京の四季折々の景観が美しい禅宗寺院相国寺。
臨済宗の大本山である相国寺は、永徳2 年(1382)室町幕府三代将軍、足利義満(1358~1408)の発願(はつがん)によって、夢窓疎石(むそうそせき)を開山として、創建されました。足利家の邸宅、花の御所の東に隣接し、境内には義満以後、十三人の歴代足利将軍の位牌(いはい)を安置する塔頭がかつては存在していた大規模な寺院です。
金閣寺、銀閣寺として有名な鹿苑寺(ろくおんじ)や慈照寺(じしょうじ)も、相国寺の山外塔頭に含まれています。

その広い境内の庭園の静謐な空間に、連綿と受け継がれるさまざまな寺宝を展示する相国寺承天閣美術館(しょうこくじじょうてんかくびじゅつかん)があります。
600年余の相国寺の悠久の歴史を受け継ぎ、中近世の墨蹟・絵画・茶道具を中心に雪舟や伊藤若冲、円山応挙など多くの優れた文化財が伝来しています。
第一展示室には、金閣寺境内に建つ金森宗和造と伝えられる茶室「夕佳亭(せっかてい)」を復元、第二展示室には近世京都画壇の奇才として知られる伊藤若冲による水墨画の傑作、重要文化財「鹿苑寺大書院障壁画」の一部が移設されています。

相国寺上天閣美術館外観写真 photo by ©cinefil

このたび、相国寺承天閣美術館開館 40 周年を記念し、愛知県美術館において、「相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」が開催されています。
相国寺は芸術家を育て、名作の誕生を導いてきました。相国寺には、足利将軍ゆかりの肖像画、仏画、墨蹟、日本絵画、中国絵画、障壁画など様々な寺宝があり、武家政権との交流の軌跡をたどることができます。
室町幕府の御用絵師とされる相国寺の画僧・如拙(じょせつ)と周文(しゅうぶん)をはじめ、室町水墨画の画聖とも讃えられる雪舟(せっしゅう)、江戸時代の相国寺文化に深く関わった狩野探幽(かのうたんゆう)、伊藤若冲(いとうじゃくちゅう)、原在中(はらざいちゅう)、円山応挙(まるやまおうきょ)など錚々たる画家たちの作品が収蔵されています。

本展では、華やかな屏風絵をはじめ、狩野派の絵師たちの作品や伊藤若冲の模写のお手本にもなった絵画《鳴鶴図》など、国宝、重要文化財あわせて45 件以上を含む珠玉の名品が一堂に集結しています。是非、相国寺の荘厳なる美の世界をご堪能ください。
それでは、シネフィルでも展覧会の展示構成に従って、主要展示作品を紹介していきます。

相国寺承天閣美術館開館40 周年記念「相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」開催にあたり特別法要 愛知県美術館 記者内覧会にて 2024年10月10日 photo by ©cinefil

■将軍義満の祈願
「吾れ、新たに小寺を建てんと欲す」——
室町幕府3 代将軍・足利義満が発したその一言から、相国寺の歴史が始まりました。
明徳3 年(1392) 、発願から10 年を経て大伽藍の禅寺が完成し、落慶供養が行われました。

重要文化財 伝土佐幸弘筆《足利義満像》足利義持賛 室町時代 応永15年(1408)鹿苑寺蔵 
【愛知展前期展示】 photo by ©cinefil

夢窓疎石像 夢窓疎石賛 南北朝時代 14世紀 相国寺蔵 【愛知展前期展示】
photo by ©cinefil

相国寺は、京五山禅林の最大門派であった夢窓派の祖・夢窓疎石(むそうそせき)(1275~1351)を勧請開山(かんじょうかいざん)に迎えましたが、実際には、夢窓疎石は既に亡くなっていたので、その高弟の春屋妙葩(しゅんおくみょうは)(1311 ~1388)が実質的には住職となりました。

重要文化財 文正《鳴鶴図(めいかくず)》中国・元―明時代 14-15世紀 相国寺蔵
【愛知展前期展示】 photo by ©cinefil 

中国・明時代初期の花鳥画家・文生(ぶんせい)が描いた花鳥画の名品。これこそ、相国寺を代表する荘厳なる美の象徴です。優雅に舞い降りる鶴と、遠くの三日月を見上げる孤高の鶴の二幅対になっています。相国寺六世の絶海中津(ぜっかいちゅうしん)が明から帰国する際に請来(しょうらい)した作品と伝えられています。

