映画を信じるということ 
『東京組曲2020』『IMPERIAL大阪堂島出入橋』トークショー

『しあわせのパン』『幼な子われらに生まれ』を発表し、2024年2月9日に新作『一月の声に歓びを刻め』が公開予定の三島有紀子監督が、はじめて手がけたドキュメンタリー映画『東京組曲2020(とうきょうくみきょくにーまるにーまる)』は、コロナ禍での俳優たちの日常を活写した作品として、全国各地で上映され、静かな反響を呼んでいる。第24回チョンジュ国際映画祭にてワールドプレミア上映された同作の併映作品として、佐藤浩市主演の短編『インペリアル大阪堂島出入橋』があり、こちらはグローバル・ステージ・ハリウッド映画祭でインターナショナル上映され、Best Short賞を受賞した。京都の出町座では、2本の上映後、京都芸術大学教授の北小路隆志さんと三島有紀子監督のトークが行われた。『東京組曲2020』出演者の荒野哲朗さん、加茂美穂子さん、田川恵美子さん、松本晃実さんも加わり、三島監督によるユニークな映画作りの話で盛り上がった。

トークショー出席者
北小路隆志(映画批評家、京都芸術大学教授)
三島有紀子監督
荒野哲朗
加茂美穂子
田川恵美子
松本晃実

北小路隆志 『インペリアル』は、15分の短編を集めた2時間のオムニバス映画『MIRRORLIAR FILMS2』の中の1編という形で公開され、全編を見させていただきました。最初に感想めいたことを話しておくと、僕の中では、『インペリアル』が突出して面白くて、「他の作品とどこが違うのかな?」と思ったわけです。どうしても人は映画で自分を表現したい、何かを表現したい、何らかの切実な物語、メッセージを語りたいと思いがちです。もちろん、「映画は表現である」ということを否定するつもりはないのですが、この点で『インペリアル』は、他の作品と違っている。いま皆さん、ご覧になったばかりなので、強く印象に残っていると思うのですが、コックを演じた佐藤浩市さんがすごい演技をしているとか、表現をしているとか、そういうレベルじゃない。後半ずっと長回しが続いたこともあるのですが、15分という時間の持続をボンと提起する。それが結果として「表現」になった作品だと思いました。

ところで、監督として、三島さんと一緒にクレジットされているのはお母さんですか?

三島有紀子 そうです。うちの母親がインペリアルという、実際にあるお店のハンバーグを食べたいと言ったことがきっかけで。店に行ったら閉店していて、ショックを受けコックが幼馴染なので連絡したら「持ち耐えれなかった」と。「母が死ぬ前にどうしてもインペリアルのハンバーグを食べたいと言うのでハンバーグを作ってほしかったんだけど」と言ったら、「店はなくなっても、デミグラスソースは作り続けているから、作る」と言ってくれた。その時に、店が取り壊される前に店の記録を残さないといけないと思った。そして、私たちにとってのデミグラスソースって何だと思った時に、キャスト、スタッフが映画を信じることだなと思って、この映画を作ったということです。

北小路 じゃあ、ゆきちゃんと出てくるのは?

三島 私です(笑)。出てくるお婆さん=豊子さんが、何を言ってるのかわからないと思うんですけど。高齢の方って、記憶の断片で喋ることがあります。だからセリフがよくわからなくても、それでいいのかなと。ハンバーグを美味しいって言ってくれる人に出し続けていたコックが、お店にそのお客さんも来なくなった時に、自分の人生って、何ができたんだろうと振り返る。それで、人生に何も残ってないんじゃないかと思った時に、最後にたどり着いたのがデミグラスソースだった・・・デミグラスソースがあるじゃないか、という。それが夜明けのことで。

