「世界まる見え!テレビ特捜部」でお馴染みのマシュー・チョジックが初監督をつとめ、ニューヨーク・ショーツ国際映画祭のコメディ部門の最優秀賞を獲得した『トシエ・ザ・ニヒリスト』と、第75回カンヌ国際映画祭「ショートフィルムコーナー」から選出したドイツと中国の短編映画2作品の上映会がシアターギルドにて行われた。3作品全てが日本のスクリーンでは初めての上映となる。

マシュー・チョジック監督×真砂豪(まさご たけし)さんトークショー(以下、敬称略)

真砂:俳優・プロデューサーをしております真砂豪と申します。私がプロデューサーのひとりとして携わっている作品の『やまぶき』が去年、カンヌ国際映画祭のACID部門で上映できることになり、マシューとはそこで初めて出会いました。お互いに日本に住んでいるのに初めての出会いはフランスだったんですが、2回目は高円寺で飲みましたね。来年、マシューが長編を撮るのでそのプロデューサーとしても関わらせていただきます。

マシュー:1作品目の『Fluffy Tales(フラッフィテイルズ)』はいかがでしたか?

真砂:衝撃的でした。最初はちょっと変わっているなというくらいの印象だったんですが、後半から徐々にすごくなっていきましたね。モデルの仕事のドキュメンタリーを観ているようでした。最後のシーンはカメラマンやスタッフに反抗した主人公のモデルが勝つんだなと思いきや、まさかの代わりのモデルがいるというオチ。

マシュー:僕はフランスで初めてこの作品を観たのですが、主人公が犬のようにソファにおしっこをかけるシーンは鼓膜が破れるくらい笑いが起こっていましたよ。この前、久しぶりに監督に会って話を聞いたら、おしっこはハーブティーを使ったと言っていました(笑)主人公が食べさせられたドッグフードは豆腐を使用したらしいのですが、演技が上手でしたね。本当は美味しいらしいのですが、見事に不味そうに食べてました。犬の真似をする演技が素晴らしかったです。

真砂:監督に聞きたいのが、あのシーンは何回撮ったのか聞きたいですね(笑)ワンテイクで終わらせてたら天才だなと。

マシュー:2作品目の『ナルシス(Narcissus)』はいかがでしたか?音楽がすごく心地良い映画だったかなと思います。

真砂:日本で聴ける音楽ではないので独特だなと思いましたね。1作品目は「業界のハラスメント」、2作品目は「ジェンダー」、マシューさんの作品も仮想通貨や戦争の話が出てきて、社会派続きでしたね。ウクライナの話とかも。

マシュー:ウクライナの戦争が始まる前に撮った作品なので、それはたまたまでした。そこは変えたほうが笑いに繋げられるかなと思ってプロデューサーに相談したのですが、ダメでしたね。確かに全部社会派の作品でした。

真砂:マシューの『トシエ・ザ・ニヒリスト』は、話の展開やテンポ感がすごいなと思いますね。私がこの作品を観るのはもう3回目ですけど、初めてカンヌで観た時も「どうゆうこと!?」となりました(笑)お洒落な作品ですね。マシュー自身も出演してますが、メガネを外した姿だったので別人のように見えました。喋ったらマシューなんだけど、メガネがないマシューは慣れないね。あと、この作品はマシューが配給してるから日本ではここ「シアターギルド」でしか観れないんですよね。それがすごく貴重だなって思います。

マシュー:そうなんですよ。字幕は東京大学の先生がつけてくれました。海のシーンはドローンで撮影する予定もあったんですが、風が強くて中止になってしまったので、撮影監督も一緒に海に入って1時間以上撮影しました。沖縄でも撮り直ししましたね。上からのアングルで泳いでる風のシーンは、嘘っぽさや手作り感で笑いが起こるからいいかなと思ってそのまま使ってます。あれは高円寺の公園の滑り台の上から撮ってます。ハワイのお店も高円寺にあるとっても美味しいインドネシア料理屋さんです(笑)東中野にハワイ料理屋さんもあるけど、バリ島の方がハワイっぽいかなって。本日来てくださった皆さん、質問や感想はありますか?

お客さん:日本の監督が作る作品と、海外の監督では全然着眼点が違うのかなって思いました。

マシュー:そうですね。『Narcissus(ナルシス)』は出会い系のアプリとかが出てきて、カンヌで観た時もそれがすごく今風だなって思いましたね。ティンダーの中国版みたいな感じなのかな。

お客さん:一番好きなシーンは『トシエ・ザ・ニヒリスト』で主人公が橋から落ちるシーンでした。スピード感があって、そこに爆笑してしまいましたね。とてもぶっ飛んでるシーンだなと。

真砂:あれは絵コンテ通りなんですか?(笑)

マシュー:手前味噌的な感想なんですが、僕もこのシーンが好きです。僕は短編を観ていて途中で飽きてしまったり、そこまで内容があるシーンではないのに長く感じたりする時があるので、そうならないように心掛けました。これは15分の作品ですが、4つの短編を詰め込んだようにしたのが戦略です。基本的に絵コンテ通りに撮っていますが、撮影が終わって編集している時に順番を組み替えたりもします。

マシュー:今日は石原理衣監督も来てくださっていますね!

