動戦士ガンダム』は、社会現象と呼ばれるほどの人気を博しました。この章では多様な資料を通して、『機動戦士ガンダム』の制作において安彦良和が果たした役割をたどります。カラーの原画は水彩で、絶妙なグラデーションや表情の細やかさなど細部に感心するところが盛り沢山です。

展示風景:『機動戦士ガンダム』イラスト原画 © 創通・サンライズ
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展示風景:『劇場版 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』原画 © 創通・サンライズ
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展示風景:『劇場版 機動戦士ガンダムIII めぐりあい宇宙編』原画 © 創通・サンライズ
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展示風景:安彦良和が原画を手掛けた『機動戦士ガンダム』『機動戦士ガンダムⅡ哀・戦士編』の宣伝ポスター © 創通・サンライズ
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第4章 アニメーターとして、漫画家として

『機動戦士ガンダム』が牽引した1980年代のアニメーションブームの中で、安彦良和はアニメーション監督や小説の挿絵、さらには漫画の執筆へと活動の幅を広げていきます。高千穂遥の小説「クラッシャージョウ」では挿絵を担当していましたが、アニメ映画化で安彦良和は初めて監督を務めました。この章では、こうした多彩な創作の軌跡を概観します。

展示風景:左手に『クラッシャージョウ』の原画
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展示風景:左奥に安彦良和が絵と物語ほぼ全てにかかわった『巨神ゴーグ』原画、他は『アリオン』のコーナー
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展示風景:左に安彦良和自身が原作者である劇場版アニメ『アリオン』の原画、他は歴史漫画のコーナー
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第5章 歴史を描く

漫画に専念するようになった安彦良和は、古事記をはじめとする神話世界に新たな解釈を施し、古代日本を壮大に描いた『ナムジ』から、歴史漫画家としての歩みを本格化させます。古代と近代という二つの時代を往還しつつ、歴史の波に翻弄されながら懸命に生をつなぐ「小さき者」たちの躍動を描いた作品群は、現代に生きる私たちへ鋭い問いを投げかけます。一方で、西洋世界にも眼差しを向け、キリスト教へのアプローチを試みた意欲作も生み出しました。

展示風景:左手に北海道の開拓時代を描いた『王道の狗』の原画群
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展示風景:キリスト教に取り組んだ『イエス』の原画群
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第6章 安彦良和の現在(いま)

漫画家として活躍を続けてきた安彦良和は、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』のOVAを機に、再びアニメーション制作へと関わるようになります。この章では、安彦が監督を務めた最新アニメ作品とともに、揺れ動く現代世界へのまなざしが込められた最新の漫画作品を紹介しています。

展示風景:最新ガンダム『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』』 © 創通・サンライズ
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特筆すべきことに、図録の充実ぶりがあります。安彦ファンなら手に入れずにはいられない内容が盛り沢山です。会場に訪れて原画の魅力を堪能したあと、家でも余韻を楽しむために手元におきたい一品です。

展示風景:フォトスポット
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概要

会場:渋谷区立松濤美術館(東京都渋谷区松濤二丁目14番14号)
会期:開催中~2026年2月1日(日) 展示替えあり。前期は12月21日まで、後期は12月24日から
休館日:月曜日(ただし1月12日は開館)、12月23日(火)、12月29日(月)~1月3日(土)、1月13日(火)
開場時間:午前10時~午後6時(金曜のみ午後8時まで)
観覧料:一般1000円(800円)、大学生800円(640円)、高校生・60歳以上500円(400円)、小中学生100円(80円)※( )内は団体10名以上及び渋谷区民の入館料 ※土・日曜日及び祝・休日は小中学生無料 ※毎週金曜日は渋谷区民無料 ※障がい者及び付き添いの方1名は無料
*2026年1月24日(土)からは「日時指定予約制」となります。
詳しくは美術館公式ホームページへ。

公式サイト:https://shoto-museum.jp/

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、『描く人、安彦良和』 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上5組10名様に無料鑑賞券をお送り致します。

☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2025年12月25日 木曜日 24:00
記載内容
1、氏名 
2、年齢
3、当選プレゼント送り先住所(応募者の郵便番号、電話番号、建物名、部屋番号も明記)
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