北小路 『東京組曲2020』にしても、3年前のことなので、ずいぶん前という印象になってきていますが、「2020年4月22日にどうしていましたか?」という問いかけが含まれているので、観客の皆さんそれぞれ自分がどうしていたかを思い出されていたかと思います。だから、これも『インペリアル』と同じく、「時間の提示」、「時間の映画」ではないでしょうか。緊急事態宣言以降、学校に行って授業を受けて帰ってきて、あるいは仕事に行って帰ってきて、休みがあって、といったような形で進む時間とは違う、ちょっと特異な時間を、皆さん経験したと思うんですよね。『東京組曲2020』は、そうしたことを思い出させるし、映画という表現は、過去現在未来とか、そういった時系列順に並んでいるような時間とは違う何かを経験させてくれる。そんな時間を提示してくれる。両作を並べてみると、非常に考えさせられるところが多いのではないでしょうか。この映画は、参加した皆さんに対する、どのような投げかけから始まったのですか?

©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

三島 2020年5月に劇映画の撮影が決まっていまして、それが中止になったんですね。6年もかけてクラインクインに漕ぎ着けたのに、どうしようって鎮痛な面持ちで。夜はベランダに出て、なんとなく風景を見ながら、毎日過ごしていたんです。4月22日、ちょうど自分の誕生日だったのですが、これからどうなっていくんだろう?映画って人が集まらないとできないし、これから撮影できるんだろうか? いろんな思いで眠れなくなって…。明け方4時ぐらいに、どこからか女性の泣き声が聞こえてきたんですよ。辛いんだな、何があったのかなって色々想像したんです。その人だけの思いではなく、たぶん日本中の人、世界中の人が辛いんだなと思った。その時に、この感情の記憶を残しておいた方がいいのかなと思った。こういうコロナってことや緊急事態ってことがあったという事象ではなくて、人がどういうことを感じていたのか、感情の記録を残しておいた方がいいなと思った。ワークショップに参加してくださったり、自分の映画の感想をくださった方を中心に、いまどうしていますか? どんな思いで過ごしていますか? と投げかけて、リモートでやり取りをしながら、何をどう撮っていこうかと話し合いながら進めていったのです。撮影をする時に、私がリモートで見ながら「よーいスタート」と声かけてというのは一切していません。皆さん自身がカメラをセッティングして、自分たちを撮って、その素材を私に送ってもらって。それに対して、私が何かあったらお話しさせていただくみたいな感じで、進めさせていただきました。

©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

北小路 ここに初っ端に登場される荒野さんがいらっしゃいます。荒野さんの場合は、どのようにアプローチしようと考えられたのですか?

荒野哲朗 三島さんから、「どんなことを考えていますか?」と言われた時に返した文章は3つぐらいあったんですけど、それは全部ボツ…(笑)。「最近どんな生活していますか?」という問いに、自分は有意義に過ごしたいと思っているので、「いろいろ料理したり」三島さんが「料理されるんですね。どんなものを作っているんですか?」。「クリームチーズとか」「それ、いいじゃないですか」というのが元になりました。「荒野さんの文章に、何か作家性のあるものを感じるので作家にしましょうか?」と言っていただき、「コロナ禍で有意義な過ごし方を、皆さんに提示する記事を書くライター」という設定になりました。三島さんからいただいた表現が、それも文学的なものだったので、それを元に、自分が、色々感じたもの、実際の生活のことを加えて…実際にクリームチーズを作っていますし、1人飲みをしてましたし、急に寂しくなりましたし…。

荒野哲朗さん
©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

三島 劇中でつぶやいた「純子」というのは、事実とは違う?(笑)

荒野 そういう存在の人はいるんですけど、別の名前に変えていただきました。

北小路 皆さん、撮影したものでボツとかあったということですね?

三島 残念ながら編集に入らなかった映像はいっぱいあります。おひとり、映画1本作れるくらいの膨大な量で、そこから一度3時間ぐらいにまとめたんですよ。それも短くしてですけど。1人大体40分くらいあるんで(笑)。

北小路 コロナ禍を題材とするドキュメンタリー作品の中で、『東京組曲2020』を面白くしているのは、演技をする人、役者さんが出演し、自らカメラを回しているところではないでしょうか。たまたま身の回りにいらっしゃったからというよりは、あえて「役者さんに」やってもらうことで、何かが見えてくるという意図もあったはずですよね?

