映画の地図を描き直す

監督や俳優が選んだ「21世紀ベスト10」に見る映画の〈点・線・球〉

アメリカの『ニューヨーク・タイムズ』紙が「21世紀の映画ベスト100」を発表した。今回のランキングは2000年1月1日以降に公開された映画を対象に、監督・俳優・プロデューサー・評論家など映画関係者500人を対象にアンケート調査を行い集計したもの。この試みの面白さは、ランキング全体の順位よりもむしろ対象者たちの「自分にとってのベスト10」であり、一人ひとりの選出リストに宿る“語られなかった物語”にある。「なぜこの人がこの作品を?」その問いから始まるのは、映画をめぐる思考の旅路だ。

“個性が見える選出”が誘う映画地図の再発見

例えば、『ミスティック・リバー』(2003)や『シャッター・アイランド』(2010)などの映画化作品も多い小説家のデニス・ルヘインが選んだのは、ピクサー映画のアニメ『インサイド・ヘッド』(2015)だった。犯罪小説の第一人者で人間の暗部を描いてきた作家が、一見真逆にも思える家族と感情のドラマに心を動かされている。そのギャップに驚きながらも、「映画はこうでなければならない」という私たちの狭い枠組みがするりと外されていくのを感じる。

さらに注目すべきは、俳優や映画監督たちのリストに見られる多様な“越境”である。ベテラン俳優のジュリアン・ムーアが『40歳の童貞男』(2005)を挙げていたり、韓国の巨匠イ・チャンドン監督が『ザ・マスター』(2012)を選んでいるなど、そこには国やジャンル、大作映画や小規模なインディペンデント映画といった垣根を越えた表現者としての鋭さと、観客としての素直な喜びとが共存している。

ランキング1〜10位

1位『パラサイト 半地下の家族』(2019年、ポン・ジュノ監督)

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2位『マルホランド・ドライブ』(2001年、デビッド・リンチ監督)

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3位『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年、ポール・トーマス・アンダーソン監督)

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4位『花様年華』(2001年、ウォン・カーウァイ監督)

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5位『ムーンライト』(2016年、バリー・ジェンキンス監督)

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6位『ノーカントリー』(2007年、ジョエル・コーエン&イーサン・コーエン)

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7位『エターナル・サンシャイン』(2004年、ミシェル・ゴンドリー)

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8位『ゲット・アウト』(2017年、ジョーダン・ピール監督)

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9位『千と千尋の神隠し』(2002年、宮﨑駿監督)

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10位『ソーシャル・ネットワーク』(2010年、デビッド・フィンチャー監督)

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映画体験は「点から線に、線から円に、円を重ねて球に」なる

映画を観るという行為は、まず“点”として始まる。

忘れられない一本、その瞬間にだけ芽生えたひとつの感情。例えば、誰かと一緒に観た映画。人生のある季節を焼きつけた一本。

その点が、別の点とつながって“線”となり、自分なりのテーマや好みが見えてくる。さらにその線が複数交わることで“円”ができ、ジャンルを横断するような視野が生まれる。そして、円が幾重にも重なっていったとき、それはようやく“球”となる。

球体のように、積み重ねてきた自分の人生が凝集されたような立体的な映画観。

映画監督や俳優たちのリストには、まさにその球体のような映画観がにじんでいる。

彼らは一本の映画を、作り手として、観客として、そして一人の人間として受け止めている。その厚みのある視線が、映画をただの娯楽以上のものへと押し上げているのだ。

自分だけの“球体”を育てる楽しみ

『ニューヨーク・タイムズ』紙のリストに並ぶ作品群を眺めながら、私たちは問うことができる。

「自分にとってのベスト10は何だろう?」

それは、単に「面白かった映画」を挙げることとは少し違う。

どの映画が、どんなときに、どんなふうに自分を動かしたか――その“理由”を言葉にすることで、あなたの映画体験は「点」から「線」へ、そして「球」へと成長していく。

誰もが映画の専門家である必要はない。だが、誰もが自分だけの映画地図を描ける。

映画人たちの個性的な選出は、その地図の描き方のヒントになってくれるに違いない。

ランキング11位〜20位

11位『マッドマックス 怒りのデス・ロード』(2015年、ジョージ・ミラー監督)

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12位『関心領域』(2024年、ジョナサン・グレイザー監督)

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13位『トゥモロー・ワールド』(2006年、アルフォンソ・キュアロン監督)

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14位『イングロリアス・バスターズ』(2009年、クエンティン・タランティーノ監督)

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15位『シティ・オブ・ゴッド』(2002年、フェルナンド・メイレレス監督)

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16位『グリーン・デスティニー』(2000年、アン・リー監督)

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17位『ブロークバック・マウンテン』(2005年、アン・リー監督)

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18位『天国の口、終りの楽園。』(2001年、アルフォンソ・キュアロン監督)

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19位『ゾディアック』(2007年、デヴィッド・フィンチャー監督)

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20位『ウルフ・オブ・ウォールストリート』(2013年、マーティン・スコセッシ監督)

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