東京都美術館では、「永遠の都ローマ展」の特別展を、2023年9月16日(土)〜12月10日(日)(※土日・祝日のみ日時指定予約制)まで開催しています。
ローマは、オードリー・ヘップバーンとグレゴリー・ペックの映画「ローマの休日」でよく知られていますが、トリニタ・ディ・モンティ聖堂を背景にするスペイン階段やサンタ・マリア・イン・コスメディン聖堂の「真実の口」を訪れるような、そんな夢想する休日にふさわしい街であるかもしれません。
とはいっても、ここ数年のコロナの影響や経済的苦境や現在の円安のなかで、ローマを訪れる日本人の数は、今はかつてのような賑わいではないらしい。
これから海外へと旅行などを考えている方も多いと思います。
ちょうどそんなときですが、はるかかなたのローマから、日本人への贈り物が届きました。
本展覧会は、コロナ以後開催が延期になっていた特別展が、ようやくこの秋に開催の運びとなったものです。
報道内覧会では、ローマ市文化財監督官のクラウディオ・パリージ=プレシッチェ氏と美術史家で立教大学文学部教授の加藤磨珠枝氏、本展担当学芸員の小林明子東京都美術館学芸員に、本展の趣旨や展示の特徴、見どころなどを解説していただきました。
会場は、3フロアに分かれています。
本展は5章と特集展示で構成され、まず、入り口を入ると、LBFの「Iローマ建国神話の創造 II古代ローマ帝国の栄光」を見ることができます。
次のフロアの1Fは「Ⅲ美術館の誕生からミケランジェロによる広場構想 Ⅳ絵画館コレクション」になります。このフロアにはII章の「カピトリーノのヴィーナス」も展示されています。
さらに2Fは「Ⅴ芸術の都ローマへの憧れ−空想と現実のあわい」の会場です。このフロアの最後の展示として、「特集展示 カピトリーノ美術館と日本」がありました。
音声ガイドも、レスピーギの「交響詩」や「組曲」が背景に流れる充実した説明で、「図録」とあわせると、楽しみながら専門的な知識に接することができます。
初めてローマを訪れたのは、「ロンドン・ローマ・パリ十日間」のツアーに参加したときでした。
ロンドンから次の滞在地ローマの最後の日の食事を終えてからわずかに時間をもてあましていました。
たまたまホテルにやってきた英国人のタクシードライバーに、明日はパリに行ってしまうので、これから最後のローマの街を案内してもらいたいと頼み込んだのです。
タクシーは、ローマの細い道も縫うようにして走れる小型のローバーミニでした。
運転手は、英語を話しながらローマの細道から大通りを通ってゆくと、ヴェネツィア広場の先で車を停めました。おもむろに首と右手を窓から出すと、運転手は大きく腕を振り上げて、合図をしたのです。
あの階段をのぼって、上へ行けというのです。
なだらかな階段のスロープをのぼり詰めると、そこはカンピドリオ広場でした。
どうやら広場へとむかう階段(コルドナータ)をあがってきたようでしたが、暗闇のなかにあるのは、灯りでわずかにともされたミケランジェロのデザインの広場と、黒いマルクス・アウレリウスの騎馬像でした。もちろん、後日に知ったことですが、ミケランジェロの設計による楕円形の広場と星形の塗装が実現したのは、1940年代になってからのムッソリーニの時代でした。
正面には、ローマ市庁舎のファサードがあり、左右にカピトリーノ美術館がある。
むかって右側が、パラッツォ・デイ・コンセルヴァトーリ、左側がパラッツォ・ヌオーヴォです。
その背後には、丘の下に後背地のフォロ・ロマーノがあります。ローマの街は、なんといってもパンテオン、フォロ・ロマーノ、コロッセオなど、古代の歴史に溢れた「廃墟学」の風景が魅力的です。
ですから、この広場は、かつては「カエサルのローマ」といわれるフォロ・ロマーノにむいていたといわれています。それをルネサンス期の教皇パウルス3世が、ローマの街の再建のために、ミケランジェロにこの広場の再生を依頼しました。
やがてこの空間は、市庁舎のファサードの前に、マルクス・アウレリウス帝の騎馬像を建て、両側に美術館をもつ左右対称のパラッツォによって、彼方のヴァチカンの方向をむいた正面玄関となったのです。
階段を降りてくるときには、暗がりのなかで右側にとても高く急な階段があったのを思い出します。その時はよくわからなかったですが、後日、その階段もミケランジェロの設計になるものだということをしりました。それはカソリックの教会で、サンタ・マリア・イン・アラチェリ教会だということがわかったのです。
古代ローマの街は、テヴェレ川を挟んで、ヴァチカンやサンタンジェロ城とマルスの野が東側に広がっていました。
その先にあるのが、ローマの七つ丘です。
北から時計回りで、クイリナーレの丘、ヴィミナーレの丘、エスクイリーノの丘、チェリオの丘、アヴェンティーノの丘、パラティーノの丘、そして一番東側にあるのが、今回ご紹介するカピトリーノの丘です。この場所は、古来より神聖な場所としてローマの人々に認められてきた丘です。