三島 理由が2つありまして。緊急事態宣言の時には、自分が撮りに行けないというのがある訳ですよね。そういう時に自分の生活を曝け出してでも表現したい欲求が強い人は誰かと思った時に、役者さんだなと思ったんですね。もう1つは、私が役者さんを演出する時に気をつけていることですが、できる限り型に嵌まったお芝居をやめたい、自然と生まれる感情のやりとりを撮りたいっていうことですかね。役者さんにお願いすると、むしろリアルなものが撮れると思いました。自分自身に起こったことの再現だったとしても、そこに本当の感情が生まれるということを信じました。その2点で役者さんを選んだということですね。

北小路 さっき『インペリアル』と共通する何かがあるという話をしましたが、例えば「日付」という問題もあるのではないか。『インペリアル』で次郎役の佐藤浩市さんが何を言い出すかと思えば、すごく緻密に「何年何月何日○○した」みたいな自身の過去の出来事について日付をもとに羅列される。『東京組曲2020』の場合も、コロナの時どうでしたか、ということじゃなくて、「4月22日」を再現するというこだわりがあるわけです。これは、さっき言った「時間の映画」とも関わることかと思いますが、三島さんにとって、映画の中の日付とは何か、という点が、僕の中で気になっています。

三島 曖昧に、なんとなくこの時期を描くということではないと思うのですよね。私には、映画は、ある特定のここからここまでの時間を濃厚に描くという考え方があって、緊急事態宣言が出た4月は何をしていましたか? ではなくて、4月22日をどう過ごしていたか。私が聞いた泣き声は、この中の誰かの声なのかもしれないし、観客の皆さんが聞いて感じて、伝わるのかもしれない。あの日のあの時を共有することが大事なのではないか? 同じ時間を過ごしているという認識、それは映画を観る時もそうですが、映画を作る時もそうです。皆がこの日を、この時間をこの経験を共有している。そこに何が生まれるのかを描きたいと思いました。

北小路 荒野さんの場合は、4月22日という三島さんの注文はどう反映されていたのですか? 実際にその日に自分が何をやっていたのかなって思い出す訳ではないですよね?

荒野 日付を限定でやっているというよりは、その期間にあなたは何をしていましたか? 何を感じていましたか? どういう状況でしたか? というところを、自分で作っていった感じです。

松本晃実 ある1日の朝から夜、そしてまた次の夜明けまで、そこに当てはめたらどういうことをしていたのか、それぞれがプロット・シナリオを書いて出していったという感じでしたよね。

三島 シナリオではない(笑)。

加茂美穂子 田川ちゃん、1日で撮ったんだよね?

田川恵美子 そう、朝起こされるところから夜寝る直前まで。

北小路 実際の4月22日ではないけれど、その1日の始まりから終わりまで?

田川 そうですね。本当にあった1日を再現という形で、朝から順撮りで撮っていきました。

北小路 じゃあ、実際に、ああやって踊っていたのですか?

田川 はい、踊ってました(笑)。

松本 あんなこと、家族みんな知らなかったんですよね?

田川 私以外、誰も知らなかった(笑)。

北小路 じゃあ、旦那さん(池田良)もびっくりした?

田川 ドン引きしてました(笑)。お姑さんは一切触れてくれないですね(笑)。

北小路 でも、役者さんだからからこそ、堂々とやってくださったってことなのでしょうか。

三島 そう思います。あの時、自分を表現したい人間じゃないと、なかなか自分の感情に向き合えないと思います。過酷なことですもの。

田川 監督から「ひとりの時、何してるの?」と聞かれて、「歌ったり、たまに踊ったり…全身を動かしたくなるんですよね」と話したら、「わかった、じゃあそれ撮って」「いやいや、ちょっと待ってください。見せられるものになるか分かりませんよ」「いいから撮って」。えいやって、素材を監督に送ったら、「これ面白いよ!」と言ってもらって(笑)。

田川恵美子さん
©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

北小路 実は、あの後、子どもを連れて公園へ行って、大変なことがあったんですよね?