石原:石原理衣と申します。映画が始まる前に予告編が出ていたと思うのですが、和風テイストな短編作品『寓』、『メメントモリ』2本の監督をしています。こちらはシアターギルド 代官山の方で上映をしています。スペインのシッチェス•カタロニア国際映画祭で最優秀短編作品賞を受賞した作品になりまして、シアターギルド 下北沢とはまた違ったテイストの劇場になるのですが、劇場初の上映になりますので是非お越しください。

マシュー:アートのようなとても美しい映画です。来年僕と石原さんで長編映画を撮るのでそれも楽しみにしていただければと思います!

石原:長編のシナリオを拝見しましたが、相変わらずぶっ飛んでいて、さらにパワーアップしておりました。

マシュー:ノーベルショーを敵にするコメディです(笑)

お客さん:マシューさんが映画を作るきっかけとなった作品はなんですか?

マシュー:日本の映画が大好きで、特に『家族ゲーム』とか。60〜80年代の映画がすごく好きですね。シュールレアリズム的な要素と、ブラックコメディの雰囲気もある作品が好きです。映画作りは米本学仁さんとか、矢部太郎さんとよく一緒に飲みに行く仲で、その時に「映画をつくろうか」という感じで始まったのですが、一回映画を撮るとすごく中毒性が高くて。シナリオはいくつも頭に浮かんでいるので、お金さえあればもっと撮りたいなと(笑)

真砂:映画はお金かかりますからね(笑)

マシュー:そうそう。お金と共に友達がなくなると言いますが、まだ友達は大丈夫です(笑)

真砂:それでは来年の長編に向けて資金調達をしていただいて。マシューの企画は周りのメンバーも含めて面白そうだなっていつも思いますね。私もコメディが大好きですし、ブラックコメディであったり、少しシュールな感じだったり、やりたいなと思う方向性が似ているので、マシューの作品作りに参加できるのが楽しみだなと思います。

マシュー:そうですね!楽しみにしています。真砂さんは元々岡山県で会社員をされていたとのことですが、映画の世界に飛び込んで成功した理由や、去年参加されたカンヌならではの魅力を聞かせていただければと思います。

真砂:成功というか僕はただ単に運が良かっただけと言うか…。私が去年カンヌに参加したのは、ACID部門なんです。カンヌの中でも3部門あって、レッドカーペットを歩くすごく煌びやかな部門と、監督週間と批評家週間に並ぶもう一つの部門をACID部門と呼びます。そっちは少し地味というかアットホームな感じなんです。審査員が各国の作品を選んで、ノミネートされたものを上映するという形です。教育的な意味でも、学生さん達に観に来てもらうプログラムもあります。なので華やかなリゾート地で「ザ・カンヌ」という皆さんがイメージするような部分と、街全体で映画教育をやっているという部分、その対比も見れて良かったなと思いましたね。そこで日本人に会うと、同志に思えてより仲良くなったりとか。

マシュー:本当にそうですね!

真砂:そこで会う監督や助監督とお話しすると、やはりカンヌに来ている人達は世界を目指しているので志が高いですね。日本国内だけではなくて、世界マーケットでの日本の立ち位置などが聞けて、それがすごく刺激になりました。

マシュー:それにカンヌは人ぞれぞれ色んな過ごし方があるんですよね。映画は観ずに毎晩踊りに行ってたくさんお酒を飲んだりする人もいれば、「マシュー、これからスター・ウォーズのプロデューサーの島に行くけど行かない?」と誘ってくれる人がいたり、面白かったですね。

真砂:人それぞれ色んな作戦を繰り広げていましたね。そういうことをしていかないと、カンヌでもそうですけど、世界のマーケットで映画を上映することは難しいんだなと。細い糸だとしてもコネクションを手繰って勝ち取っていくことが必要なんだなと思いました。それを間近で見ることができて、今後の自分にとってもこういう風な動きをしていかないとなと勉強になりましたね。またカンヌに行きたいです。

マシュー:勉強になること、多かったですよね。僕もすごく良い影響を受けました。また一緒に行きたいね。

真砂:それこそマシューがこれから作る長編でね!

