特別対談「やがて海になる」
三浦貴大さん×武田航平さんインタビュー

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10月24日(金)より公開される映画「やがて海になる」は、大ヒット中の映画「国宝」で、出演時間こそ短いが強烈な印象を残した三浦貴大と、2022年に始まった人気”飯テロ”ドラマシリーズ『晩酌の流儀4~秋冬編~』にレギュラー出演している武田航平が出演した、不惑の四十路を控えた“大人の青春ドラマ“だ。舞台は監督・沖正人の故郷である広島県江田島、そして呉。撮影も当地で行われたゆえ、広島市と呉市では8月29日から先行上映が始まり、現在も絶賛上映中だ。

現在ともに39歳、この映画で初共演を果たした三浦貴大と武田航平の二人の対談が実現した。

▪️監督の経験を託された二人

三浦さんが演じた修司は子供の頃から江田島に住んでいて、武田さんが演じた和也は東京に住み、映画を撮るために故郷へ帰ってきます。沖監督の実体験に基づいて書かれたという脚本の第一印象は?

三浦
 悩みをもった人間が一歩進んだり戻ったりしながら生きている。とても当たり前のことを、ストレートに物語に落とし込んでいるのが実はすごいことだなと。まず脚本を読んだので、監督はどんな人なんだろうと、会うのが楽しみでした。

武田
 僕も“あるある“と思いながら読みました。修司は父の死を、和也は母の死を引きずっています。家族と過ごしたことや日常で起きた些細なことも人生に大きく影響する。こんな脚本を書く監督は、優しい人なんだろうなと。

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修司と和也を演じるうえで、監督から何か注文をされましたか?

三浦
 こんなふうに演じてほしいということはなくて、修司がどんな人間なのかは話してくれました。

武田
 母親とどのように向き合ってきたか、というご自身の経験談を、演出としてでなく、普段の会話の中にヒントをちりばめていたように思います。

時にプロデューサーであり俳優でもありますから、俳優へのリスペクトは人一倍あるのでしょうね。

武田
 ものすごく気を使ってくださる方でした。信頼していただけたのか、余計なことは言わないけど、ご自身のことでもあるから、強く思っていることはそれとなく伝えてくれる。

三浦
 「はい、はい、はい、よろしくお願いします」ってものすごく低姿勢でこられるんですけど、指でちょっとずつツンツンツン押していって、立ってほしいところに徐々に近づけていく、みたいなね。

武田
 「それいいですね~」と言いながら、「僕はあの時こんな思いだったんですよね~」とさりげなく。たとえば、入院している母を見舞うシーンでは、実際に介護していた監督は「もう面倒みるのも疲れちゃってね」と。それを聞いて、重要なシーンだけれど、思いつめたり、重く考えたりして演じなくてもいいんだなと思いました。

三浦
 衣装合わせの時、監督自らド派手なシャツを選んでくれて、修司を作っていく作業は楽しそうにやられていました。撮影中も、情けない修司の演技にやたら笑って喜んでいました。

修司は、脚本を書かれた鈴木太一さんの作品(「くそガキの告白」や「みんな笑え」など)の主人公ともよく似たタイプに見えました。沖監督と鈴木さんの二人が投影されているのかなと。鈴木さんは今回出演もされていますね。

武田 
たしかに! 太一さんっぽいね。修司は、沖さんでも太一さんでもあるのか。

三浦
 劇中でも、修司は怪我をしたスチールマンの太一さんに代わって和也の撮影を手伝いますしね。

ーーあまりに江田島の風景に溶け込んでいる三浦さんを「毛穴まで地元の人のようだった」と鈴木さんは絶賛されていましたよ。

三浦
 (パンフレットに掲載された鈴木太一さんの写真を見ながら)ほんとだ、太一さんですね、修司は!

武田
 髪もボサボサ、髭面だけどいい男なんですよ、貴大は。でもスクリーンを通して見ると、付け焼き刃ではできないダメさが溢れていましたよね。

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▪️互いに身を委ねる

共演してみていかがでしたか。

武田
 優しくていい男でした。カメラが回っていないところでは、こういう場では絶対に聞けないような話もしてみんなを和ませてくれますし。

三浦 
仲間うちではね。公には言いませんよ、怒られちゃいますから(笑)。

武田
 沖監督と同様に、貴大も気遣いの人で懐が深い。人間としての力が突き抜けているから、修司からも人間臭さが滲み出てくる。

映画のはじめの方で、久々に再会した二人が海沿いの坂道をとぼとぼと歩いて家に帰るシーンがありました。素っ気ない話しぶり、ちょっと居心地の悪そうな雰囲気から微妙な距離感が見え、なんてことのないシーンですがとても胸にくるものがありました。