田川 はい。あのコロナ禍に救急で病院に(笑)。

北小路 家族としてはそっちの方が大事件ですよね。

田川 大事件でした(笑)。

北小路 一つ一つ聞いていくと面白いですよね(笑)。加茂さんは、海のシーンですよね?

加茂 はい。私の場合、夫に関するビデオ日記をつけたらどうですか? ということでした。

三島 「コロナになってどんなことがありましたか?」と聞いたら、「旦那さんが精神的に参っていたんだけど…」と書いてきてくれて。

加茂 元気になってきたんです。具体的に、コロナで何をしなければいけないとか、調べることとか、国が何と言っているかとか、目的が身近なところにあることで、ちょっと元気になってきた。皆が家の中にいるから、自分だけが家の中にいる訳じゃないというので安心した。コロナのお陰と言ったらなんですけど、少しずつ元気になってきたという話を監督にさせて頂きました。

加茂美穂子さん
©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

三島 それがとても興味深くて。コロナ禍でいろんな方がいらっしゃるんだなと思いました。それで、旦那さんは役者さんではないんですけど、「加茂さんが旦那さんを撮って、1日の夜に自分自身の思ったことをビデオ日記をつけたら」と言ったら、色々撮って送ってきてくれた。最初につないだ時、一番長かったですね(笑)。

加茂 これでもかっていうくらい送りました(笑)。

北小路 役者さんサイドでも編集はするのですか? あるいは、撮ったものをそのまま監督に送る感じ?

加茂 チョイスはしますけどね。他の役者さんがどんなことをしているのか全く分からないから、この中で使えそうなのはありますか? という感じで。こちらはなるべく使ってほしいじゃないですか(笑)。選択肢があれば、どれかは引っかかるかもしれないという欲望(笑)。

北小路 でも、作品を観ていると、旦那さんが良くなってきたかなと思ったら実はそうでもないっていうことなのですね?

加茂 そうですね。波はありますね。でもこの映画のお陰で元気になったり。客観的に観ることで「俺あんな風に歩いている男じゃない」みたいな反応があったりで、東京の舞台挨拶に一緒に来て司会やったりとか(笑)。

海のところは、だいたい3テイク送ったんですけど、「波!」はあのテイクだけなんですよ(笑)。あれはたまたま海が目に入っちゃったんですよね。リアルだったシーンを使ってくださった。ちょっとでも作っているものはバサバサとカットで…(笑)。

北小路 全体の編集がまた大変だったと思うのですが、それぞれのエピソードをまず編集し終えてから、次に全体の編集が始まるということですか?

三島 はい。最初の1か月でそれぞれの方の編集を木谷瑞さん(編集部)として、次の月に編集部の加藤ひとみさんに加わってもらって一本の映画にしたという編集期間だったんですけど。まず、1人1人の素材の何が他の人と違うのか?というのを考えていきました。われわれのやろうとしているのは感情の記録なんで、その感情自体は本物でないと記録にならない。感情は、実際に生まれている瞬間を残していく。嘘の部分はできるだけ落としていくことを心がけました。

北小路 やっぱり個々のエピソードの編集と作品全体の編集は別物で、それぞれ違う観点が必要だったということでしょうか?

三島 そうですね。泣き声を聞くというのは、ラストシーンに持ってこようと決めていたんですけど、それまでの1本の流れをどうするか? 編集部の加藤ひとみさんと話し合ったのは、「映画というのは何か力を持てるのだろうか?」ということでした。 文化芸術は不要不急って言われていたので、私たちに映画で何かできることがあるんだろうかという話し合いが編集部の加藤さんとはいちばん多かったです。できるかどうかはわからないけど、少なくともわれわれは、できると信じたいということを、この映画でやろうと。なので、われわれの裏構成として、まず、映画館ユーロスペースが閉まっているカットが頭にあって。真ん中にTOHOシネマズ六本木をいれて、最後に長田(真英)君が、医療従事者のお父様に留守電をかけるシーン。「映画で何かできることを信じたい」という台詞を最後に持ってきて、自分たちの意思表示をしよう。裏の構成としては、ある種みんながナーバスになっていくという構成にしようということで、大まかにいまの構成になりました。