相国寺承天閣美術館開館40 周年記念「相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」展覧会風景 
《鳳凰》【愛知展通期展示】 photo by ©cinefil

鹿苑寺(金閣)の創建当初から頂上にあったとされる「鳳凰」。金閣寺の修理解体の際に下ろされ、保管されていたため、昭和25(1950)の火災を免れ、今に至ります。
足利義満が築いた金閣寺の北山文化の権威と雅の象徴であり、守り神のようでもあります。
北山文化は、禅宗の影響も受けていますが、公家文化の能や狂言に見られるような優美で華やかな面が特徴です。
一方、八代将軍義政が築いた銀閣寺の東山文化は、禅宗の影響をより強く受け、武家文化の
の簡素で洗練された枯山水のような「わびさび」の趣があります。

■雪舟がみた風景
室町幕府の御用絵師であったとされる相国寺の画僧・如拙と周文は室町水墨画の様式を確立し、彼らを師と仰ぐ雪舟(1420~1506?)は、相国寺の春林周藤(しゅんりんしゅうとう)のもとで修業の日々を過ごしました。 

重要文化財 伝如拙《墨梅図》絶海中津賛 室町時代 15世紀 正木美術館蔵
【愛知展前期展示】photo by ©cinefil

本作は室町将軍家の御用絵師だった如拙に相国寺の高僧・絶海中津画漢詩を添えました。
絶海中津は如拙の画技を称賛し、名付け親になりました。

重要文化財 伝張遠《寒山行旅山水図》絶海中津賛 中国・元時代 14世紀 賛:室町時代14-15世紀 相国寺蔵 【愛知展前期展示】 photo by ©cinefil

中国もしくは朝鮮から伝わった山水画に相国寺の絶海中津が詩を寄せました。
このような山水画を雪舟はお手本にしたのでしょう。

雪峰《梅鶴図》中国・明時代 17世紀 鹿苑寺蔵【愛知展通期展示】photo by ©cinefil

真っ白な鶴の番(つがい)が、梅の花の開花を待ちわびていたかのようです。白く可憐な梅の花と真っ赤な山茶花が咲き乱れ、早春の到来を祝福する一軸です。のちに伊藤若冲もこのような花鳥画を描きました。

■復興の世の文化
九二世住持・西承笑兌(せいしょうじょうたい)(1548-1607)は豊臣秀吉や徳川家康に助言し、外交僧としても活躍し、戦国の世の相国寺を復興させました。

狩野探幽《飛鶴図》江戸時代 承応3年(1654)京都国立博物館蔵 【愛知展前期展示】photo by ©cinefil

本作は狩野探幽が文正の「鳴鶴図」を模写した作品です。正確な模写ではなく、探幽独自の表現が加えられています。

国宝 無学祖元筆《無学祖元墨蹟 与長楽寺一翁偈語》鎌倉時代 弘安2年(1279) 相国寺蔵 【愛知展前期展示】 photo by ©cinefil

■若冲が生きた時代
中世の相国寺文化圏を代表する巨匠が「雪舟」であるとすれば、近世の相国寺の文化に賑わいを添えてくれたのは「若冲」と言えるでしょう。

伊藤若冲《竹虎図》梅荘顕常三賛 江戸時代 18世紀  鹿苑寺蔵【愛知展通期展示】photo by ©cinefil

《猛虎図》(伝李公麟 正伝寺蔵)に依拠した若冲の《竹虎図》。梅荘顕常の賛一幅と対になり、1つの作品となりました。

重要文化財 伊藤若冲《鹿苑寺大書院障壁画 二之間襖絵 松鶴図》(部分)江戸時代 宝暦9年(1759) 鹿苑寺蔵 【愛知展通期展示】photo by ©cinefil

若冲は相国寺の梅荘顕常に捧げた色鮮やかな《動植綵絵》(本展には出展されません)の連作と同時に、鹿苑寺大書院障壁画も手がけました。今までの彩色画から墨を用いた斬新な水墨画の世界を創り出したのです。伝統の中に新しさがある、水墨画。若冲の描く世界は、まさに日本の「粋(いき)」が感じられます。《鹿苑寺大書院障壁画》五十面は圧巻です。