ローマの七つの丘のひとつが、カピトリーノという大変重要な丘なのです。
ローマの最後の日の最後の街の思い出は、カンピドリオ広場と、カピトリーノ美術館の建物でした。
そうしていま、その美術館にある展示品が、今回の展覧会のメインを飾っているのです。
ローマ建国には、二つの物語がありました。
ひとつは、軍神マルスと巫女レア・シルウィアの子供である双子のロムルスとレムスがいて、そのふたりに乳を与えて育てたのが、この牝狼です。
そのロムルスこそは、初代ローマ王となり、ローマを建国した人といわれています。このロムルスの系譜をずうっとたどっていくと、ギリシアによって滅ぼされたトロイアを脱出して、苦難の末にイタリア半島に上陸したアイネイアスとその子孫のロムルスとつながるというのです。
その歴史を描いたのが、ローマの詩人ウェルギリウスの叙事詩『アエネイス』です。この作品は、未完成のまま、刊行されました。
ロムルスの息子であるユリウスという名前は、フォロ・ロマーノの一角で暗殺されるユリウス・カエサルやその養子のオクタウィアヌス(のちのアウグストゥス)へとつながる血統にある存在になりました。
このヴィーナスは、一時フランス軍に持ち去られ、ミロのヴィーナスと共に、一時ルーブル美術館の所蔵品となっていました。
その後返却され、いまはパラッツォ・ヌオーヴォの二階の八角形の展示室「ヴィーナスの間」に展示されています。
ローマ帝国の成立後、拡大して、一時の帝国の混乱を収集したのが、コンスタンティヌス帝です。
東に位置するビザンティウムは、現在では歌の歌詞にも出てくるイスタンブールの街のことですが、ここを新たな拠点として、新都コンスタンティノポリスとしたのです。そうして、広い帝国の安定を図った上で、キリスト教を国教にするなど、信教の自由緩和に努めした。
本展で示されているのは、頭部だけでも約1.8メートルある巨大彫刻の「コンスタンティヌス帝の巨像」頭部のほか、左手、左足を複製したものです。
世界最古の美術館のひとつともいわれているこの美術館には、16-18世紀の絵画作品のコレクションも充実しています。そのなかでも、カラヴァッジョの作品はその中心となるものですが、「女占い師」「洗礼者ヨハネ」の2点を所蔵しています。
カラヴァッジョは、いまやイタリアを代表する画家となっていて、ファンも多くいるようです。
ローマ市内でも、ボルゲーゼ枢機卿が収集したボルゲーゼ美術館をはじめ、ポポロ広場に面したサンタ・マリア・デル・ポポロ聖堂、ナヴォーナ広場の近くのサン・ルイージ・デイ・フランチェージ聖堂、サン・ピエトロ大聖堂に隣接するヴァチカン美術館、そして、カピトリーノ美術館などがカラヴァッジョの作品を所蔵しています。ですから、カラヴァッジョが徘徊した生活空間や作品を歩いて見るだけでも、ローマの街を満喫することができます。
今回は、カラヴァッジョ派(カラヴァジェスキ)の作品の展示を見ることができます。
その光と影の写実的な原則に忠実である画風は、バロック絵画の確立に寄与しました。彼の作風には、研究者によれば、六つの特徴があるといわれています。
- 信仰をドラマとする「光と闇」
- 汚れさえもリアルに表現する「写実」
- 選択と集中の光を黒に溶け込ませる「単純化」
- 一瞬のスナップショットのように描く「瞬間的」
- 絵が飛び出してくるような「突出効果」
- フルーツの質感と盛り付ける果物籠の「静物」
カラヴァッジョの作品で有名なものには、シチリアのバレルモや地中海のイギリス領だったマルタ島にもあり、世界各国に多く点在して所蔵されています。
その他の作品をご紹介します。
明治政府による岩倉使節団がローマの中心に位置するカピトリーノ美術館を訪れてから150年の月日が経っています。
本展覧会は、その節目の年にカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、古代ローマからルネサンス期を経て、18世紀に至る大理石の肖像彫刻や絵画や版画など約70点のコレクションを一堂に集めた「永遠のローマ」を彷彿とさせる展覧会です。
「永遠の都ローマ展」のご案内
永遠の都ローマ展
会期:開催中~12月10日(日)
会場:東京都美術館
住所:東京都台東区上野公園8-36
開室時間:9:30~17:30、金曜日は9:30~20:00(入室は閉室の30分前まで)
休室日:月曜日、10月10日(火) ※ただし、10月9日(月・祝)は開室
料金:一般2200
円/
大学生・専門学校生1300
円/ 65
歳以上1500円/
高校生以下無料
※土日・祝日のみ日時指定予約制
電話番号:050-5541-8600(ハローダイヤル)
公式サイト:https://roma2023-24.jp