北小路 『東京組曲2020』で改めて思うのは、僕みたいなおじさんと違って、20代や30代にとってすごく切実な経験だったんだな、ということですね。学生だったらお家に帰れば家族とのんびり過ごせるのかもしれないし、会社員だったら会社に行けば同僚に会えるのかもしれない。しかし、映画に出てくる「役者さん」たちは、基本的に、そうでもない人たちですね。最後の方に出ておられた実家に帰った佐々木(史帆)さんあたりからは、痛々しいというか、本当に大変だったんだということを教えられる。

三島 「役者さん」も「監督」も基本的にはどこにも所属していない生き物ですからね。途端に社会とのつながりがなくなりましたね。だから、精神的にも孤独に追い込まれていきました。それから、あの当時、コロナは本当に得体が知れなかったし、東京から地方に行くということで、バッシングもすごくあった時期だったので。日本人みんながナーバスになっていましたね。

北小路 松本さんの場合はどうでしたか?

松本 リモートでずっとパソコンの前に張り付いている仕事をしていたんですけど、一人暮らしだし、ずっと家の中にいて、まわりの音が全然聞こえなくなったし、街を歩いている人がほとんどいないし、私この部屋の中で消えていくんじゃないかなみたいな。その時に、この映画のお話を頂いて、すぐにこれだ! みたいな感じで。たぶん、皆そうだったと思うんですけど、来た糸を握りしめて。私の場合は、プロットじゃなくてポエムって言われてたんですけど…(笑)。

松本晃実さん
©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

三島 ポエムみたいなのが送られてきたんですよー。なんじゃこれはみたいな(笑)。

松本 そう、ポエムを送り付け…(笑)。電車の音も、満員電車が通っていたはずなのに、軽いカタンカタンみたいな感じの音で通っていくと、そういうのを書いて、その中から「これいいじゃん」と選んでもらった。朝から夜、夜明けを迎えるまでをザっと撮った。その中で、印象的な部分を使っていただいていて…。

なぜ4月22日なのか。みんなそれぞれ別々の4月22日を過ごしているのだけれど、それぞれが合わさってこの映画はできている。この映画は、三島さんが見た4月22日、コロナ禍のとある1日なんだなと…。今日、私は皆さんのお話を聞いていて、改めてジーンときたんです。それは、出演者ばかりではなく、スタッフさんもそうだし、観てくださったお客様もコロナ禍の同じ時間、4月22日を生きていたんだなと感じさせてくれる映画だからかもしれません。

韓国での反応

三島 ここにいるみんなで韓国のチョンジュ映画祭に行きました。

田川 韓国の若いクリエーターの刺激になったということがすごく嬉しかったですね。

三島 ほんとに。その方は、映画の撮影自体がなくなって、本当に映画が撮れなくなったと思っていたので、『東京組曲2020』を観て、こんな時でも、映画を作ろうと思えば作れる方法があったんだ、と。そう言ってもらって、自分たちを肯定できた。あんな時でもわたしたち映画作ってたんだなって。映画の力ってどこまであるかわからないんですけれど、映画と映画館の力を信じ続けたいと思って、作った。それが、自分の中にあらためて根付いたというのが大きいですね。

北小路 そろそろまとめに入らなければなりません。参加された方々の今日のお話も踏まえ、に『東京組曲2020』と『インペリアル』が三島監督のお仕事のターニングポイントになるのではないか、という思いを強くしました。これはいまふと気づいたことですが、両作品とも、長い夜が終わり、夜明けを迎えるあたり、その時間を捉えようとされているという共通点もありますね。

