鮮やかな色彩と豊かな表現力で、今も世界中の人々を魅了するフィンセント・ファン・ゴッホ(1853-1890)。色鮮やかな《ひまわり》はゴッホの代表作として知られ、南仏・アルルで7点(現存するのは6点)の《ひまわり》の連作が制作されました。
ゴッホは、自然観察力や描写力など絵画の基礎をオランダのハーグ派で学んだのち、印象派と出会い、強烈な色彩や、生き生きとした躍動感のある筆触を学び、独自の画風を築き上げました。
南仏アルルでのゴーギャンとの共同生活、衝撃的な「耳切事件」、サン=レミでの入院生活など、僅か37年の波乱に満ちた生涯の中で、情熱を傾け、数々の感動的な作品を描き出したゴッホ。
今回は、そんな天才画家ゴッホの様々な作品の中でも、《ひまわり》や、《アイリス》といった傑作を生み出した静物画に焦点を当て、ゴッホが独自の画風を確立するまでの軌跡を辿ります。

このたび、SOMPO美術館において「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」が開催されています。本展では、17世紀から20世紀初頭まで、ヨーロッパの静物画の流れのなかにゴッホを位置づけ、ゴッホが先人達から何を学び、それをいかに自らの作品に反映させ、さらに次世代の画家たちにどのような影響を与えたかを探ります。

「ひまわり」にスポットを当て、ゴッホやその他の画家たちによる「ひまわり」を描いた作品が紹介されています。また、マネ、モネ、ピサロ、ルノワール、ゴーギャン、セザンヌなど、名だたる画家たちの静物画をゴッホ作品とともにご鑑賞いただけます。
国内外出展作品69点のうち25点の《ひまわり》、《アイリス》をはじめとするゴッホ作品をご堪能ください。それでは展覧会構成に従っていくつかの作品を紹介致します。

1 伝統 17世紀オランダから19世紀

ヨーロッパの美術史の中で、静物画が確立されるのは17世紀のことです。
ネーデルランドやフランドル(現在のオランダ、ベルギー)で盛んに描かれ、身の回りの品々はもちろん、富の豊かさを示すような山海の珍味、珍しい工芸品、高価な織物などが描かれました。一方で、砂時計や火が消えたロウソク、頭蓋骨など、人生の儚さや、死を連想させる事物を寓意的に描き、人々を戒めるための作品も描かれました。

ピーテル・クラース 《ヴァニタス》 1630年頃 油彩/板(樫) クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
© 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

「ヴァニタス」とは人生の儚さや死を連想させる事物を描き、虚栄を戒めるメッセージを込めた静物画のことです。
この作品でも時の移ろいを示す時計、命の短さを象徴する火の消えたロウソク、美の儚さを暗示する萎れた花など、ヴァニタスの典型的なアイテムが描かれています。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《麦わら帽のある静物》 1881年 油彩/キャンヴァスで裏打ちした紙 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
© 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

人物を描く画家を目指していたゴッホは、はじめは静物画というジャンルを油彩の技術を磨き、人物画を描くための「習作」とみなしていたようです。異なる質感のモティーフを配置し、素材の描き分けの練習だったのでしょう。《麦わら帽のある静物》は、ゴッホ最初期の静物画で、油彩画に取り組み始めた時期の作品。暗い色調で描かれています。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《髑髏》 1887年 油彩/キャンヴァス
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

髑髏は死を表す代表的なモティーフで、「メメント・モリ(死を忘れるな)」の象徴として多くの作品に描かれました。

2 花の静物画 「ひまわり」をめぐって

静物画の中で花は人物と並んで人気の高い主題で、静物画の黄金時代である17世紀には花を専門に描く画家も活躍していました。
ゴッホが活躍した19世紀、フランスの中央画壇では歴史画や人物画を頂点とした理念のため、静物画は絵画のヒエラルキー(階級)の下位に位置づけられていましたが、花の絵の需要は高く、多くの画家が花の静物画に取り組んでいました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《赤と白の花をいけた花瓶》 1886年 油彩/キャンヴァス
ボイマンス・ファン・ブーニンヘン美術館、 ロッテルダム
Collection Museum Boijmans Van Beuningen, Rotterdam

ゴッホが静物画を、とくに花の静物画を数多く描くようになるのは、パリ滞在中(1886~1887年)のことです。ゴッホ自身も手紙のなかで、1886年の夏は「花しか描かなかった」と語っています。《赤と白の花をいけた花瓶》は、パリ滞在1年目にあたる1886年に描かれたもの。厚塗りの絵具や重々しい色調は、印象派よりもモンティセリの影響を感じさせます。

アドルフ=ジョゼフ・モンティセリ 《花瓶の花》 1875年頃 油彩/板 クレラー=ミュラー美術館、オッテルロー
© 2023 Collection Kröller-Müller Museum, Otterlo, the Netherlands

アドルフ=ジョゼフ・モンティセリは南フランスのマルセイユ出身の画家で、肖像画や静物画、優美な貴婦人や貴公子が集う「雅宴画」で知られています。
ゴッホがパリに到着した1886年に亡くなっていますが、ゴッホと弟テオはモンティセリを愛好し、その作品も収集していました。ゴッホは技法的に多くをモンティセリに影響を受け、パリで描かれたゴッホの花の静物画には、補色の関係にある色彩を隣に配置する、といったモンティセリの描き方が見られます。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《ひまわり》 1888年 油彩/キャンヴァス SOMPO美術館

