対談企画「いま気になる映画人」では、映画製作・プロデューサーの飯塚冬酒が「いま気になる」映画人に逢い、対談する企画です。
今回は10年ほどのお付き合いになる俳優の木村知貴さんにお話を伺いました。
木村知貴
飯塚「ご無沙汰しております」
木村「お久しぶりです」
飯塚「といっても僕の映画『雨ニモマケズ』の舞台挨拶でご一緒してその後、会食してですから・・・半年ぶりくらいでしょうか。
その間にも木村さんのご活躍をたくさん拝見しているので、ものすごい時間が空いたような気がします」
木村「いえいえ。そんなには出ていないです(笑)」
飯塚「テレビからCMから映画から、木村さん何人いるんですかっていうくらい(笑)
木村さんとは、かれこれ10年くらいのお付き合いだと思いますが、木村さんは全く変わらないですよね」
木村「そうですか?」
飯塚「あんなにお仕事増えても驕らず偉ぶらず、どこにその秘訣があるんですか?」
木村「あまり意識したことはないんですけど・・・。
自然に・・・何も考えていないのかもしれないですね。
もしかしたら、ものすごく高みを目指していたら偉い人に媚びることもあるのかもしれませんが、あまり野心もないのでこのままなのかもしれません(笑)」
飯塚「昔、笠智衆さんがお好きだと伺って。木村さんの生き方が、笠智衆さんが晩年ご出演した映画にも雰囲気が似ているような気がするんです」
木村「僕自身は、水のように流れていきたいと思っていて、また争いごともあまり好きでないので、流れに身を任せて生きているような感じです」
飯塚「そこが笠智衆さんに相通じるような気がします。人に対する接し方がどの人に対しても木村知貴さんですよね」
木村「そうですね・・・。僕は役者として、いち俳優部という部署の人間で、有名や無名とかあまり関係ないと思っているんです。映画創りや芝居の中では、やっていることは同じなので、年下だったりしても接し方はあまり変わらないですね。年下や無名でもよいお芝居する方はたくさんいらっしゃるので」
飯塚「なるほど」
木村「あとは現場でも相対峙したときに芝居に対する姿勢とか考え方で圧倒される先輩方とご一緒する機会もたくさんあります」
飯塚「サラリーマンだったら一流の経営者やアーティストとそうそうあったりする機会もないですが、俳優のお仕事は一流の俳優さんや監督とお会いすることがある。
すべてご自身の糧になっていく贅沢なお仕事ですよね」
俳優・木村知貴
飯塚「最近、お仕事はかなりお忙しいんじゃないですか」
木村「ありがたいことにお声かけていただくことも多くなりました」
飯塚「ご出演作品を選ぶ基準などあるんですか」
木村「いやいや、僕なんてまだまだ作品を選ぶなんて身分ではなく。来たお仕事はスケジュール合わない限りは参加させていただいています」
飯塚「本当ですか(笑)」
木村「年に1本、2本、映画に出て生活できるようになったら出演作品を選ぶようになるかもしれませんが(笑)」
飯塚「好みの作品の分野などありますか?」
木村「題材としては社会派が好きなので、そのような作品には積極的に参加したいと思います。
今の日本を切り取った時事を扱うような作品は好きです。
あとは人情物も大好きです」
飯塚「人情物?」
木村「『寅さん』とか、『釣りバカ』とか。昭和で生きてきたのでそのような作品は大好きですね。今、そういった映画ははやらないんですかね。どうですか、飯塚さん(笑)」
飯塚「僕はそんなに器用じゃないです(笑)。チャレンジはしてみたいですけど。
木村さんご自身はどんな役をしていきたい、というのはありますか」
木村「昔は怖い役柄をいただくことも多かったんですけど、最近は優しい人に寄り添う役でお声かけていただくことが多くなりました。これからは人間味のある役が増えていってお爺ちゃん役者になっていくんじゃないかな、と思っています」
役へのアプローチ
飯塚「最近はテレビやCMなど活動の幅も増えていらっしゃると思いますが、テレビと映画での役へのアプローチは違いますか?」
木村「そうですね。テレビの場合は台本いただくのが結構ギリになることが多く、準備という部分では映画よりは時間が短くなるのは致し方ないかな、と思います」
飯塚「どんなアプローチをしていくんですか」
木村「僕の場合は、台本を読んで作品の中で自分の役割を把握して、役を想像することから入ります。
専門的なことが必要だったら調べますし、自分の経験値でない感情があれば考えますし、そのうえで『役を着る』という感じでしょうか」
飯塚「役を着る?」
木村「はい。役の着ぐるみの中に木村知貴が入って、窮屈な部分も動きやすい部分も合わせていく、というイメージです。物理的にも感情的にも」
飯塚「どうしても役に感情の折り合わない場合はどうされるのでしょう」
木村「脚本家が考えて書いていただいた役なので、それは僕の経験のない感情が邪魔しているのかもしれませんし、脚本の行先に向かうしかないと思います。感情がわからないからできない、ということは全くないです。多少サイズが合わなくても着てしまう。それが僕の仕事だと思うので」
最新作『蘭島行』
『蘭島行』より © 鎌田フィルム
飯塚「最新作『蘭島行』に参加する経緯をお訊かせください」
木村「鎌田義孝監督とはご一緒したことはなかったんですが面識はあったんですね。
直接電話をいただいてスケジュールの状況を訊かれて、台本いただいたら主役だったのでちょっとびっくりしました(笑)。脚本も面白かったので参加することになりました」
飯塚「どんな映画なのでしょう」
木村「パンクロッカー崩れの主人公を演じました。故郷の蘭島に住む母親が自殺に失敗して昏睡状態になったと弟から連絡があり、故郷に向かう途中で訳ありの女性と出会い、奥さんのふりをしてくれと頼んで蘭島に行く、という話です」
飯塚「ロードムービー?」
木村「ロードムービーというよりは、蘭島に到着してからのお話がメインになるんでしょうか。監督の実体験から生まれたということもありかなりパーソナルな映画だと思います。ゆったりとしたテンポで進んでいく作品です」
飯塚「公開を楽しみにしています」
木村「本日はありがとうございました」
蘭島行|監督:鎌田善孝|日本|2024年|84分|モノラル
9/20(土)よりユーロスペースにて公開
https://www.ranshima-movie.com/
KIM FES 〜俳優・木村知貴をそれなりに堪能する1週間〜
9/12(金)よりシアターギルド代官山
https://theaterguild.co/movie/space/daikanyama/
カメラ:岩川雪依