三島 『インペリアル』は夜明けの瞬間。『東京組曲2020』では、ほぼ暗闇なんですけど、ちょっとだけ微かな光が見える時間帯に撮るということが大きなテーマで。『東京組曲2020』は街が見えてきて、電車が走って、車が走ってという、ちゃんと人は生きていて営みがあるんだというところまで見せたいと思ったので、時間帯が遅いということです。

北小路 『東京組曲2020』の場合、最後にもう一度荒野さんが出てきて、目を覚ます場面があるということで、観ていてハッと思うんです。これまで観てきた映画は、全部、荒野さんの夢だったのかな? と(笑)。

全員 お~

北小路 さすがに役者さんたちはリアクションが上手いですね(笑)。最初から荒野さんで終わろうとしていました?

三島 荒野さんの存在っていうのは、自分の存在だったんです。作家としての自分たちの生活を客観的に見て、最終的に泣き声に対して何を感じたのかを文章に書くというのは、作り手である私も投影されているので、最初からこれで終わると決めていました。

北小路 『東京組曲2020』は、参加した皆さんが面白い映像を撮ってくれると三島さんが信じることではじめて可能になる映画ですし、『インペリアル』の長回しにしても、確実に佐藤浩市さんを信じないとできないことであり、佐藤さんの側でも三島さんを信じていたと思う。信仰めいた話をしたいわけではありませんが、映画の力を信じることで、はじめて何かが生まれてくる。コロナ禍は改めてそれを確認するような出来事だったのではないでしょうか。強制されるというか、信じなければダメになる。何となくでは、やってられなくなりましたよね。

三島 そうですよね。『東京組曲2020』は、役者のみんなを信じた。編集部と映画の力を信じた。『インペリアル』では、浩市さん含む役者とスタッフを信じた。自分には、そんな時間の記録だったと思います。

北小路 新作も準備されていて、来年公開されると聞きましたが?

三島 そうですね。まだ情報開示できないんですけど、それは自主映画で、自分でお金を集めたり自分の貯金を出したりして、作った作品なんです。台本の最初に、なぜこの映画を作りたいかを書いたんです。それに賛同してくれた役者さんとスタッフで作り上げました。その作品を来年公開しますので、また是非よろしくお願いいたします。(※2024年2月9日公開予定の『一月の声に歓びを刻め』公式サイト→https://ichikoe.com/)

北小路 この2本を見て、三島さんの今後の作品もすごく楽しみになりました。皆様、お疲れのところお付き合いいただき、ありがとうございました。

(拍手)

2023年7月20日 京都 出町座 

映画『東京組曲2020』予告編

映画『東京組曲2020』予告編

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『東京組曲2020』

出演
荒野哲朗 池田良 大高洋子 長田真英 加茂美穂子 小西貴大 小松広季 佐々木史帆 清野りな 田川恵美子 長谷川葉月 畠山智行 平山りの 舟木幸 辺見和行 松本晃実 宮﨑優里 八代真央 山口改 吉岡そんれい (五十音順)
松本まりか(声の出演)

監督:三島有紀子
音楽:田中拓人 撮影:出演者たち 今井孝博(JSC)山口改 編集:加藤ひとみ 木谷瑞
調音:浦田和治 録音:前田一穂 音響効果:大塚智子 タイトルデザイン:オザワミカ

配給:オムロ 製作:テアトル・ド・ポッシュ
twitter:@aTogether2020
ハシュタグ:#東京組曲2020
2023/日本/ドキュメンタリー/カラー/95分/アメリカン・ビスタ/5.1ch
レイティング:G
©️「東京組曲2020」フィルム パートナーズ

『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』予告編

『IMPERIAL 大阪堂島出入橋』予告(映画『MIRRORLIARFILMS Season2』より)

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インペリアル大阪堂島出入橋
脚本・監督 三島有紀子
出演:佐藤浩市、宮田圭子、下元史朗、和田光沙
『東京組曲2020』同時上映中
製作 MIRRORLIAR FILMS PROJECT
配給 イオンエンターテイメント

https://alone-together.jp