ゴッホは南フランスのアルルで画家仲間との共同生活を計画し、ポール・ゴーギャンらを招きました。《ひまわり》の連作は1888年8月、ゴーギャンの部屋を飾るために描かれたものです。出品作品の《ひまわり》は、この時描いた《黄色い背景のひまわり》(ロンドン、ナショナル・ギャラリー蔵)をもとに、1888年11月下旬から12月上旬に描かれたと考えられています。ロンドン版の色彩や構図をそのまま用いた「模写」ですが、筆遣いや色調に微妙な変化を加えています。
背景やモティーフとなるひまわり、ほぼ全面を黄色一色で構成しましたが、絵の具が厚く塗られ、筆遣いによる対象の描き分けが見事です。
本作はゴッホの生前から彼自身が、そして同世代の画家や批評家が認めたゴッホの代表作で、「ひまわり」は画家の代名詞となり、本人の死後には「ひまわり」そのものが、ゴッホのアイコンとして描かれるようになりました。

フィンセント・ファン・ゴッホ 《アイリス》 1890年 油彩/キャンヴァス
ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)
Van Gogh Museum, Amsterdam(Vincent van Gogh Foundation)

アイリスは白ユリと並び、聖母マリアを象徴する花としても知られていますが、ゴッホはその意味よりも、黄色に対する補色として紫色のアイリスを選んだようです。
ゴッホ自身が「互いに高め合う全く異なる補色の効果」と手紙に語ったように、黄と紫を対比させる色彩の試みとして描かれたと考えられます。画面右の垂れた花は、伝統的な花の静物画にも見られるものですが、《ひまわり》の構図にも共通して、色の対比と共に《ひまわり》との関係を伺わせる作品です。

3 革新 19世紀から20世紀

「絵画における事物の再現」という考え方は、印象派でピークを迎え、「見たままを写す」という印象主義の考え方に疑問を抱いた画家たちは、色や形といった絵画の要素に注目し、それらを使っていかに二次元の絵画で自己を表現するかを追求し始めます。
ゴッホ、ポール・ゴーギャン、ポール・セザンヌら「ポスト印象派」と呼ばれた画家たちは、静物画でも新しく自由なスタイルを展開し、その姿勢は20世紀の画家に受け継がれていきます。

ポール・セザンヌ(1839-1906)《りんごとナプキン》
1879-80年 油彩/キャンヴァス SOMPO美術館

「印象主義を美術館で飾られている作品のように、堅牢なものにしたい」と語ったポール・セザンヌにとって、画家が自由に対象を選択し、自らの意思で配置・構成することが出来る静物画は、格好の表現手段であったと考えられます。実際にセザンヌは初期から晩年を通じて多くの静物画を描いており、特に「りんご」を使った静物画を多数、制作しています。

ドラマティックな人生のなかで絵画に情熱を注ぎ、「炎の画家」とも称されるゴッホの芸術作品は今なお、人々を感動させます。
静物画においては、慎重に色彩の実験を繰り返し、絶妙の鮮列な色合いで名作を描き出しました。
是非、この感動を美術館で体感してください。

(※本展は当館移転後の開館特別企画展として2020年に開催が予定されていましたが、新型コロナウイルス感染症拡大のため中止となり、このたび3年の時を経て開催の運びとなりました。)

展覧会概要

展覧会名 ゴッホと静物画―伝統から革新へ
Van Gogh and Still Life: From Tradition to Innovation
会期 2023年10月17日(火)-2024年1月21日(日)
休館日 月曜日(ただし1/8は開館)、年末年始(12/28-1/3)
開館時間 10:00-18:00(ただし11/17(金)と12/8(金)は20:00まで)
      ※最終入場は閉館30分前まで
※本展は日時指定予約制となっております。
展覧会公式サイトでご確認の上、ご予約下さい。

会場 SOMPO美術館 〒160-8338 東京都新宿区西新宿1-26-1

 新宿駅西口より徒 歩5分
主催 SOMPO美術館、NHK、NHKプロモーション、日本経済新聞社
協賛 SOMPOホールディングス
特別協力 損保ジャパン
協力 KLMオランダ航空、日本航空
後援 オランダ王国大使館、J-WAVE、新宿区
お問い合わせ  050-5541-8600(ハローダイヤル)
観覧料(税込)一般 2,000 円(1,800円)/ 大学生 1,300 円(1,100円)
          ()内は日時指定料金 
*高校生以下無料
*身体障がい者手帳・療育手帳・精神障がい者保健福祉手帳を提示のご本人
 とその介助者1名は無料、被爆者健康手帳を提示の方はご本人のみ無料

シネフィルチケットプレゼント

下記の必要事項、をご記入の上、「ゴッホと静物画― 伝統から革新へ」@SOMPO美術館 シネフィルチケットプレゼント係宛てに、メールでご応募ください。
抽選の上3組6名様に、招待券をお送り致します。この招待券は、非売品です。
転売業者などに転売されませんようによろしくお願い致します。
☆応募先メールアドレス miramiru.next@gmail.com
★応募締め切りは2023年11月6日 月曜日 24:00
記載内容
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