マシュー:カンヌ、目指します。

真砂:宿泊費はびっくりするくらい高いですけどね(笑)リゾート地のお祭りに参加するんだもんね。

マシュー:水のペットボトルが500円くらいなのかな。ほぼチーズしか食べなかったけど、食費が高かったですね。でもフランスのチーズは美味しかったです。

真砂:そうそう、冒頭でお話しした『やまぶき』という作品がフランスで公開になった時、10〜12館くらいの映画館で上映されたのですが、日本との反応の違いに驚きましたね。面白いなと思ったシーンでは声を出して「笑う」とか。あとフランスではエンドクレジットが流れ出すと帰るのが基本らしいのですが、帰らずに皆さん最後まで残ってくれていて、それが嬉しかったです。日本では5000人くらいの動員だったのですが、フランスでは1ヶ月で6000人も入ったんですよ。

マシュー:海外の方がウケが良かったんだね!

真砂:はい。主演がカンさんという韓国人の方なので、今は韓国でも公開できるように動いています。『やまぶき』はコロナ前に撮った作品なんですが、有難いことに、今年も監督協会から新人賞をいただいたりと、今でもたくさんの方々が携わってくれていることが嬉しいなと思います。これからは自主配給になりますので、是非シアターギルドさんでも上映できましたら幸いです。

マシュー:たっぷりご紹介いただいてありがとうございます。楽しいお話しは尽きませんが、皆さま本日はありがとうございました。12月16日(土)まで上映しておりますので、是非お越しください。

『トシエ・ザ・ニヒリスト』

監督:マシュー・チョジック 

キャスト:比嘉梨乃、矢部太郎、古川日出男、米本学仁、日高七海、マシュー・チョジック

製作国:日本(15分)

作品紹介:仮想通貨のオフィスで働く主人公トシエ(比嘉梨乃)の彼氏(矢部太郎)は、刑務所から出たばかり。トシエは彼氏と一緒に釈放を祝うはずだったが、彼氏からはとんでもないお願いをされ、モンモンとする日々。そんなある日、通勤途中に不慮の事故に見舞われてしまうトシエだったが、ベトナム戦争の英雄とされる人物の息子に救われ、日本からハワイまで泳ぐことになる。トシエの運命はいかに!?ユーモアあふれる作品。

『Fluffy Tales(フラッフィテイルズ)』

監督:アリソン・クーン 

キャスト:ナディーン・デュボワ、ローレンツ・クリーガー、アレクサンドラ・サグルナ

製作国:ドイツ(15分)

作品紹介:英国アカデミー賞ノミネート作品。映画界で大注目を集める新進気鋭、ドイツ人の20代女性監督アリソン・クーンによる風刺コメディ。主人公エラが、ドッグフードの新ブランド広告キャンペーンモデルに起用される。彼女と共演していたモデルの犬が撮影の際にうまく振る舞えなかったため、写真家とクライアントはエラに犬役をもオーダーする。エスカレートする要求にエラはどう応えるのか。MeToo時代に必見の作品。

『Narcissus(ナルシス)』

監督:蒋闻

キャスト:カン・チャン、ワン・ダン 

製作国:中国 (19分)

作品紹介:古代ギリシャ神話のオマージュで、トロントインディーズ映画祭のLGBTQ最優秀賞受賞作品。LGBTQの大学生が出会い系サイトで知り合ったひとりの男性に会いにいくところから始まる。彼との出会いを通して主人公が味わうさまざまな感情や人生の旅が、ため息の出るような中国の風景とともに描かれる。困難を乗り越えながら成長し、自己愛と向き合う主人公がいきつく先はどこなのか。普遍的かつ哲学的な作品。

短編『寓』&最新作『メメントモリ』

監督:石原理衣・小野川浩幸

キャスト:『寓』/木原勝利、石原理衣・ 『メメントモリ』/SUMIRE、木原勝利

作品紹介:『寓』/昭和初期、翻訳家になるためのフランス留学を終え、帰国した菊生のもとに死ん だはずの姉・つる葉から手紙が届く。美しい山々の間を縫って川船で旅をしてきた菊生は、 不安を抱きながらも人里離 れたつる葉の家に辿り着く。するとそこには、つる葉の娘・雛乃とそっくりな人 形と暮らすつる葉の姿があった... 死の間際にみた走馬灯によって語られるダークファンタジー。

『メメントモリ』/大正時代、人里離れた山奥の名家に女中として働き始めた身寄りのないお菊。屋敷の主人である浄瑠璃人形劇の作家の菊生には病気の妻がおり、屋敷の奥の一室で菊生が世話をしながら、ひっそりと暮らしていた。お菊はこの部屋に立ち入る ことを固く禁じられていた。この屋敷に来てから菊生の妻の姿を一度も見たことがなかったが、時折、部屋からは誰かと会話する菊生の声が聞こえてきた。菊生の行動に次第に不安を抱き始めるお菊は、真相を突き止めるために禁じられた部屋にとうとう忍び込む。そこで書きかけの原稿を見つけたお菊は、菊生の壮絶な過去を知ることとなり...