シン・キャピタリズムの中のアートマーケットが市場経済を考える。他の商品と違って、アート(芸術性)という付加価値の高い商品は、希少性による等価交換として、アートフェアー(自由市場)で公開する事で、価値が決定される。しかしその作品の芸術性が高いのか、低いのか、という価値はアートフェアー(自由市場)で決定されるわけではない。芸術性が高いから価格が高いという論理が資本主義ではあるが、価格が低いからと言って芸術性が優れていないとは限らない。同じように価格が高いから優れた芸術作品でもない。美術館で展示される事で、権威は価値に変わることも確かなようにアートの価値、価格が決定される、優れて良い作品とは価格なのか、権威なのか、一体何によって価値と言えるのだろうか、誰しもが疑問に思うだろう。料理であれば誰しもが食して、美味いか、不味いかを自身で決定できる。音楽であれば、気持ちに響くか、響かないか、自身で見極める事ができる。
しかしアートをコレクションし、購入することは無論自身で決定するのだが、購入を決定するのには幾つものハードル(審査)、幾つものシチュエーション(状況)を経て決定される。アート作品は魚市場や野菜市場とは違う、天候に左右されるわけでもなく、その日の取れ高による事で価格が決定されるわけでもない。美術館では良く有名な芸術作品が多くの鑑賞者によって、人だかりができることがあり、鑑賞し、堪能する事で、見ることの満足感を味わうことがあるが、ではこれが優れていると決めることができるのだろうか。ところが芸術作品の価値の決定打は一般の庶民の目(意見)など関係がない、一部の特権階級的なコレクター、投資家、権威あるギャラリーによってセカンド・マーケットの競争、オークション(競売)によって最終的には非情に決定する。そしてセカンド・マーケットから逆流し、プライマリー・マーケット(アート・ギャラリーが参加するアートフェアー)の価格を押し上げる。まるで逆流する津波のように、音を立てて価格が吊り上がることもある。アートフェアーはこの逆流する市場経済、一流(FRIEZE)と称するマーケットに入ることがギャラリストして成功の道と思われている。
しかもこの価値あるアートの決定はアジアから発信する権威ではなく、欧米からの発信によることが主流となっている。FRIEZE (アートフェアー)はロンドン、ニューヨークを拠点としたアートフェアーのイベント会社でありアートの出版社でもある。また世界のアートの価格を決定付ける、2つのオークション会社、Sotheby’s(1744年 創業者サミュエル・ベイカー、出版社)とChristie's(1766年 創業者ジェームズ・クリスティーズ 美術商)もまたロンドンに拠点を置く。アートの市場経済、アートの価格を構築させる、FRIEZE、Sotheby’s、Christie'sが世界のアート・マーケットをコントロールするのは、自由主義経済を体系化したアダム・スミス(Adam Smith - 1723年スコットランド生まれ「経済学の父」)の理論が300年経った今なお、世界経済を動かしていることと、アートの世界とも無縁ではないのだろう。
韓国のソウルで2007年から始まったアートフェアー「Kiaf SEOUL 2023」(Korean International ArtFair)が、ソウルの江南(カンナム)地域にある韓国総合貿易センタービルCOEXの会場(2023年9月7日〜10日)で開催され、8万人が訪れた。2022年度のKiaf SEOULの総売上は650億Won(約65億円)だったが、今年はそれを上回るのかまだ集計が終わっていない。筆者である私もギャラリーQとしてブースを出店した。イギリス発祥のFRIEZE SEOUL 2023は韓国発信のKiaf SEOUL 2023と同じビル内、3階のフロアーで開催された。Kiafは韓国の130のギャラリーが中心となって、150のギャラリーが参加。日本からはアートフロント・ギャラリー、ビスケット・ギャラリー、ギャラリー椿、鎌倉画廊、みぞえ画廊、SH ギャラリー、ホワイトストーン・ギャラリー、ユミコチバアソシエイツ、トムラ・リー・ギャラリーそして ギャラリーQ の10ギャラリーが参加。FRIEZE SEOUL 2023では欧米が中心となって121のギャラリーが参加。日本からはアノマリー、東京画廊+ BTAP、タカイシイ・ギャラリー、Kosaku Kanechika、Yutaka Kikutake Gallery、Marco Gallery、Nanzuka、タロウ・ナス、スカイザバスハウス、Take Ninagawa、小山登美夫ギャラリーの11のギャラリーが参加した。
Kiaf SEOUL 2023ではHIGHLIGHTSという「話題のアーティスト」部門があり、Kiaf参加150のギャラリーから各1名を推薦。Kiaf審査会のもと上位20名のアーティストが選ばれた。そしてその上位20名からさらに人気投票で上位3名のアーティストが選ばれ、ギャラリーQから参加した李晶玉(2018 朝鮮大学校研究総合研究科美術専攻課程修了)が選ばれた。他にアートフロントギャラリーからの角文平(2002 武蔵野美術大学造形学部工芸工業デザイン学科金工専攻卒業)、Wooson Gallery(韓国、大邱)からのYi Youjin(ドイツ在住 延世大学美術科卒)の3名が選ばれて、共に賞金10,000,000won (100万円)を獲得した。
Kiaf HIGHLIGHTS 李晶玉- Ri Jongok
Kiaf SEOUL 2023
7th - 10th Sept. 2023
Gallery Q - 参加アーティスト:郭仁植、キム・ソウル、李晶玉 、吉田花子、大渕花波、高嶋英男
Quac Insik, Kim Seoul, Ri Jongok,Yoshida Hanako, Ohbuchi Kanami, Takashima Hideo
上田 雄三 (多摩美術大学卒業 ギャラリーQ)
主なキュレーション・コーディネーション:
「光州ビエンナーレ」(2000) 光州、韓国・「伊丹潤」(2003) 国立ギメ東洋美術館、パリ・「Global Players-日本におけるドイツ」(2006) Ludwig Forum Aachen、ドイツ・「第6回上海ビエンナーレ」(2006) 上海・「第2回建築ビエンナーレ」(2006) 北京・「第56回ヴェネチア・ビエンナーレ/石田徹也」(2015) ヴェネチア・「第10回釜山ビエンナーレ」(2016) 釜山市立美術館、釜山・「生誕100年郭仁植展」(2019)国立現代美術館、大邱美術館、韓国・「清州工芸ビエンナーレ」(2023) 清州、韓国
http://galleryq.info/ueda's_history/uedahistory.html