三浦
 映画ができてから見て思ったんだけど、航平、あそこのシーン、うまいね。

武田
 いや、どこがよ、嘘だね(笑)。

三浦
 いやいや、あれはうまいわ。俺はできない。

武田
 いやいやいやいや。ただあのシーンは、お互いに順序立ててセオリーどおりに演じてしまうと、海の波や流れている空気のリアルな感じが出ないから、あえてペースやリズムを作らないようにはしました。僕だって、あの場をちゃんと生きて、呼吸している貴大のすごさを感じていましたよ。俳優仲間から聞いていた評判どおりの、すごい役者だなと思って見ていました。同業者としては嫌な存在ですよ(笑)。

三浦
 そんなこと言われてるの? 俺が全然家から出ないもんで、本人には届かないのか(笑)。

武田
 よく言われてるよ。あのシーンは、貴大に身を委ねて演じました。

三浦
 この人には「何をやっても大丈夫だ!」(とガッツポーズ)って僕も思っていました。

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◾️バランスの取れた三角関係

かつては三角関係でもあった二人の幼馴染、幸恵を演じた咲妃みゆさんとも初共演ですよね。

三浦
 咲妃さんもすごかったな。立ち姿や発声に、芝居を基礎からやってきたという裏打ち、強さがありました。

幸恵は不倫をしているから揺れ動いている役ではあるけれど、芯はビシッと通った人で、そこが咲妃さんの人間性とリンクしている。僕が幸恵の家を訪ね、ドア越しに「頑張れ」と言い合うシーンがありましたが、テストをする度に、こちらに合わせて反応してくれる。だから咲妃さんに対しても、「何やっても大丈夫だ!」(と再びガッツポーズ)といった感じでした。

武田
 和也は最後のシーンまで幸恵とは会わないんですが、貴大が真ん中にどーんと構えてくれていたんで、僕も咲妃さんもバランスを取り合って一体感が生まれたように思います。

三浦
 そう、今回はとてもバランスがよかった!

バランスの良さは、撮影中に感じられるものですか?

三浦
 僕は感じます。俳優は、芝居をしている時だけが仕事じゃない。撮影現場そのものが仕事場ですから、そこにいるときの各々の関係は大事だと思っています。そういう面でも今回はバランスがいいなと感じました。

武田
 貴大のおっしゃるとおりで、今回の現場はストレスがなかった。そういう雰囲気を、キャストもスタッフも作ってくれました。

それと江田島の自然、美しい風景が映画を物語る重要なピースになっていますよね。

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三浦
 それは絶対にそう、場所の力はあります。今回の映画は、都会を舞台に描いていたらこんなに明るく、柔らかい感じにはならなかったと思う。

武田
 みんなそれぞれ切羽詰まっているけれど、自然の中にいると人間は地球に生かされているんだということが実感できました。

美しい海、浜辺でのラストシーンは、これでもか!というほど“青春“していましたね。40手前の大人がやることで、可愛らしさと哀愁が入り交じりなんとも言えない気持ちの良さがありました。

三浦
 この作品は、初めに脚本を読んだときからラストシーンが好きでした。みんな、はっきりわかるほど成長するわけではない。けれど、毎日は勝手に進んでいくし、自分もほんの少し変化している。実はちょっとずつ成長しているんです。

武田
 見終えると“視界が晴れたな〜“という感じがしませんか。自分を見つめなおしてみたり、家族に目を向けたり、故郷を振り返ってみたり、それほど特別なことをしなくても気づきはある。そんな映画になったと思います。

text:川村夕祈子(編集・ライター)

◾️「やがて海になる」予告編

- YouTube

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【ストーリー】

広島県の西部、瀬戸内海島嶼部に位置する江田島市で生まれ、島から出ず生きてきた修司は、家の畑で父親が突然死した事にずっと責任を感じ、母と実家暮らしで、うだつの上がらない日々を送っていた。そんなある日、東京で映画監督として活躍している幼馴染の和也が、故郷の江田島を舞台に映画を撮る事をテレビで知る。そんな頃、二人が好きだった幸恵は妻子ある男と付き合っていたーー。3人の思いが交錯する中、映画の撮影が始まる。

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【キャスト・スタッフ】

三浦貴大 武田航平 咲妃みゆ
市村優汰 後藤陽向 川口真奈 ドロンズ石本 武田幸三 高山璃子 

山口智恵 緒形敦 柳憂怜  藩飛礼・竜児 こばやしあきこ 伊沢弘 三浦マイルド

占部房子 白川和子 大谷亮介 渡辺哲

監督・脚本:沖正人

音楽:小山絵里奈 脚本:鈴木太一 撮影:彦坂みさき(JSC) 照明:金子秀樹 録音:庄司寿之
主題歌「おとなになったら」作詞・作曲◆ オニザワマシロ 超☆社会的サンダル(Perfect Music)  

製作:ABILITY 制作プロダクション:KAZUMO 配給宣伝:MAP 配給協力:ミカタ・エンタテインメント 

2025/日本/カラー/92分/ビスタサイズ/5.1ch
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公式サイト
https://yagateumininaru.jp

公式X&Instagram:
@yagateumi2025