原在中《相国寺方丈杉戸絵》江戸時代 19世紀 相国寺蔵 【愛知展前後期入替】 photo by ©cinefil

天明の大火(1788年)によって伽藍の大部分が灰燼に帰しましたが再建されました。
原在中が様々な古画をもとに作品を制作したのです。

■未来へと育む相国寺の文化
中世から近世に移り変わる激動の時代、相国寺は幾度も焼失と復興の歴史を繰り返し、その復興は時代ごとの権力者に支えられてきました。
いにしえより伝来する相国寺の寺宝の数々は相国寺上天閣美術館において、未来へと守り継がれるでしょう。

重要文化財 伝俵屋宗達《蔦の細道図屏風》烏丸光弘賛 江戸時代 17世紀 相国寺蔵【愛知展前期展示】
photo by ©cinefil

華やかな金屏風、俵屋宗達が大胆な構成で描きました。

重要文化財 円山応挙《牡丹孔雀図》江戸時代 明和8 年(1771)相国寺蔵
【愛知展後期展示】

円山応挙(1733 ~95)も慈照寺(銀閣)へ仏画を奉納するなど、その交流が伺えます。
応挙は、近現代の京都画壇にまでその系統が続く「円山派」の祖であり、常に懐中に写生帖を忍ばせ、写生を重視していたことが特徴です。応挙は、こうした写生の技術を基礎とし、日本絵画の伝統的な画題を装飾性豊かに描き出しています。

円満院門主祐常は、応挙の主要なパトロンで、代表作の『七難七福図』、『牡丹孔雀図』などは第二次大戦後まで三井寺円満院に伝来したものです。

伊藤若冲《牡丹百合図》江戸時代 18世紀 慈照寺蔵 【愛知展通期展示】 photo by ©cinefil

本作は若冲の初期の作品のようです。伝統を重んじ、花鳥風月、四季折々の美しさを描きながらも、そこには常に新しさを追い求める、斬新さがあります。色彩豊かな牡丹と百合が写実的に精緻に描かれています。牡丹の葉が害虫によって穴が開いていたり、岩の穴に小さなカタツムリがいたり、若冲らしいユーモアセンスが覗いています。

伝辺文進筆《百鳥図》中国・明時代15世紀 鹿苑寺蔵 【愛知展通期展示】 photo by ©cinefil

花鳥画には、吉祥の意味が込められています。また、鳳凰は、中国の伝説上の鳥で百鳥の中の王と位置づけられています。その表情はとても愛らしく、手塚治虫の「火の鳥」を連想させます。
                               
相国寺では多くの画家が学び、名作が誕生し、受け継がれてきました。
悠久の歴史を辿り、遥か室町時代から江戸時代に思いを馳せ、「温故知新」、いにしえの禅寺に受け継がれる名品をご堪能頂き、心洗われるひとときをお過ごしください。

展覧会概要

展覧会名| 相国寺承天閣美術館開館40 周年記念 相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史
会 期| 2024 年10 月11 日[金]~11 月27 日[水]
会期中一部展示替えをします。
前期10 月11 日[金]~11 月4 日[月・休]
後期11 月6 日[水]~11 月27 日[水]
開館時間| 午前10 時~午後6 時、金曜日は午後8 時まで(入場は閉館30 分前まで)
休館日| 月曜日(ただし1010月1414日[月・祝]、11月4日[月・休]、11月25日
[月]は開館)、10月1515日(火)、11月5日(火)
会 場| 愛知県美術館(愛知芸術文化センター10 階)
〒461 8525 名古屋市東区東桜1 13 2
美術館ウェブサイト https://www-art.aac.pref.aichi.jp/exhibition/000456.html

アクセス| 地下鉄東山線・名城線「栄」駅/名鉄瀬戸線「栄町」駅下⾞、
オアシス 21 連絡通路利用徒歩3 分
チケット| 一般 1,800 円(1,600 円)高校・大学生 1,000 円(800 円)
中学生以下無料※( )内は前売券および20名以上の団体料金です。
詳細は、美術館公式ウェブサイトをご覧ください。

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「相国寺承天閣美術館開館40 周年記念 相国寺展―金閣・銀閣 鳳凰がみつめた美の歴史」@愛知県美術館シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上3組6名様に、無料観覧券をお送り致します。この観覧券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2024年10月28日 月曜日 24:00
記載内容
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