1996年の長編デビュー作『豚が井戸に落ちた日』から30年。これまで30本以上の監督作を発表し、近年はさらなるハイペースで自身のフィルモグラフィを更新し続けるホン・サンス。韓国のソウルに生まれ、アメリカで美術を学んだホン・サンスは、大作商業映画からは距離を置いた映画の製作体制を築き、ベルリン国際映画祭での5度の銀熊賞受賞をはじめ、カンヌ、ヴェネツィア、ロカルノなど数々の国際映画祭で活躍し唯一無二の存在感を示してきた。日常に潜むドラマを鋭く観察し、そこに現れるささやかなずれや揺らぎを、静かに、ときにユーモラスに描き続ける一方で、その製作体制や人々を見つめる視線は時代とともに緩やかな変化を遂げ、ますます多くの映画ファンを魅了しつづけている。

2025年11月から2026年3月までの5カ月間、そんなホン・サンスの“いま”に出会える、異例の企画がスタートする。2023年以降につくられた新作5本を5カ月連続で公開する「月刊ホン・サンス」と、新作にリンクしたテーマで過去作を振り返る特集「別冊ホン・サンス」も同時開催。これまで数々の作品に魅了されてきたファンにとっては、改めて彼の作品の変化を辿り直す絶好の機会に、そしてこれからその映画世界に触れる人たちにとっては、5カ月間集中してホン・サンス映画に触れていく新たな入り口になるに違いない。

2025年ベルリン国際映画祭出品のホン・サンス監督最新作まで網羅!
「月刊ホン・サンス」ラインナップ・キービジュアル・特報解禁

特集の幕開けを飾るのは、これが3度目のタッグとなるイザベル・ユペールの主演作で、2024年ベルリン国際映画祭銀熊賞を受賞した『旅人の必需品』(英題:A Traveler's Needs)。続いて、演劇祭を迎える美大の講師の主人公をキム・ミニが演じ、2024年ロカルノ国際映画祭で最優秀演技賞を受賞した『小川のほとりで』(英題:By the Stream)。済州島に映画を撮りにやってきた3人の若者たちを描き、“全編ピンボケ”が物議を醸した2023年ベルリン国際映画祭出品作『水の中で』(英題:In Water)。休業中の女優と、隠遁生活を送る老詩人のある一日が並行して描かれる、2023年カンヌ国際映画祭監督週間出品『私たちの一日』(英題:In Our Day)。偶然恋人の両親と過ごすことになった詩人の一日を描いた、2025年ベルリン国際映画祭出品の最新作『自然は君に何を語るのか』(英題:What Does That Nature Say to You)。また、新作にリンクしたテーマで過去作を振り返る特集「別冊ホン・サンス」では、『自由が丘で』(14)、『逃げた女』(20)、『イントロダクション』(20)、『川沿いのホテル』(18)、『正しい日 間違えた日』(15)を順次上映する。

今回解禁されたキービジュアルは、「月刊ホン・サンス」という企画名にちなみ、今回上映する新作5作品を雑誌の表紙に見立てたデザインとなっている。加えて、監督デビュー30周年を記念して、特別パンフレットを毎月刊行予定。編集長にライター/編集者の月永理絵氏を迎え、新作とともにホン・サンスのこれまでを振り返る内容となる。さらに、10月にはイザベル・ユペールの来日も決定し、目が離せない内容となっている。

ホン・サンスの映画が問いかけるのは、日常のなかで見過ごされがちなささやかな断片である。偶然や無意味に見える出来事、会話や沈黙、風景の揺らぎを通して、観客は自らの記憶や感情に触れ、忘れていた時間を呼び覚まされる。そうした対話こそが、彼の作品が持つ本質的な魅力だ。

「月刊ホン・サンス」は、この問いかけと観客の日常との対話を連続的に体験できる稀有な機会になるだろう。30周年を迎えたいま、ホン・サンスは過去を振り返る作家ではなく、現在も問いを投げかけ続ける生きた存在として、私たち観客と響き合うに違いない。

監督デビュー30周年記念!
5カ月連続、新作を味わう「月刊ホン・サンス」特報

- YouTube

youtu.be

『月刊ホン・サンス』LINE UP

Vol.1 11月1日(土)公開『旅人の必需品』

第74回ベルリン国際映画祭銀熊賞(審査員グランプリ)受賞
ソウルを旅する謎めいたフランス人女性イリス。風変わりな方法で韓国人にフランス語を教え、年下のボーイフレンドの家へと帰っていく。一体、彼女は何をしに韓国へやってきたのか。足取りを追ううち、謎に満ちた日常が浮かび上がってくる。

2024年/韓国/韓国語・フランス語・英語/
90分/カラー/16:9/ステレオ/英題:A Traveler's Needs
出演:イザベル・ユペール、イ・ヘヨン、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク、キム・スンユン

Vol.2 12月13日(土)公開『小川のほとりで』

第77回ロカルノ国際映画祭最優秀演技賞(キム・ミニ)受賞
演劇祭まであと10日。美大の講師でテキスタイルアーティストのジョニムは、問題を起こしてクビになった若手演出家の代わりに、かつて演劇界で名を馳せた叔父に協力を求める。学生たちとの寸劇づくりは、徐々に熱気を帯びていくがー。

2024年/韓国/韓国語/111分/カラー/16:9/ステレオ/英題:By the Stream
出演:キム・ミニ、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、ハ・ソングク

Vol.3 1月10日(土)公開『水の中で』

前代未聞の全編ピンボケ作品・第73回ベルリン国際映画祭出品
元俳優のソンモは、自主制作映画を撮るために、夏の済州島にカメラマンの友人と後輩の女優を集める。何を撮るのが決まらぬまま、三人はひたすら島を歩き回るが、岩場でゴミ拾いをしている地元の女性との出会いをきっかけに、撮影が静かに動き始める。

2023年/韓国/韓国語/61分/カラー/ステレオ/16:9/英題:In Water
出演:シン・ソクホ、ハ・ソングク、キム・スンユン

Vol.4 2月14日(土)公開『私たちの一日』

第76回カンヌ国際映画祭監督週間クロージング作品
靴デザイナーの先輩宅に居候中の元女優のサンウォンと、禁酒・禁煙中の身で隠遁生活を送る老詩人ウイジュ。そんな二人の元にそれぞれ夢を追う若者が訪れた時、飼い猫が消えてしまう。交わりそうで交わらない、ふたりの一日がゆるやかに並走していく。

2023年/韓国/韓国語/84分/カラー/ステレオ/16:9/英題:In Our Day
出演:キム・ミニ、キ・ジュボン

Vol.5 3月21日(土)『自然は君に何を語るのか』

第75回ベルリン国際映画祭出品・ホン・サンス監督最新作
若き詩人のドンファは、3年間交際している恋人を家まで送り届けると、玄関先で彼女の父と鉢合わせ、流れで彼女の両親と一日を過ごすことになる。ぎこちない夕食の席、ドンファは緊張から酒が進み、やがて険悪な空気が漂いはじめる。

2025年/韓国/韓国語/108分/カラー/ステレオ/16:9/英題:What Does That Nature Say to You出演:ハ・ソングク、クォン・ヘヒョ、チョ・ユニ、カン・ソイ、パク・ミソ

「月刊ホン・サンス」
配給:ミモザフィルムズ
協力:ビターズ・エンド、JAIHO、クレストインターナショナル