根津美術館(東京・南青山)において、在原業平生誕1200年記念 特別展「伊勢物語 美術が映す王朝の恋とうた」が12月7日まで開催されています。
2025年は在原業平が生まれて1200年です。それを記念して『伊勢物語』が生み出した書、絵画、工芸を一堂に集める展覧会となりました。平安時代前期に活躍した在原業平(825〜880)は、天皇の孫で、和歌に優れた貴公子です。『古今和歌集』などに収められる業平の和歌からは、恋多き生き方も浮かび上がってきます。そうした業平の和歌を中心とする短編物語集が『伊勢物語』です。
「在原業平像」 室町時代・16世紀 根津美術館蔵
photo©︎moichisaito
『古今和歌集』が成立する延喜5年(905)より少し前から10世紀後半にかけて徐々に章段を増し、やがて125段からなる形が定着しました。 続く11世紀初頭に書かれた『源氏物語』の「絵合」巻には、絵の優劣を競う遊びのなかで伊勢物語絵巻が登場し、物語がすでに絵に描かれていたことをうかがわせます。以降、『伊勢物語』は、『源氏物語』と並び、日本の文化・芸術のあらゆる分野に多大な影響を与えることになります。
展示風景:白描伊勢物語図屏風 江戸時代・17世紀 根津美術館蔵
photo©︎moichisaito
和歌の情景や物語をあまりよく知らないという観覧者向けの配慮があります。49の場面を金砂子の雲で区切られた空間に白描で描いた屏風を参考に、各段と代表的な場面10選のあらすじがパネルで紹介されています。
展示風景:解説パネル
photo©︎moichisaito
展示風景:代表的な場面10選のあらすじパネル
photo©︎moichisaito
個々の展示の見せ方にも工夫があります。伊勢物語 第50段、ここでは互いの浮気心をめぐり女が詠んだ「行く水に数書くよりも」からはじまる和歌の情景を描いています。非現実の歌の世界を表す画中にさらに男の返歌が書され、表現は重層化します。土佐光起(1617~91)による典雅な大和絵作品です。歌の現代語訳とともに情景の解説も並び、分かりやすいです。
展示風景:伊勢物語図 行く水に数かく 土佐光起 江戸時代 17世紀 個人蔵
photo©︎moichisaito
展示風景:伊勢物語図 行く水に数かく 歌の現代語訳
photo©︎moichisaito
展示風景:伊勢物語図 行く水に数かく 解説
photo©︎moichisaito
展示風景:鈴木其一・絵、酒井抱一・書 伊勢物語歌絵扇子 江戸時代・19世紀 個人蔵 表裏に其一の絵と抱一の書がある師弟共作の扇子
photo©︎moichisaito
俵屋宗達の書画から尾形光琳、酒井抱一と琳派の系譜が並ぶだけでなく、戦国時代の岩佐又兵衛や幕末の復古大和絵を代表する冷泉為恭まで、幅広い作品群です。次の二枚は、男女の駆け引きが1人の人物に描き出されている様子を見られる岩佐又兵衛の作品の紹介です。
展示風景:岩佐又兵衛 伊勢物語 鳥の子図 重要美術品 江戸時代・17世紀 東京国立博物館蔵
photo©︎moichisaito
展示風景:岩佐又兵衛 伊勢物語 梓弓図 重要文化財 江戸時代・17世紀 文化庁蔵
photo©︎moichisaito
「八橋」の場面の和歌は、「かきつばた」の5文字を五七五七七の各句の初めに据えて詠まれました。この硯箱の意匠は、歌を導き出すモチーフだけで物語の情趣、さらに歌そのものをも想起させます。工芸における人物を排した「留守模様」は「歌絵」と関係が深いです。
展示風景:八橋蒔絵硯箱 江戸時代 17世紀 サントリー美術館蔵
photo©︎moichisaito
展示風景:伊勢物語かるた 江戸時代・17世紀 和泉市久保惣記念美術館蔵
photo©︎moichisaito
『伊勢物語』の核心をなす和歌に焦点をあわせ、それを味わいながら、また『伊勢物語』の造形化における和歌の働きに注目しながら、ご覧ください。
概要
会場:根津美術館 展示室1・2・5(東京都港区南青山6-5-1)
会期:開催中~2025年12月7日(日)
※会期中に一部展示替えあり
開館時間:10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日:月曜日
観覧料:オンライン日時指定予約制
・一般:1,500円、学生(高校生以上):1,200円
・当日券(予約優先):一般1,600円、学生1,300円
※中学生以下:無料
※混雑時は当日券を販売しない場合あり
※予約は1グループ10名まで
※障害者手帳提示者および同伴者1名は、各200円引
問い合わせ:TEL 03-3400-2536
アクセス:東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線「表参道」駅 A5出口より徒歩8分
公式サイト:https://www.nezu-muse.or.jp/