病気の療養から復職した新聞記者がなにげない日常や社会との繋がりから心の居場所を見出してゆく、静かな癒しの映画『ヒューマン・ポジション』がいよいよ9月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開となります。 つきましては映画公開に先立ち、本編映像「社会問題と生活篇」が初解禁となりました。

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とある病気の療養からの経過を見つつ日々を過ごす新聞記者のアスタ。
職場では「もう平常運転」と言うものの、どこか心ここにあらず。それでもガールフレンドとの日常のなかで会話にあがるのは、やはり社会問題について。ノルウェーといえば 日本とほぼ同じくらいの土地面積でありながら人口密度は圧倒的に少なく、世界幸福度ランキングも常に上位の印象で、どこかのんびりと平和な印象だ。
しかしその幸福度とは、きちんと機能する民主主義、高福祉、汚職の少なさが例に挙げられるほど、実際にはただのんびりとした雰囲気ということではなく、日常生活の中にも常に社会問題を語る土壌があってのこと。

© Vesterhavet 2022

ノルウェーの哀愁漂う港町の新聞社。
職場復帰した彼女は、どこかもの悲しくて、あてどない。

青くて、物悲しいノルウェーの長い夏。うっとりするような静けさの中、パステルカラーに包まれた港町の丘をゆっくりと登って振り返るアスタ。新聞社に勤める彼女は、地元のホッケーチーム、アールヌーボー建築を保存するための小さなデモやクルーズ船の景気など地元の人々を取材しニュースにする。彼女の支えとなるガールフレンドのライヴは、デザインチェアを修復し、キーボードを演奏し、作曲をする。子猫が歩きまわる家で、料理を作ったり、古い映画を観たり、ボードゲームを楽しんだりと二人は穏やかな時間を過ごしている。ある日、アスタは10年間ノルウェーに住み、働いてきた難民のアスランが強制送還されたという記事を目にする。その事件を調べて行くにつれ、アスタは自身を覆っていた無気力感を払拭し、仕事とプライベートの両方で自分が求める”心の居場所”を次第に見出していく…。

消えた労働者、追う新聞記者…
世界幸福度ランキング上位国の抱えた難民問題とは——。

職場復帰した新聞記者のアスタは、労働法違反の摘発で難民申請者が強制送還された記事を見つけ、情報提供者を追う。小さな港町、ある日突然どこかに消えたまま連絡が途絶えてしまった労働者…。工場は大騒ぎだが、取材に行っても話せないと断られ…ノルウェーでは難民申請者はどんな支援を受けられる?ノルウェーの良いところとは?どこかぽっかりと穴の空いた自分自身への問いかけのように、問う。

© Vesterhavet 2022

© Vesterhavet 2022

© Vesterhavet 2022

監督は、本作が長編2作目となるノルウェーが生んだ才能アンダース・エンブレム。フィヨルドに囲まれ、絵画のような色彩豊かな風景で「ノルウェーで最も美しい街」と称される監督の故郷オーレスンを舞台に、写真集を捲るように優しく美しい筆致で、主人公の心の機微や日常を丁寧に描く。繰り返されるショット、音楽の不在、削ぎ落とされた行間、街の音はもちろん呼吸音まで聞こえてきそうな長い静寂…。アスタとライヴを取り巻く環境を、カメラは空気をも映し出すかのようにゆったりと物語る。自身のインスピレーションの源としてロベール・ブレッソンと小津安二郎を挙げるエンブレム監督は、劇中でも『お茶漬けの味』のセリフを登場させ、その小津愛溢れる演出には誰もがニヤリとするだろう。また、もう一つの主役とも呼べる椅子への想いが、二人をより結びつけている。ある喪失感を抱えた主人公の日常をそっと見守る子猫も、名脇役として作品に貢献している。

監督・脚本・編集:アンダース・エンブレム
撮影:マイケル・マーク・ランハム 音楽:エイリク・スリニング
製作:スティアン・スキャルタッド、アンダース・エンブレム
出演:アマリエ・イプセン・ジェンセン、マリア・アグマロ、ラース・ハルヴォー・アンドレアセン
原題:A Human Position
日本語字幕:西村美須寿
提供:クレプスキュール フィルム、シネマ サクセション
配給:クレプスキュール フィルム

[2022年/ノルウェー/ノルウェー語/カラー/ビスタ/78分]

2024年9月14日(土)よりシアター・イメージフォーラムほか全国順次公開