去る10月23日(月)~11月1日(水)の10日間に渡って開催された第36回東京国際映画祭の企画部門「アジアン・シネラマ - 香港フォーカス」で、ウォン・カーウァイ監督の『2046』が10月26日(木)に上映され、主演のトニー・レオンがイベントに登壇。これまでの俳優生活を振り返るトークを行った。

ウォン・カーウァイ監督の「グランド・マスター」(2012年)でのプロモーション以来10年ぶりの来日を果たしたトニー・レオンは、このイベントにおいて、1989年に製作され、彼の出世作となった台湾のホウ・シャオシェン監督の『悲情城市』(ヴェネチア映画祭金獅子賞受賞)への出演経緯や、1990年の『欲望の翼』以降、数々の作品でタッグを組んできたウォン・カーウァイ監督との思い出や撮影時のエピソードを披露した。

10年ぶりに来日したトニー・レオン

本映画祭で上映する作品として、自ら2004年製作の『2046』を選出したというトニー・レオンは、その理由を「『2046』は僕にとって特別な作品です。この物語は『花様年華』とつながっており、僕が両作で演じた役は同一人物なんです。でも監督からは全く違う演技で、過去を忘れて新しい暮らしに向かう主人公の姿を見せてほしい」と言われたという。

ウォン・カーウァイ監督の演出法について、トニー・レオンは「監督の作品に脚本はありますが、我々俳優は見せてもらえません。全体的な物語と自分の役柄についてのみ教えられ、それに関しての指導はありますが、物語がどのように完成するのかはわからない。非常にユニークな仕事のスタイルなんです」と紹介。

さらには「監督は撮影現場で、俳優の状態や演技、カメラの動きなどを確認し、変更する余地を残しておきたいのだと思います。だからこそ役者には情報を与えすぎない。情報が多すぎると役者も構えて準備をしてしまう。そんなことは監督は欲していないのです。だから毎回、ウォン・カーウァイ監督との撮影は冒険しているような気分になるんです」と語った。

トニー・レオン:プロフィール
1962年6月27日、当時はイギリス領だった香港に生まれる。18歳の時、香港の俳優養成学校に入学。卒業後、TVドラマに出演して人気を集める。1989年の『悲情城市』で聾唖の主人公を演じ、高く評価される。以後、香港を代表する映画スターとして活躍中で、ウォン・カーウァイ監督とのタッグ作は『欲望の翼』(90年)、『恋する惑星』(94年)、『楽園の瑕』(94年)、『ブエノスアイレス』(97年)、『花様年華』(00年)、『2046』(04年)、『グランド・マスター』(13年)。その他の主な出演作は『チャイニーズ・ゴースト・ストーリー3』(91年)、『ハード・ボイルド 新・男たちの挽歌』(92年)、『シクロ』(95年)、『HERO』(02年)、『インファナル・アフェア』(02年)、『ラスト、コーション』(07年)、『レッドクリフ PartI』(08年)、『レッドクリフ PartII』(09年)、『シャン・チー/テン・リングスの伝説』(21年)など。

また、『2046』のヒゲをたくわえた主人公について、「撮影初日に、監督にヒゲを付けさせて下さいとリクエストし、却下されましたが、それでも絶対必要だと言い張り、実現させたんです。この映画はカンヌ国際映画祭でワールドプレミア上映されたんですが、上映後のパーティで監督に『やっぱりヒゲがあってよかったよ』と褒められた」ことを明かした。

『2046』は、香港の名匠ウォン・カーウァイが監督・脚本を手がけ、『欲望の翼』『花様年華』に続いて1960年代を舞台にした作品で、両作品のエピソードを散りばめながら描いたSFラブストーリーだ。

2004年のカンヌ国際映画祭での『2046』組フォトコール。
右から3人目がトニー・レオン、左端はウォン・カーウァイ監督
Photo by Yoko KIKKA

舞台は激動する1967年の香港。愛した女の思い出から逃れるように自堕落な生活を送る作家チャウは、滞在先のホテルで近未来SF小説「2046」の執筆に取りかかる。小説の登場人物たちはアンドロイドが客室乗務員を務める列車に乗り込み、そこへ行けば失われた愛を見つけることができるという「2046」を目指す。チャウは小説に自らの日常を反映させ、主人公の男に自分自身を投影しながら執筆を進めていくが……。

トニー・レオンのほか、コン・リー、フェイ・ウォン、木村拓哉、チャン・ツィイー、カリーナ・ラウ、チャン・チェン、ドン・ジェ、マギー・チャンらの豪華キャストが名を連ね、数々の映画賞に輝いた名作である。

ちなみに、『花様年華』とほぼ同時期に撮影が開始された『2046』は、脚本が流動的で予定通りに撮影が進まないカーウァイ監督独特の演出スタイルによってキャストのスケジュール調整が難航。さらにはSARSによる渡航制限やレスリー・チャンの自殺などを受け、完成までに5年の歳月が費やされている。

2004年のカンヌで若き日のトニー・レオンを取材!
Photo by Yoko KIKKA

まさに難産の末に誕生した『2046』だが、本作の出品を熱望した2004年のカンヌ国際映画祭は未完成作品のワールドプレミア上映を決行。未完成だったCGシーンを線描のみの形で上映するという幻のカンヌ・バージョンとなった。

(Text by Yoko KIKKA)

『2046』上映後のイベントに登壇したトニー・レオン

吉家 容子(きっか・ようこ)
映画ジャーナリスト。雑誌編集を経てフリーに。
シネフィルでは「フォトギャラリー」と気になるシネマトピックをお届け!